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第5節 第4話 交錯する思惑

「それでは総隊長。代わりに説明していただけますか?三首の守護者(ケルベロス)……ゴールドラッドとの関係を。」


 辰之進の射貫くような視線とリンリッドの怒気にいたたまれなくなったロレンツィオは、あきらめたとばかりに肩を落とし、深いため息をついていた。


「ゴールドラッドは私の子飼いだ。この帝国はすでに終わっている。現皇帝の無能のせいでどれほどの人が悲鳴を上げているか。先生はお判りでしょう?この国が推し進める計画を。」

「その計画をつぶす気でいるのか?」


 強い意志を持った眼差しのロレンツィオは、リンリッドにわかる言葉で話し始めた。

 理解に及んでいない面々は事の成り行きを見守ることに決めたのかただ静観するだけであった。

 おかげでいまだに漏れ聞こえるリシャースの笑い声がなんとも不気味であった。


「そうです。あの計画は行ってはいけない。だからこそゴールドラッドを飼っていたのですが……。まさかあの時あれほど暴走するとは思ってもいませんでしたよ。黙らせるためにも一度地下に潜らせる必要があったのです。おかげであいつも少しはおとなしくなったので、計画を実行に移しました。先生が発見した秘匿技術コンシールメントテクノロジーを用いて簡易的なスタンピードを起こす。これは防衛隊と狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)の協力があれば対応可能のレベルで起こすつもりでした。」

「その計画が崩れつつあると?」


 ロレンツィオの言葉に嘘はないかと探っていた辰之進だったが、資料通りの話であるために嘘はないと考えざるを得なかった。


「防衛隊・狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)を前面に出した防衛を行い、手薄になった帝都を掌握。後に城を内部から解放し、皇帝の身柄を抑える予定でした。」

「そこに挿げ替えるように皇太子を戴冠させるということで間違いないな?」


 ロレンツィオは小さく「はい」と肯定すると、顔を伏せてしまった。

 未遂とはいえ国家転覆罪として裁かれることになる弟子を哀れに感じたリンリッド。

 しかしそこに感情を挟んではならないことはリンリッドが一番理解していた。


「ロレンツィオ。今回ばかりは……」


ドガン!!

Gogyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!


 突如聞こえた咆哮。

 鳴り響く緊急事態警報。

 あまりの出来事に一瞬対応が遅れてしまった。


「至急至急!!帝都周辺に機械魔(デモニクス)の大群が押し寄せてきました!!その数推定1000!!おそらくランクは3オーバーです!!」

「なんだと!?」


 焦りを覚えるロレンツィオ。

 予定ではランク1~2程度のスタンピードのはずであった。

 しかしふたを開ければランク3オーバー。

 数も予定数よりはるかに多い。

 いったい何が起こったのかわからないと慌てふためいていた。


「ロレンツィオ……報告書には目を通したのか?」


 ロレンツィオを冷めた目で見つめるリンリッド。

 その言葉に慌てて答えるも、言葉に詰まるロレンツィオ。

 それだけで理解したリンリッドはあきらめにも似たため息をつく。


「第1から第5大隊隊長!!今すぐこっち来な!!」


 いつも以上に威圧を込めたリンリッドの声にびくりとして慌てて集まる大隊長たち。

 ただし、第1大隊のリシャースが使い物にならなかったため、代わりに辰之進が対応していた。


「いいか、ここからは私が指揮を執る。総隊長……ロレンツィオは……まぁ、無理だな。そこで今から10分で隊を編成。早急に帝都の防衛にあたる。第1は北側ゲート。東に第2大隊。南に第3大隊。西を第4大隊が守備。第5大隊は都民の城内への避難誘導。皇帝がごねたらリンリッドが挨拶に来ると伝えるように。かかれ!!」


 一斉に動き出す隊員たち。

 何が何だかわからないうちに話が進行してしまい、ガルラとリヒテルは状況をうまく理解できずにいた。


「二人とも何している、すぐにいかんか!!」


 リンリッドの喝に我を取り戻した二人は慌てて隊舎へと移動を開始したのだった。


「ロレンツィオ……。乗じてクーデターを起こせ。そしてこの国を掌握するんだ。おそらくこの先ゴールドラッドによってこの国は荒れる。今悔いるならば、その命最後まで使い切るんだ。」

「先生……。」


 困惑するロレンツィオのケツを蹴り上げると、リンリッドはにやりと笑って見せた。

 毎度いたずらするたびに見せるその笑顔に、どこか懐かしさを覚えたロレンツィオは、リンリッドに一礼するとその場を後にした。


「さて、私も後始末をしないといけないな……」


 消えそうな声でつぶやくリンリッド。

 ゆっくりと歩みを進め、会議場を後にしたのだった。




「ぐひゃひゃ。うぐふっ……。くくくっ……。ふぅ~。やっと行ったな……。それにしても馬鹿な奴らだ……。」


 誰もいない会議場に一人残されたリシャースは、不気味なほほえみを浮かべる。

 いつの間にか手にしていた杯は、リヒテルたちが目にしたものと酷似していた。

 鈍い銀色に光る杯をうっとりとした表情で眺めるリシャース。

 その見た目も相まって不気味さに拍車がかかっていた。





 隊舎に戻ったリヒテルは急ぎ第1大隊の宿舎へ向かう。

 広間にはすでに隊員が集まっており、臨時の大隊長を辰之進が務めていた。


「皆集まったみたいだな。聞いての通り機械魔(デモニクス)のスタンビードがすでに城壁に到達している。幸い今はランク2がメインでところどころランク3が混じり始めている。現状狩猟者連合協同組合(ハンターギルド)が対応しているが、それも長くはもたないだろう。そこで我々が追撃にあたり機械魔(デモニクス)どもを駆逐する。」


 しんと静まり返る広間。

 誰も声をあげることができなかった。

 既に状況はある程度皆把握していた。

 つまり死地に赴くと宣言されたようなものである。


「佐々木中隊長さんよ。俺たちならやれると踏んだから話したんだろ?」

「あぁ。」

「だったら問題ない。そうだろみんな!!」


 アドリアーノが辰之進にわざと確認する。

 それに気が付いた辰之進もわざとらしいほど大げさに頷いて見せた。

 そのやり取りに触発されてか、隊員たちの士気が一気に上がっていく。

 口々に倒してやるだの、殲滅だの言っていたが、皆手足が震えている。

 そう、これは皆の空元気。

 かくいうアドリアーノも同じである。

 がくがく震える足腰を奮い立たせ皆の先陣を切ったのだ。


「さぁ、行くぞ!!我ら第1大隊の総力戦だ!!」


 辰之進は各中隊との無線通信を確立し、さらに小隊ごとの編成を行う。

 リヒテルは慣れたアドリアーノ小隊に編成され、今回もまたエイミーたちと行動を共にすることとなった。


「リヒテル君よろしくね。」

「エイミーさんもよろしくお願いしま……」


 リヒテルが最後まで言葉を発することはなかった。

 既にエイミーに抱き着かれ、言葉を発することが物理的に不可能な状況にあった。


「はいはい、じゃれるのはそれくらいにすること。」


 べりべりと音が聞こえそうなほど一気に引き離された二人。

 そこに立っていたのはいつも通りにアレックスである。

 エイミーを睨みつけるアレックスであったが、エイミーの震えに気が付きこれ以上言うことはなかった。

 リヒテルもまた、抱き着かれた際にエイミーの鼓動が激しくなっていたことに気が付いていた。

 皆口では軽く言っているが内心は緊張を隠せないでいたのだ。

 だからこそいつも通りに行動しようとしていたに過ぎなかった。


「クリストフもリチャードもいいな?」

「おう!!」

「はい!!」

「ではアドリアーノ小隊出発する!!」


 アドリアーノは勢いよく詰所を飛び出した。

 リヒテルたちも弱る心を奮い立たせ、詰所を飛び出した。



 そうしてリヒテルにとって忘れられない一戦がここに幕を開けたのであった。

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