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第6節 第2話 避難

「た、た、助けてくれ!!」


 前方より聞こえた男の声。

 前衛で警戒に当たっていた狩猟者(ハンター)の元へと駆け寄る姿が見えた。


「とまれ!!さもなくば問答無用で討伐する!!」


 狩猟者(ハンター)の威圧に一瞬びくりと怯む男性。

 本来であればやり過ぎだと非難される一幕であったが、今はそう言っていられなかった。

 万が一寄生種だった場合取り返しのつかないことになりかねないからだ。


「た、助けてください!!村が!!村が襲われています!!」


 それからほどなくして各門には避難者が殺到してきたのだ。

 周辺の町村にも防壁は設置してあったがランク1程度をせき止めるのが関の山だ。

 このご時世対機械魔領域アンチデモニクスフィールドがうまく稼働しており、ランク1の機械魔(デモニクス)の自然発生自体立入禁止区域(デッドエリア)以外ではほぼ起こりえなかった。

 だからだろうか、数世紀前に比べ防壁への税金投入は無駄とされる傾向にあった。

 そのため今回のような騒動に対して無防備に近い状況となっていたのだ。

 



『こちらアドリアーノ小隊、佐々木中隊長応答願います。』

「こちら佐々木、何かあったか?」


 簡易指令所に詰めていた辰之進はアドリアーノからの無線を受け、住民の受け入れについての対応を求められた。

 既に各所からその件については報告を受けており、どうするかということを検討していたのだ。

 そして出した結論は身体検査ののちに受け入れるというものだ。

 このまま放りだしたほうが楽だというのは明白であった。

 備蓄としても有限で、これからさらに避難民を受け入れるとなれば確実に不足してしまうからだ。

 しかし見過ごすことは出来ないと、満場一致で決議されたのだ。


「こちら佐々木、すべての隊員に告ぐ。避難民の受け入れを許可する。ただしすべての住人の身体検査を実施。持ち物はすべて回収すること。特に魔石(マナコア)や機械製品の回収は漏れなく行う様に。」


 無線から聞こえる了解の声。

 深くため息をつくと辰之進は思いふけるのだった。

 これから先どうなっていくのかと。





 指示を受けたアドリアーノ小隊をはじめとする第1大隊の面々は即座に行動を開始する。

 簡易の検査場を設けて男性には男性隊員、女性には女性隊員が付きすべてをチェックしていく。

 体内に隠し持っていないことも確認するために、治療院の技能(スキル)【診察】もちも導入された。

 やはり数名黒フードの手のものが紛れ込んでいたようで、すぐさま捕獲されていった。

 

「やはりまぎれていたみたいだな。」

「女性のほうもよ。」


 あらかた避難民をさばききったところで第一大隊の面々は簡易駐留所に集合していた。

 報告を聞く限りでは3万人に上る避難民に対して100人ほど黒フードの手のものがまぎれていた。

 いまだ調査中の人物を含めると、500人に上る。

 それほどまでに地下で活動を続けていたいという事の表れだった。


 大きくため息をつくエイミーとアドリアーノ。

 そこにどかどかと息も荒く入ってきたのはクリストフであった。


「さすがに解体に骨が折れたぞ。魔石(マナコア)については当面問題ないだろうな。しかしだ、食料はかなりひっ迫するぞ?もってあと1週間ってところかの。補給もままならんだろうしの。」


 汗を拭くながら集めた情報をあげていく。

 聞き取りの結果いまだ避難できていない者もおり、防衛都市にも避難民が殺到しているようであった。


「この波、後どれだけ続くのかしら……」

「わからん。だが俺たちが投げ出したらそこで終わりだろ?だったらやるしかないよな。」


 ため息交じりのエイミーに対して、アドリアーノが苦言を呈した。

 いつ終わるともわからない戦いをこれからも続けていかなくてはならないと思うと気がめいってくる。

 ゴールがない分だけ、精神的なダメージのほうが大きいのだ。




 それから数日、帝都防衛の戦闘は続き、その間にも避難民が押し寄せてきた。

 当初1週間はもつであろうと考えていたが、明日には食料が尽きてしまう段階まで追い詰められていた。


「これはまいったね。まさかこれほどまで長引くなんて……」


 第一大隊の会議室で椅子に背を預け、辰之進は深くため息を吐いた。

 他の隊長たちも同様で、困惑の色を隠せないでいた。

 なぜならば皇帝が号令を発令しないからだ。

 収容施設として抑えている宿泊施設などもすでにパンク寸前であった。

 食糧危機も重なり、住民たちのいらだちはピークに達しようとしていた。

 食糧配給も戦闘を行っているものを優先しているために、それも不満となって湧き出している。

 皇帝の命令で城内に蓄えてある備蓄を解放してくれればどうにかなるのはわかっていた。

 有事の際に使うために備蓄をしているはずであったからだ。

 しかしその解放の指示がないままここまで来てしまったのだ。


 国に対する不満が防衛隊や狩猟者(ハンター)たちに向かってしまっていたのだ。

 それに対して力でねじ伏せようとしようものなら暴動が発生しかねない。


「これだってもうぱさぱさなんだがな……」


 清十郎はとうに賞味期限など過ぎている乾ききったパンをかじり、水で流し込んでいく。


「そう言わないでちょうだい。食料配給を受けられない人もいるのよ?食べられるだけましだと思わないと。」

「だがな……。いや、すまない。気が立っていたみたいだな。」


 いつもならばふざけた調子の清十郎も、どこか歯切れが悪かった。

 エミーリアも疲れ切った表情で窓の外を見ていた。

 眼下では物乞いをする子供たちもちらほら見受けられた。

 既に食料などつき、渡してやれないことに悔しさをにじませていた。


 そんな空気を一変させるように、リンリッドが会議室へとやってきた。


「待たせたな。食料配給が開始される。直ちに警備作業に当たってくれ。」

「やっと皇帝が動いたんですね?」


 リンリッドの言葉に辰之進が反応すると、首を横に振るリンリッド。

 一体どういうことだと不思議がる辰之進に、リンリッドが告げた言葉に皆一様に動揺を隠せなかった。

 ロレンツィオ総隊長のクーデターが成功した。

 これにより第一皇太子が政権を奪取。

 即日戴冠し、備蓄倉庫の解放に踏み切った。


「どういうことですか!?」


 理解が追い付かないとばかりに声を荒げる辰之進だったが、リンリッドは落ち着くようにと着席を促した。


「どうもこうもない。ロレンツィオがクーデターを画策していたのは話たな?それが成就した。というわけだ。」

「まさか老師……。黙認されていたのですか!?」


 リンリッドは軽く頷いて見せた。

 こんな時に何をやってるんだと言いそうになるも、もしクーデターが成功していなければ備蓄食料の解放などありえなかった。

 そう考えるとあながち間違いではなかったのかとも思えてしまった。


「前皇帝は備蓄食料を自分たちだけで消費しようと考えていた。家臣たちがいくら説得したところで耳を傾けすらしなかったようだ。そこでロレンツィオは家臣たちと手を組み、クーデターを成功させたということだ。そして食糧配給が始まる。」


「そのための……いえ、これほどの災害はゴールドラッドのせいですね。ロレンツィオ総隊長はあくまでもそれに乗じた。それが筋書きなんですね。」

「そうだ。」


 ギリリと辰之進の口から歯を強く噛み締める音が聞こえた。

 今にも殴り掛かりそうになるのを意志の力で抑え込み、何とかこらえた。


「老師……、力なき民の犠牲などどうでもよかったという事でしょうか……」

「それは違う。民の犠牲と言っているが逃げ伸びた者たちの中で死人はどれほどいるんだ?」


 リンリッドの言葉にはっとした辰之進は報告書に目を通した。

 すると不思議なことに死人の報告は一切上がっていなかった。

 老衰や病気の悪化はあったものの、機械魔(デモニクス)からの攻撃での死者はゼロであった。

 しかも栄養失調でなくなっている人も一人もいなかったのだ。


「リンリッドの坊や、手筈は上々よ。あとはあのバカ弟子をどうにかするだけよ。これで後光の憂いは晴れたでしょう?」


 会議室に一人の女性が足を踏み入れた。


「ラミアさん!?」

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