第2節 第2話 三者三様?
「みんな、回収は済んだか?」
「こっちはあらかたね。見てリズ、これって……」
エイミーが回収してきたオオカミとゴブリンの死体をリズに確認させる。
その二つはクモの機械魔と似た構造をしていたのだ。
一部のオオカミとゴブリンが機械魔化していたのだ。
しかもその機械魔化も完全ではなく、一部であったり半分であったりと、個体ごとでばらばらであった。
「つまり、どういうことだ?」
クリストフは頭をひねるが答えが見えてこなかった。
リズも確証を持てているわけではないので、はっきりと答えることができなかった。
「おそらく、進化途中……ってところかな?」
アレックスが自分の考えを述べると、リズは軽く頷く。
どうやらリズも同じ考えに至ったようであった。
「もしかして、機械魔化してきたから統率が取れた?どこかにこの群れのリーダーがいたってことか?」
リヒテルはその疑問があながち間違いではないだろうと考えていた。
そうでなければこれほどの連携が取れるといいうのが納得できなかったからだ。
「でも、それは軽率ね。魔物……しかも私たちからしたら未知の魔物がベースになっているから、これまでの常識が当てはまるとは言いづらいわ。今言えることは機械魔化の進行が徐々に進んでいるってことかしら。もしかしたら草木もまたそのうち魔物化して機械魔になったりしてね。」
若干皮肉を込めたリズの考えに、リヒテルは嫌や予感をぬぐえなかった。
おそらく近い将来そうなる可能性が否定できなかったからだ。
リヒテルが見せてもらった資料には樹木型の魔物も掲載されていた。
つまりあり得る未来という言ことに他ならなかったのだ。
「まずはこのサンプルを本部に届けよう。リズ、今回の調査はここでいったん終了だけど、近いうちに第2回に出るからその時はまた連絡する。」
「ほんっっっと人使い荒過ぎ!!」
リヒテルが撤退の指示を出すと、茂みに隠れていたケントが姿を現した。
その手に握られた二振りの剣には血糊が付いていた。
作戦通りに遊撃を行ってくれていたことにリヒテルは感謝の意を表した。
ケントは慌ててそれを止め、命令通りに行動したまでだと告げる。
しかしリヒテルは感づいていた。
オオカミたちの動きが途中から少しづつ遅くなっていることに。
そうでなければアレックスの小瓶が効果を発揮する前に離脱されてしまっていたはずだからだ。
しかも回収したオオカミの足に、薄くだが切り傷が出来ていた。
最初それがなんだかわからなかったリヒテルだったが、ケントの剣を見てそれを理解したのだった。
「助かったよケント。」
「いえ。」
短いやり取りで終わった会話だが、リヒテルはそれでも十分だと感じた。
ケントもまた同じで、互いに顔を見合わせて頷きあっていた。
そんな二人のやり取りを見ていたエイミーが何やら悪だくみを考え付いたのか、ニヤリとしながら二人に近づいてきた。
「おやおや~、お二人さん……なんだかわかりあってますっていう感じがしますなぁ~。」
どこか酔っ払いのおじさんのような空気を醸し出すエイミー。
良からぬことを考えているのでは?と感じてしまうほどであった。
ゴチン!!
「いった~~~~~~い!!なにすんのよ!!」
「おぬしが悪い。」
とても痛そうな音が聞こえたと同時にうずくまるエイミー。
クリストフは戦斧の左肩に担いで右こぶしをぶらぶらとさせていた。
どうやら後ろから近付いたクリストフが拳骨を落としたようだった。
しかしあの慎重さでよくもまぁ見事な拳骨を落とせるものだとリヒテルは感心してしまっていた。
「ではリヒテル隊長。俺は周辺警戒に移ります。このまま7番ゲートまで先行します。」
「よろしく頼む。エイミーも上空警戒を頼む。それと変な妄想は厳に慎むように。」
ケントはリヒテルに断りをいてると、またも茂みの奥へと姿を消していく。
エイミーはどこか納得のいかない顔で、頭をさすりながら木々へと飛び移っていく。
二人が警戒をしてくれるおかげで、早期発見できることはこの小隊にとってかなりのアドバンテージである。
リヒテルは二人に感謝しつつ、合流地点の7番ゲートへ急いだのだった。
『ケントさん聞こえますか?』
「どうした?」
ケントのもとにタケシからの無線が届く。
その声色はどこか焦りを感じさせる。
ケントは何か問題が発生したのだとすぐに理解した。
『第3立入禁止区域内で情報収集していた【煉獄・量産機】の一機が撃墜されました。おそらく人間の手によってです。画像を送ります。』
リヒテルたちが使うものとは違う手持ちの端末に、タケシからデータが転送されてきた。
その画像を見たケントは、驚きを隠せなかった。
黒フードの奥に一瞬見えた顔はまさにプロメテウスのものだったからだ。
「感づかれたみたいだね。おそらく行動を起こしてくるだろうね。」
『すみません。』
ケントの予測にタケシはただただ謝るしかできなかった。
それについては遅かれ早かれ気づかれると踏んでいたケントは、タケシに問題ないと告げると、監視の続行を依頼した。
タケシは気合を入れなおしたのか、はっきりとした声で返事を返すとそのまま任務を継続していた。
「まずったね。どうしたもんかな……」
『どうもこうもあるまいて。吾としては暴れられるなら問題はない。』
どこからともなくケントに聞こえるタクマの声。
タクマが豪快に笑って見せるものだから、ケントも毒気を抜かれたのか深く考えるのを放棄した。
「もともと出たとこ勝負だったし……やれることをやるしかないね。次のスタンビード……。持たないだろうなぁ~」
どこかあきらめにも似た表情を見せたケントであった。
「おやおや?なんとも懐かしいものが飛んでいますね?」
上空を眺めるゴールドラッドは、その物体に気が付いたようだった。
巧みに気配を隠されていたが、ゴールドラッドにとってみては問題なかったようだ。
「どうしましたの?」
ゴールドラッドに付き添っていた一人の少女がつられて上空に視線を向ける。
しかし見えたのはまぶしい太陽の光だけであった。
あまりのまぶしさに少女は顔をしかめ、目をつむってしまった。
「いえね、はるか昔に見たことのある物体が空を飛んでいたもので……。そうだ、これを付けてごらんなさい。」
ゴールドラッドはごそごそとカバンを漁ると、サングラスを取り出す。
それを少女に渡すと、装着するように促す。
少女は訝しがりながらもサングラスを付けると、先ほど見ていた上空にまた視線を向けたのだ。
「あ、何かいますわ。」
「きれいに隠匿されていますからね。そうだ、明日香さん。あれを撃ち落としてみませんか?」
明日香と呼ばれた少女は手にした杖をその物体に向けると、何やらつぶやいた。
「【ホーリーレイ】」
その言葉とともに手にした杖が光を放つ。
その光は一筋の光線と化しその物体を貫いた。
どうやらかなりの高温となっていたようで、その物体の一部は真っ赤になり、どろどろと溶けて穴をあけてしまった。
その数拍後、一瞬光ったと思ったら爆音とともに砕け散ってしまった。
「あ、出力を間違えましたわ……。私もまだまだですわね。」
ふうとため息を吐くと頭を振る明日香。
その様子を見たゴールドラッドはぱちぱちと拍手を送る。
「あれほどの威力を出せたのです、今は十分ですよ。」
しかし明日香は納得していない様子だった。
その瞳は輝かしいものではなく、ひどく濁っているように見えた。
「まだまだですわ。これではあの男に追いつけませんわ……。今に見ていなさい中村剣斗。私があなたに引導を渡して差し上げますわ……。」
そしてゴールドラッドと明日香はそのまま森の奥へと消えていったのであった。