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第3節 第3話 ランク5

 リヒテルたちが戦闘領域を離脱したのを確認したリンリッドは、改めてその怪物に意識を向けた。

 怪物もリンリッドたちを見据えて動く気配はなかった。


「ほかのランク5のメンバーはいつくらい合流予定なんですか?」

「ん?もう来ているぞ?戦闘開始の合図はあいつがする。」


 ヨースケがリンリッドに問いかけると、リンリッドは何かを待っていた様子で答えた。

 するとどうだろうか、ヨースケの後方からいくつもの氷の槍が怪物に向かって飛んで行ったのだ。

 その速度はぎりぎり肉眼で追うことができた。

 しかしその氷の槍は怪物に届くことはなかった。


 怪物が一吠えすると、何か障壁のようなものが発生したのか、ぶつかる前にすべて砕け散ってしまったのだ。


「あぁんもぉ~!!せっかく派手に登場しようと思ったのに!!」

「おねぇはいつもそう!!先走る癖なおそう?」


 現れたのは黒い大きなとんがり帽子をかぶり、同じく黒いコートを羽織った女性と、その隣を歩くガタイのいい女性であった。

 とんがり帽子をかぶった女性は手に杖のようなものを持っており、その先端には魔石(マナコア)が備え付けられていた。

 その大きさからもおそらくランク5相当であることがうかがえた。

 もう一人の女性は、そんじょそこらの戦士よりも戦士らしい肉体美を誇っていた。

 その手に持つ大きな剣は身の丈よりもさらに長く、常人では振り回すことすらできそうに無いようだった。


「グラビトス。」


 静かに聞こえる男性の声。

 両手を上空に掲げると、突如怪物の頭上に黒い球体が現れた。

 徐々に降下していく黒い球体。

 危険を察知したのか、その球体が合わられると同時に怪物は後方へと飛びのいた。

 先ほどまでいた場所にその球体が落ちた時だった。

 急速に周囲を飲み込み始めたのだ。

 以前リヒテルがつかった魔弾など生易しいとさえ思える規模の重力異常が発生したのだ。

 物の数秒であったが、その球体が落ちた場所には横幅500mはありそうなクレーターが出来上がっていた。


「もう!!ユウキったら!!おいしいところをもっていかないでよ。私の登場が霞んじゃうじゃないの!!」

「おねぇ……今はそこじゃない……」


 あまりの姉の言い分に妹はあきれてものも言えないと、がっくりと肩を落としていた。

 ユウキと呼ばれた男性はあまり気にした様子もなく、怪物から目を離すことはなかった。


「マリア……、その残念加減を直さないと嫁の貰い手がいなくなるぞ?」

「うっさい、むっつりユウキ!!」


 今にも食って掛かりそうになっていたマリアは、ユウキに強く当たって見せた。


 女性の名はマリア・カーチネル。

 別名、氷獄の魔女。

 好んで冷気系の技を使うことから名づけられた。

 彼女は想像の世界の魔女に憧れ続け、暇があれば黒魔術なるものを研究していた。

 その成果は全く上がっておらず、周囲からも腫れもの扱いされていた。

 だが、授かった技能(スキル)がこれまたマリアの魔女熱を加速させた。

 1つは【熱量操作】。

 これにより先ほど使った氷の槍などを作成する。

 そしてもう1つが【物体転送】。

 これは〝物〟であればそれが個体であろうが気体であろうが全く関係なく移動させられるのだ。

 しかも本人の感覚次第ではほぼ一瞬の移動も可能であった。

 しかし、本人が知覚できない速度で移動させるとコントロールができないため、あえて自分自身が知覚できる速度まで落としている。

 小さいころから腫れもの扱いされてきたからか、今でも行動はどこか目立つことを無意識に行ってしまう。

 そんな姉をいつも諫めているのが、妹のリンダだ。


 リンダ・カーチネル。

 マリアの2つ下の妹で、180cmもある身長にコンプレックスを抱いていた。

 マリアを諫めることに注力するあまり、自分を表に出すことを苦手としている。

 ただし、彼女にはもう一つの顔が存在した。

 それが二つ名の通りの狂戦士である。

 背負う大剣は身の丈よりも長く、その重量は普通の人間では扱うことができないのではと思えるほどだった。

 それを軽々と扱うために鍛え上げられた肉体は、まさに芸術といっても過言ではなかった。

 ラミア製の大剣〝災禍〟。

 一度リンダがそれを振るえば、まさに荒れ狂う災禍のようであった。

 そしてそれを支えるのが技能(スキル)【絶断】である。

 己の技量が伴う範囲であれば切れぬもの無しと言われるほどのスキルで、軽々と岩を切り裂いてしまうのだ。


 リンダがユウキと呼ばれた男性に近づき、マリアの暴言について謝罪をしていた。

 しかしユウキはそれには及ばないと、リンダに申し出る。


 ユウキ・佐藤。

 マリアとあまり身長は変わらないが、リンダに比べだいぶ低いためいまだにコンプレックスを抱いていた。

 先ほどリンダが頭を下げたが、それでやっと近い身長になるものだからぐりぐりと傷を弄られている気分になってしまっていた。

 ユウキはマリアとリンダと同郷であり、幼馴染であった。

 3人で狩猟者(ハンター)となり故郷で地道な努力を行い、ついに狩猟免許証(ハンターランク)5まで上り詰めたのだ。

 常に3人で行動しており、リンリッド曰くその連携は見事なまでに美しいのだそうだ。




「そろったみたいだな。」

「リンリッドの坊や、何偉そうにしているの?まあ、いいわ。さっさとあのデカブツを倒すわよ。」


 リンリッドが場をまとめようとした矢先に躓いてしまう。

 それを見ていたほかの面々は慣れたもののようで、あまり気にした素振りは見られなかった。


「それじゃあ、始めましょうか。怪物退治を。」


 マリリンが懐から愛用の魔銃を取り出す。

 それはどう見ても大砲といった方が良いようなサイズだった。

 おそらくマリリンの特注であり、その弾丸も並みのサイズではなかった。

 リンリッドもすでに準備を終えており、リヒテルが今まで見たことの無いような形の魔砲が握られていた。


「さぁ、楽しい楽しい戦闘()の時間だ!!」


 巨大な大剣を握りしめたリンダが、犬歯をむき出しにして獰猛に笑って見せる。

 先ほどまでのおどおどとした様子はすでになく、そこには今にも飛び出してしまいそうになるのを必死にこらえるリンダの姿があった。


 マリアはそんなリンダにあきれつつも、愛仗を怪物に向かって構えた。

 同じようにユウキも戦闘態勢に移行したのだ。


「やれやれ。本当に皆さん元気ですね。」


 一人やる気が見られないカリオンをよそに、怪物との戦闘の幕が切って落とされたのだった。






『ケントさん。やっぱりあれは〝龍種〟です。おそらくコントロールを受けてますね。』

「そうか……。そのまま監視を頼む。ほかの対機械魔防壁アンチデモニクスウォールの様子は?」


 リンリッドたちの戦闘を監視していたタケシから、ケントへと通信が届く。

 その内容に戸惑いを感じながらも情報を整理していく。


『あまりいいとは言えません。おそらく持っても1週間。場所によってはもっと早く結界します。』

「わかった。【煉獄・量産機】でどうにか持たせられそうか?」


 ケントはおそらく可能であると踏んでタケシへ確認を行った。

 タケシも少し考えるそぶりを見せると、問題ないと返答をしたのだった。


『何としても避難の時間を稼ぎます。ケントさんは防衛をお願いします。』

「タケシ君、無理はしないようにな。」


 タケシが元気良く「はい」と答えると通信はそこで終了となった。

 リヒテルたちと移動中に行われたやり取りである為、伝えるべきかどうかケントに迷いが生じていた。

 もしこれを話すとした場合、ほかにも話さなければならないことが増えてしまうからだ。


『別に必要なかろう。彼らは彼らの人生。吾らは吾らの本分を全うすればいい。違うか?』


 どこからともなく聞こえてきたタクマの言葉。

 ケントは黙することを決めたのだった。

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