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第5節 第4話 リヒテルとの邂逅

「安心して、あなたは死なせないから……」


 エイミーは深い眠りについたリヒテルを確認すると、涙をこらえて立ち上がった。

 そして車両の運転手へ合図すると、車両はリヒテルを乗せて戦闘領域を離脱していった。




『すまないアドリアーノ。損な役回りをさせる。』

「佐々木総隊長からの命令とあれば、俺たちの否はないですよ。」


 通信機からは辰之進の声が聞こえる。

 エイミーは中隊のもとへと一足先に向かっていた。


「で、この作戦本当に大丈夫なんでしょうね?」

『心配しなくていい、途中でリンリッド老師が合流する。それからアドリアーノたちは戦闘時行方不明により戦死と断定として処理される。君たちは晴れて幽霊部隊となる。』


 幽霊部隊。

 それは存在はしていないが、実在はする。

 いるのにいない。

 裏組織と言っても過言ではない部隊である。


「それじゃあ、俺たちは機械魔(デモニクス)討伐を開始します。リヒテルを頼みます。」

『任された。アドリアーノ……死ぬなよ。』


 アドリアーノはおうと力強く返事をして、通信を切った。

 そしてアドリアーノも中隊へ合流するのだった。



  

 それからアドリアーノたちは避難民部隊を追いかけようとしている機械魔(デモニクス)を屠り続けた。

 すでにどれほど倒したかなんて数えるのが面倒になってきていた。


「遅いですよ老師。」

「すまんすまん。ちとてこずってしまってな。それじゃ早速倒そうかねぇ~、って言ってる暇もなかったようだねぇ」


 リンリッドが戦闘区域に視線を向けると、すでに立ち上がっている機械魔(デモニクス)の姿がなかった。

 それをなしたのが白フードの男……リヒテルだった。

 リヒテルは皆の無事を確認すると、ほっと胸をなでおろす。

 そして一人の女性に視線が移る。


「よかった……エイミー。()()()()()()()()。」


 リヒテルはそういうと、エイミーに近づくとそのまま腕の中へ抱きしめる。

 本来であればリヒテルの身長よりもエイミーの方が高い。

 だが今いるリヒテルはすでにエイミーの身長を超えていた。

 それは成長から来るものではなく、機械魔(デモニクス)化が原因となっていた。


 エイミーは突然の抱擁に何もできなかった。

 ただただ混乱するエイミー。

 少し前に別れたはずのリヒテルがそこに居たからだ。


「離れるんだ。」


 そこに割って入ったのはアレックスであった。

 アレックスに引きはがされたエイミーはすぐに後ろに下がり呼吸を整える。

 あまりの突然の出来事に呼吸が激しく乱れていた。


「リヒテルなのか?」


 アドリアーノは理解しようと必死に努力しているようであった。


「アドリアーノ隊長。お久しぶりです。30年ぶりになりますか……。いや、こちらではつい先ほどぶりですか……。間に合ってよかった。」


 リヒテルは心底ほっとして胸をなでおろしていた。

 そんなリヒテルに警戒感を持っていいのかどうか迷うアドリアーノ。

 リチャードはそんなやり取りを見ていてするりと盾を構えて二人の間に割り込む。


「擬態種……じゃねぇ~よな?」


 リチャードの言葉に緊張感が一気に高まる。

 確かに一瞬見た目的にリヒテルだと信じそうになったが、その可能性は否定できなかった。

 なぜならば、ライガやヒョウガ、はたまた老若男女に姿を変えて襲い掛かってきたのが擬態種だったからだ。


「それについては私たちが証人になるわ。」

「ラミアさん……」


 ガルラはラミアの登場でいったん信じてもいいかもと心が揺らぐ。


「そうねん。リヒテル君(大人バージョン)のおかげでリヒテル君を死なせずに済んだのよん?不思議に思わなかった?私たちがあなたたちのもとに助けに行けたことに。」


 マリリンはリヒテル小隊のメンバーに視線を送る。

 確かに考えてみればあの広い戦場の中で自分たちをピンポイントで見つけ出し、かつあのタイミングで救出できるのにはあまりにもタイミングが良過ぎた。


 アドリアーノはその点について気になっていた。

 そしてその真相がこれである。

 それを聞いたリヒテル小隊もまた納得せざるを得なかった。


「みんなにもすべてを話すよ。俺がこれまでどうしていたか。そしてこれからどうなるかを……」


 リヒテルはアドリアーノたちに事の真相を伝えた。

 それを聞いたアドリアーノたちは一様に息をのんだ。

 あまりにもショッキング過ぎた出来事であったからだ。

 そして今目の前にいるリヒテルの存在についても深く納得することができたのだった。


「分かった。俺たちはお前を信じる。つまりあれだ……まずはお帰りリヒテル。」


 アドリアーノの言葉に言葉を詰まらせるリヒテル。

 その眼には涙が浮かび、そして流れ落ちる。

 とめどなく流れ落ちる涙を慌てて拭くリヒテルだったが、エイミーはそっとリヒテルを抱きしめた。

 最初と真逆の体勢であった。


「つまりあなたを信じれば、今のリヒテル君を救えるってことでいいのね。」


 エイミーはリヒテルを抱きしめながら、そう質問を投げかける。


「はい。」


 リヒテルはその問いに短い言葉で返した。


「分かったわ。私もあなたを信じる。だからリヒテル君……ってなんだか混乱するわね。そうね……あなたをリヒテルって呼ぶけどいいわよね?」

「はい。」


 すでに白フードのリヒテルは齢50近い。

 それでもエイミーにとってリヒテルは弟みたいな存在だった。

 可愛い弟の願いを無視するなんてエイミーにはできない相談だった。

 

 そんなリヒテルも懐かしい思いだった。

 会えないと思っていた人に会えたことがうれしかった。

 自分が落ち込んでふさぎ込んでいた時立ち直れたのもエイミーのおかげであった。

 だからこそ、リヒテルはこの世界にやってきたのだ。

 最後の旅へと。


「それで、これから先どうするのか説明してもらえると助かるんだが……」


 なんとも甘酸っぱい空気にいたたまれなくなったガルラは、空気を換えようとリヒテルとアドリアーノに視線を送る。

 その視線に気が付いたアドリアーノは辰之進から下された指令をみんなに伝える。

 

「まずはこの作戦はリヒテル……ってなんか面倒だな。今のリヒテルを救うことが1つ。もう一つは今のリヒテルが暴走しないように俺たちが陰から支える。最後に、暴走したら俺たちが終わらせる。っと、待ってくれ。そんなににらむなエイミー。最後のは本当に最終手段だ。基本的にはリヒテルが暴走する可能性がある場面に先回りして障害を排除するのが目的だ。」

「でもそれなら私たちが死んだことにしなくてもいいんじゃない?」


 エイミーの指摘はもっともだった。

 それよりもリヒテルのそばにいて助けた方がましだと考えていた。


「エイミー。あいつの性格を考えてみろ。今回だってそうだ。リヒテル小隊のメンバーを逃がすために暴走状態になっただろうが。あいつは自分よりも仲間を先に考えちまうところがあるからな。だからこそ俺たちはあいつの前から消えるんだ。」

「でもそれじゃあ、新しい仲間ができたら同じじゃないの?」


 さらにエイミーは疑問をぶつける。

 それもまた可能性に過ぎないが、もっともらしい可能性の一つである。


「それについては辰之進が動いている。今のリヒテルがいなくても生き残れるだけのメンツを集めるそうだ。そして一つ話しておきたいことがある。ケントについてだ。」

「どうしてその名前がここで出てくるのよ?戦死者が何か関係あるの?」


 アドリアーノはどう説明していいか悩んでいた。

 それもそのはず、アドリアーノ自身信じていいのかどうか迷っていたからだ。

 アドリアーノの様子を見ていたリヒテルが自分が説明すると一歩前に出てきたのだった。

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