表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/114

第5節 第5話 幽霊部隊【Ghost troops】

 みんなの前に出てきたリンリッドは一つ深呼吸をして、周りを見渡す。

 そして事の経緯について話し始めた。


「まずは俺の話なんだが、知っての通り俺は機械魔(デモニクス)化が進み、すでに人ではなくなっている。そして俺はこの手で仲間を殺した……。エイミー、俺は遠くない未来で君を殺す。そしてここにいるメンバー……違うな、地球に住まう生物すべてを殺してしまう。」


 リヒテルの独白に一同は唖然とした様子であった。

 話に聞いていたアドリアーノですら眉をしかめていた。

 何度聞かされても信じられなかったからだ。

 

 それからリヒテルはその経緯を詳しく話し出した。



 

 リヒテルがこの世界に来るにあたっていくつかの出来事があった。

 ゴールドラッド(プロメテウス)による世界の統一。

 それにより世界はゴールドラッド(プロメテウス)に管理された社会になってしまった。

 だがそれ自体不自由はなく、普通に暮らすだけでは問題はなかった。

 しかし、年に一度機械魔(デモニクス)のスタンビードが発生する。

 なぜそうなったか……理由は簡単だった。

 〝ゴールドラッド(プロメテウス)の娯楽〟だからだ。

 人々が逃げまどい抗う姿を見て楽しんでいたのだ。

 それが許せないと立ち会があったのが〝旧世界防衛隊〟だった。


 そのころリヒテルはすでに体の7割が侵食されていたが、特に問題もなかったため幾度の作戦に参加していた。

 戦いが進むにつれ年々体に違和感を感じるようになっていった。

 その違和感は少しづつ大きくなり、やがてはっきりとわかるようになる。

 〝人としてあり得ない力〟を発揮できるようになっていたのだ。

 普通であれば機械魔(デモニクス)を素手で引きちぎるなどできはしない。

 だがリヒテルにはそれができた。

 弾薬が尽きてもリヒテルはそれを武器に戦い続けた。

 それに伴ってさらに力は強くなっていった。

 戦えば戦うほど強くなる。

 だからこそリヒテルは戦い続けた。

 仲間たちを守るために。

 それと同時に激しい欲望にさいなまれていった。

 いくら戦っても満たされないのだ。

 戦えば戦うほどに戦うことに飢えていく。


 そして最後にはランク5の機械魔(デモニクス)ですら素手で戦えるまでに成長していた。

 だがそれには弊害が発生していた。

 そう、身体の9割以上が金属骨格となっていたのだ。

 リヒテルは機械魔(デモニクス)としての進化をたどっていたのだ。

 おかしな点はいくつかあった。

 決定的な点は、リヒテルがとどめを刺した機械魔(デモニクス)から魔石(マナコア)がなくなっていたことだった。

 つまりリヒテルが倒せば魔石(マナコア)はリヒテルに吸収されていたのだ。


 危機感を覚えた〝世界防衛隊〟の上層部はリヒテルの保護を名目にリヒテルを封印することを決定した。

 そうとも知らずリヒテルは〝世界防衛隊〟の本部へと出頭する。

 そして叙勲として受け取ったネックレスこそ、リヒテルを封印する魔導具であったのだ。


 リヒテルは〝世界を守るために戦っていた〟はずであった。

 だが世界から受けとったのは……


 そうしてタガが外れたのか、リヒテルは最後の進化を遂げてしまったのだ。

 機械魔(デモニクス)〝ランク6〟へ。

 世界を守るためとしていた〝世界防衛隊〟が、世界を滅ぼす悪魔を生み出したしまったのは皮肉なものであった。


 その時現れたのだゴールドラッド(プロメテウス)であった。

 リヒテルは薄れゆく意識の中でゴールドラッド(プロメテウス)が発した言葉を聞いていた。


「いやはや人間とは愚かだ。実に愚かで愚かで愛おしい。私が用意したシナリオ通りに動いてくれるのですから。」

「話が違うではないか!!リヒテル・蒔苗をいけにえに捧げればすべてを終わらせるといったではないか!!」


 誰かの声かすでに分からなくなっていた。

 だが自分は捨てられたのだということは理解できた。


「だからすべてを終わらせるのではないですか。崩壊という終焉で。」

「ふざけ…………」


 そしてリヒテルの意識は闇へと落ちていった。


 


「俺が気が付いた時には……そこは屍の山だった。人だろうが、動物だろうが、機械魔(デモニクス)だろうが関係なかった。生きるモノすべてが等しく死をもって終焉を迎えた……。その屍の中にはエイミーたちもいた。俺がみんなを殺したんだ……」


 リヒテルは自身に起こったことを話し終えるとうつむいてしまった。

 非難されることを恐れたのか、僅かに体を震えていた。

 

「それがあなたの未来?」


 輸送車両から頭を出したメイリンがリヒテルに話しかける。

 リヒテルは軽く頭を上げるとメイリンの言葉に首肯する。


「それをあなたは変えたい。だからここに来た。そういうこと?でも、変わったとしてあなたの世界はどうなるの?」

「何も変わらない。変わるのはこの世界のリヒテルのこれからだ。」


 何か諦めたような笑みを浮かべるリヒテル。

 自身の幸せなどはもう考えていないかのような、そんな寂し気なものにメイリンは見えていた。

 

「だが、ケントとの話とどうかかわるんだ?」

「俺がケントにあったのは、ここに来る少し前だった。」


 その言葉に一同は首を傾げた。

 ケントとはすでに出会っている。

 それなのに目の前にいるリヒテルはこの世界に来る少し前に出会ったと言っている。

 その矛盾に混乱を余儀なくされたのだ。


「俺とケントは【書物を渡る者(ブックトラベラー)】だ。世界を渡り歩く権限を与えられた人ならざる者たち。みんなも聞いたことがあるだろう?1000年のお伽噺。なぜ2つの話が存在するのか……それは俺たちの本当の世界とケントが救った世界がごちゃまぜになったせいだったんだ。そして俺はケントに救われ、その元凶を絶つために世界を渡った。」


 リンリッドはある程度聞いていたものの、やはり動揺を隠せなかった。

 考え方によっては自分たちの世界そのものが偽りだと言われているようなものだからだ。


「その元凶はゴールドラッド(プロメテウス)と名乗っている。」

「あいつか……」


 アドリアーノはギシリと奥歯をかみしめる。

 エミリーも怒りをあらわにした。

 ライガやヒョウガ、ほかにもたくさんの仲間たちがあの戦いで命を落とした。

 だからこそゴールドラッド(プロメテウス)を許すことなどできないのだ。


「そして俺は……おそらくゴールドラッド(プロメテウス)たち黒フードの集団の手引きによって贄に選ばれたらしい。本来はゴールドラッド(プロメテウス)の対抗策として俺は【熟練(マスター)】という力をもらった。そして本来はそのまま狩猟者(ハンター)となって戦い方を学び、成長していく物語のはずだった。だが、物語は歪められ狩猟者(ハンター)にはなれず、技能習得(スキルエンゲージ)を受け、魔砲使い(ガンナー)として狩猟者(ハンター)となった。それの先にいるのが俺だ。」


 リヒテルの話を黙って聞く面々。

 いまだ半信半疑といった空気が漂っている。

 だが、誰一人として否定するものは居なかった。

 否定しようにも目の前に本人がいる以上、否定しようがないからだ。

 だからこその混乱なのであった。


「だからこそ、俺はこの世界を元に戻したい。みんなが笑顔で暮らせる、そんな世界を取り戻したいんだ。だから頼む。力を貸してほしい。」


 深々と頭を下げるリヒテル。

 沈黙がその場を支配する。


「しゃ~ねぇ~よな。弟分から頭を下げられた兄貴分が逃げたんじゃ、示しが付かないだろうがよ。」


 ガルラは頭をガシガシと掻きながらリヒテルに近づくと、下げた頭に軽く手をそえる。

 そしていたるところから大きなため息が漏れると、次々とリヒテルに声をかけた。


「これが俺たちの答えだ。リヒテル、必ず救うぞ!!」

「はい!!」


 アドリアーノが皆の意見をまとめたようにリヒテルに声をかける。

 リヒテルは皆の顔を見回して、屈託のない笑顔で返事をしたのだった。




 こうして世界には存在しない部隊【Ghost troops】が結成されたのだった。

 彼らは未来の世界史には記録されることはなかった。

 なぜならば存在していないからだ。

 だが彼らは存在する。

 友を救うために戦う。

 そのための存在だからだ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ