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第2節 第1話 始まりの物語

カシャカシャカシャカシャ!!


「いやだ……僕はこんなところで死にたくない!!僕は狩猟者ハンターになるんだ!!」


 深く暗い森の中に、一人の少年の悲鳴が木霊する。

 必死で少年は逃げ続ける。


 少年の後を小型の4足歩行の機械魔デモニクスが追いかけてくる。

 小型といっても全長2mはあろうかというサイズだ。

 身体は鋼鉄の体躯に、動物の筋肉や皮を思わせる外装が張り付けられていた。

 その体からは1門の砲身が伸びている。

 1mの長さの砲身で約10口径と思われるその速射砲は、常に少年を探し続けていた。

 時折ドキュンという音と共に、少年に向けて弾丸が発射される。

 さほど威力は高くないようで、木々にぶつかるとめり込むものの粉微塵にするほどではなかった。

 少年は木々を背に逃げまくる。

 見つからないかドキドキしながら、今生きている実感を肌で感じていた。

 だから思うのだ〝死にたくない〟と……

 己の欲求である〝狩猟者ハンターになりたい〟と……




ゴーン、ゴーン、ゴーン


 13時の時間を知らせる音が、街中に響き渡る。


 リヒテルが霧の中に消え、行方不明となった日より遡ること28年前……

 雪がちらつき始め、冬の到来を感じさせる寒い日。

 11月20日。

 毎年この日にとあるイベントが行われる。


適性診断ジョブダイアグノース


 その日までに7歳を数える子供達が、各街の役所に集められる。

 イベントは絶対参加で、もし参加できない場合は別日で対応となる。

 これは法律として制定されており、違反者には罰則も設けられていた。


 街の中央広場に設営されたイベント本部のテントには、多数の来賓者が出席している。

 このイベントによっては町の担い手に大きな変化が訪れるからだ。


 更に広場中央には祭壇のような大きな設備も設置されていた。

 その設備からはガコンガコンとそれなりに激しい機械の動く音と、プシュープシュー蒸気機関を思わせる音が響き渡る。



ピーーー

ガガガ


ガコッ


「あ~、あ~、あ~。マイテッ、マイテッ。」


 少し年配を思わせるような男性の声が、各所のスピーカーから響き渡る。

 マイクの性能のせいか、若干音が籠っており聞き取り辛くもあった。

 男性は後ろを振り向くと、その先にいた音響担当へ調整の指示を出していた。


「あ~、おっほん。皆さんお集まり頂き誠にありがとうございます。司会進行を努めます副市長の神崎です。定刻となりましたので、始めていきます。順番は事前に郵送したチケットのナンバー順です。順番になりましたらお子さんと一緒に、機械中央に進んでください。中央の円の中にはお子さんだけ入るようにしてください。では、1番のご家族からどうぞ。」


 機械の近くに立つ職員の誘導でイベントはスタートした。


 適性診断ジョブダイアグノース

 新世代機械技術(ニュージェネレーションテクノロジー※以後NGT)の進歩により、その人物が持つ技能スキルを確認出来る装置が開発された

 そしてその技能スキルに合ったその子供にとって一番適性のある職業が判断されるのだ。

 それにより、人々は自身の適正に沿って職業に就くようになった。

 これは減りすぎた人々を効率よく配置する為の策の一つでもあった。




「父さん!!俺絶対に父さんみたいな狩猟者ハンターになる!!」


 一人の少年が、手をつないだ父親にそう宣言していた。

 その眼には希望に満ち溢れ、これから行われる適性診断ジョブダイアグノースを今か今かと待ちどうしそうにそわそわしていた。

 周りを見渡しても、同じように自分の親と同じ職業に就きたいと思っている子供たちもいたが、親からは少し落ち着くようにと窘められていた。

 この少年も漏れずに、父親から注意を受けたのだ。


「お、私と同じ職業を目指すのか……。喜んでいいんだか、悲しんでいいんだか……。なあ母さん。」


 男の子の父親は何とも言えない表情を浮かべていた。

 どことなく嬉しそうで、どことなく心配するような。

 男の子の握る手が一層力強くなる。

 それを感じ取った父親は、とても嬉しそうにしていたのだった。


 その家族の前では順番に適性診断ジョブダイアグノースが行われていった。

 喜ぶ家族もいれば、落胆する家族もいた。

 それは致し方のない事なのだ。

 誰しもが希望の職業を診断される訳では無いのだから。

 あくまでもその子供に一番合った職業を提示しているだけに過ぎないのだから。

 そこには一切の感情は反映されず、機械的に処理されているだけに過ぎないのだ。

 さらに言えばいくら権力者の子供だからと言って、適性の無い職業に就くことは出来なくなっていた。


 すると前方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 少年と両親は何があったのかと、そちらに注視した。


 少年の3つ前の子供が大喜びをしていたのだ。

 両親も大喜びしていることから、どうやら目的の職業を診断されたようだ。


「パパ!!ママ!!僕は科学者サイエンティストだ!!」

「すごいぞマルチネス!!」

「すごいわマルちゃん!!さすが私の子供よ!!」


 周囲から祝福の声が上がる。


 科学者サイエンティストはこの世界において、かなりの権力を誇る職業の一つでもある。

 研究結果次第では、その辺の政治家よりも発言力が強くなったりもする。

 この世界の科学技術……NGTを発展させてきたのは間違いなく彼らの存在が必要不可欠だったのだ。


「父さん!!すごいね!!僕もなれるかな?狩猟者ハンターに……」


 父親は少年の期待の篭った眼差しに、大丈夫だと声をかけることが出来なかった。

 母親もまた同じだ。




 そしてついに少年の番がやってきた。

 少年は今にも駆け出しそうになるのを、両親に窘められる。

 それほどまでに期待いっぱいで、この日を迎えていたのだ。

 少年からしたら、この日は少年の晴れの日になるはずだからだ。


「では624番のご家族の方~。はい、チケットを確認しますねぇ~。リヒテル・蒔苗君ですね。はい、確認出来ました。ではご両親はここでお待ちください。リヒテル君はそこのお姉さんについていってね。」


 受付担当の女性から名前を呼ばれたリヒテルは、案内担当の女性の後を小走りでついていく。

 その姿を見送った両親は、リヒテルが落胆して戻って来ない事を祈らずにはいられなかった。




「それじゃあ、リヒテル君。この円の中に入ってじっとしててね。」


 案内担当の女性がリヒテルを円の中心に案内をした。

 リヒテルは緊張の面持ちで、その円の中心に立つ。

 案内担当の女性が円の中から外に出ると、装置の起動ボタンを操作した。


キュイーーーーーーーン!!


 突如リヒテルの耳に不快音が鳴り響く。

 あまりのうるささに耳をふさごうとしたが、体が全く動かなかった。

 リヒテルはその状況に冷静さを失いかける。

 しかし、体が動かず恐怖だけが増幅していく。


キュイーーーーーーーン!!


 なおも鳴り響く不快音。


———適性診断ジョブダイアグノースを開始———


 謎の女性の声がリヒテルの頭の中に響き渡る。

 またしてもパニックに陥りそうになるも、何かが邪魔をして慌てる事も出来ずにいた。


———情報体を確認……リヒテル・蒔苗……確認———


 突然自分の名前が呼ばれ、緊張の度合いが一気に階段を駆け上る。

 怖い!!逃げたい!!助けて!!

 誰も助けに来てくれない状況に、恐怖が上限を振り切っていく。


———検索結果……エラー……再検索……エラー———


 何度も再検索・エラーが繰り返されていく。

 リヒテルは発狂すら出来ない恐怖に、徐々に自我を閉ざしていく。


———特例承認……承諾……これより適性の作成を開始……完了———


 告げられた完了の声。

 そして不快音は既に止んでいた。




 リヒテルが装置から解放されると、案内担当の女性は慌てて駆け寄っていた。

 両親もまた、装置の中央で倒れているリヒテルのもとに駆け寄り、抱きかかえたのだった。




 両親や案内担当が慌てているのには実は理由があった。

 なんと、外でも異常が発生していたのだ。

 案内担当の女性が起動の為に一つ目ボタンを押した際、今までにない反応が起こったのだ。


 本来であれば装置に組み込まれた魔方陣が起動して、子供たちを光の薄い膜で覆うのだが、今回に限ってはそうはならなかった。

 確かに魔方陣は稼働していた。

 しかしそこに取り込む魔素マナの量が尋常ではなかったのだ。


キュイーーーーーーーーーン!!


 けたたましく鳴り響く不快音が、その異常性を知らせる。

 慌てた案内担当の女性は、上司に報告後直ちに装置の停止ボタンを押した。

 しかしそのボタンは反応する事はなかった。

 いや、停止ボタンは確実に反応はしていた。

 しかし装置は止まる事無く稼働を続ける。

 辺りに響き渡るプシュープシューという蒸気機関に似た魔素発電装置マナジェネレーターの激しい稼働音。


 その間にもリヒテルを包む光の壁は、その色をどんどん濃くしていった。

 はじめは淡い青色だったが、今では真っ黒に染まっていたのだ。


 異変に気が付いたリヒテルの両親も、慌てて駆け寄ってきた。

 しかし、装置は稼働中で、その真っ黒な魔方陣の壁により、中には近づけなかった。


プシュ~~~~~~~~~~~!!


 最後の一際大きな音と共に装置は完全に停止し、リヒテルは解放されたのだった。

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