第22話: 沢村葵と沢村烽火
第22話: 沢村葵と沢村烽火
優雅「おまたせしましたっと。 で、スポットライトがつかないんだっけ?」
千夏「そうなんですよ。 優雅君なら分かるかなーって思って」
会長と会話をしてると千夏先輩に呼ばれたので駆けつけると、スポットライトが付かないから助けてとの事だった。
優雅「まったく……俺は何でも屋さんじゃないんすよ?」
千夏「まぁいいじゃないですか。 どうせ暇だったんでしょ?」
優雅「俺はいつでも忙しい振りをするのに忙しいんすよ」
千夏「ほら、暇なんじゃないですか」
葵「あ、優雅君! 丁度良かった……!」
千夏先輩に俺の大変さを説きながら第1体育館へ向かっていると廊下を走って葵先輩が俺達の所へ向かってくる。
優雅「どうしたんすか葵先輩? そんな慌てて」
千夏「何かあったんですか?」
葵「えぇ、今伊藤先生に呼び出されて大変な事を……と、とにかく優雅君は会長を呼んで生徒会室へ来てください! 千夏さんは待機で」
そう言い残すと葵先輩は慌てた様子で生徒会室へ戻っていく。
千夏「あ、ちょっと待って下さいよ葵ちゃん! 一体何があったんですか!」
葵「後夜祭の花火が……出来なくなるかもしれないんです!」
優雅「…………はい?」
千夏「うぇ……?」
優雅「お待たせしました」
智幸「一体何事ですか?」
その後俺は会長を呼び急いで生徒会室に来た。
するとそこには険しい顔をした葵先輩と伊藤先生がいた。
葵「先生…2人にも説明を……」
伊藤先生「あぁ……さっき花火業者から連絡があってな。 どうやら向こうのミスで明日の後夜祭で必要な花火が無いらしい」
伊藤先生はそう言うと険しい顔をして俯く。
……おっと、紹介がまだだったかな? この髭の生やしたダンディな先生は伊藤大智先生。
とても仕事が出来て頼れる先生で、俺個人としても大好きな先生だ。
普段はどんな時でも表情1つ変えず冷静で俺達が困った時に的確なアドバイスをしてくれる。
なのでその伊藤先生が険しい顔をしているということはとてつもなくまずい状況だと言うことだ。
智幸「そんな……どうにかならないんですか? 今から他の業者を頼るとか……」
伊藤先生「いや、こういうのは前日に言ってどうにかなるものではないんだ。 一応俺もダメ元で色々聞いてみるが出来ない場合も考えた方がいい」
智幸「そう…ですよね……」
それを聞いた会長もどうしたものかと俯き生徒会室は重い空気に包まれる。
伊藤先生「その、なんだ。 お前達が気に負う必要は全くない。 これは花火業者のミスだ」
智幸「そうかもしれませんけど……まさかこんな事になるなんて……」
俺もトラブルが起こるかもしれないと注意はしてきたつもりだったがまさかこんなトラブルが起こるとは予想出来なかった。
花火なんて俺達がどうこうできる問題でもないしな……
伊藤先生「一応俺も色んな業者と連絡をとって明日出来ないか頼んではみる。 もし無理そうであれば明日の朝改めてお前達に伝える」
智幸「はい……分かりました」
伊藤先生「……優雅、本当にすまないな。 この1ヶ月お前がリーダーとして準備してくれていたのにこんな事になってしまって」
優雅「え? あぁ、いえ……」
別に伊藤先生も悪くないしな……花火業者のミスだし。
だとしても全校生徒はそんな事情は知らない。 花火が業者のミスで出来なくなったと言っても結局不満の矛先は俺達生徒会へと向く訳だ。
だがそれだけは防ぎたい。 花火は真冬と朧の2人が力を入れて今まで準備をしてくれていた。その2人が色んなやつから文句を言われるなんて俺は許せない。
しかし俺じゃどうしようもないしな……う〜ん、どうしたものか。
葵「……あの、伊藤先生」
伊藤先生「ん? なんだ葵?」
葵「実は私知り合いに花火業者の人がいるんですよ。 私もその人に出来ないか聞いてみてもいいですか?」
全員がどうしようかと悩んでいると葵先輩がそんな事を……
伊藤先生「……え? あ、いや聞いてみてくれるのは有難いんだが……これは業者のミスであってその責任は俺達教師が……」
葵「コレは私個人のお願いです。 先生方に迷惑はおかけしません。 もし出来れば解決する訳ですし…お願いします」
伊藤先生「そ、そうか? いやまぁ我々も困ってるしもし出来るのであれば助かるんだが……しかし生徒に任せっぱなしってのも……」
葵「良いんですよ伊藤先生。 こういう時は助け合いですから」
伊藤先生「……そこまで言ってくれるならわかった。 俺の方でも探してみるけど葵にも頼む」
葵「ありがとうございます伊藤先生」
伊藤先生「礼を言うのはこっちだ。 助かるよ葵。 じゃあ俺は今から花火の件の後始末と業者への連絡をするから失礼するぞ」
智幸「はい。 明日の準備はもう終わるのでご心配なく」
伊藤先生「すまないなお前達に任せっぱなしになってしまって。 でも何かあれば言うんだぞ」
伊藤先生はそういうと生徒会室から出ていく。
すると会長は席に座り葵先輩を見て、
智幸「……さて沢村、俺達にも説明を頼めるか?」
葵「まぁそうですよね……ちゃんと説明しますから」
葵先輩も会長からそう聞かれるのがわかっていたのか説明を始めてくれた。
葵「実は私、こう見えてお金持ちの家系なんです」
智幸「知ってるぞ」
優雅「知ってますよ」
葵「えぇっ!? 知ってるんですか!?」
葵先輩は誰にも知られていないと思っていたのか驚きの声を上げる。
優雅「行動や発言聞いてれば誰でも分かりますよ。 それより僕達が気になるのは花火業者に知り合いがいるって言うところです」
智幸「あぁ。 それに今から突然頼んで明日やってくれなんて無茶ぶりして大丈夫なのか?」
俺と会長が純粋な疑問を浮かべると葵は少し苦笑いをし、
葵「絶対…って訳では無いのですが……まぁきっと詳しく説明しなくても二つ返事でOKしてくれると思います」
智幸・優雅「「???」」
葵「口じゃ説明しずらいですし実際聞いてた方がいいと思います」
すると葵先輩はスマホを取りだし誰かに電話し始める。
葵「……あっ、もしも……」
『久しぶり葵ちゃ〜〜ん!!!! どうしたの突然葵ちゃんから電話なんてしてきちゃってぇ! お姉ちゃんが恋しくなっちゃった?』
電話が繋がったかと思ったらスピーカーにしてないのにそんな声が聞こえてくる。
葵「違いますって。 実は大事な話しがあって……」
『大事な話?』
葵「実は明日の後夜祭で花火をやる予定だったのですが、花火業者のトラブルで明日出来なくなってしまいまして……」
『はぁぁあ!? なんだいそれ!』
葵先輩が事情を少し話すとスマホからとてつもない怒声が聞こえてくる。
『学生の青春を大人の都合で奪うなんていっちゃん許せないよ! 同じ花火業者として怒りが込み上げてくるよ! それであたしを頼りにしたいって事なんでしょ?』
葵「え? あ、うん。 そういう事になりますね……でも明日の夜何ですけどやっぱりいきなり過ぎましたか?」
『へーきへーき! 暇してたから仕事が出来て感謝してるくらいだよ! あとはお姉ちゃんに任せときな!』
葵「ありがとうございま……ってもう切れてる……」
葵先輩がお礼を言う前にどうやら電話は切れたようだ。
智幸「えぇっと……OKとれた…のか……?」
葵「そうですね。 大丈夫だと思います」
優雅「凄い人っすね。 お姉ちゃんって言ってましたし葵先輩の姉ちゃんすか?」
葵「いえ……それはあの人が勝手に言ってるだけで……」
智幸「ん? 姉じゃないとなると……一体どういう事だ?」
すると葵先輩は少し苦笑いをし、
葵「今通話していた人は私の従姉妹の沢村烽火という人です。 私の7つ年上で小さい頃よく可愛がって貰ったんです」
智幸「あー、従姉妹だったのか」
優雅「すげぇ元気な人でしたね」
葵「えぇ……本当に元気過ぎて羨ましいくらいですけどね」
確かにスピーカーにしてないのに俺達にまで聞こえる声量は羨ましい限りだ。
智幸「何がともあれひとまず花火の問題は解決ってことでいいのか?」
葵「はい。 そう思ってもらって大丈夫だと思います」
マジか、さっきまでどうしようかと思ってたのにこうも簡単に解決してしまうとは、
優雅「やっぱり金持ちは違いますね」
葵「その言い方はやめてください。 とりあえずこの事を伊藤先生に伝えに行きましょう。 あと体育館で待ってるみんなにも気にしないでと伝えに……」
優雅「あー、それなら俺がやりますよ。 葵先輩はここで待っててください」
葵「でも……」
優雅「気にしないでください。 そもそも俺今の所何もしてないですしこれくらいやらせてくださいよ」
葵「それなら……わかりました。 お願いします」
俺がそういうと葵先輩は申し訳なさそうにしながらも俺に任せてくれた。
正直これくらいはしないと俺ただ話を聞いてた傍観者になっちまうしな。
智幸「それなら俺も手伝うよ。 俺も今の所何もしてないしな。 手分けすれば直ぐに終わるだろう。 俺は伊藤先生に知らせてくるから優雅は体育館で待ってるみんなに準備が終わり次第生徒会室に戻ってくるよう伝えてきてくれるか?」
優雅「あ、わかりました」
会長も手伝ってくれるそうなので会長に言われた通り体育館へ向か………
葵「あの、2人共ちょっといいですか?」
智幸「ん? どうした沢村?」
……おうとした所葵先輩が呼び止めてくる。
優雅「なんかありました?」
葵「その……2人が行ってくれてる間にちょっと烽火の所へ行って詳しい説明と礼を言いに行ってきたいなと思ったのですが……」
智幸「え? 烽火さんの所に行くって……今からか? 近いのか?」
葵「えぇ、20分から30分あれば戻って来れるはずです」
そんな近い所にあったんだ……
智幸「ふむ……それなら確かに丁度いいかもな。 多分準備も沢村が戻ってくる頃位に終わるだろうしそうするか」
優雅「そっすね。 1人で大丈夫ですか?」
葵「話をしに行くだけですし大丈夫だと思います」
優雅「まぁそうっすよね。 そんじゃま行きましょう……か…………」
智幸「……? どうした優雅?」
……ちょっと待てよ。
これ……もしや会長と葵先輩の距離を縮めるチャンスなんじゃないか?
伊藤先生への連絡と体育館にいるみんなへの指示は俺でも出来るわけで……わざわざ会長と手分けをしなくても何とかなるはずだ。
優雅「……すみません、やっぱり会長は葵先輩についてった方がいいと思います」
智幸「!?」
葵「え? 何でですか?」
優雅「えっと…烽火さんには突然花火なんてお願いしたわけじゃないですか。 やっぱりここは会長と副会長で感謝を言うべきじゃないかな〜と思いまして」
葵「……」
俺が適当にそれっぽい事を言うと葵先輩は少し悩み込む。
流石に無理があったか……? 葵先輩は朧や真冬みたいにバカじゃないしこんな事言っても……
葵「確かにそうかもしれませんね。 学校行事をお願いした訳ですし知り合いとは言えど親しき仲にも礼儀ありと言いますし副会長である私だけではなく会長も一緒に謝礼を言いに行くのが礼儀かもですね」
智幸「えっ」
優雅「あ……あー、そうですよね! そう思って提案したんですけど……」
葵「ありがとうございます優雅君、私副会長という立場なのに礼儀を忘れる所でした。 やっぱり優雅君は些細な事でもちゃんとしていて凄いですね」
優雅「あぁいえ……そんな…つもりじゃ……」
会長と葵先輩を2人きりにさせるチャンスだと思って俺が適当に言ったセリフに葵先輩は胸打たれたのか俺にとても感謝してくる。
正直適当にそれっぽい事を言っただけなのでこうも頭を下げられ感謝されると申し訳なさと罪悪感で胸が痛む。
ま、まぁ結果オーライって事にしておこう。
智幸「……おい、優雅」
優雅「ん? どうかしましたか会長?」
葵がさっそく行く準備をし始めると会長が小声で話しかけてくる。
智幸「どうかしましたか? じゃねぇよ! お前何考えてるんだ!」
優雅「何って言われましても……会長葵先輩を誘えてないんっすよね? チャンスを作っただけですよ」
智幸「そうは言っても心の準備が……」
優雅「ここでビビってちゃダメっすよ! さっき歩み寄るって決めてたじゃないですか」
智幸「確かに言ったが……いや、優雅の言う通りだな。 ここまでやって貰って逃げるってのはないしな。 悪いな、何度もお前に手間をかけさせて」
優雅「良いんですって、僕の方が会長と葵先輩に助けられてきましたから」
葵「よし、行きましょうか……って、どうかしましたか2人共?」
コソコソと話をしていると、準備を終えた葵先輩がそう聞いてくる。
智幸「あぁいや、なんでもない! 行くとするか!」
葵「ですね。 じゃあ他のみんなを任せますね優雅君」
優雅「任せてといて下さい! 俺も一応副会長なんでね、まとめあげておきますよ!」
葵「ふふ、助かります。 もし明日の準備も終わってやる事が無くなったら先に解散させてていいですから。 その時は私か会長に連絡をお願いします」
優雅「うす、了解っす!」
智幸「……優雅、本当にすまないな。 気を使わせてしまって」
優雅「だから気にしなくていいですって。 それに、こういう時はすまないじゃなくてありがとうって言うんですよ」
智幸「……あぁ、そうだな。 ありがとう」
葵「会長? 何やってるんですか? 行きますよ」
智幸「おっと、今行く」
会長は葵先輩に呼ばれると慌てて走っていく。
優雅「応援してますよ……会長」
智幸「……」
葵「……」
……き、気まずい……!
くそ……一体どうしたんだ俺!
いつもなら他愛ない話をしている所だが沢村について聞くとなると緊張する。
まず距離を縮めなければ……
智幸「そ、そういえば沢村は明日の自由時間どこか回る予定はあるのか?」
葵「明日ですか? いえ、多分屋台とステージの見回りをしてるので特には」
智幸「そうなのか? で、でも一応交代制だし時間は空くわけだしどこか観たりしないのか?」
葵「ん〜そうですね……去年もそうだったんですけど私休憩時間でもトラブル起きてないかとか困ってる人いないかとかして無意識に仕事しちゃうんですよね。 なので今年もそんな感じかと」
智幸「そ、そうか……」
葵「……」
智幸「……」
く、くそっ……! 絶対に話題を間違えたぞ俺!
他に会話が弾むような話題は……
智幸「……な、なぁ沢村。 今回花火を請け負ってくれた烽火さんって人と葵は仲良いのか?」
葵「烽火とですか? そうですね……仲がいいと言うよりは向こうが一方的に私の事が好き過ぎるだけですね」
智幸「一方的に……? どういう事だ?」
俺がそう聞くと沢村は少し言いずらそうにしながら苦笑いをして、
葵「その……烽火は重度の”シスコン”なんです」
智幸「重度の…シスコン……?」
葵「はい。 そもそも烽火が花火業者になったのも私が今住んでる家に職場が近いからとかいう不純な理由ですし」
智幸「そ、そうなのか……!?」
葵「えぇ。 なんなら中学生の時は送り迎え出来るようにと私の家から近いスーパーで働いていましたし」
なんか思っていたよりヤバそうな人だったので俺は会うのが少し怖くなってくる。
葵「っと、そんな事を話してたら着きましたね。 こちらです」
智幸「えっ? ここか?」
沢村が着いたと言った建物を見てみると、そこには『花火』とだけ書かれた看板が立てかけられた二階建ての建物があった。
流石に適当すぎやしないか……?
と、そんな事を思っていると葵がインターホンを押して、中からドタドタと足音が聞こえてくる。
「はいは〜い。 すみませんが本日は休業で……」
葵「お久しぶりですね烽火。 今って大丈夫?」
烽火「…………」
智幸「……? なんか固まっちゃってるが大丈夫なのか?」
葵「さ、さぁ……烽火〜! 生きてます?」
烽火「ぶはぁっッッッ!!!!!」
智幸「ちょっ!? だ、大丈夫ですか!?」
沢村が固まった烽火さんの顔を覗き込むと、烽火さんは突然吐血し倒れ込む。
葵「あー……恐らくいつもの発作なので気にしなくていいです」
智幸「ほ、発作……?」
葵「烽火〜戻ってきて下さい」
烽火「はっ!?」
葵が揺さぶり起こすと烽火は慌てた様子で、
烽火「な、何で葵ちゃんがここに!?」
葵「何でって言われましても……お礼を言いに来たんですよ」
烽火「お礼……?」
智幸「はい、突然お願いしたのに引き受けてくれて本当に助かりました」
俺が感謝を述べると今初めて俺に気がついたのか烽火さんは驚いた様子でわなわなと震えながら、
烽火「ね、ねぇ……まさかとは思うけど……貴方葵ちゃんの彼氏?」
智幸「ち、違いますよ!」
葵「前話したでしょ烽火。 この人が遊木智幸会長ですよ」
烽火「あっ、この人が?」
すると烽火さんは咳払いをし、
烽火「取り乱してしまって悪かったね。 改めまして私は沢村烽火。 葵ちゃんのお姉ちゃんだよ!」
葵「従姉妹です。 勝手に私の姉にならないで下さい」
烽火「や〜ん何でそんなこというの葵ちゃん! お姉ちゃん悲しい!」
葵「烽火こそ話をややこしくるのはやめてください。 はぁ……ともかく今日はお礼を言いに来たのでお礼を言って失礼させてもらいます」
烽火「ねぇねぇ葵ちゃん。 なんで今日は敬語なの? いつもはタメ口なのになんで?」
葵「う、うるさいですね! ちょっと黙ってて下さい!」
烽火「葵ちゃん冷たい〜! なんでそんなにお姉ちゃんを拒絶するの?」
葵「あ〜もう! しつこいですね! そういう事するならもう帰りますよ!」
烽火「ちょ、葵ちゃん待ってよ! 冗談だってば!」
烽火さんのだる絡みに怒った沢村が帰ろうとすると、烽火さんが沢村にしがみついて引きずられていく。
……うん、なんか俺空気になってないか?
今日の活動記録:現在活動中……
・天翔学園祭1日目無事終了!
・2日目準備
今後の予定→23話 密かに深まる関係




