第4話: 中二病でも生徒会がしたい!
第4話: 中二病でも生徒会がしたい!
優雅「……ふむ、中々にいいお茶だ」
会長席に腰かけ足を組みながらそう呟く。
1人のんびり生徒会室でゆったりと飲む紅茶もなかなかにいい。
只今会長の智幸先輩ともう1人の副会長葵先輩は他校の学祭を見学し、天翔学園祭の参考にする為2人で出張に出ている。
つまり今この学校で1番の最高権力者は俺という事だ。 ふむ、実に気分がいい。
だが、そんな機嫌の良い俺を不愉快にするのが……
真冬「あんたさっきから何やってるのよ……頭イカれてるんじゃない?」
そう、充分頭のイカれてる真冬である。
前回の振り返りになるがコイツは狂信者にモテてるだけで喜んでしまう恋愛経験0の頭の中ピンク色の変態である。
優雅「俺が何をしようといいだろ? ほら、あっち行ってて!」
真冬「勉強してるこっちからしたらあんたがただただうるさいんだけど……まぁあんたと同じ空間にいるのも嫌だし教室にでも行こうかしら。 ……ちなみにそれは何をやってたの?」
優雅「高貴感溢れる貴族ごっこ」
真冬「本当に何やってるのよ……はぁ、あんたも出張行けば良かったのに。 まぁいいわ。 じゃ生徒会室の留守番頼んだわよ」
そう言って真冬は生徒会室から出ていく
出張に本当は俺も行きたかったがジャンケンで負けたので仕方が無い。 というかそもそも俺の運の悪さは知っているのにジャンケンを持ちかけてきた会長の性格も中々に悪い。
だがこうして高貴感溢れる貴族ごっこを生徒会室で出来ているのだ。 むしろ今はジャンケンに負けた事に喜びすら感じている。
優雅「……おや? お茶が無くなってしまったな……へい、セバスチャン」
俺はそう言って手をパンパンと2回叩く。
優雅「……っと、1人しか居ないからお茶は自分で入れなきゃな。 ついうっかり貴族になりきり過ぎてしまったようだ。 ……というか飽きてきたし別の遊びでもするかな」
高貴感溢れる貴族ごっこに飽きた俺は何か無いかと生徒会室にある本棚を見てみる。
するとこの前まではなかった面白そうな本を見つける。
優雅「ほぅ、こんな所に異世界転生のライトノベルが置いてあるとは。 どれ……『中二病の私が異世界転生して魔王になるまで』……? 何だこれ。 初めて聞くタイトルだな」
まぁどうせ暇だし読んでみるか。
そう思い本を手に取り、再び会長席へ腰掛けペラペラとページをめくる。
優雅「えーっと……『コレはとある高校通う中二病の女子高生がファンタジーな異世界へ転生する物語であ……』」
バタンッッッ!!!!!
俺がそこまで読みかけると突如生徒会室の扉が強く開かれ、バタンという音を鳴らし開けられる。
優雅「はぁ……おい真冬、もう少しゆっくり扉を開けろ…よ……」
扉を開けたのが真冬だと思い注意をしながら扉の方を見てみるとそこには真冬の姿はなく、1人小柄なよく分からない格好をした少女が……
???「ふっふっふ……聞こえましたよ。 我を呼ぶ声が……!」
何故か眼帯をつけ、マントと帽子を被った少女はそこまで言うとマントを広げ、
???「我は15歳ながら高校への飛び入学を認められたまさに天才! そう! まさに神が遣わした……ってちょ…!」
何か色々言っていた気がするが、俺は生徒会室の扉を閉め、鍵をかけて再び読書を再開する。
(ちょっと! 今間違いなく目が合いましたよね!? 無視しないでください!)
ほぅ……『トラックに轢かれそうになっていた少女を庇い、不覚ながら私は死んでしまい…』異世界転生ではあるあるの展開だな
(ねぇ! わかってやってますよね! 早く開けてください!)
中二病の女の子は目が覚めると真っ白な部屋にいてそこで神に異世界転生を進められ……ふむふむ、王道な展開だ。
(そういう事するならこっちにも考えがあります。 ふっふっふ……)
更に神にとある世界を救う使命を受けると中二病の女の子はテンション高めにノリノリで異世界転生を承諾し冒険が始まる……意外と面白そうな内容じゃないか。
(見て震えよ! 固く閉ざされたこの扉を開くアイテム! 先生に一応借りておいた生徒会室の扉を開ける鍵です!ふっふっふ…… 鍵を閉めればどうにかなると思っていたのが間違いでしたね!)
何やら不穏な事が聞こえたので俺は念の為生徒会室の扉についているドアロックをかける。
鍵をカチャカチャやり始めた変な奴を他所に、俺は本のページをめくる。
中二病の女の子は目が覚めるとその世界の有名な勇者に転生、そして魔王を倒す宿命を受け…
(開きましたよ! さぁ、観念しなさ……ってあれ? なんで鍵が空いたのに開かないんでしょうか……)
勇者に転生した中二病の少女は仲間と共に魔王討伐へ向かうが、実は魔王は悪事など働いておらず部下が勝手に魔王信仰し悪事を働いていただけのことが判明し……面白くなってきたじゃないか。
(ちょっと! これドアロックかけてますよね! いい加減開けてください! ちゃんと説明させて下さい!)
読書を続けていたいが、そろそろ放置していると野次馬達が集まってきて大事になりそうなのでドアロックを外して扉を開けてやる。
優雅「なんですか? ここは生徒会室です。 迷子センターはココじゃないですよ。 あ、学校見学なら2階の突き当たりにある職員室に……」
???「迷子じゃないですよ! というか貴方光月優雅ですよね? 同じクラスメイトなのに私の事知らないんですか!?」
奇妙な格好をした少女はそんな事を……
優雅「俺基本的に授業中は本読むか寝て、休み時間は寝てるかスマホいじってるからクラスメイトは全然覚えてないし知らないです。 という事で俺は忙しいのでコレで……」
???「だから閉めないでください! とにかく入れてください!」
扉を閉めようとするとコスプレ少女は扉へがっつき、中へと侵入しようとしてくる。
優雅「分かった分かった。 入れてやるから扉をこじ開けようとするな。 壊れるだろ!」
優雅「粗茶だけど、どうぞ」
???「あ、どうもありがとうございます」
どうやら俺を茶化しに来た訳ではなくちゃんと理由があってここへ来たらしいので、説明をしたいから入れろという要求を俺は飲むことにした。
優雅「とりあえず名前を教えて貰っていいか?」
???「同じクラスになって半年経つのにまさか名前すら覚えてもらっていないとは……まぁいいでしょう」
そう言うとコスプレ少女は脱いでいた帽子を再び被り、マントをばさりと広げ眼帯に手を添えると、
朧「我が名は不知火朧! 1年早くこの学校への飛び入学を認められた天才である! そしていずれはこの天翔学園高校の生徒会長となる者!」
優雅「……」
朧「決まった……ふふ、どうしたのですか? 我の完璧な自己紹介に感動でもしてしまいましたか?」
優雅「いや、名前と身体の発達具合も相まって男みたいだなって……ちょ、やめろ! いた、痛い! 髪引っ張るな! いだだだ! や、やめろって言ってんだろ!」
男みたいはどうやら地雷だったらしく、朧と名乗った発育途上の少女は俺の胸ぐらと髪を掴み叩いてくる。
朧「初めて喋る相手によくそんな失礼な事を言えますね! 初めてですよそんな事言われたのは! 言っていい事と悪い事があるということを思い知らせてあげます!」
優雅「悪かったって! ほら、牛乳あげるからさ、イライラしてる時はカルシウムが足りてないんだよ。 それに牛乳飲めば育つだろうし…」
朧「私のどこを見て言ってるんですかこの男は! 私の胸を見ながら言わないで下さい! もう喧嘩を売ってるって事と受け取りますからね! 絶対に許しませんよ!」
すると朧は俺の手を掴みなにかの武術の型の様なものを使い俺を地面へ押え付ける。
優雅「いだだだだ! こんな痴話喧嘩に武力行使は卑怯だ! というかこれは空手かなんかだな! そっちがその気なら俺だって武力行使でいくぞ? いいのか?」
朧「ふん。 口だけの男なんて沢山見てきましたよ。 そうやって私を脅し……!?!? い、今一体何を!?!?」
俺の上に乗り勝ち気取りで調子に乗っていた朧を、俺は関節技をかけながら朧を地面へ押し倒すと抵抗出来ないように手と足をおさえ付ける。
優雅「はっ、残念だったな。 俺はカンフーを習っててな、空手なんかじゃ俺には通用しないぜ」
朧「カンフーと言いましたか!? それは実に興味が……って違う違う、この手を離せぇ!」
優雅「断る。 この手を離したらお前また俺を押さえつけようと暴れるだろ。 問題行動はせず大人しく生徒会室から出ていくというのなら離してやっても構わんが」
朧「ひ、卑怯な……! だが私はこんな事には屈しな……く、屈しな…い……」
何とか逃げ出そうと暴れていた朧だったが、何故か急に大人しくなり抵抗をやめて……
優雅「……? どうした? 大人しく帰る気になったか?」
朧「い、いえ。 私は負けを認めるのが嫌いなので絶対に引き下がる気はありませんが……」
ねぇのかよ。
朧「その……いたいけな少女に男がまたがり手足を押さえつけてるこのシチュエーション……傍から見れば貴方が私を襲っているようにしか見えないなと思うと少し恥ずかしくなってきまして……」
優雅「…………」
確かに言われて見れば女子の手足を押さえつけて上にまたがって乗っているとか傍から見れば通報ものだ。
だが……
優雅「残念だったな。 会長ともう1人の副会長はまだ帰ってこない、そして真冬っていうもう1人のメンバーは教室に行った。 つまりこの生徒会室には俺とお前2人きりだから誰かに見られて誤解されるなんてことはないんだ……」
ゴトッ
朧・優雅「「……?」」
物が落ちる様な音が聞こえ、俺と朧は辺りを見渡す。
優雅「なんも落ちてないな……? 一体なんの音だったん……!?」
俺は生徒会室の扉の方を見て言葉を失い冷や汗をかく。
そこには……
千夏「あ、あわわわわ……ゆ、優雅君が女の子の上にまたがって襲って……!!! つ、伝えなきゃ……みんなに知らせなきゃ……!」
優雅「ちょっと藤井先輩! 待って下さい!! コレには訳が!!! ちょ、待ってって!」
走ってこの場から逃げようとする藤井先輩を捕まえる為、俺は朧の事に目もくれず藤井先輩を追いかけた。
千夏「な〜んだそういう事だったんですか。 ちゃんと説明してくださいよ〜!」
優雅「説明する間も無く走って逃げたのは誰ですか……」
朧「私をバカにした報いですよ」
状況を説明し、何とか藤井先輩の誤解を解いた俺だったが……
優雅「で、お前は結局何しに来たんだよ。 言っとくが生徒会執行部の見学は会長がいないからまた今度に……」
朧「違いますよ。 今日は生徒会に入りに来たんです」
千夏「なるほど……生徒会に入りに来たんですか。 それだった会長に話を通し……」
優雅・千夏「「……今なんて言った?」」
朧「だから生徒会に入りに来たと……」
朧がそこまで言うと藤井先輩は急に立ち上がり、
千夏「聞いた優雅君!? 生徒会にはいりたいんだって! やった〜! 人少なくて寂しかったからめっちゃ嬉しいよ!」
朧「そ、そうなんですか……?」
優雅「ちょ、待って下さい藤井先輩! 俺は反対ですよ!」
既に朧が生徒会メンバーに加入する流れになっていたので俺はそう反対の意見を……
千夏「なんで反対なの? 何か問題とかあるんですか?」
優雅「当たり前です! 短時間こいつと一緒に話しましたが問題がありました」
朧「心外ですね、私に問題だなんて。 そんなのある訳ないじゃないですか」
俺が言うのも何だが生徒会には色々問題児ばかりがいる。
葵先輩の事になると妙に意固地になる会長。
何考えてるのか全然分からなくて、時々俺を殺してきそうな目つきをする葵先輩。
毎度毎度タイミング悪く現れ俺のありもしない変な噂を広める藤井先輩。
風紀を正してるように見えて1番自分が風紀の乱れている頭の中ピンク色の真冬。
副会長としてこれ以上問題児を増やすような真似はよしたい。
その為にも……
優雅「とりあえず藤井先輩に自己紹介してくれないか? 藤井先輩はお前の名前も知らないしさ」
千夏「そうですね。 お願いしてもいいですか?」
朧に自己紹介を頼むと、朧は嬉しそうな顔をし、
朧「えぇ良いですよ! 何度でもしてあげますとも!」
すると朧は再び脱いでいた眼帯と帽子とマントを着用し、再びマントを広げ、
朧「我が名は不知火朧! 1年早くこの学校への飛び入学を認められた天才にしていずれはこの天翔学園高校の生徒会長となる者! さぁ我の力を欲するのならそれ相応の対価を……」
千夏「ごめん朧ちゃん、ちょっと待っててもらってもいいかな?」
朧「む? まぁいいですよ」
千夏「ちょっと優雅君」
すると藤井先輩は生徒会の隅へ行くと俺にちょいちょいと手招きをするので俺は素直に藤井先輩の元へ行く。
千夏「ねぇ、アレってもしかしなくてもさ…」
優雅「はい。 アレが俺の言ってる1つ目の問題の『中二病』です」
中二病とは! 中学二年生頃に見られる少し背伸びしがちな言動を言ってしまう者を自虐する言葉である。 そして朧のように自己愛に満ちた空想や妄想、ゲームや漫画の世界に自分が入ったような言動をしてしまう事を指す言葉でもある!
ちなみに病という文字が入っているが、医学的な意味での病とは全くの無関係である
千夏「わたし中二病って初めて見たから少し興奮してるんですけど……」
優雅「えぇ……俺も正直驚いています。 中二病とか今時見ないレアモンスターみたいなもんですからね。 ドラクエのメタルキングスライムよりもレアですよ」
千夏「その例えはドラクエ知らない人には伝わらないからやめようか。 それにしてもあの魔法使いみたいな帽子とゲームに出てきそうなマントはその為の物だったんですね」
優雅「アレは俺の好きなアニメキャラのコスプレですね。 まぁとにかくあれを見てよく考えてください。 高校生で中二病でコスプレして生徒会に来て俺を武力行使、生徒会に入ったら間違いなく問題を起こしますよ」
千夏「武力行使に関しては優雅君が悪いと思うけど確かに癖ありな子ですね……まぁでも私はそれでも全然いいんじゃないかと思いますけどね」
優雅「そうですか……まぁ藤井先輩がいいと言うならこの件はここにいる生徒会メンバー俺と藤井先輩の全会一致って事でOKとします」
千夏「だね。 じゃあ朧ちゃんに……」
優雅「藤井先輩ストップです。 問題はもうひとつあります」
千夏「え? まだ問題が?」
優雅「えぇ、というかこれが一番の問題です」
一番の問題……正直俺は結構な期間一緒にいたから分かる。
コイツの制服の着崩し具合、コスプレ衣装に眼帯……
そう、
優雅「問題は真冬です。 前寝癖を直してこなかっただけで30分位くどくど生徒会で説教してきた真冬です。 朧の姿なんて見たらそりゃあもう……」
藤井先輩もどうやらその光景が想像出来たのかどうしようかと頭を抱える。
優雅「ですからこうしましょう。 今日は会長がいませんし後日身だしなみを整え来てもらいその時に改めて……という事にするのは?」
千夏「あぁ! 確かにその手がありますね!」
俺の提案を聞いた藤井先輩は手をポンと叩き納得する。
優雅「よし、じゃあ朧に言って今日はひとまず帰って……」
真冬「失礼するわ。 忘れ物をしてしまっ…て……」
俺が早速行動に移そうと立ち上がるとタイミング悪く真冬が生徒会室へ入ってくる。
……忘れていた。 俺の運の悪さを……
朧「こんにちは真冬。 どうしたのですか急に固まって」
真冬「な……何よこれ……!」
真冬は朧の格好を見てそう言いながらプルプルと震え……!
千夏「真冬ちゃん! えぇっと……これは違うんです! 朧ちゃんのその格好はコスプレで私達が頼んで……」
朧「この衣装は私が作った自信作ですよ? 自分の意思で着てるに決まってるじゃないですか」
千夏「もう! せっかく庇ってあげてるんだから話合わせてよ! このままじゃ真冬ちゃんに怒られ……」
藤井先輩はそこまで言うと真冬の顔色を伺い……
真冬「可愛い〜! え、この衣装しーちゃんが作ったの?」
朧「ふっふっふ! いかにも! 我の力にかかればこの程度の芸当造作もない! この帽子も我が漆黒の力にかかれば日が沈まずとも余裕……」
真冬「え〜! 昨日帰ってから夜になるまでにこんなの仕上げちゃったの!? 相変わらずすごいわねしーちゃんは!」
何で今の言ってる事が解読出来るんだよ。
朧「真冬こそこの衣装の魅力が分かるとはなかなか見所がありますね……正式に貴方を我が眷属としたい所ですが……」
真冬「だってこの衣装このすばのめぐみんじゃない! 体格も性格も相まってそっくりよ」
朧「ふっ、そんなに褒められると照れ……ん? ちょっと待って下さい。 今体格と言いませんでしたか?」
真冬「言ってないわよ」
真冬は何故か俺達を他所に朧と楽しげに会話を……
千夏「……なんか思ってのと違うね」
優雅「そうっすね。 てっきり真冬がキレて終わるオチかと思ったんですが……知り合いだったんですね」
てかあの堅苦しい真冬が朧の事しーちゃんとか言ってたぞ。
優雅「なぁ真冬、お前と朧って仲良……」
真冬「何? 私今しーちゃんと話してて忙しいんだけど」
おっと、扱いの差が酷いな。
朧「毎度真冬がずっと愚痴を言ってたのはこの男の事ですよね?」
真冬「えぇそうよ。 いいしーちゃん? こいつはろくでもない人だから馴れ合っちゃダメよ? 何か変な事とかされなかった?」
朧「別にされてませんよ。 強いて言えば床に押し倒されて手足を押さえつけられたくらいですかね」
真冬「!?!?!?」
優雅「おぉぉぉぉいちょっと待て! その言い方は良くない! いや、間違ってはいないけどその言い方は良くない!」
真冬「あんたは何やかんや態度はデカい癖にヘタレだから手を出すようなことはしないと思っていたのに……どうやら通報した方が良さそうね」
優雅「だから違うって言ってるだろ!? 藤井先輩からも言ってやって下さいよ!」
千夏「真冬ちゃん! 優雅君が変態で引きこもりでだらしなくて通報したいのはわかるけど通報はやめてあげよ? きっと警察の人が困っちゃう」
真冬「それは……確かにそうですね。 わかりました、藤井先輩がそう言うなら……」
優雅「……あれ? これ俺さらにバカにされてないか?」
この面倒臭い状況を作り出した張本人を見てみると、腰に手を当てふんぞり返りながら、
朧「ふん、仕返しですよ。 この衣装の素晴らしさが分からない見る目のない男には何の用もな……」
優雅「え? いや、このすばのめぐみんのコスプレだろ? 俺も知ってるぞ。 特にその帽子と眼帯はクオリティ高ぇよな。 包帯の巻き方もそっくりだし」
朧「!? そ、そうですか……! ふ、ふふ……帽子と眼帯は私がこだわったパーツ……そこに気づくとはなかなかやりますね……」
俺が素直な感想を言うと何故か朧は顔を赤らめモジモジと……
朧「あの、真冬? 今あの優雅という人と改めて話してみたのですが……案外いい人なのでは……?」
真冬「だ、ダメよしーちゃん騙されちゃ! ああやってしーちゃんをはめようとしてるのよ! ……まぁしーちゃんのコスプレの良さがわかったのは褒めてあげてもいいけど?」
何でこいつは毎度毎度上から目線なんだ。
優雅「それよりも朧は取り締まらないのか? いつものお前だったら『学校の風紀を乱すのはいけません! 没収します!』とか言いそうなのに」
真冬「あぁ、だって朧は校長先生に許可を貰ってるもの。 衣装に関してはなんの問題もないわ」
なるほど、何も言わなかったのは仲がいいからとかではなくちゃんとした理由があったのか。
真冬「でもそのスカートの短さは見過ごせませないわね……しーちゃん、なおしなさい」
朧「はぁい……」
朧は真冬に指摘されると渋々スカートをなおす。
まぁ色々とあったが……
優雅「これにて一件落着だな。 さて、一段落ついたことだし俺はそろそろ帰ろうかな」
朧「何を言ってるのですか? まだ私が生徒会に入る手続きが途中でしょうに」
優雅「……あっ」
そうだ……その話をしてたんだった。
真冬「えっ! しーちゃん生徒会にはいるの!? 本当!?」
朧「えぇ、元々真冬に前誘われた時からいつか入ろうとは決めていたのですよ。 で、どうなんですか? 結局あの話し合いは何を話してたのですか?」
まずい、このままだとコイツが生徒会に……
いや、別にこいつが入る事に反対という訳では無いのだが……俺の直感がコイツは入れたら面倒事しか持ってこないと危険信号を送っている。
千夏「ねぇ優雅君。 別に入れてあげてもいいんじゃないですか? 中二病に関しては私達で制御してけばいいし……今会長がいないから優雅君に決定権があるんですからね?」
優雅「分かってますよ。 でも少し不安というか……」
よし、1度こいつがもし生徒会に入った時のことを考えてみよう。
まず現段階で俺の事が大嫌いな真冬との2人で共同作業中の後夜祭部門……
そして会長は後夜祭部門は本当は3人にしたかったが人数が足りないため2人にすると言っていた。 つまり……つまりだ。
朧が生徒会に入ったら後夜祭部門に入れられ、俺の手間が増えるというわけだ。
更にこの2人は俺が嫌いで仲がいい……つまり3人グループなのに俺だけはハブられるというわけで……
…………うん、自分で言ってて悲しくなってくるからやっぱり考えるのはやめよう。
そもそも俺の都合で他人の意見を否定するのは良くない事だ。 みんなが納得しているのなら俺がやるべき事は自分の都合を押し付けるのではなく……
優雅「よし、じゃあ朧を生徒会に迎え入……」
朧「いつまで考えてるんですかこの男は。 早くしてくださいよ、こっちだって暇じゃないんですから」
優雅「うん! そうか! お前の入部はダメだ! お前は他の部活やれ!」
千夏・朧・真冬「「「えぇ!?」」」
真冬「ちょっと優雅! しーちゃんのどこに悪い所があるって言うのよ!」
優雅「朧は俺の気分を損ねた。 よって入部は認めない」
千夏「さ、最低な男です……こんなの不当な権力の行使ですよ! 認めません!」
朧「そうですよ! 私に欠点などありませんとも!」
3人は俺の意見に対しそう反論をする。
優雅「だぁぁぁぁぁうるせぇぇぇぇぇぇ!!! 今は俺が一番権力が強いんだ! 俺の決定は絶対なんだ!」
真冬「こ、コイツ……! いいわ、貴方がそういう卑怯なことをするならその権力を直接奪ってやるわ。 下克上よ!」
千夏「ちょ、真冬ちゃん! 暴力は良くない……って優雅君もストップ!」
真冬と取っ組み合いの喧嘩が今にも始まろうとした所で生徒会室の扉が開けられ、その方向を見てみると……
智幸「……ただいま」
葵「……あなた方、一体何をやってるんですか?」
俺と真冬は流れる様に2人の前に正座した。
葵「私は出ていく前に優雅君と真冬さんに『仲良く大人しく留守番してて下さいね』と言ったのですが」
真冬・優雅「「はい、すみません」」
智幸「俺も『問題事は起こさず何かあれば俺に連絡』と伝えたんだが」
真冬・優雅「「はい、すみません」」
千夏「そうですよ! 全く……2人は手が焼けますね!」
智幸「いや、お前もだぞ藤井書記。 一応先輩なんだからその場にいたのなら責任をもってこの2人を止めろ」
千夏「えぇ!? と言うか今一応先輩とか言いませんでしたか!?」
智幸「言ってない」
俺は今真冬と共に会長と葵先輩から説教を受けていた。理由は会長と葵先輩との約束を破ったからである。
だがそもそも真冬と仲良くするというのが無茶ぶりなのだから俺は不満しかない。
俺は別に仲良くしてもいいのだが真冬が俺を拒絶してる時点で無理だ。
まぁ俺も別に無理して仲良くしようとは微塵も思わないから別に問題ないのだが。
智幸「まぁ説教はこの辺にして本題に入ろう。 そちらの子は?」
会長が朧を見ると朧はニコニコしながらポーズを決め、
朧「我が名は……」
優雅「はい、ストップ。 一旦落ち着きましょうね〜。 この子は俺と同じクラスの不知火朧。 どうやら飛び入学した子らしくて生徒会に新しく入りたい人です」
朧「んむ! はなへ!」
危うく自滅しようとしていた朧の口を押え付けると俺は会長と葵先輩に紹介する。
智幸「不知火朧……? なんかどこかで聞いた名前だが……なんだったかな」
葵「奇遇ですね、私も聞き覚えのある名前です……どこで聞いたんでしたっけ……」
俺は同じクラスなのに今まで1度も聞いたことなかったんですが……
すると今まで黙っていた真冬が何かに気がついたようにポンと手を叩き、
真冬「それなら全国模試じゃないかしら。 しーちゃ……朧は全国模試1位だからそれで聞き覚えがあるんじゃない?」
千夏・優雅・智幸「「「ぜ、全国模試1位!?」」」
俺達が驚きの声をあげると朧は俺の拘束から抜け出し誇らしげに胸を張り、
朧「ふふん! そう! 我こそ全知全能にして中3ながらも高校へと進学し世界中からこの頭脳を求められる天才!」
コイツそんな頭いいくせにこんな頭おかしい事してんのかよ。
葵「思い出しました! 確か3年連続全国模試1位を取り、中学生ながらも様々な大手企業や大学等からオファーが来ていたという……」
なんだそれ。 そんな漫画みたいな……
智幸「そ、そうなのか!? 本当なのか朧!?」
朧「えぇ、全て本当の事ですよ。まぁオファーは全て断りましたがね」
千夏「……ちなみになんで断ったんですか?」
藤井先輩がそう聞くと朧は満面の笑みを浮かべ
朧「会社名や大学名が私の心に響かなかったからです!」
智幸・葵・千夏・優雅「「「「…………」」」」
んな事だろうとは思ったよ……
みんなが黙り込んでいると会長が俺に手招きをしていたので俺は会長の元へ行く。
すると会長は深刻な顔をして俺に、
智幸「なぁ、この朧って子大丈夫なのか? 悪い意味で只者じゃないオーラを感じるんだが…」
葵「私も思いました。 今生徒会は人手不足なので生徒会に入る事に異論はありませんが……何か嫌な予感を感じます」
どうやらこの2人もアイツのやばさに気がついたようだ。
優雅「正直俺個人としての意見を言わせてもらうとあいつは問題事しか持ってこない気がします。 多分色んな所で問題事作ってきて『じゃあ後始末は頼みます』とか言って責任全部なすり付けてくるタイプです。 それにアイツの世話は俺絶対に嫌です」
朧「おい優雅、聞こえてるぞ。 もう少しそういう事は声量を下げて言ったらどうだ」
何か文句を言われた気がするが、とっさに耳を塞ぎ聞こえてないフリをする。
智幸「ともかくだ。 俺は別に生徒会に入ること自体に異論は無い訳だが……優雅はどうだ?」
優雅「そうですね……まぁ生徒会副会長として言うのであれば俺も賛成ですね。 人手不足の生徒会で人手が増えるのはいい事ですし」
智幸「そうか。 なら全会一致という事で朧を生徒会メンバーに入れてやりたいと思うが……いいか?」
葵「いいですよ」
優雅「まぁ……はい」
個人的な意見としては怖いから嫌だったが……まぁそんな理由で生徒会への加入を断ったとなればアイツの事だからきっと黙ってはいないだろう。 これで良かったんだ……そう、これで…
智幸「じゃあ朧、全会一致という事で生徒会メンバーの正式加入を認める。 明日から早速後夜祭部門で仕事を頼むからよろしく頼むぞ」
朧「はい! 任せてください! 私にかかればどんな仕事でもちょちょいのちょいです!」
真冬「良かったねしーちゃん! コレからは後夜祭部門で『2人』仲良く頑張ろうね!」
朧「はい! ……ん? 私達2人きりなんですか?」
真冬「そうよ。 後夜祭部門は3人欲しいんだけど2人しか居ないのよ。 まぁ害虫なら1匹いるけどね」
後夜祭部門に俺がいない事にされ、早速朧を入れたことに後悔してるが……心が寛大な俺はこの程度じゃ怒らない。
そう、俺は心の広い……
真冬「あと優雅とはあまり接触しちゃダメよ? アイツは頭悪くて態度も言動も顔も悪いからしーちゃんが近寄ったら汚されちゃ……」
優雅「黙って聞いてりゃいい加減にしろよ真冬テメェ! 藤井先輩に聞いたがテメェ俺の事『あんなやつチビのくせに態度のデカい低脳猿』とか言ってくれてたらしいな! 今この場で殺してやるよ!」
真冬「な、何よ! 本当の事を言っただけじゃない! って痛っ! ちょっと! 女子を殴るってどういうことなのよ! それ以上やったら許さないわよ!」
優雅「うるせぇブヴァァァァァカァ!!!!! いつまでも俺が黙って見てると思ったら大間違いだクソビッチ!」
真冬「クソビッッ!? いいわ……私だって言われたままじゃ気が済まないからね! 私も全力であんたを叩き潰してあげるわ!」
真冬が戦闘態勢をとると同時に俺も真冬をいつでもシバけるように……
智幸「おいお前らやめろって.......はぁ、どうしてお前ら2人はいつも平和に終われないんだ」
千夏「まぁまぁ会長。 今のは流石に真冬ちゃんの言い過ぎだと思いますし優雅君がキレるのも仕方ないですよ」
俺と真冬が殴りかかろうとした所で葵先輩がパンッと手を叩きデカい音を鳴らす。
葵先輩へみんなの視線が集められ葵先輩は俺と真冬を見たがらニッコリと笑みを浮かべ、
葵「2人共。 それ以上喧嘩するのなら明日から2人きりで毎日グラウンドのごみ拾いをさせるわよ?」
優雅・真冬「「誠に申し訳ございませんでした我らが副会長葵先輩」」
智幸「なんでこういう時だけ息ピッタリなんだよ.......普段からその仲の良さを活かしてくれよ」
朧「そうですね。 私もあんなに仲良さそうな真冬は初めて見ました」
優雅・真冬「「仲良くないから!」」
会長と朧のセリフを否定しようと講義する中、会長が『はい、注目〜』と言ってみんなを黙らせる。
智幸「まぁ何がともあれ今日はもう遅いから解散としようか。 それじゃあ明日からよろしく頼むよ、朧」
会長の言葉に朧は目を輝かせ、声を大にして…
朧「はい! 会長の期待に必ず応えて見せます!!!」
そんな朧の声が校内に響く中、俺らは帰路へとついた。
今日の活動記録 担当:書記 藤井千夏
出席者 智幸、葵、優雅、千夏、真冬
・New! 生徒会執行部に入部!1年生の不知火朧ちゃん!
・天翔学園祭参考の為会長と葵さんの出張
・優雅君曰く『貴族ごっこ』?
・朧ちゃんの入部許可会議
優雅君と葵ちゃんへ→生徒会では皆仲良く!
明日の予定→第5話 沢村葵は生徒会メンバーをもっと知りたい