第3節 第1話 大型種?
アドリアーノの指示で一斉に行動を開始する。
後方から聞こえる叫び声。
それと同時に地面を揺らす振動。
その振動の大きさから、かなりの大きさの何かであることは容易に想像できた。
そしてこの立入禁止区域で存在するもの。
すなわち機械魔であると。
「急げ!!おそらく機械魔の大型種だ!!」
アドリアーノの焦りが混じった指示に、全員が全速力で立入禁止区域を駆け抜ける。
散りじりになった場合、生存率は上がるであろうが今ここにそれを望むものはいなかった。
全員での帰還。
それを目標に駆け抜ける。
GOGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
キュイーンという魔素が収束する音がリヒテルの耳に届く。
魔砲使い特有のその聴覚で危険が迫っていることを理解した。
「全員緊急散開!!」
リヒテルは思わず叫んでしまった。
皆もそれにつられ、一斉に左右に飛びのいた。
次の瞬間だった。
今まで自分たちが走っていた場所に光の帯が到達したのだ。
幅5mにわたって直線状に抉られた台地。
表面はところどころガラス化しており、その温度の高さがうかがい知れた。
そしてリヒテルの危機察知のおかげで命拾いしたことを幸運に思うと同時に、その直正常に見えた巨体に愕然としてしまった。
「畜生……ここはランク3だぞ?どう見てもありゃランク4以上じゃないか……」
その姿にアドリアーノは愕然としてしまった。
補給物資があれば問題なく対処できるだろうが、今は緊急帰還真っ最中であった。
補給物資もまともに受け取っていない状況で戦うのは自殺行為に等しいと判断せざるを得なかった。
ドシリドシリと地面を揺らしながら歩を進める大型機械魔。
その姿かたちは像そっくりだったがその大きさが異常だった。
遠目からでもはっきりと見える姿が、その巨大さを物語っていた。
「うそ……そんな……」
「どうしたエイミー……ってまさか?!」
エイミーが技能【鷹の目】で見たものに愕然としてしまった。
クリストフはエイミーの異変に気が付き、その原因がなんであるか理解した。
「まさか……ヒョウガか?!」
「絶対許さない!!」
驚きを隠せないアドリアーノと、怒りを隠せないエイミー。
二人の感情が憤怒へと変わっていく。
エイミーがすぐさま弓を構える。
おそらく反射的だったのだろう。
ここで反撃せずに逃げるのが本当であれば正解であった。
しかし、今のエイミーやメンバーにそれができるかといえば無理だった。
ただでさえ先ほどまで兄のライガを弄ばれていたのだ。
その怒りの度合いといえば推し量ることなど出来はしなかった。
放たれた矢は一直線に機械魔へ向かって飛んでいく。
さすがに距離がありすぎたためか届くことはなかった。
しかしその殺気は間違いなく機械魔へと届いていた。
GOGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!
さらに一啼きした機械魔はその歩みを加速させていく。
「リヒテル、緊急承認!!ランク5解放許可する!!」
「え?!」
アドリアーノは討伐を決意した。
しかし今の戦力では間違いなく壊滅してしまうと判断し、隊長権限でリヒテルの封印解除を許可する。
「わかりました。手持ちの魔石すべて使いますけどいいですよね?」
「構わん!!責任は俺が持つ!!やばいと判断したらリヒテルの判断で使用するように!!」
リヒテルはみんなから集めた魔石をいったん預かり、インベントリへと押し込む。
「まずは一当てしますよ?」
「任せた。」
リヒテルは再度魔弾装填を始めた。
「照準開始……ロック。装填開始。」
———第一層 属性指定……追尾を選択……了承しました———
光の円環がまたも魔砲へ絡みつく。
———第二層 属性指定……拡散を選択……了承しました———
二つ目の円環が形成される。
———第三層 属性指定……爆発を選択……了承しました———
三つ目の円環が形成されると、即座に魔砲陣を展開する。
———魔砲陣展開完了……発射条件クリア……スタンバイ———
「ファイア!!」
間髪入れずにリヒテルは引き金を引いた。
展開された魔砲陣から飛び出した魔弾は周囲へ目もくれず、機械魔へ向かって飛んでいく。
その閃光は激しく、まばゆい。
途中で第二層の拡散が発動する。
一筋の閃光が二筋、三筋と分散していく。
その数が20を超えたときついに機械魔へと到達した。
その距離おおよそ5km。
明らかに異常な距離だった。
この異常さも魔砲使いが狩猟者の花形と言われる由縁でもあった。
到達した魔弾は機械魔の躯体にカンカンとぶつかる。
次の瞬間。
そのぶつかった場所から大きな爆発が発生したのだ。
ドカンドカンと20回の爆発が起こる。
そのたびに黒煙が上がる。
その激しい爆発にすぐに戦いは終わると思っていた。
しかしそうはいかなかった。
煙が晴れた場所には無傷の機械魔が佇んでいたのだ。
「嘘……だろ?」
動揺を隠せないリチャード。
皆も同じ思いだった。
むしろリヒテルの動揺が一番大きかった。
確かな手ごたえを感じてはなった一撃。
今使える最大出力の威力を誇る一撃だった。
それが無傷ということは、今現在のリヒテルでは傷一つ付けることすら叶わないことの証明であった。
「くそ!!退避だ!!」
苦虫を嚙み潰したように悔しがるアドリアーノ。
助けたかったヒョウガをそのままにして逃げかえる屈辱がアドリアーノを苛む。
手に負えないと判断したアドリアーノの指示で再度撤退を開始する。
己の考えの甘さを悔やみつつ全力で駆け抜ける。
しかし後ろから聞こえる音は刻一刻と近づいてくる。
どう考えても出口までには追い付かれると思われた。
「アドリアーノさん退避をお願いします。巻き添えになるかもしれませんから。」
「なにいって……いや、そうか。わかった。みんな先に行け。俺とリヒテルで時間を稼ぐ。」
「隊長!!」
リヒテルの言葉で理解したアドリアーノはエイミーたちに帰還命令をかける。
しかしそれに異を唱えたエイミー。
「大丈夫だ。それにライガたちを連れ帰ってやってくれ。いいな。」
「隊長……」
いまだ異を唱えそうなエイミーをクリストフが無理やり引っ張っていく。
「エイミー!!儂らがいては邪魔になる!!わからんか!?」
「……!!」
一層エイミーをつかむ力が強くなる。
そのクリストフの様子にエイミーも何も言えなくなった。
クリストフとしても断腸の思いだと感じたからだ。
4人は一礼すると、全力で離脱を開始した。
それを見届けたアドリアーノは胸元から1本の煙草を取り出し火をつける。
プカリプカリと紫煙を燻らせ、ゆるりとして見せた。
「アドリアーノさん。いいんですか?」
「何がだ?まさか隊員一人置いて隊長に逃げろっていうんじゃないだろうな?」
おどけて見せるアドリアーノに、リヒテルは肩を竦めて見せる。
すでに機械魔との距離は3kmを切っているように見えた。
「巻き添え喰らっても知りませんからね?」
「巻き添え上等。何度あの中隊長たちの巻き添え喰らってると思うんだ?」
ふぅ~っと一つ息を吐くと、リヒテルは深く……より深く集中していく。
———魔石の反応を確認……ロック第1から第5までの開放を申請……アドリアーノ小隊アドリアーノのより緊急承認しました———
射撃管制補助装置から聞こえてくる機械音声。
リヒテルは今現在威力としては最高を誇る一発にかけることにした。
魔石がリヒテルの魔石とリンクしていく。
ドクリドクリと脈付き、一つの生命の誕生を思わせる一種異様な空気が充満する。
手にした魔石が姿を変えていく。
そして出来上がったのが一つの太い筒状のものであった。




