第2節 第3話 錬成の魔女ラミア
ガルラの祈る姿を優しげな表情で見つめるラミア。
そしておもむろに作業に取り掛かる。
先程集めたガルラの剣の破片を作業台へと並べる。
その手付きは大事なものを扱うように優しさが見て取れた。
そして作業台から離れたラミアは、壁に並べてある資材からいくつかの材料を取り出す。
数個の金属塊と機械魔の躯体。
機械魔の躯体はリヒテルが見たことのないものなので恐らくはランク3相当のものであることが見て取れた。
それらを作業台へ並べると、ラミアは全ての素材に語りかける。
どうなりたいのか、どうしたいのか、どうなってほしいのか。
優しさに包まれたその言葉は、呪文となり詠唱となり素材を包み込んでいく。
作業台の四つ角には魔石が組み込まれており、魔石から魔素が溢れ出す。
そしてラミアの胸のあたりも共鳴するかのように2つの魔石が光り輝いていく。
その時リヒテルは気が付いた。
ラミアもまた技能習得を行ったのだと。
そしてそれがラミアの企業秘密なのだと。
リヒテルの驚きをよそにラミアの作業が続いていく。
ラミアの魔石と作業台の魔石の共鳴がどんどん強くなる。
薄ぼんやりと見えたその姿は、神のような神々しさを放っていた。
そしてラミアがガルラに左手を掲げると、何か光の線のようなものが繋がったように見えた。
一瞬ビクリとしたガルラだったが、祈ることを辞めることはなかった。
更に祈りが強くなったのか、その線の光が強くなる。
その直後であった。
作業台に置かれた素材たちがふわりふわりと浮き上がったのだ。
その様子に呆気にとられ言葉の出ないリヒテル。
あまりに現実離れした光景をどう表して良いか分からなかったのだ。
それら素材がゆっくりと一つになっていく。
混ざりあった素材は一塊となり、ラミアの手に収まる。
そしてラミアがその塊を手に取ると、徐々に形を変えていった。
はじめは丸かった塊だったが、一本の棒へと変わる。
そして棒から十字の形へ。
最後に現れたのは一振りの大剣だった。
その大剣は華美な装飾は施されておらず、無骨と言っても良いものだった。
ただただ壊れない。
ただただ目の前の物を斬り伏せる。
そのスタンスを見事に体現した姿をしていた。
リヒテルは見惚れていた。
自分が行う【ブラックスミス】とは異なる、武器の具現化。
まさに神業だと思うリヒテルであった。
「できたわね。うん、上出来上出来。ガルラ、もう良いわよ。」
ラミアの声に反応してガルラの祈りが終わる。
そして視線を上げた先には一振りの大剣。
それが自分の新しい相棒だとは一瞬思わなかったのだろうか、その顔はほうけ顔であった。
むしろ見惚れているとも言えるのかもしれない。
ガルラはラミアに促されるようにその大剣を手にした。
一振り一振り……
縦に横にと感触を確かめるよに振り回すガルラ。
その表情は徐々に喜色ばんでいった。
そして最後の一振りを終えると、作業台へそっと大剣を戻したガルラ。
その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ありがとうございますラミアさん。相棒が帰ってきました。」
「そうね、礼は大剣に言いなさい。あんたの為にその生命を燃やして戦い、そしてあんたの為に生まれ変わった。あんたをまた守る為に。大事にしなかったら承知しないからね?」
ラミアの少しおちゃらけた口調とは裏腹の真剣な眼差しに、ガルラもまた真剣な視線で答えた。
言葉はそこにいらなかった。
ガルラの決意がその目に見て取れたからだ。
「じゃあ、次は試し切りね。作業場の裏に試斬場があるから案内するわ。」
ラミアの案内でまた場所を移動する。
ガルラの背には大事に背負われた相棒の姿が有った。
裏庭に準備された試斬場はさほど広いものではなかった。
おそらく奥行き20mは無いであろうスペースには失敗作と思われる剣や鎧が所狭しに並んでいた。
どれも見るも無惨な状況で、日々試し切りに使われているのがよくわかった。
「よし、じゃあいってみようか。」
ラミアはそう言うと、おもむろに石でできた台の上に金属製の鎧だったものをおいた。
既にほぼほぼ原型はとどめておらず、金属塊と言ってもいいくらいだった。
その分密度が上がっており、並の剣では刃こぼれをおこしてもおかしくは無い。
ガルラは背負った相棒を下ろすと、ゆっくりと構えを取る。
縦斬りでは石の台に当たると判断したのか、ガルラは横薙ぎで躊躇なく振り抜いた。
キン
ガルラが振り抜くと、小さな金属の衝突音が聞こえただけだった。
リヒテルは一瞬かすっただけかなと思ったが、そうではなかった。
一拍遅れてずれ落ちる鎧の残骸。
リヒテルとラミアは慌てて駆け寄ると、その断面を見て驚きを隠せなかったのだ。
ツルツルときれいな断面がそこに有ったのだ。
「さすがにこれは驚いたね。作った私が言うのも変だけど、これほどのものになってるとは思わなかったよ。ガルラ、扱いには十分に気をつけなさいね?」
ラミアの言葉にリヒテルも同意を示す。
万が一これが人に向けられたら……
その人物の命など一瞬で散ってしまうからだ。
「わ〜てるよ。むやみにこいつを振るったりしない。ラミアさん一振り予備の武器を見繕ってもらっても良いかな?流石にこいつは普段遣いにはむかないみたいだからよ。」
「そうだね。そのほうがいい。じゃあ、中に戻ろうか。」
ラミアに一振り予備の武器を見繕ってもらったガルラは、その剣を腰に下げご満悦だった。
支払いを済ませたガルラはリヒテルに目を向けると、一つ頭を下げた。
「悪いなつきあわせて。」
「いいって。それに今日はいいもの見れたし、いい武器も手に入れたからね。」
そう言うとリヒテルは自身の背にある武器と腰に差した武器を指さした。
背には西洋鎌を思わせる武器が背負われていた。
そして腰にはガルラと同じ様な剣が見える。
「まさかその武器を選ぶとは……。物好きもいたもんだね。」
「ラミアさん、売ってる店の人間が言う言葉では無いですからね?」
カラカラと笑いながらリヒテルに話しかけるラミア。
それを若干ジト目になりながら返すと、リヒテルは満足げに答えた。
「決まってるじゃないですか……ロマンです‼」
「俺はそのロマンに巻き込まれたってわけか。」
ガルラも少し呆れながらも、リヒテルの器用さを知っているだけに、問題ないだろうと思っていた。
「そうそうリヒテル君。君は相棒はそのままで良いのかな?」
「え?扱ってるんですか⁉」
リヒテルは驚きのあまりに声を上げてしまった。
見回す限り銃関連の商品は扱っているようには見えなかった。
物理系装備の店という認識だったからだ。
「ここにはおいてないだけよ。隣の店……って言っても繋がってるんだけど、そっちにおいてあるわ。今から行ってみる?」
「ぜひ‼」
嬉しさのあまりに食い気味に答えたリヒテル。
その目は輝きに満ちていたのだ。
「リンリッドの坊やも昔はよく通っていたのよ。最近は別な相方を見つけたみたいでそっちに世話になってるって言ってたからね。それじゃあ、行ってみましょうか。」
ラミアが店の脇に設置された扉を開けると、そこに広がっていたのは間違いなく銃火器の工房であることを示すであろう武器が並んでいた。
銃本体以外にもカスタムパーツも取り揃えており、リヒテルのテンションはバク上がりであった。
そんなリヒテルにガルラはついていけず、若干引き気味の表情を浮かべていた。
そう、この時帰るべきだったとガルラは後に語っていた。