親に処罰
バチっ!
「――!」
バチっ!!
「――ッ!!」
バチっ!!!
「――ッ!!!」
暴れるサラを制止したマーガレットさんは、サラの悲鳴を聞くだけでもこっちが痛そうなほど激しくお尻を叩く。
しかし、サラは、叩かれて涙を流すことはあっても、泣いて許しを請うことはなかった。
俺を殺しかけたというのに、頑固で自分は何も悪くないと信じている。
それを見て、マーガレットさんは余計に激怒して、その分強く叩いてくる。
バチぃ――っ!!!!
「――――ッ!!!」
まるで俺自身の尻が叩かれるかのように、マーガレットさんが娘に怒り狂っているのが実感できる。
一方、マーガレットさんの悲鳴を聞きつて駆けつけてきたアリシア母さんは、状況を理解し即座に治癒の魔法をかけたのだ。
そう、魔法。
アリシア母さんの手から、金色の光が流れ出し、その光に触れると、体の痛みは治まっていく。
効果を確認するため、自分のステイタスをチェックした。
【ステイタス】
名前:リュウマ・ヘヴェンズゲート
種族:竜の実・ヒューマン
性別:男
年齢:0歳
HP:5/6
MP:4/4(5x10^9)
筋力1 体力2 技量1 速さ1 魔力1(5x10^6) 魔質10^E
おぉ~
さすがファンタジー異世界。完全復活まであと1HPだ。
感心したのは置いといて、生まれて初めてアリシア母さんが明らかに不機嫌そうな顔をしたのを見た。いつもの笑顔から一転、深い顰め面を浮かべている。
俺をベビーベッドに戻した後、アリシア母さんは珍しく冷たい声で、マーガレットさんとサラに声をかけた。
「マーガレットさん。サラと朝一番に私に逢いに来なさい。今夜はもう貴方たちの顔を見たくないから、この部屋から出て行ってください」
「は、はい、アリシア様」
青ざめたマーガレットさんは、痛みと恥ずかしさをこらえて顔を真っ赤にしたサラを引きずっていく。最後まで、サラは泣き出すことはなかった。
2人が部屋を出ると、アリシア母さんは次に集まってきたメイドたちに言葉をかけた。
「貴方たちもだ。一人にしていただきたい」
「「「は、はい」」」
メイドたちが一斉にそう返事すると、大人しく散って去っていった。
部屋に二人きりになると、アリシア母さんはベビーベッドにいる俺に向かい、そして俺を持ち上げて柔らかく抱擁してくれた。
そして、ポロポロと涙が頬を流れた。
あ……そっか。
そういうことなんだな……
アリシア母さんは、俺が死ぬほど心配していた。俺を失うことを恐れていて仕方ないのだ。
俺が安全になったことがわかると、安堵のあまり泣き出してしまったんだな。
今になって初めて理解した。
これが母親だという……
そしてその夜、お母さんは、俺の部屋で一緒に眠った。
夜が明けると、アリシア母さんが俺を抱き上げて部屋を出て行ったので目が覚めた。
昨夜のことを引きずると、俺を手放したくないようなのだ。
前世で身内を亡くした者として、お母さんの気持ちはよくわかるつもりだ。
いつもは、アリシア母さんやエレノアお祖母ちゃん、メイドさんが俺を部屋から連れ出すと、裏庭の庭で風当りをしてくれるのだが、今回はお城の中の行ったことのないエリアに連れてきてくれた。
新しいエリアを開拓しているようでワクワクするのだが、アリシア母さんはまだ真剣な顔をしているのみて、これから向かう先は楽しいことではないのだと察してしまった。
しばらく歩くと立派な二重扉にたどり着き、開けるのは重そうだが、なんとアリシア母さんの細い腕でいとも簡単に開いてしまうのだ。
扉の向こうには本棚に整然と並んだ無数の本があり、その本棚は2階までいっぱいになっている。
この城にこんな豪華な図書室があるなんて知らなかった。
......正直なところ、最初は地下ダンジョンか拷問部屋か、そんなとんでもないところに行くのかなとヒヤヒヤしていた。そうじゃなくてよかったよ。
一人でほっとしていると、アリシア母さんは図書室の中央に向かって歩き出した。そこには、机の上で何かを読んでいる人がいた。
長い睫毛に小さな唇、丸い顎、そして銀色の髪。
不気味なくらい本当に可愛い人だ。
その人は俺たちに気づいて、本から顔を離した。
「おや?おはよう、アリシア、リュウマ」
「……貴男」
アリシア母さんは挨拶を返すこともなく、重い声で呼びかけるだけだった。
というか、あなたって………?
あれ?!アナタって、そういう意味の………!!?
この圧倒的な美人さんは、俺の父なのッ――!!??
あまりの衝撃に、俺は反射的に鑑定をした。
【ステイタス】
名前:ガブリエル・ヘヴェンズゲート
種族:妖精の実・エンジェル
性別:男
年齢:1025歳
HP:180/180(21900)
MP:240/240(36960)
筋力60(8700) 体力60(7300) 技量(4500) 速さ60(12000) 魔力60(9240) 魔質60(10000)
てか、めっちゃTUEEEEEEEEEじゃん!!!!!??????
え、なんだ?何この化物?
種族は妖精の実・エンジェルなんだから、天使さん?
女神様の知り合いとか?
お母さんがアナタと呼んだから、俺の父親なはず。じゃ、俺は天使のハーフ?
でも俺、種族は竜の実・ヒューマンなんだけど?アリシア母さんは、人の実・ヒューマン。この【〇の実】の部分は何なのか解らないけど、俺もお母さんもヒューマンなのに、父がエンジェル………ということはまさか………俺非嫡出子!?
えええぇぇぇ――――っ!!!!!??????
ますます混乱する俺を構わずに、父(?)ガブリエルはアリシア母さんの険しい表情に気づき、読んでいた本を閉じ、アリシア母さんに全神経を集中させた。
「何があった?」
「………」
と聞かれたアリシア母さんは、しばらく黙っていたが、口を開いた。そして、昨夜の出来事を説明した。
アリシア母さんが話を終えると、今度はガブリエル父さんが黙っていた。
ガブリエル父さんは、息子に巨大ロボットに乗るよう命じた某氏のようなポーズとテンションで、「なるほど 」と答えた。
そして、机の上にあるハンドベルに手を伸ばし、それを鳴らした。
ベルはかなりはっきりと鳴ったが、あまり大きな音ではなかった。
すると、図書室の扉が開き、老紳士が入ってきた。
老紳士の髪は真っ白で、黒い執事服とは対照的である。姿勢もよく、年相応に鍛えられている。
興味本位で彼を鑑定してみた。
【ステイタス】
名前:エドワード・フィリップス
種族:人の実・ヒューマン
性別:男
年齢:87歳
HP:171/171
MP:72/72
筋力65 体力57 技量35 速さ45 魔力18 魔質5
おぉ、この老紳士は強い……のかな?
正直なところ、実例データが少なすぎて、結論が出せない。
みんなを鑑定する習慣をつけるべきかもしれない。何せ、データは多い方がいい。
「お呼びですか、主様」
執事の老紳士は礼儀正しくお辞儀をした。
そこで、ガブリエル父さんは注文をつけた。
「エドワード君、ベイカー一家をこちらへ」
「かしこまりました」
そこでエドワードさんはもう一度お辞儀をして、図書室を後にした。執事としての完璧な振る舞いを目の当たりにして、俺は思わず感服しました。
エドワードさんが去ってから間もなく、再び図書室の扉が開かれる。今度はマーガレットさんたちが来たのだ。
家長のジェームズさんは、まるで死神が訪れたかのように険しい顔をしていた。
乳母のマーガレットさんは、片手に赤ん坊のレイチェルを持ち、もう片方の手で赤い目のサラを引きずっていた。
長男のジェームソンは、ここではない別の場所にいたいと思っているようだった。
念のため、鑑定を使ってみた。
【ステイタス】
名前:マーガレット・ベイカー
種族:人の実・ヒューマン
性別:女
年齢:28歳
HP:45/45
MP:28/28
筋力11 体力15 技量18 速さ10 魔力7 魔質3
【ステイタス】
名前:ジェームズ・ベイカー
種族:人の実・ヒューマン
性別:男
年齢:33歳
HP:51/51
MP:12/12
筋力13 体力17 技量13 速さ13 魔力3 魔質5
【ステイタス】
名前:ジェームソン・ベイカー
種族:人の実・ヒューマン
性別:男
年齢:7歳
HP:15/15
MP:16/16
筋力6 体力5 技量8 速さ16 魔力6 魔質2
【ステイタス】
名前:サラ・ベイカー
種族:人の実・ヒューマン
性別:女
年齢:5歳
HP:9/15
MP:12/12
筋力4 体力5 技量4 速さ4 魔力3 魔質23
【ステイタス】
名前:レイチェル・ベイカー
種族:人の実・ヒューマン
性別:女
年齢:0歳
HP:3/3
MP:4/4
筋力1 体力1 技量1 速さ1 魔力1 魔質9
ベイカー家の鑑定を終えてわかったことは、ガブリエル父さんは本当にトンデモナイ怪物だということだ。
お父さん一人でベイカーズ一家の百倍も強者だ。
もしベイカー家がこの世界においての普通であるならば、アリシア母さんが家長であるジェームズよりも2倍も強いという事実を踏まえて、俺の家族はどれだけ異常なんだろう。
貴族と一般の市民では力に差があるのかな。
執事のエドワードでさえも強大だし。
私が鑑定に夢中になっていると、ガブリエルが真剣な口調で口を開いた。
その天使のような顔立ちが、さらに恐怖を煽る。
ま、天使なんだけど。
「僕は失望しています。分かりますか?君たち家族を我が家に迎え入れたとき、君たちが息子が一生信頼できる人になることを期待していたのです」
「お、お、お許しを!もう二度と起こしません、神々に誓ってッ!」
ジェームズさんは絶望的な表情で訴えた。
ガブリエル父さんは、氷のように冷たい声で話し続けた。
「不幸な出来事であることは承知しております。しかし、昨夜の目撃者の数からして、ヘヴェンズゲート公爵の長男が召使の娘に殺されかけたというニュースは、今頃我が家を敵にする者どもの耳に入り、すでにそれを元に暗殺計画を立てているかもしれない。分かっていますよね?他の人がおかしな発想をしないよう、君たちを見せしめにしなければならないのです」
ガブリエル父さんが非常に理にかなった言葉を発したとき、マーガレットさんとジェームズさんの顔が青ざめた。
そして、ジェームズさんは床に身をかがめ、ひれ伏していた。
「こ、殺すなら、私一人を殺してください!家族の命は許してくれ、このとおり!!」
……え、殺す?
なんで人を殺す必要があるんだ?ただサラの、5歳のお子様の、癇癪を起こすだけじゃ?
これは冗談か舞台劇かみたいなものなのか?
ベイカー一家を見るも、冗談を言っているようには見えなかった。
次にガブリエル父さんの顔を見ると、そっちも真剣な顔をしていた。
最後にアリシア母さんを見て、顔が険しくなっていることを見ると、5歳の子供であるサラが癇癪を起こしたために、本当に誰かが死ぬことになるのだと、ようやく理解できたのだ。
……この世界では、人の命はそんなに安いものなのか?
「別に殺すとは言いません」
ガブリエル父さんがそう言うと、ベイカー家の面々は安堵の表情を浮かべた――が……
「ただし、君は僕個人による鞭打ちの刑に処されます。最低でも600回、その後に君の生死は僕の知ったことではありません。加えて君の家族はこの領地から追放される。わかりますか?」
ガブリエル父さんは冷たく宣言し、ベイカー家の運命を封じた。
公爵の息子への殺人未遂の罪は、じつに悲痛なものらしい。
この小説を書くことは自分に対する挑戦であり、成長の証でもあります。ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします!