天翔学園高校に革命を! 第10話: 我ら1年生ズ!
天翔学園高校に革命を!
第10話: 我ら1年生ズ!
真冬「……ねぇ、本当に私ついてくる必要あったの? しーちゃんと葵先輩だけで良くなかった?」
私は無理やり連れてこられたことに後悔しながらしーちゃんにそう問いかける。
朧「何を言ってるんですか、真冬と一緒にいた方が私は心強いんですよ? 頼れる友達と行動を共にしたいのは当たり前じゃないですか」
真冬「そ、そう……? 嬉しいこと言ってくれるわねしーちゃん……それならいいわよ!」
予想していた返事とは違ったけど、とっても嬉しい返事が聞けたので私は大満足だ。
朧「ふっ、チョロインめ……」
真冬「? 何か言ったしーちゃん?」
朧「いえ、なにも」
葵「朧さん? あんまり真冬さんをからかうんじゃありませんよ」
朧「いつもの事だから大丈夫ですよ」
真冬「?」
しーちゃんと葵先輩が何を話してるのかよくわかないまま歩いていると科学室へと辿り着く。
葵「ほら2人とも行きますよ。 失礼します。 生徒会の者なのですが少しお話を……」
葵先輩が扉をノックして扉を開けるとそこには、
水優「次はコレを試してみたくてね……何をへばっているんだい優ちゃん? まだまだ試作品はあるのだからね?」
優雅「も…う…マジ……で…勘弁して…くれ…」
液体の入ったビーカーを水優さんに押し付けられて顔を真っ青にし地面に倒れ込む優雅の姿があった。
朧「えっと、大丈夫……では無いですね。 優雅、生きてますか?」
優雅「う…あぁ……わぁ……」
真冬「なにちいかわみたいな奇声あげてるのよ。 それは可愛いキャラが言うから可愛いのであって、あんたが言ったらただ気持ち悪……」
ちいかわみたいな奇声をあげる優雅を叩き起こそうと私が近づくと、優雅はふらりとおぼつかない足取りで立ち上がり……
優雅「ま…ふゆ……」
葵・朧「「!?!?!?」」
真冬「ちょっ!?!?!?!?」
水優「おぉ……大胆だねぇ優ちゃん」
倒れ込むようにして突如優雅が私に抱きついてきた。
朧「ゆ、優雅!? どうしたのですか!?」
真冬「きゅ、急に何するのよあんた! ちょ、早く離れなさいよ!」
優雅「……て…」
真冬「な、何か言った?」
私が抱きついてきた優雅を引き剥がそうとすると、優雅が何やらボソボソと喋っていたのでよく聞いてみると……
優雅「まふ…ゆ……助け……て……」
真冬「ちょ、優雅!? 葵先輩! しーちゃん!大変! 優雅が私に助けを媚びながら気を失って!」
葵「気を失ったですって!? ちょっと優雅君大丈夫!?」
朧「ちょっと水優さん! 優雅に何やったんですか!?」
朧が慌てた様子で水優先輩にそう質問すると、水優先輩は頭をポリポリとかきながら、
水優「いやぁ……新しく作った『寝不足が解消される薬』と『筋肉痛が一瞬で治る薬』を飲ませてこれから『声をイケボにする薬』を飲ませようとしてた所だったのだが……」
葵「なんだかどれも良さそうな薬っぽいですけど……それを飲ませただけなのになんでこんなことに?」
朧「葵先輩、実は水優さんが作る薬にはある重大な欠点がありましてですね……ほら水優さん! 飲ませた薬のデメリットを教えてください!」
しーちゃんがそう言いながら詰め寄ると水優先輩は言いづらそうに、
水優「……『寝不足が解消される薬』のデメリットは寝不足が解消される代わりに飲んですぐに眠気に襲われる所かな。 そして『筋肉痛が一瞬で治る薬』はその名の通り筋肉痛を全て治す代わりに飲んでしばらくは筋力がいちじるしく低下して立つこともままならないって所かな」
真冬「……」
朧「こういう事です、葵先輩」
葵「まさにその症状じゃないですか! なんでデメリット分かってて優雅君に飲ませるんですか!?」
水優「だってそういう約束なもので……まぁとりあえず私が保健室へ連れていくよ」
真冬「いえ、大丈夫ですよ。 私としーちゃんで優雅は保健室に連れてくので葵先輩は用件を済ませてください」
朧「そうですね。 ここは私達に任せて下さい」
水優先輩が優雅を保健室へ連れていこうとしたが、効率を考え私はしーちゃんと共に優雅を保健室へと運ぶ。
水優「すまないね2人共……あ、そうだった。 2人共、これを持ってってくれ」
朧「? なんですかコレ? 鍵とジュース?」
優雅を連れ科学室から出ようとした時に水優先輩がしーちゃんへ鍵とジュースらしき物を手渡す。
水優「優ちゃんが目を覚ましたらそれを渡してあげてくれ。 大事な物だから大切に頼むよ」
葵「優雅君の事任せましたよ2人共!」
そんな2人の声を聞きながら私達は優雅を保健室へと連れていった。
朧「失礼しま〜す」
真冬「失礼します。 ……誰もいないわね」
保健室へとやってきたがタイミングが悪かったのか保健室の先生は見当たらない。
真冬「まぁいいわ。 とりあえず布団で寝かせるわよ。 布団を準備するからしーちゃんしばらく優雅を持っててちょうだい。 ……はぁ、全く何でこいつの為にここまでしてやらなきゃいけないのよ」
朧「まぁ仕方ないじゃないですか。 水優さんの作る薬のヤバさは話したでしょう? その薬を2つも飲んだんですから仕方がないですって」
愚痴をこぼしていると重たそうに優雅を担ぐしーちゃんからそう指摘される。
真冬「それもそうね。 よし、しーちゃん、ここに優雅を寝かせてちょうだい」
朧「分かりました……すみません真冬、ちょっと手伝ってくれませんか? 思ってたより優雅が重くて……」
真冬「分かったわ。 全く、小柄な癖に何でこんなに重いのよこいつは」
朧「優雅は意外と筋肉質ですからね。 身長は私達と大差ないんですがね」
真冬「確かに優雅ってチビよね。 男なら最低でも165〜175位は欲しい所なのにコイツは160前後しかなさそうよね」
そんな話をしながら何とか優雅をベッドに寝かせつける。
真冬「とりあえず私は先生を呼んでくるわ。 しーちゃんはここで優雅を見張っててくれる?」
朧「分かりまし……」
優雅「やめ…ろ……」
真冬・朧「「!?」」
しーちゃんが喋っていた所、急に優雅が喋り出す。
朧「ゆ、優雅? 何がやめろなんですか?」
優雅「……」
しーちゃんが質問したのに何故か優雅は黙り込む。
真冬「ちょっと優雅、起きたならさっさと返事を……え?」
朧「どうしたのですか真冬?」
真冬「まだこいつ寝てるんだけど……」
朧「……え?」
優雅「殺さ…ないで……」
……どうやら優雅は寝言を呟いているようだ。
いや、だとしても寝言がやめろとか殺さないでって一体どんな夢を見てるんだとツッコミたくなる。
朧「殺さないでとか物騒ですね……一体なんの夢を見てるんでしょうか?」
そう言って優雅にしーちゃんが近づくとまた優雅が口を開き、
優雅「ま…ふゆ……落ち着……け……殺さない……で……」
真冬「何で私に殺される夢見てんのよ!」
朧「ふっ、普段の行いですよ。 いつもゴミみたいに優雅のことを扱うから恐怖心を抱いているんでしょうね」
ゴミみたいに扱ってるというのは否定しないけど私を人殺しみたいに見るのはやめて欲しい。
優雅「朧…無理……するな……」
朧「!? 私の夢を見てるんでしょうか……」
突然優雅に名前を呼ばれ、しーちゃんが驚く。
朧「無理するな……? 一体なんの夢を見てるんでしょうか?」
真冬「どうせくだらないと思うけどね……」
しーちゃんがソワソワしていると、再び優雅が口を開きこう……
優雅「やめ…とけ朧……タピオカチャレンジは…お前みたいな……まな板じゃ絶対に無理だゴフォェッッッッ!!!!!!」
真冬「ちょ、しーちゃん!? それは流石にやり過ぎだと思うのだけど!」
しーちゃんはまな板と言うワードが癪に障った様子で、寝てる優雅のお腹めがけストレートパンチをくり出す。
優雅「ゴホッゴホッッッ! し、死ぬかと思った……さ、三途の川が一瞬見えた気がするぜ……」
朧「はっ、す、すみません優雅! ついイラッとしたので天誅を……」
優雅「何にイラッとしたって言うんだよ……いたた……てか、ここどこだ?」
目を覚ました優雅はしーちゃんに殴られた腹部を抑えながら周りを見渡す。
真冬「ここは保健室よ。 私達が科学室に行ったらあんたが私に抱きついて助けを求めながら意識を失ったからここまで連れてきてやったの。 感謝の1つくらい言ったらどうなの?」
優雅「そうだったのか…ありがとな真冬、わざわざ俺の為に。 何かお礼するよ」
そうあっさりと私に感謝の言葉を言った優雅に私は少し驚く。
真冬「ず、随分と素直なのね……てっきり『はいはいどーもどーも』とか舐め腐った態度でもとるのかと思ってたわ」
優雅「お前は俺をなんだ思ってるんだよ。 助けて貰ったらお礼くらい言うわ……な、なんだよその手は?」
私は喋っていた優雅に対し手の平を表にし突きつけて、
真冬「ここまでやってあげたんだからほら、お金払って」
優雅「金取るってか!?」
真冬「私に抱きつきまでしておいてタダでいられると思ってるの? 福沢諭吉3人位は払ってもらわないと」
優雅「高すぎんだろうが! せめて飲み物とか食い物とかで勘弁してくれ…ってイタタ……まだ身体に力が入らないや……」
私が弱った優雅にお金を払わせようと攻めよっていると、ずっと黙っていたしーちゃんが思い出したように手を叩き、
朧「忘れてました! 優雅、これ!」
優雅「ん? これは……」
優雅はしーちゃんから受け取った鍵とジュースの様な物をまじまじと見つめる。
朧「優雅を保健室に連れてくる時に水優さんから渡されたんですよ。 なんなんですかそれ?」
しーちゃんが質問する中、優雅は渡された蓋のしまったジュースのようなものを一気飲みする。
優雅「……おぉ本当に戻った……なんでこんなの作れるのにメインの薬はダメダメなんだ……」
ジュースを飲み終えるとそう呟きながら優雅が布団から出て立ち上がる。
朧「もう動いて大丈夫なんですか? それに今飲んだのってもしかして……」
優雅「あぁ、さっき飲んだ薬の体調不良を治す言わば解毒剤みたいなもんだ」
真冬「なんで水優先輩はデメリットを打ち消せる解毒剤を作れるのに大本命の薬にそれを混ぜないのかしら……」
朧「優雅優雅、もうひとつ聞きたいんですがその鍵はなんなんですか? 科学室の鍵とかならそろそろ返してきた方がいいかと」
私が至極当然の事を呟いているとしーちゃんが優雅にそんな事を……
優雅「あ、この鍵か? これは水優ん家の鍵だから大丈夫だぞ」
朧「あぁ水優さんの家の鍵でしたか。 それなら問題は……ん?」
真冬「さ、体調が良くなったならさっさと戻るわよ。 水優先輩と葵先輩が待って……ん?」
真冬・朧「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」
優雅「な、なんだよ急に大声だして! ビックリさせんなよ!」
優雅が何か言ってるがそれ所ではない。
い、一体どう言う事……? 水優先輩の家の鍵を貰うって……つ、つまりそういう仲って事なの…!?
い、いやいや……優雅に限ってそんなことは……
朧「ゆ、優雅? 水優さんの家の鍵なんて貰って何に使うんですか? なにかの実験か何かしに行ったりしたりとか……」
優雅「え? あぁいや、前水優に家に来て欲しいって言われてさ。 明明後日の日曜日に行く予定だから鍵を貰ったんだよ」
真冬「…………」
朧「…………」
そんな優雅の話を聞いた私としーちゃんは無言でアイコンタクトをとる。
真冬「と、とりあえず体調良くなったのなら生徒会室に戻るわよ。 みんな会議する為にあんたを待ってるんだから」
優雅「あ、そうだったのか! すまんすまん、すぐに戻ろう」
私がそう促すと優雅は焦った様子で保健室から出て生徒会室へ戻っていく。
朧「……真冬、コレは……」
真冬「えぇ、分かってるわ」
先程のアイコンタクトで私の言いたいことはしーちゃんに全て伝わっていたようだ。
朧「実は私も気になってたのですよ。 なんで急に水優さんと優雅があんなに仲良くなったのか……その秘訣を……!」
真冬「いや、それはどうでもいいけど……私が気になるのは日曜日の件よ」
そう、私が気になるのは水優先輩宅の鍵を優雅が持っているということだ。
自分で言うのもなんだけど水優先輩と知り合ってからは結構仲良くさせて貰っている。
それなのにあの優雅が私を差し置いて日曜日に水優先輩の家に行くなんて……
真冬「これは許せないわ……私を差し置いて水優先輩とお家デートだなんて……」
朧「あ、そ、そこですか……? 私はてっきり優雅と水優さんの仲が気になるのかと……」
真冬「そんなのどうだっていいわよ。 私は優雅なんかに大事な水優先輩が取られた感じがして嫌なだけよ」
どうやらさっきのアイコンタクトで何も伝わっていなかったしーちゃんに改めてそう説明する。
と、しーちゃんは少し苦い顔をして、
朧「真冬……いい加減優雅と仲良くしたらどうですか? 私達一応同級生なんですから仲良くした方が絶対いいと思うんですが……」
真冬「はぁ……そんな事言ったって先に突っぱねて来たのは優雅よ。 だから私から仲良くしようだなんて微塵も思わないし関わりたくもないわ」
朧「そう…ですか……」
私が説明するとしーちゃんは少し肩を落としながらそう言う。
真冬「ほら、行くわよ。 優雅も先行ったし私達も行かないと、みんな待ってるわよ」
朧「そうです! いい事を思いつきました!」
真冬「!? ど、どうしたのしーちゃん?」
急に大声を上げたしーちゃんに私がびっくりしていると、
朧「真冬、今日この後って暇ですか?」
真冬「え? ま、まぁ暇だけど……どうかしたの?」
私の返事を聞くとしーちゃんはニヤリと笑いながら私の手を引き、
朧「じゃあとりあえず生徒会室に戻りましょう」
真冬「え? わ、分かったわ」
不敵な笑みを浮かべるしーちゃんを疑問に思いながらも私はしーちゃんと共に生徒会室へ戻った。
智幸「じゃあ今日はこれにて終了とする。 明日は物品の最終確認と各部門の確認を行う。 では解散!」
千夏「はーい! じゃあお疲れ様で〜す!」
葵「お疲れ様です藤井さん。 じゃあ私もこれで……お疲れ様です」
優雅「お疲れ様です」
会長の話が終わり各々が帰路へと着く中、私はしーちゃんに『帰らないで少し残っててください!』と言われたので帰り支度だけして待機中だ。
優雅「さて、帰るとするかな」
智幸「よし、じゃあ俺も帰るとするかな……お前らは帰らないのか?」
会長は帰ろうとしない私としーちゃんに向けてそう質問してくる。
いや、私は帰りたいんだけど……
朧「もうちょいしたら帰りますよ。 先に帰っててください。 戸締りはしておくので」
智幸「そうか。 じゃあ俺は先に失礼する」
優雅「じゃあ俺も。 お疲れ様……」
朧「優雅はちょっと待って下さい!」
優雅「え? なんだよ? 俺も帰りたいんだが……」
会長と共に帰ろうとしていた優雅をしーちゃんが引き止めると、
朧「優雅、この後って空いてますか?」
優雅「この後……? まぁすぐ帰ってもゲームするだけだし暇っちゃ暇だけど……」
それを聞いたしーちゃんはパァと目を輝かせ、
朧「じゃあこの後ファミレスにでも行きませんか? 真冬も交えて」
優雅・真冬「「…………え?」」
朧「じゃあ私飲み物取ってきますね」
優雅「お、おう……!」
朧に言われるがままファミレスに来たのはいいが……
真冬「……」
優雅「……」
き…気まずい! 真冬と二人きりってここまで気まずいとは思わなかった。
いつも喧嘩してるから気にならなかったがコイツってこんなに話しかけづらかったのか……
優雅「な、なぁまふ……」
真冬「何?」
優雅「あ……いや、なんでもない……」
さっきからこんな感じで話しかけるなオーラ全開だし……下手に話しかけたら殺されそうだから話しかける事も出来ない。
真冬「はぁ……全くしーちゃんたら……」
優雅「な、何か言った?」
真冬「あんたには話しかけてない」
マジで居心地悪すぎて帰りたいんだが……朧はまだ戻ってこないのか!!!
朧「お待たせしました。 優雅、隣座ってもいいですか?」
真冬「え?」
優雅「んぇ? ま、まぁ良いけど……真冬の隣も空いてるぞ?」
朧「まぁいいじゃないですか。 失礼しますよ」
そういうと朧は何故かいつもの真冬の隣ではなく俺の隣に腰掛けてくる。
真冬「………………」
……真冬の視線が痛いから朧はいつも通り真冬の隣に座って欲しいんだが、
優雅「で、なんなんだ急にこのメンバーでファミレスって。 なんか話でもあるのか?」
真冬「そうよしーちゃん。 私なんも聞いてないんだけど」
真冬も急に連れてこられてたのかよ。
朧「実は優雅に水優さんの様子を伺いたくてですね……日曜日水優さんの家に行くと聞いたので何か変なことされてないか聞きたかったのですよ。 元はと言えば巻き込んでしまったのは私のせいですし……」
優雅「なんだそんなことか。 まぁ問題ないと言えば嘘になるが……」
目先の利益を優先した報いだとは思うが……正直ここまで水優の作る研究品がゴミだとは思わなかった。
お金や権力を得れるのならいい取引だと思ったのだが、前は『身長を伸ばす薬』と言ってきたのでウキウキしながら飲んだら本当に10cm程伸びたが1時間程度で切れ、副作用で丸一日身長が元の身長から10cm縮むとかいうもはやデメリットがメインのクソみたいな薬を飲まされた。
正直このままいくと命がいくらあっても足りない。
朧「今日の実験薬を見てると正直心配なんですが……私も昔水優さんに『邪眼を得る薬』というのを貰ったので飲んだら丸一日右目がうずいて痛すぎて目が見えないというのを喰らいましたから」
それに関してはどう考えても怪しいだろ。
真冬「なんであんたらは学習しないのよ……水優先輩の薬は飲むべきじゃないっていい加減理解しなさいよ」
優雅「そうは言ってもだな……」
そもそも俺が実験に協力する代わりに代価としてその実験道具の貸出や報酬として多少のお金を貰ったり権力を使わせてもらえるという取引だ。
だがもう正直お金も権力もいらないから取引を破棄して逃げ出したい。
なんだったら明明後日の日曜日に私の家に来いだなんて嫌な予感しかしないので正直行きたくは無い。
水優自体は悪い人では無いのだが、いかんせん研究品の被験者としての意見を言わせてもらうともはや殺人鬼にすら見える。
日曜日嫌だなぁ……絶対に今日以上の薬や実験道具を試され……
朧「なんだったら私も日曜日付き添いましょうか? 1人よりは2人の方が被害は抑えられるかと……」
優雅「マジ!? ガチでありがとう朧! 神! 最高! 大好き!」
俺の悩みを解決してくれた救世主朧に俺は最大の敬意を払う。
朧「だ、大!? べ、別にそこまでの事じゃ…」
優雅「いいやそんなことはない! 1人だったら間違いなく今日みたいに複数飲まされてぶっ倒れる事になるからな!」
というか水優と仲のいい朧が来てくれるってだけでも心強い。
朧と水優は昔からの知り合いのようだし何かあった時に対応してくれること間違いない。
真冬「そ、それなら……私も同行するわ」
優雅「……え?」
先程まで俯いていた真冬が急にそんな事を……
真冬「私も水優さんとは仲良くさせてもらってるしなんと言ってもしーちゃんが心配だから私も同行するわ。 そうすればあんた的にも楽になるんだし別にいいでしょ?」
優雅「お、おぉ……いや、協力してくれる事自体は嬉しいんだが……真冬が協力的なんて珍しいなと」
俺が戸惑いながらそういうと真冬はふんっと鼻で笑いながら、
真冬「勘違いしないでよね。 私はあくまでしーちゃんが心配だからついて行くのであってあんたを助けようとしてる訳ではないんだからね……って何ニヤニヤしてるのよしーちゃん!」
真冬が色々と言ってる最中、隣でクスクスと笑っていた朧が口を開き、
朧「別に? もっと素直になればいいのになって思っただけですよ」
真冬「素直? 何に素直になるのよ」
朧「別になんでもないですよ。 ほら、せっかく来たんですし何か頼んで食べましょうよ。 優雅、メニュー表取ってください」
優雅「あ、おう。 ほらよ」
何を言ってるのかよく分からなかったが、朧はメニュー表を受け取るとご機嫌な様子でパラパラとページをめくる。
真冬「はぁ……私はサラダをお願い。 というか優雅、あんたにずっと聞きたかったんだけどなんで水優先輩に協力なんてしてるの? あんな薬飲まされてまでしても協力してるあんたの気が知れないんだけど」
優雅「ん? それはまぁ……前も言ったが水優と取引をしてだな。 その関係上協力は惜しまないと言っちゃったもんでな……あ、俺は照り焼きを頼む」
朧「なんでさっきから私に注文を押し付けるんですか……まぁいいですけど。 私はステーキにカルボナーラにあとは……」
朧に注文を任せながら真冬に聞かれた質問に答えた俺だったが、真冬は顔をしかめながら、
真冬「取引取引って……一体どういう取引をしたのよあんた。 それに知り合って1週間程度しかたってないのにあまりにも仲が良すぎるというか……一体どういう関係なの?」
真冬はそう食い気味に俺に質問してくる。
優雅「めっちゃ色々問い詰めてくるなお前……そんなに俺の事が気になるなんて実はお前もしかしてなんやかんや言って俺の事す……」
真冬「な訳ないでしょぶっ殺すわよ」
優雅「ご、ごめんて……そんなにキレなくても……」
ちょっとからかったつもりだったのだが……即答で軽蔑されると分かっていても結構傷つく。
朧「そういえば知ってますか優雅。 真冬には好きな人がいるんですがその人がめっちゃカッコイイんですよ?」
真冬「ちょ、しーちゃん! 余計な事言わないでよ!」
優雅「ほう、それは気になるな。 というか真冬にも好きな人いたのか。 なんか意外だな」
真冬「な、何よ。 悪い?」
俺の言葉に真冬は動揺しながらも俺を睨めつけてくる。
優雅「いちいち睨みつけてくるなって。 別に悪いなんて言ってないだろ? どんな人なのか俺には分からんが応援してるよ。 お前なんやかんや言って良い奴だしな」
真冬「へ、へぇ……アンタもたまにはいい事言うのね。 顔と性格と態度さえ良ければ仲良く出来たかもしれないのに」
優雅「おい待て、それは悪口だろうが真冬テメェ。 人がいい感じのこと言ってんだからそういう余計な1文付け加えんなよな」
真冬「はん。 私はあくまで事実を言ったまでよ。 悔しかったらせいぜい努力する事ね」
優雅「なんで上から目線なんだよお前は。 お前だって胸張って誇れる程立派な人間じゃない癖に……」
真冬「普段から決まりを守れないあんたに言われたくないわよ。 はぁ…ホントあんたって私の好きな人と正反対で見ててイライラするのよね。 気遣いも出来なければ人の事を思いやる気持ちもないし……」
優雅「上等だてめぇこの野郎! それは俺に対する宣戦布告と受け取ろう!」
真冬「何よ殺る気? いいわ……決着をつけようじゃない!」
朧「ちょっと2人とも静かにしてください! お店の中でまで喧嘩しないでくださいよ!」
今に取っ組み合いの喧嘩を初めてやろうと思った所、朧の言葉にハッとして我に返る。
優雅「わ、悪い……」
真冬「わ、私は別に悪くないはずよ……!」
朧「はぁ、全く……せっかく私達同級生なんですから仲良くしましょうよ。 何で2人はいっつも喧嘩ばっかりするんですか?」
優雅「それは……」
朧の質問に俺は言葉が詰まる。
真冬「元はと言えば優雅のせいよ。 あんたが規則破ったり面倒事増やしたりしなければ私だってもっと気楽に生活出来てたのに」
俺はそれを聞いて昔の出来事が脳内でフラッシュバックする。
『なんだお前。 部外者が口出ししてくんじゃねぇよ』
『お前のやった事は本人には知られない! こんなの根本的な解決にはならねぇんだよ! 全部余計なお世話なんだよ』
優雅「ッッッ!!! そ、そう……だな。 その通りだ」
朧「優雅……?」
昔からそうだ。
余計なお世話だと分かっていながら意味もない正義感振りかざして……
俺が……余計なことして無ければ……
真冬「そもそもあんた規則破ったり面倒事に首を突っ込むような性格じゃないでしょ? なのに入学してから1ヶ月後位から急に面倒事増やして……もしかして何かあったりしたの?」
優雅「……いや、なんもねぇよ。 自分の勝手な都合でやっただけだ。 すまなかったな真冬」
真冬「な、何よ……急にそんな真面目に謝られても反応に困るんですけど……悪いと思ってるなら普段の校則違反を無くしなさいよね」
優雅「おう……」
真冬「……」
優雅「……」
再び気まずい沈黙の時間が流れる。
でもこの空気で俺が喋んのもなんか違うし……
朧「……あの優雅、明後日の土曜日って暇ですか?」
気を使ってくれたのか朧が口を開き話しかけてくる。
優雅「水優との約束は日曜日だし土曜日は暇だぞ。 何かあったか?」
朧「それでしたら土曜日に前約束しましたしゲームでもして遊びませんか? 私か優雅の家で」
真冬「えっ」
あーそういえば前約束したっけか。
優雅「まぁ約束したしいいぜ」
真冬「えっ」
朧「じゃあ集合時間や場所については追って連絡しますね」
優雅「おう。 わかった…ぜ……!?」
真冬「……」
殺気を感じると思っていたら真冬が殺意だだ漏れにしながら俺を睨め付けてきていた。
あ、あれ? 俺今何かあいつがキレるようなこと言ったか……?
真冬「ちょっとしーちゃん、こっち来て」
朧「ん? どうかしましたか真冬?」
優雅「?」
真冬「どうしかしましたか?じゃないわよ。 学校でアイツと関わるのは同じクラスだし生徒会もあるから仕方がないとして何でオフでまでアイツと絡む必要があるのよ。 しかも二人きりだなんて私許さないわよ」
朧「全く真冬は私が優雅と絡むと心配性になるんですから……別に大丈夫ですよ。 あの人は良い人でなければ悪い人でもないので」
真冬「だって優雅が絡むとろくな事が起きないでしょ? 私はしーちゃんが心配で……」
朧「心配し過ぎですって。 そんなに心配なら真冬も土曜日来ますか?」
真冬「い、いやそれはちょっと……」
朧と真冬は俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で会話している。
よく聞こえないし俺も盗み聞きしようとは思わないが多分俺の悪口を言われてるのは間違いない。
「お待たせしました。 こちら先にサラダと鳥の照り焼きになります」
優雅「あ、どうもありがとうございます。 ほらよ真冬」
真冬「……私ももうちょっとなんか頼めばよかったわね……」
逆になんでコイツはサラダだけ頼んだんだ…?
優雅「まぁいいや。 さっさと食って帰ろうぜ」
真冬「そうね」
そうして頼んだ料理を食べて俺達は早々に解散する事に……
朧「あの……私のが届いてないんですが」
優雅「この後すぐ来るんじゃね? てか何頼んだんだよ」
朧「え、えと……ステーキとカルボナーラとピザに手羽先とか……」
優雅「お前どんだけ食うつもりなんんだよ! てか頼みすぎだ! そりゃ来んの遅くなるわ!」
今日の活動記録 担当:書記 藤井 千夏
出席者 智幸、葵、優雅、千夏、真冬、朧
・天翔学園祭実行委員の手伝い
・学祭準備
・科学部へ出し物の調査
天翔学園祭まであと7日!
朧「うぷ……は、吐きそう……」
優雅「だから頼み過ぎなんだよお前。 真冬いなかったら俺が食う羽目になってたんだからな?」
後先考えないコイツは結局頼んだもの全部食えず、真冬と分けて何とか食い終えたのだが……
朧「あ……出る、出ます。 喉元まで胃液が…」
優雅「ちょ、お前まじ汚いからやめろ! 吐くなよ? は、吐くなよ!?」
朧「それはフリ……」
優雅「フリじゃないからな! マジでやめろよお前!」
こんな調子でさっきからずっとフラフラしながら吐きそうになってる朧を看病しながら家まで送っている。
こういう時に保護者(真冬)がいてくれれば良いのだが……家の方向が違ったので真冬に『しーちゃんを家まで送り届けてあげなさい。 ここに書かれてる所まででいいから。 これは命令よ』と言われこいつを任された。
朧「自分の獲物を他人に譲り渡す真似は我の中ではタブーなので全て我が糧にしたかったのですが……あれ以上は我のキャパを超えていたので眷属に食べてもらわなければキツかったのでまぁ仕方がないですね」
優雅「何言ってんだお前」
最近普通だったので忘れていたがそういやコイツ頭おかしいんだったな。
てゆうか真冬も裏の顔は変態だったな。 最近なんともなくてめっちゃ忘れてたわ。
優雅「お前そういう事言ってるから人よってこないんだぞ。 友達欲しいならそろそろやめろよな」
朧「友達はまぁ……欲しいですが辞めるつもりはありません。 これが私なので」
コイツ開き直りやがったぞ。
優雅「別にお前の自由だから強制はしないけどさ。 程々にしないとクラスの中でのお前のあだ名が『中二病コスプレ変質者』になるぞ」
朧「ちょっと待って下さい。 私そんな変な呼び方されてるんですか? ちょっと優雅! 答えて下さい!」
ピーピー騒ぐ変質者を適当にあしらいながら俺は真冬に言われた場所へとたどり着く。
優雅「とりあえず真冬に言われた場所までは来たけど……ここまででいいのか?」
朧「あ、大丈夫ですよ。 もうすぐそこが家なので」
優雅「そうか。 じゃあまたな」
朧「あの、優雅!」
別れを告げ帰ろうと思ったところ朧に引き止められる。
朧「今日話聞いてて思いましたが……詳しくは分かりませんがきっと優雅と真冬の間に何かあったんですよね?」
優雅「……大したことじゃねぇよ」
朧「絶対嘘です! 優雅はきっと1人で何かを抱え込んでます!」
……隠してるつもりだったが今日はちょっと表情に出しすぎちまったかな。
優雅「……俺は…………」
朧「……別に喋りずらいことでしたら無理に言う必要は無いですよ。 ただ……困った時はいつでも相談して下さいね?」
優雅「……あぁ、その時は頼むよ」
気遣ってくれた朧に礼を言い、俺は帰ることにした。
明日の予定→第11話 未来を見通す悪魔からの贈り物




