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時計の針のその先で  作者: 原案・著:露 脚本:岩永明
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第8話

『僕は何度でも繰り返す。ヤヨイを死なせない為に』


 あの日、西部司令部をレジスタンスに占拠され挟み撃ちにあった白駒隊は心と雪を残して全滅した。

 瓦礫の山の上で放心する心に雪が話しかけてきた。

「貴方、みんなを救いたい?いえ、『ヤヨイちゃん』を、かしら?」

 そう言われた心はノロノロと雪の方を見た。

「どういう事ですか……?死んだ人は生き返りませんよ……」

「いえ、生き返るわ。この装置を使えば」

 そう言うと雪は球体の機械を出した。

「神林研究長の最高傑作、『時間を巻き戻す』装置よ」

「時間を……そんな事が……」

「本当に出来るのか、って顔ね。まあ、起動した事が無いからわからないけど、神林研究長が作った物ですもの、きっと、大丈夫。原理としては人の強い思念に反応して……」

「いえ、わかりました」

 説明が長くなりそうだと心は雪の言葉を遮った。

「そう……」

 雪はいささか不満そうだ。

「ただ、使用回数には限りがあるわ。時間を巻き戻すなんて大それた事にこの機械が耐えられないから」

「そうなんですね……。でも時間を巻き戻したら僕達の記憶はどうなるんですか?記憶まで巻き戻るなんて事……」

「良い所に気が付いたわね。この装置は二人以上が触れていないと作動出来ない。そして装置に触れていた人物の記憶は巻き戻らない。つまり私達の記憶だけそのままあるのよ。他の人達は憶えていない」

「そうなんですか……」

「そのハンデを背負ってどこまでやれるかしら」

「……何で僕にそんな事申し出たんですか?」

「……私にも、救いたい人がいるから」

「それって神林……」

「……さあ貴方はこの手を取るかしら?」

 雪は心の言葉を遮った。

「……もちろんです」

 心はそれに応えた。


 二度目のループ、心は陸人に軍の本部へ行く事を進言した。だがそれが仇となった。味方であるはずの軍の普通科連隊が白駒隊に攻撃してきたのだ。

 銃弾の嵐の中、心は死ぬはずだった。だがそれを助けた者がいた。

「兄……さん……」

「ここ……ろ……逃げ……ろ……」

 そう言って進は倒れた。

「兄さん!兄さん!」

 心が何度揺さぶっても進は動かない。

 兄の死を無駄にしたくない。そう思い心は銃弾の嵐の中を駆け抜けた。途中でヤヨイと陸人の死体も見つけた。

「(僕は……また助けられなかった……)」

 後悔の中、心は軍の建物の中へと入った。

 残された自分に出来る事、それは何故軍が西部司令部奪還を強要したのかを知る事だ。そして何故味方であるはずの普通科連隊が白駒隊を攻撃してきたのか……。

 心はこの作戦を命令してきた中佐の部屋へと侵入した。中にはちょうど中佐がいた。

 中佐はノックもせずに入ってきた心にこう言った。

「何だね君は」

 心は腰の拳銃を抜くと中佐に突きつけた。

「なっ何をするっ」

「何故白駒隊に西部司令部奪還を強要したのですか。そしてこの惨事は何ですか。何故味方であるはずの軍が白駒隊を攻撃するんですか」

「……」

 中佐は押し黙る。

「言え。言わないと撃つ。本気だ」

「白駒隊は……囮だったんだ……」

「は?」

「軍が反政府軍の総本部を討つ為に本隊を引き付けておく必要があった……。だがお前らは向かわなかった……。作戦に気付かれたと、報復を恐れて葬ろうと……」

「お前らは!人の命を何だと!」

 心は拳銃を握る手に力を込めた。

「これが戦争だろう?お前達だって今まで散々敵の命を奪ってきただろうが!」

「っ……!くそっ!くそっ!くそぉ……!」

 心は、引き金を引いた。

 パァン……!

 乾いた銃声が鳴り響き、中佐の頭に風穴が空いた。中佐はそのまま床に倒れた。

「中佐っ!今の音は……?」

 部下が銃声に気付き部屋に入って来た。そうして床に倒れた中佐と拳銃を構えた心に気付く。

「中佐!?お前何を!」

 部下は心を捕まえようとする。

「ちっ……!」

 心は窓から外へと逃げた。

「(ここが二階で助かった……)」

「追われている様ね」

「雪さん……」

 窓の下には装置を持った雪がいた。

「今回も駄目だったみたいだし、戻りましょうか」

「……」

 雪のあまりにもな言い方に心は心をざわつかせるが、今はそれしか選択肢が無い。心は装置に手を伸ばした。


 三度目のループ、心は手薄になっているレジスタンスの総本部を叩く事を陸人に進言した。総本部を崩せばこの戦いも終わるだろう。それに、手薄になっているなら危険も幾分か少ないはずだ。

 だが、甘かった。陸人とヤヨイは敵の銃弾に倒れた。

「(また……駄目だった……)」

 心は、戦おうとすればヤヨイが必ず死ぬ事に気が付いた。

「(なら今度は……)」


 四度目のループ、心は戦わずに逃げる事を陸人に進言した。陸人もそれを承知した。

「(これなら……)」

 その作戦は順調に進んでいた。ヤヨイが死ぬ事は無かった。だがレジスタンスと軍、双方から逃げ続ける生活に白駒隊は憔悴していた。このままではいつかヤヨイも死んでしまうのではないか……。不安は尽きない。

 そして……

「ねえ!心君!私はいったい誰!?」

 ヤヨイが、以前の記憶を取り戻し始めていた。このまま放っておけばヤヨイが壊れてしまいそうな気がした。だから、危険を承知で軍に戻った。白駒隊のみんなが、ヤヨイがやって来たのは計算外だった。

 軍のデータベースには、『反政府軍の一員。名:不明。反政府軍の仲間からは「イマリちゃん」と呼ばれていた模様。一切口を割らない為実験台に移行する』『検体番号841の洗脳薬実験は失敗。以前の記憶は無く、人格も変わる』それだけしか書かれていなかった。


「白駒隊のみんなは……?」

 建物から出てきた心はそこに立っていた雪に聞いた。

「死んだわ。『ヤヨイちゃん』も含めてね」

 心は手を握り締めた。あれだけの情報の為に皆を殺してしまったのか……。

「『この装置』も使えるのは後一回よ」

「もう、後が無いって事だね……」

「お互い、心残りの無い様に」

 心は装置に手を伸ばした。と、その時、ふとある考えが頭をよぎった。

 世界はその時計を進める為に必ず『ヤヨイ』の死を要求してくる。なら『ヤヨイ』を殺して『イマリ』に戻せば……?

 これは賭けだ。イマリに戻したからといって死ななくなるかと言われればそれはわからない。それに、例え偽物の人格だとしても自分の愛したヤヨイは死ぬ……。

「戻らないの?」

「いえ、戻ります」

 例え、例えそうだとしても心はヤヨイに、イマリに生きて欲しかった。

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