第13話: 科学者と生徒会役員と怪談体験
第13話: 科学者と生徒会役員と怪談体験
優雅「……ふぅ、今日は休みだってのにマジで疲れたな……」
ここ数ヶ月土日に外出なんてしてなかったので久しぶりの外出に体が悲鳴を上げている。
優雅「にしてもマジでお泊まり会やってんのかよ……」
結局あの後、朧のお母さんにお泊まり会をしないかと誘われてする事になったらしいのだが、流石に女子2人と真冬がいる中男子俺一人であの空間にいるのは地獄だと判断し俺は断って帰ってきた。
優雅「やっぱり家でゲームが1番だよなぁ。 下手に外出るもんじゃねぇな」
プルルルルッ
そんな事を呟いていると誰からか電話がかかってくる。
優雅「誰だ? また水優かな……って、朧か。 もしもし?」
朧『あ、もしもし? 私ですが』
優雅「なんだわざわざ電話なんかしてきて。 何か用か?」
朧『私は別にないんですが……』
朧の妹『姉ちゃんの飼い主のお兄ちゃんこんばんは!』
朧『ちょ、仄花! 何言ってるのですか!』
優雅「こんばんは、えーっとほのかちゃん?」
ほのか『うい、ほのかと申しまする』
どんな語尾してんだ。
朧の妹であるほのかの声が朧の声を遮って聞こえる。
優雅「どうしたんだいほのかちゃん? 俺に何か用かな?」
ほのか『いえ、用はないけどお兄ちゃんはなんで帰ったのかなって』
優雅「なんでって言われてもなぁ……」
遊ぶならまだしも女子しかいないあの空間で男子1人で泊まってけと言われたらそりゃあ断るだろう。
なんならメンツがメンツなので俺があの空間にいるだけでぶっ殺される可能性も少なからずあるからな。
真冬『ほのかちゃん? 誰と会話してるの?』
ほのか『お姉ちゃんの飼い主と会話してるの』
朧『だからほのか? 優雅は別に私の飼い主じゃありません。 そういう変な言葉は使わないでください』
真冬『優雅ぁ? ダメよほのかちゃん、あんな奴と会話したら教育に良くないわ。 こっちで一緒に遊びましょう』
ほのか『やった! 真冬お姉ちゃん大好き!』
真冬『そ、それはありがとうほのかちゃん。 私もほのかちゃんの事好きよ』
千夏『あー! ズルいです! 私もほのかちゃんと遊びたい!』
ほのか『ふっ、人気者は困るぜ』
電話越しにそんな会話が聞こえてくる。
……うん、切ってもいいかな。
朧『邪魔してしまってすみませんね優雅。妹がどうしても話したいって言うもんで』
優雅「別にいいよ。 可愛いじゃないかほのかちゃん」
朧『ふふん、まぁ自慢の妹ですからね!』
優雅「それに比べて姉はなんであんな頭おかしくなっちゃったんだかねぇ。 『我はシャドウパンサーズとなんたらかんたら!』みたいな訳の分からん……」
朧『おい、頭のおかしい姉とは誰の事なのか聞こうじゃないか! 少なくとも私の方があなたよりも頭脳はすぐれ』
プツッ
このまま通話してるとうるさそうだったので俺は通話を切った。
すると水優から1件のメールが届いていた。
確認してみると
『明日の昼過ぎ1時頃下記の場所にて集合』
と書かれたメールと行く場所が示された地図が貼り付けられていた。
優雅「なんだここ……家? みたいだけどそれにしてはデカイな。 それに俺ん家からまぁまぁ近いし」
地図を見てみると軽い屋敷くらいの大きさはありそうな場所が示されていた。
優雅「なんかの間違い……では無いよな。 あの人に限って間違いなんてないだろうし」
というか頭のおかしい発明品ばかり試されてて忘れるが水優は一応国家レベルの研究を行う天才なんだ。
優雅「まぁともかく昼に起きなきゃいけないらしいしもう寝るかな……」
今日の反省を踏まえ俺はもう寝る事にした。
ほのか「ふふん! 私の勝ち!」
真冬「ま、負けた……! 一切手加減なんてしてないのに!」
千夏「ほのかちゃん強くない? 普通にボコボコにされたんですけど」
朧「仄花は私よりもゲーム強いやつありますからね。 子供だからって手加減とかしない方がいいですよ」
優雅との電話を終えた私達は仄花とゲームをやっていた。
ほのか「もしかしてみんなゲーム下手?」
真冬「そっ、そんなことないわよ!? 私はあんまり対戦ゲームをやらないから慣れてないだけで.......」
千夏「そ、そうです! 私もこういうゲームしないから慣れてないだけですよ!」
年下であるほのかに舐められるのが嫌なのか真冬と千夏先輩は一生懸命そう言い訳する。
ほのか「じゃ他のやろ」
真冬「いいわよ! 何をやりたいほのかちゃん?」
ほのか「んー、トランプ! 7並べ!」
千夏「いいですよ! じゃあ準備しますね!」
千夏先輩はほのかの要望を叶えるためトランプを持ってきてみんなにカードを配り始める。
朧「すみませんね2人共。 ほのかに付き合ってもらってしまって」
真冬「全然いいのよ。 いつもの事だし」
千夏「私もほのかちゃんが可愛いから一緒に遊んでるだけだから気にしなくていいですよ」
ほのか「くるしゅうないくるしゅうない」
朧「何を言ってるんですかほのか.......こういう時はありがとうでしょ?」
ほのか「はい、ありがとうござます真冬お姉ちゃん、千夏お姉ちゃん!」
真冬「い、いいのよほのかちゃん! 他にもやりたい事とか欲しいものあったら言ってね!」
千夏「そうですね! 何かあればお姉ちゃんである私達に言ってね!」
ほのか「じゃあ世界の半分が欲しい」
真冬と千夏先輩はほのかの可愛さにデレデレでさっきからこの調子だ。
朧「仄花? 楽しいのは分かりますが眠たくなったら言うんですよ?」
ほのか「大丈夫! 私寝ないから!」
ほのか「すー……すー……」
朧「い、いつの間にか寝てる……」
私が少し1階に行って戻ってくると、あれだけ寝ないと意気込んでいた仄花は寝ていた。
千夏「あれだけはしゃいでたらそりゃあ眠たくなりますよ」
真冬「そうね、でもほのかちゃんは相変わらず人懐っこくて可愛い子よね」
朧「きっと久しぶりに私以外で遊んでくれる人がいたから嬉しかったんですよ」
寝てしまった仄花を私は抱えて布団に寝かせる。
朧「さて、私も明日用事あるしもうそろそろ寝ますかね」
千夏「あ、朧ちゃん明日用事あるの?」
私が寝ようと布団に入ると千夏先輩がそう聞いてくる。
朧「えぇ、前も話したかもしれませんが水優さんの家に行かなきゃいけないので。 それに優雅が絶対に寝過ごすと思うので起こしに行かなきゃいけなくて……」
千夏「あぁ、そういえば前言ってましたね。 にしても朧ちゃんも色々と忙しいですね」
朧「なんだったら千夏先輩も来ますか?」
千夏「ま、まぁ気が向いたら……」
真冬「ねぇしーちゃん、本当に明日私も行かなきゃダメ? いらないと思うのだけれど」
朧「今更何言ってるんですか、もう行くと伝えちゃってるんですから行きますよ。 旅は道連れ世は情けってやつです。 ほら、寝ますよ」
私がそういうと2人も布団に入り電気を消す。
朧「というかすみませんね今日は。 色々とお騒がせしてしまって。 急に泊まってけとか困りましたよね」
千夏「別にいいんだよ! 私達こそお邪魔しちゃって……」
朧「千夏先輩が気にする必要は無いですよ」
全く毎度毎度お母さんの行動力には驚かされる。
というか初対面の人に家に泊まってけと進めるうちの親が大分おかしい。
なんだったら優雅もいたし……
朧「……ま、真冬? 聞きたいのですが……」
真冬「……」
朧「……? 真冬?」
千夏「ん? 真冬ちゃん?」
返事がないので真冬の様子を見てみると……
真冬「すぅ……」
朧「も、もう寝てる……!?」
千夏「寝付き良すぎない真冬ちゃん?」
ピンポーン
優雅「……ん、またか……頼むから静かに寝させてくれよ……」
先日同様インターホンの音で目が覚める。
ピンポーン、ピンポーン
優雅「はいはい今出ますよ……」
重い体を起こし玄関のドアを開けると、
朧「おはようございます優雅、モーニングコールしに来ましたよ」
優雅「お前随分と暇なんだなぁ……」
昨日と同じくドアを開けると朧が立っていた。
唯一昨日と違うとすれば……
真冬「もしかして本当に今起きたのあんた? ほんっと自堕落な生活してるわねあんた」
真冬がいることだろう。
朧「もう12時半ですよ。 もうそろそろ出ないと間に合いませんから早く準備してきて下さい」
優雅「そういやお前達もくるんだったな。 とりあえず準備してくるわ」
俺はすぐ出るため急いで身支度をしに戻った。
優雅「いやぁ朧が来てくれなかったら寝坊してたわ。 サンキューな」
朧「優雅が寝坊するのは昨日学びましたのでね」
あの後俺は早々に身支度を済まして水優から送られてきた場所へと向かっていた。
真冬「子供じゃないんだから1人で起きなさいよねあんた。 そういう自堕落な生活してるといつか自分に反動が帰ってくるわよ」
優雅「だって朝苦手なんだもん。 昨日だって早く寝たけど結局起きれんかったし」
真冬「気持ちの問題よ。 あんたが意思が弱いから起きれないの」
優雅「それは確かにそうかもしれないけど……」
朧「あ、見えてきましたよ!」
軽く真冬に説教を受けていると朧のそんな声を聞き顔を上げる。
優雅「な……なんだここ……」
顔を上げるとそこにはデカい屋敷が……
朧「でっかい屋敷ですね〜。 私もこういう所に住みたいものです」
真冬「この屋敷が水優先輩の家なの……?」
優雅「お、恐らく……だってコレ見てみろよ。 この地図の場所ここだよな?」
真冬「どれどれ……うん、そうね。 場所はここで間違ってなさそうね」
真冬と共に改めて地図を確認するが場所はここで間違ってないようだ。
優雅「どうやってはいるんだこれ……」
水優『やぁ御三方、いらっしゃい』
「「「!?!?!?」」」
屋敷の前で立ち往生していると突如聞き覚えのある声が響く。
真冬「み、水優先輩! えと、私達どうすれば……」
水優『あぁ、今門を開けるから入ってきてくれ』
水優がそういうと目の前のデカい門がギギギという重い音を立てて開く。
優雅「……やっぱ金持ちって凄いな」
朧「前は水優さんこんな屋敷になんて住んでなかったんですがね……まぁとりあえず入りましょうか」
真冬「そうね。 水優先輩に会わないと質問も出来ないしね」
優雅「だな」
俺達は真冬の意見に賛同し、屋敷へと繋がる道を歩いていった。
智幸「ん? 優雅と真冬と朧じゃないか」
葵「こんにちは3人共」
優雅「なんで会長と葵先輩がここに?」
屋敷の中へと入ると白衣を着たお姉さんに『あちらで水優さんがお待ちです』と案内されたので言われるがまま歩いてくると、部屋の前で何故か会長と葵先輩と鉢合わせした。
智幸「なんでって言われても……俺達は水優に学祭でやる出し物について相談があると言われて来たんだ」
葵「優雅君達は何故ここに?」
優雅「何故って言われましても……」
確かに俺水優から何するか聞いてないし本当に何しにここ来たんだ俺。
朧「優雅が水優さんに家に来てくれと頼まれたらしくって私達はその付き添いみたいなものです」
葵「優雅君も呼ばれてたんですか。 ですがこっちに水優さんがいると聞いて私達も来たんですが見当たらなくてですね……」
水優「みんな待たせてしまってすまないね。 どうやらみんなお揃いのようだね。 さぁ、部屋の中に入ってくれ」
噂をすると後ろから水優がどこからともなくやって来て目の前の部屋へと入っていく。
俺達も言われた通り水優の後を追い部屋へ入ると、そこには漫画やゲームで見るようなこれぞ科学者の部屋! と言わんばかりの量の実験道具や資料が散らばっていた。
ってかマジで部屋汚ぇな。 俺の部屋より汚部屋だぞ。
水優「さぁ、その辺に座ってくれていいよ」
葵「いや、座るって言っても……」
智幸「えっと、どこに……?」
会長と葵先輩も困惑しているようだ。
それもそうだろう、足元には資料だらけなのに座れと言われてもそりゃ困る。
そんな事を思っていると、水優はその事に気がついたようで、
水優「あぁ、部屋が汚かったね。 すまないすまない、今変えるからちょっと待ってくれ」
変える……?
すると水優は白衣のポケットからボタン?のようなものを取りだしそのボタンを押す。
葵「眩し! な、何ですかこの光は!」
智幸「お、おい水優! 何なんだこの光は! 前が見えないぞ!」
水優がボタンを押すと部屋一帯が眩い光に包まれ目が開けられなくなる。
朧「ぐぁぁぁぁぁぁぁあッッッ!!!!! 目が! 目がァァァァァァッッッ!!!!!」
ムスカのような断末魔が聞こえながら段々と光が弱まってきたので目を開けると……
優雅「……な、なんだここ?」
真冬「なんなのここ……? なんか急にメカメカしい部屋に来たけど……」
さっき居た部屋とは打って変わって沢山の機械が置いてある近未来的な部屋にいた。
智幸「一体ここは……」
水優「驚かせてすまないね。 これは私の発明品『ルームチェンジャー』という物の効果でね。 部屋のインテリアを2種類設定して切り替えることが出来るんだ」
優雅「なんだそりゃ……」
いつものポンコツ発明品はどこにいったんだというレベルですごい発明品じゃないか。
水優「他にもこれとか……」
また水優が取り出しスイッチを押すと、
真冬「す、凄い! テーブルと紅茶とお菓子がでてきた!」
先程までは何も無かった所に突如テーブルとお茶とお菓子が出てくる。
優雅「一体どういう仕組みなんだこりゃ……こんなに凄いもの作れるなら大々的に売り出せば儲けもんじゃないのか?」
水優「優ちゃん鋭いね。 実はその事について今日は話したかったんだ」
優雅「え?」
すると水優は椅子に腰掛けて真面目な顔つきで、
水優「実は学祭でこれらの研究品を展示&体験出来るフロアを作りたくてね。 色々な人の反応を見て今後の研究に活かしたいんだ。そこで生徒会執行部の皆々様に学祭の時どこか教室を貸してくれないかなと思ってね」
智幸「なるほど……つまり今見せてくれた研究品を体験できるようなフロアを学祭中に展開したいからどこか教室を貸してほしいってことだな?」
水優「そういう事だね。 まぁ学祭まで1週間を切ってる訳だし無理にとは言わないよ」
智幸「うーむ……どう思う沢村? 俺はいいと思うんだが」
会長がそう葵先輩に問いかけると葵先輩は少し悩み、
葵「そうですね……私も良いとは思いますが心配なのは問題事ですね……もしかしたらということがあるかもしれませんしね」
真冬「確かに水優先輩の研究品をふざけて壊したりする輩がいたり、研究品が不具合を起こしてトラブルになったりするかもしれませんし…でも私達も仕事があるから監視は出来ませんし……」
真冬の言葉を聞きみんな頭を悩ませていると、会長が口を開き、
智幸「じゃあみんなやることに異論はなさそうだし最終決定は優雅に決めてもらおうか」
優雅「……えっ?」
突如俺に話が振られる。
葵「そうですね。 優雅君なら科学部のアシスタントやってますし見定められるでしょうしね」
……あっ。
あーっ、そういう事か。 はいはい、全て理解した、俺がここに呼ばれた意味を。
俺がここに呼ばれた理由、それはこうなる事を見越した水優がここで俺に『水優の研究品は問題ありません。 普段一緒に作業している俺が保証します』と言って保証人になってもらおうって魂胆だろう。
クソ……してやられた。 ニコニコして俺の事を見てくる水優が無性にムカつく。
朧「優雅……? どうしました?」
智幸「どうした? 厳しそうなのか?」
頭を抱えていると2人にそう心配される。
優雅「はぁ……わかったよ。 水優の研究品の安全性は助手である俺が保証しよう。 展示する研究品にも細心の注意を払って管理するようにしよう」
水優「さっすが助手君! 私が見込んだだけはあるね!」
優雅「ただし! 展示する研究品は1度俺のチェックを通してから、コレが条件だ」
水優「うっ……わ、わかったよぉ……」
智幸「ふむ……じゃあ教室の用意については俺達で手配しておくとするよ」
水優「うん、助かるよ会長さん」
そうして俺の決定で水優の研究品展示が開催されることに決まった。
嫌な予感がしなくもないが……まぁ並べる研究品は俺が目を通すと約束したから大丈夫だろう。
水優「じゃあ早速確認を頼めるかな優ちゃん。 隣の部屋に研究品が揃っているからさ」
優雅「わかったよ。 じゃあ早速確認するか」
朧「私も手伝いますよ。 人は多い方がいいでしょうし」
智幸「それなら俺も手伝おう。 出来ることがあれば言ってくれ」
葵「私も手を貸しますよ」
真冬「……みんな行くなら私も手伝うわよ」
確認しに行こうとするとそう言ってみんなが協力してくれる。
水優「ありがとうみんな! じゃあ早速行こうか」
優雅「あぁ、案内頼み……」
ブツッ
智幸「なっ!? なんだ!?」
葵「急に暗く……!? 一体何が!?」
ブツッという何かが切れたような音がすると同時に部屋の照明が消え、暗闇に包まれる。
優雅「お、おい水優。 これ大丈夫なのか? この部屋窓ないから真っ暗だしなんか切れた音も聞こえたけど」
水優「あー、またかぁ……」
また……?
水優「いやぁ実はこの屋敷貰い物でね、こういう現象があるからタダで譲り受けたんだよね」
こういう現象ってつまり……
『フフッ』
真冬「ひゃぁぁぁぁ!!! い、いいい今後ろから笑い声が! ゆ、幽霊よ!」
朧「ちょ、真冬落ち着いて下さい! オカルト部の私が宣言しますが科学的に考えて霊なんてものは存在しな……」
『カガクテキ?』
朧「わぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!! い、今私の肩に誰か触れて喋りましたよね!? 優雅ですか? 優雅ですよね!?」
優雅「はぁ? んな事しねぇよ」
朧「でも間違いなく今さっき誰か後ろに……」
智幸「俺も声は聞こえたな……」
葵「え、えぇ……私も聞きました」
どうやらここにいる全員が謎の声を聞いたらしいので聞き間違いでは無さそうだ。
水優「とりあえずこの部屋から出ようか。 この部屋から出ればここよりは明るいだろうし」
優雅「そうだな。 ブレーカーが落ちただけかもしれないし」
水優が扉を開けてくれたのでみんなは部屋の外へ出る。
俺も扉へ行こうと……
『……テ』
優雅「!?」
扉の外へ出ようと足を動かすと、無性に右足が重たく、掴まれた感覚がして更に何かボソボソとした声が聞こえてくる。
『……ッテ』
水優「優ちゃん? 立ち止まってどうかしたかい?」
立ちつくしていると扉の外にいる水優からそう声がかけられる。
確かにここで立ち止まってはいられない……それに右足が掴まれている感覚があると言うことは今が捕まえるチャンス……
優雅「うぉらぁぁぁぁぁぁあ!!!!! 捕まえたぞ!」
『ひゃぁぁぁぁぁあ! って、ちょっと何すんのよ!』
優雅「痛ッッッ! って、真冬!?」
右足を掴んでいた何者かの手を掴もうと手を伸ばすと、真冬にビンタされる。
優雅「お前こそ何やってんだよ……俺はてっきりさっき聞こえた変な声の主かと」
目を凝らしてよく見てみると真冬は床に座り込んでいる。
真冬「だから待ってって言ってたじゃない……とにかくそんなの良いからちょっと肩貸して」
優雅「肩……? なんだ? 怪我でもしたのか?」
俺がそう聞くと真冬は聞き取れるか微妙なくらいの小さな声で、
真冬「さ……さっきので腰抜かしちゃったの……い、良いから早く! ほら、みんな待たせてるでしょ! 」
優雅「あ、お、おう……」
俺は真冬に言われるがままに真冬に肩を貸してみんなが待ってる扉の外へと歩く。
というか真冬ってこういうの苦手だったのか……知らなかったな。
朧「あ、やっと来ましたね……って真冬? どうしたんです? 大丈夫ですか?」
水優「大丈夫? どこか怪我でもしたの?」
真冬「え? あ、大丈夫よ。 ちょっとフラッっとして肩貸して貰ってるだけだから」
扉の外へ出ると2人が気遣うように真冬を心配する。
この様子だともしかして怖がってるのがバレたくないのか……?
と、そんな事よりも気になる事がある。
優雅「なんだ……この薄暗さは。 今まだ昼過ぎの3時だよな?」
そう、日当たりの良い廊下までもが薄暗くなっていた。
智幸「明らかにこの屋敷自体に異変が起こっているな……もう訳が分からないぞ。 こういう事も起こるのか水優?」
水優「いや、今日はいつもより変だね。 この屋敷で心霊現象が起こるのは日常茶飯事だけどこんなにあからさまなのは始めてだよ。 いつもは変な声がしたり物音がなる程度なんどけど」
それだけでも充分気味悪いと思うんだが……
葵「とりあえず立ち止まってても仕方ありませんしどうにかしませんとね……とりあえずブレーカー確認しに行ってみますか?」
水優「そうだね。 とりあえずブレーカー確認しに行こうか。 すぐそこを左に曲がった部屋にあるはずだから行ってみよう」
そう述べる水優の後ろに俺達は続き、ブレーカーのある部屋へとやってくる。
だが……
朧「ん〜……パッと見ブレーカーは正常ですね。 ちゃんとついてますしどこも落ちてないです」
智幸「今スマホで確認したが停電しているって訳でもなさそうだぞ」
葵「なのに電気はつかなくて昼なのに何故か暗い、と……」
うぅむ、謎は深まるばかりだ。
鍵は空いてるのに何故かあかない窓、昼なのに薄暗い廊下、そして何も異常がないのにつかない電気。
水優「ここまで大掛かりな心霊現象は私も初めてだよ。 まさかみんなが来たタイミングで起こってしまうとは……」
水優の焦り方を見るにどうやら結構想定外の出来事の様だ。
まぁ俺は何とかなると楽観的に考える主義なので別にそこまで焦っては無いのだが……
真冬「し…死ぬ……このまま一生閉じ込められて……死ぬのよ……!」
……真冬が大丈夫じゃなさそう。
朧「落ち着いて下さい真冬。 いつもの冷静さを取り戻してください!」
真冬「なな、何を言ってるのしーちゃん? 私はいつも通りよ? でももしもの事があったら大変だから私から離れないでね」
真冬は顔を真っ青にしながらそう言って朧にベッタリくっ付いている。
……確かに楽観的に考えてる場合じゃないかもしれないな。
優雅「なぁ水優、いつもはこういう事が起こったらどう対処してるんだ? さすがに毎度こういう事が起こるなら何か対処はしてるんだろう?」
水優はこういう心霊現象は日常茶飯事と言っていた。 つまり普段から何かしらの対処はしているはずだ。
そう思い俺が水優に問いかけるが、水優は少し言いずらそうな顔をしながら、
水優「いや……あるにはあるんだけどね、信じて貰えるかなって……」
智幸「信じて貰えるかな……? どういう事だ?」
会長が水優のセリフに疑問を感じ聞き返すと、
水優「えっと……実はこの屋敷には霊の主である女の子がいてね。 こういう心霊現象はよく私に構って欲しくてやっていつも私の前に現れるから『こういうイタズラはしちゃダメだよ?』って毎回注意してるんだ」
なんだそりゃ。
葵「えっと……つまりこの心霊現象はその霊の女の子が引き起こしてる……と?」
水優「そういうことになるね。 嘘じゃないんだ! からかってる訳でもない! 本当に霊の少女がいるんだよ! ただいつもはこういう心霊現象が起こったらすぐ出てくるんだが今は出てきてない。 普段からどこにいるのかは私も知らないんだよ」
水優の必死さを見るにどうやら嘘は言ってなさそうだ。
にしても変な水晶玉を売り払う変態男の次は幽霊になった女の子ときたか……一体どうなってんだこの世界は。
智幸「つまりその霊の女の子を見つけてやめるように注意すればこの心霊現象は収まるって事だよな?」
水優「そういう事になるね」
それを聞くと会長は立ち上がり、
智幸「よし、じゃあ俺は屋敷を歩き回ってその霊の女の子を探してみるよ。 他に手伝ってくれる人はいるか?」
葵「それなら私も手伝います。 ここでじっとしていても何も変わりませんし」
水優「勿論私も協力するよ。 元はと言えば説明しなかった私が悪いしね」
会長の呼び掛けに2人がそう意気込む。
優雅「なら俺も手伝います。 人は多い方がいいでしょうし」
会長「助かるよみんな。 真冬と朧はどうする?」
会長が座り込む真冬と朧に問いかけると、真冬は無言で首を横に振る。
朧「私は行ってもいいのですが……真冬が動けないようなのでここで待機してますね」
智幸「わかった。 それじゃあ二手に別れようか、その方が効率もいいだろうし」
水優「それなら私と優ちゃんは別々にした方がいいね。 そうすればいつでも優ちゃんを通して連絡を取り合えるしね」
葵「水優さんの連絡先を持ってるのはこの中だと優雅君だけですもんね。 それじゃあ私は優雅君と、会長は水優さんと共に霊の女の子を見つけに探索しましょう。 見つけても見つけられなくても1時間後にはここに集合しましょう」
葵先輩の指示に従い俺は葵先輩と、会長は水優と二手に分かれての探索が始まった。
優雅「まっっっっじでいねぇ……」
会長達と二手に分かれてから早30分。 俺達は1階と2階を歩き回り探していたのだがあれから1度も心霊現象に遭遇しない。
葵「手がかりもなしに探してる訳ですからね……でも流石に骨が折れますね……会長や水優さん達から連絡は?」
優雅「なんにも来てないですね。 どうします? 電話でもして向こうの状況聞いてみますか?」
そもそも本当にいるかも分からない幽霊を探すなんて無理な話だ。
葵「そうですね……1度連絡取ってみますか。 じゃあ優雅君お願いしま……」
『デンワ……?』
優雅・葵「「!?」」
俺がスマホを取り出し連絡しようとすると後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
後ろを振り返ってみるとそこには長い金髪を前へと垂らし顔が見えず、赤いワンピースを着た少女が……
葵「え、えぇっと……貴方がこの屋敷に住んでるって言う幽霊ですか?」
女の霊?『ユウ…レイ……? ワタシハ……』
葵「……? き、消えた……?」
女の霊はそこまで言うと姿を消す。
優雅「な、なんだったんだ? 何か言いかけたと思ったらどっか行ったぞあの……」
女の霊?『ココニイルヨォーッ!!!!!』
葵・優雅「「うわぁぁぁッッッ!!!!!」」
女の霊がどこかへ消えて油断していると、突如床の下から体を半分出した女の霊が大声を出しながら驚かせてきて、驚きのあまり俺と葵先輩は抱きつく。
葵「ゆゆゆゆ、優雅君! ここはやっぱり男の子なんだし優雅君が先導するべきだと思う! いや、別に怖くは無いけどね?」
優雅「何言ってるんですか葵先輩、現に驚いて抱きついてきてるじゃないですか!」
葵「それなら優雅君だって!」
女の霊『あはははは! 2人共面白い人だね。 ごめんなさい、ちょっと驚かせて遊びたかっただけなの』
葵・優雅「「……えっ」」
先程までカタコトで喋っていたとは思えないほどハキハキと女の霊は喋る。
すると女の霊は髪の毛をどかし、俺達の顔を見ながら、
女の霊?『こんにちは! 私はこの屋敷に住む地縛霊のユミだよ! 2人は?』
葵「あ…わ、私は沢村葵です」
優雅「俺は光月優雅だ。 こんにちはユミ」
ユミと名乗る地縛霊に俺達は自己紹介と挨拶をする。
葵「えぇっと……ユミさんは何でこんな人を驚かせるようなことを?」
地縛霊と会話をするとかいう意味不明なこの状況をまだ飲み込めていない葵先輩が戸惑いながらそう問いかける。
ユミ『私ずっとこの屋敷にいるから暇で暇で仕方がなかったんだ。 だから久しぶりにお客さんが来たからテンション上がっちゃって驚かして遊ぼうと思って』
優雅「そっか、地縛霊だもんな。 というか霊なのになんでこんなに鮮明に見れるんだ? 幽霊って目で見えないってイメージあるんだけど…」
自分の事を地縛霊と名乗ったユミに純粋な質問をすると、ユミは嬉しそうに笑いながら、
ユミ『そうそう、私って地縛霊だから普通は人には見えないんだ。さっき2人のお友達にも今のイタズラをしに行ったんだけどどっちも声は聞こえてても私の事見えてないみたいだからつまらなくってさぁ……でも優雅と葵は私の事見えてるってわかって嬉しくてね』
優雅「会長と水優の事か。 じゃあつまり普通はユミの姿は人には見られないってこと?」
ユミ『そうなの! 私が見える人なんて何年ぶりだろう……声は聞こえるって人は多いんだけどねぇ〜』
ユミはそういうと地面を通り抜けて空中をふわふわしながら俺たちの前へ着地する。
ユミ『どうやら2人は霊感が強いみたいだね。 久しぶりに人と話せて私は嬉しいよ!』
葵「霊…感……今までこんな体験したことないんで知らなかったですがそうなんでしょうか」
ユミ『だって私が見えてるんでしょ? それなら霊感あるんだよ!』
葵「確かにそう言われたらそうですね。 幽霊なんて信じてませんでしたが見ちゃったからには信じるしかありませんし」
葵先輩とユミがそんな話をしている中、俺は目的を思い出しハッとする
優雅「そうだった! なぁユミ。 この電気が消えて薄暗いのってお前の仕業なんだろ?」
ユミ『え? あ、そうだよ! この方が雰囲気出るでしょ?』
優雅「確かに雰囲気は出るんだが……怖がって怯えてるやつが1人いるもんでさ。 元に戻すことって可能か?」
ユミ『怯えてる……? あ、あの女の子の事かな? わかったよ』
ユミは右手をスっとあげると今まで消えていた電気もついて屋敷が灯りを取り戻す。
優雅「おぉ……幽霊ってのもなんでもありなんだな……ありがとうなユミ」
葵「ありがとうユミさん。 優雅君、とりあえず会長や水優さんに連絡を」
優雅「了解ッス」
葵先輩に言われて俺は水優に『解決したので集合場所で』とメールで伝える。
優雅「さて、目的も達成しましたし俺達も戻りましょう。 きっと真冬と朧が痺れを切らして待ってますよ」
葵「そうですね。 じゃあユミさん、私達はこれで……」
ユミ『あ、もう行っちゃうの?』
優雅「あぁ、俺らもやらなきゃいけないことがあってさ。 さっさと終わらせて帰りた……こほん、これからに備えて英気を養わなくちゃね」
俺がそう言うとユミは少し悲しい表情をして、
ユミ『わかった。 でも2人共また遊びに来てね! 私待ってるから!』
葵「分かりました。 またユミさんに会いに来ますから元気でいてくださいね!」
ユミ『うん! じゃあね葵! 優雅!』
優雅「おう! またな」
ユミと別れの挨拶をして俺と葵先輩は朧と真冬が居る集合場所へと駆け足で戻った。
その後、みんなに心霊現象を起こしていたのはこの屋敷の地縛霊であるユミという少女の仕業であることと、構って欲しかっただけで危害を加えるような人では無いことを説明した。
まぁみんな情報量多すぎて混乱して理解してたのかは分からないが……
そして水優が出展する研究品を俺が審査し、有用な研究品だけの出展を認めた。
そんなこんなやっていたら19時を過ぎていたので『明日から天翔学園祭本番なんだ! 各々英気を養うため今日はもう解散だ!』と会長が言い、今俺は帰宅中だ。
もう色々ありすぎて疲れが凄い。
未来を見る水晶玉に突如お泊まり会、それに目を疑う研究品に心霊現象ときた。
俺は夢でも見てるんだろうか?
優雅「はぁぁ……マジで疲れた……」
朧「何クソでかいため息なんてついてるんですか? 幸せが逃げますよ」
優雅「うぉっ! なんだ朧かよ、驚かすなよな。 お前帰ったんじゃなかったのか?」
トボトボと自宅への道を歩いていると水優の屋敷で別れたはずの朧に声をかけられた。
朧「私もこっちの道なので。 それにしても元気がなさそうですね」
優雅「ん? まぁな……そりゃこの2日間でこんだけ色々ありゃ疲れるわ」
朧「確かに私も流石に疲れました。 でも明日から天翔学園祭の準備期間が始まりますから弱音を吐いてはいられませんよ?」
優雅「分かってるよ……じゃあ俺もう家着くから。 じゃあな」
朧「えぇ。 明日から頑張りましょうね!」
俺はヒラヒラと手を振り、自宅へと帰った。
明日の予定→14話 天翔学園祭ジンクスとハートのカード




