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第2節 第4話 ロイド・蒔苗

 シュトリーゲからレプリカコアを受け取った辰之進は、とある疑問にぶつかる。

 それならば初めからこのレプリカコアを大陸の各所に設置して機械魔(デモニクス)の進行を食い止めればよかったのではと。

 どうやらその考えが顔に出ていたらしく、そばに仕えていたロレンツィオがあまりいい顔をしていなかった。


「ん?その顔は恐らく〝なぜ先の大戦で使わなかったのか〟という疑問であろう?それは簡単なこと。その時はまだ陛下は元始天王(ダンジョンコア)と契約していなかったからだ。」


 シュトリーゲが答えようとしたが、それに先んじてロレンツィオが少し棘のある声で答えた。

 ロレンツィオからすればシュトリーゲが元始天王(ダンジョンコア)と契約を交わしたことは、【エウロピニア帝国】のために人柱となったと同意義であった。

 それ故に〝なぜ〟と疑問を挟むこと自体にあまりいい気持ではなかったのだ。

 本来であれば皇帝の言葉を遮ることは不敬に当たる。

 しかしシュトリーゲはそれを咎めることはなかった。

 ロレンツィオの思いを痛いほど知っていたからだ。

 シュトリーゲが契約を決心した際に、誰よりも反対したのがロレンツィオであった。

 だがシュトリーゲの熱意に押され、なくなく自分の意見を取り下げたという背景があった。


「分かりました。それではこれより防衛隊及び狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)は【ノースウェイランド】の立入禁止区域(デッドエリア)解放及びダンジョン探索の活動を思とします。陛下の防衛については近衛騎士団にて行うものといたします。指揮系統に関してはロレンツィオ殿よろしくお願いいたします。」

「分かっている。陛下には誰一人として指一本触れさせはせん!!」


 ロレンツィオの強い決意を受けたシュトリーゲは少しだけ苦笑いを浮かべていた。

 のちに護衛に当たっていた近衛騎士団の団員が語ったことだが、シュトリーゲはその際にボソッと「どうやって抜け出そうかな……」とつぶやいていたそうだ。

 



 シュトリーゲのもとを後にした辰之進は、仮の防衛隊指令所へ向かった。

 そこにはいくつものテントが並んでおり、防衛隊の隊ごとのテントや、狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)のテントも設置されていた。


「戻った。」

「お疲れ辰之進。」


 指令所の辰之進のテントには先客がいた。

 今は諜報部の隊長を務めている清十郎だった。


「何か動きは?」

「そう焦んなさんなって。狩猟者(ハンター)たちも隊員たちもようやってくれてる。今は焦るときじゃない。それにな、ちょっとした情報ももらってきた。」


 清十郎は胸元から一束の報告書を取り出し、辰之進の執務机に放り投げる。

 ばさりと投げられた報告書を若干嫌そうに受け取り、パラりと中をめくっていく。

 そして読み進めるうちに、少しだけ笑顔がこぼれた。


「そうか……リヒテルは何とかなりそうか……」

「のようだな。こっちの技術者たちに感謝せんとな。」


 そうだなと声を漏らす辰之進。

 深く椅子に座りなおすと、虚空を眺める。

 去来するのはロイドの事であった。

 リヒテルの父ロイドもまた、事情によりそのランクを落とすこととなった。

 そしてまたリヒテルも同じようにその力を落とすこととなってしまった。

 正直な話ロイドに顔向けできないなと自嘲してしまった。


「そしてこれ……もプレゼントだ。」

「これは?」


 さらにもう一枚の紙を渡された辰之進。

 清十郎の態度に少しイラっとしながらもその紙を読んでいく。

 そこに書かれていた内容は辰之進にとって喜ばしいことであった。


「これは本当か?!」

「嘘ついてどうすんだ。ロイドさんのケガはどうやら完治したみたいだ。この国は一体どんだけの技術力を持ってるんだろうな。」


 そこに記載されていたのは、狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)からの連絡事項だった。

 というよりも、ロイドの関係者に宛てた手紙であった。

 どうやら、狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)本部より高性能な回復薬が提供され、ケガによって脱落した狩猟者(ハンター)の復職を後押ししてくれたのだ。

 その中にロイドも含まれており、あの忌まわしい事件によって負ってしまったケガが完治したようだった。

 ただそこにはリスクもあった。

 その回復薬は使用者の寿命を縮めてしまうのだ。

 理由は簡単で、人間の回復できる限界量が決まっていたからだ。

 つまり狩猟者(ハンター)も防衛隊隊員も皆同じで、回復薬や回復魔法などで回復できるのには限度があるということの示唆でもあった。

 だが今までそのような報告がなされることはなかった。

 理由も記載されており、切り傷やちょっとした病気、または状態異常であれば寿命が縮むことはないのだ。

 ただし、四肢欠損やそれに準ずるケガの場合はかなりの生命力を先の自分から前借するという形となってしまうため寿命が縮んでしまうようであった。

 

「つまり、戦闘不能な大けがを負った場合はそのリスク覚悟で回復するかどうかを自己判断する必要があるということか……」

「まあ、そうなるわな。」


 うれしさと悔しさが入り混じり、辰之進は一人百面相を行っていた。

 それを見た清十郎は笑うのを必死にこらえていた。


「ということでロイドさんはリハビリが終わり次第戦線復帰するそうだ。今度あいさつにでも行ってみたらどうだい?」

「そうだな、リヒテルの事もあるし話さぬ訳にもいくまいな……」


 辰之進はこれまでのリヒテルの戦績を思い出していた。

 正直リヒテルのランクにはまったく見合わない強敵との連戦ばかりであった。

 それをその都度乗り越えていく姿に、辰之進はどこか安心しきっていた。

 そのツケはやがてリヒテルを蝕んでいった。

 そしてリヒテルは人ではないものになりかけているのだった。


「ところでロイドさんたちは今どうしている?」

「今リハビリがてらランク3の狩猟者(ハンター)と前線に出てるはずだが……。どうする?狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)に使いを出すかい?」


 一瞬躊躇するも辰之進は清十郎に頭を下げた。

 

 あまりの珍しい行動に清十郎は何かあったかと考えるが、少し考えてやめることとした。

 辰之進なりに何か考えがあるのだろうと、自分を納得させるのだった。

 



 

 ちょうどそのころリハビリに出ていたロイドは仲間たちとワイワイ話しながら狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)のテントへと戻ってきていた。


「ロイドさん、本当にブランクあるんですか?」

「そういってもらえると嬉しいよ。一応ランク2程度は受けていたからね。それほど鈍っていなかったみたいで安心したよ。」


 少し戸惑った笑顔を見せながらロイドは一緒に回ってくれた若手の後輩たちと会話をしていた。

 

 後輩たちはロイドのリハビリと護衛を兼ねてギルドより依頼を受けていた。

 正直何年も前線に立っていないロイドについてすでに古い人間だというのが当初の思いだった。

 しかし行動すると、その知識や技術に舌を巻いた。

 ある程度自信のあった後輩たちは悔しい反面、ロイドと一緒に戦えることをうれしく思った。

 この人についていって自分たちの実力を上げようと。


 それもあってか、戻ってくる頃になると後輩たちからロイドは慕われる形となっていたのだ。


「あ、ロイドさん。どうでしたか久しぶりのランク3相当のエリアは。」


 そんなロイドに声をかけてきたのは幼い顔立ちの少女だった。

 少女は簡単に作られたカウンターで事務作業を行っていたが、ロイドの声が聞こえたことで顔を上げていた。


「やあ、マリアちゃん。彼らのおかげで何とかなったよ。久しぶりのパーティー戦闘だったから彼らに迷惑をかけどおしだったよ。」


 謙遜を含んだその言葉に後輩たちは一斉に否定した。

 どれほどロイドが優れていたかの大合唱となった。


 ロイドはいまだ自分が必要とされていることに嬉しさを覚える。

 それと同時に不甲斐ない自身の弱さに辟易としていたのだった。

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