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第1節 第2話 緊急事態と命令無視

 封印解除の承認後、淡い光を放ち始める魔石(マナコア)

 その光は徐々に強くなりそして一つの魔砲を形作る。

 それは以前リンリッドが使用していた愛銃でもあるライフルを元型にした魔砲であった。

 細部は違えどその見た目は似ており、面制圧よりも一撃の威力を重視した形であった。


「いつ見ても不思議な感じだな。中隊長の【ブラックスミス】を見ていて思うが、リヒテルのはまた雰囲気が違うな。光り方が中隊長よりもさらに強い。いわば強そうだ!!」


 アドリアーノは魔砲生成を終えたリヒテルに近づくと魔法をまじまじと見つめていた。

 リヒテルが普段使っているのは連携を意識して、制圧力を優先した魔銃である。

 アサルトライフルと呼ばれる分類で、今作ったライフル型魔砲とは違うコンセプトのもとに生まれた魔銃である。


「強そうって……。ランク3の開放ですからそれほどでもないですよ。中型機械魔(デモニクス)を貫通できれば御の字です。」

「十分だと思うぞ……」


 小隊メンバーはリヒテルの発言に呆れながら生暖かい目で見つめるのであった。




「よし、アドリアーノ小隊はこれより立入禁止区域(デッドエリア)ランク3であるこの森の西側A5で補給を受けつつ北側D4を目指す。途中の補給部隊の合流の前に群れに遭遇した場合は補給部隊には近づけないよう細心の注意を払うように。以上。それでは出発する。」


 出発の準備を整えたリヒテルたちはアドリアーノの号令とともに野営地を出発した。

 合流地点までは直線距離で約30km。

 リヒテルたち狩猟者(ハンター)の身体能力をもってすればどうってことのない道のりである。

 おそらく合流までは約1時間もかからない予測となっていた。


 移動を始めて10分後、リヒテルたちの腕輪からブザーが鳴り響く。

 小隊に一気に緊張が走った。

 周辺警戒態勢に移行した小隊は、相互に死角を補い密集形態となる。


『アドリアーノ小隊応答願う!!こちら補給第8部隊!!こちら第8補給部隊!!現在機械魔(デモニクス)の群れが接近中!!ランク3を多数確認!!至急応援願う!!って、ちょっと待て!!来るな!!すぐに退避だ!!ランク4相当の大型機械魔(デモニクス)確認!!【イレギュラー】体だ!!にげ………………。』


 補給部隊の通信が途中で途切れ、緊急事態であることが伝わってくる。

 小隊全員に緊張の色がうかがえる。

 アドリアーノはすぐに本部に連絡を入れ、対応を迫る。

 本部としては立入禁止区域(デッドエリア)ランク3に作戦展開中の全部隊に即時撤退の命令を下した。

 しかし、アドリアーノはいい顔をしなかった。

 そして小隊のメンバーの顔を見回す。

 そこには覚悟を決めた強い意志が見てとれた。


「本部……聞こえますか?こちらアドリアーノ小隊、こちらアドリアーノ小隊。本部応答願います。応答願います。ってあれ~おかしいなぁ~。通信が悪いのか?これだからテスト機は困るよな。本部~?本部~~~?」


 通信機器からは本部の声が聞こえてくる。

 しかしアドリアーノはあえて聞こえてこないふりをしていた。


「こちらアドリアーノ部隊。本部応答ねが……ます。ほ……お……ね……ます。」


ピッ 


 アドリアーノは本部の声を無視し通信を強制的に切断してしまった。


「いや~困った困った。通信が切れて作戦の最終確認ができなくなってしまったよ。」


 両手を広げていかにも困ったといわんばかりのジェスチャーをするアドリアーノ。

 あまりの白々しさにリヒテルも思わず笑ってしまった。


「アドリアーノさん。行きましょう。」

「わかってきたねぇ~リヒテル。悪いなみんな。一緒に怒られてくれ。」


 アドリアーノはおどけた雰囲気でメンバーに頭を下げる。

 全員すでに覚悟は決まっていたのでたいして気にはしていない様子であった。


「アドリアーノ小隊各位、これより第8補給部隊の救援に向かう。各自5分で装備点検ののち出発とする。かかれ!!」


 アドリアーノの号令とともに即座に行動を開始する。

 リヒテルも自身の装備を確認していく。

 防具も魔砲も特に問題は見られなかった。

 魔石も回収分を使えば問題はない量を確保している。

 一つ気になる点は魔銃用の残弾が心許ない点だけである。

 最悪封印をセキュリティーレベル4まで〝強制開放〟すればいいとも考えていた。


「では出発する!!」


 きっちり5分後、準備を終えたアドリアーノ小隊は第8補給部隊の救援へと向かうのであった。




「こいつはひでぇ~な……」


 第8補給部隊との合流予定地点へ近づくにつれ、小型・中型の機械魔(デモニクス)に遭遇する頻度が増えていく。

 一体一体は特に問題は生じてはいなかった。

 しかし、普段の個体よりも性能が上がっているように感じていた。

 しかも連携が取れすぎている。

 おそらくリーダー格になる機械魔(デモニクス)が存在しているのだろうとアドリアーノは推測する。


「気を付けろ、おそらくランク3相当の指揮クラスの機械魔(デモニクス)が発生している。囲まれたら俺たちも厳しくなる。警戒を怠るな。」

「了解。」


 耳につけた無線機からアドリアーノの指示が飛ぶ。

 リヒテルは射撃管制補助装置(バイザー)越しに周囲を警戒する。

 射撃管制補助装置(バイザー)の照準補助機能を利用して早期索敵を行っていた。

 おかげで数回早期の発見ができ、遭遇戦にならずに済んでいた。


 そして合流予定地点についたアドリアーノの小隊が目にしたものは凄惨な殺戮現場であった。

 そこにはいくつもの大穴が開いており、激しい戦闘が繰り広げられていたことがうかがえた。

 警戒しつつも周囲を伺うと、いくつもの装備品や遺体が転がっている。

 原型をとどめている遺体は少なく、だれか判別するのは難しい状況であった。


「各自警戒体制のまま生存者の確認。離れすぎるなよ。」


 リヒテルたちは各自の距離を保ったまま散会し、生存者の確認を行う。

 むろん索敵は怠ることはしなかった。

 リヒテルが受け取るはずであった弾薬箱も散乱しており、いくつかは使用不可の状況だった。

 幸いだったのが4ケースほど無事なものが見つかり、補給が可能であったことだった。


「一旦集合。ここでの生存者捜索を完了する。」


 10分ほど確認作業を行ったが、生存者は見つからなかった。

 しかし遺体の数から考えると、遺体が少なすぎたのが気がかりだった。

 アドリアーノも同じ結論に達したようで、戦闘の痕跡のあるほうを確認することにしたのだった。


 しばらく確認作業を続けると、茂みがガサゴソと動き始めた。

 リヒテルたちは一気に戦闘態勢に移り、いつ機械魔(デモニクス)が襲ってきてもいいように気構える。

 しかしいくら待っても襲ってくる気配がしない。

 しびれを切らしたリチャードは大楯を構えゆっくりと茂みに近づいていく。


「隊長!!すぐに来てください!!」


 リチャードが目にしていたものは一人の少女であった。

 全身傷だらけで今にも事切れそうな様子であった。

 リチャードは慌ててその少女に近づく。

 普段ならそんなことは絶対にありえない行動である。

 しかし、この戦場でこの状況。

 リチャードの意識から警戒心が消えてしまっていた。


「たす……けて……。」

「大丈夫だ。すぐに治療してやるかなら。」


 リチャードは手にしていた大楯から手を放し、インベントリから止血剤と包帯を取り出す。

 そして治療のため少女に手をかけた時であった。

 その少女から聞こえるはずのない音が聞こえてきたのだ。

 そう、機械音が。


「寄生体だ!!」


 その言葉とともに飛びのくリチャード。

 少しでも反応が遅れていたらリチャードはこの世にいなかった可能性があった。

 その場所にはいくつものとげが迫り出していたのだ。


「たす……けて……お兄ちゃん……」


 少女は助けを求めて飛びのいたリチャードに手を伸ばす。

 その伸ばされた腕はぐにゃりといびつに形を変えていった。

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