第2節 第1話 無道武具店と錬成の魔女
長い狩猟を終えたリヒテルたちは、王都のハンターギルド帝都支部の酒場でくつろいでいた。
借り受けていた腕輪ごと狩猟者連合協同組合へ提出し、その使用状況を報告し終えたところであった。
「ここにいたか。老師お疲れさまです。それで腕輪の調子はどうでした?」
酒場でくつろぐリヒテルたちの元へロバートがやってきた。
おそらく報告書は読んだであろうが、それでも生の声を聞きたいとここへとやってきたのだ。
「そうさね、悪くわ無いわな。左の収納と右のデータ。もっと早くにもらいたかったものだぁ〜ね。そうしたら……っと、今更言っても仕方がないことさぁ〜ね。」
「そうですな。二人はどうだったんだ?」
リンリッドは何かに一瞬言葉をつまらせながら、話を戻していった。
その空気を読んでかロバートはリヒテルとガルラへ使用感の確認を行った。
リヒテルとしては使い勝手は良かったと感じていた。
特に右腕に装着した”データ端末”に感心していた。
右腕の腕輪型端末を開くと、マップを開くことができ、登録者どうして共有することが出来るのだ。
しかも狩猟者連合協同組合とも連携されており、救難信号等も発信可能であった。
更に、登録者同士での通信も可能で、最大有効範囲が約100kmにも及ぶと合っては、狩猟時の戦略がが著しく変化することも予想された。
リヒテルとガルラは思い思いの感想を述べる。
取り出しの際一瞬反応が遅れることや。
腕についたマップだと戦闘中に確認できないこと。
更にこれを装備すると腕の防具を犠牲にせざる得ないことも上げていた。
そういった感想も聞き漏らすまいとロバートは熱心にメモを取っていた。
こういった部分でも組合長としての脂質があるんだろうと感心させられたリヒテルであった。
一通り聞き終わると、メモをまとめると言ってロバートはリンリッドの前を辞して自分の執務室へと戻っていった。
「それにしてもガルラよ。明日からの武器はどうするつもりさぁ〜ね。」
「それなんだよな。今換金してもらった資金で調達しないといけないけど、俺店知らないんだよ。リンリッドさんはどっかしらねぇ〜か?」
背中に背負った愛剣に意識を向けつつ、ガルラはリンリッドへと問いかけた。
「ちょいとまて」とリンリッドも何か心当たりがあるのか、少しだけ考え込んでいた。
しばらくすると、何かを思い出したようにリンリッドは顔をしかめてしまった。
その雰囲気はできれば思い出したくないとでも言いたくなったようであった。
おもむろに手近にあった紙フキンにサラサラと何かをメモしたリンリッド。
それを突き出すようにガルラに渡した。
そこには地図が描かれており、ここから店までの道順を書き示してくれていた。
「ここに武器屋があるってわけか。リンリッドさん感謝する。明日行ってみるよ。」
「じゃあ、俺も行ってみるかな。老師が勧める店だからなんか気になるし。アーマーとかもあれば儲けもんだろうしね。」
それを聞いたリンリッドは一瞬困惑の表情を見せるもすぐにいつもの表情に戻っていた。
その一瞬の変化に気がついたリヒテルは一抹の不安を覚えたものの、楽しみが勝ってしまい頭の隅へとその情報は追いやられてしまった。
リンリッドがボソリと呟いた「ワシはいかんけどね……」という言葉とともに。
翌朝、リンリッドから教えてもらった道順通りに帝都を歩くと一つの武具店が姿を現した。
お世辞にも流行っているとは言えないが、知る人ぞ知る名店のような雰囲気にも感じ取れなくはなかった。
店の中に入るまでは……
後にリヒテルはこう語る……
老師……今度必ず連れていきますからね……と。
リヒテルたちが店に入ると、そこには綺麗に整頓された武具が並んでいた。
ホコリ一つ無い店内にリヒテルは、ほうと感嘆の息を漏らした。
それは何か意図が有った訳ではなく、ただただ圧倒されてしまったのだった。
リヒテルとガルラは思い思いにいくつかの商品を見て回った。
どれを見ても大事にされているんのがわかるように、丁寧に磨き上げられていた。
安値で売られている商品でさえも。
店主の心意気が垣間見れた一時であった。
しばらく二人が見て回っていると、店の奥から一人の少女が姿を現した。
「あ、いらっしゃいませ。ようこそ無道武具店へ。」
それは元気いっぱいの可愛らしい少女であった。
金色の髪を後ろで一本の三編みにして、それが頭を動かすたびにゆらゆらと尻尾のように揺れていた。
背丈もさほど高くはないようで130cmあるかないかであった。
しかしリヒテルは視線をそらしてしまった。
一瞬見えた2つの丘陵はリヒテルをてれさせるには十分な大きさをたたえていた。
それに気が付いたガルラが意地悪い様な笑みを浮かべリヒテルに近づいてきた。
「何照れてんだよリヒテル。ん?何か有ったのかな?」
そのあくどい笑顔にイラッとしたのか、リヒテルは思いっきりガルラの足を踏み抜いた。
「いでぇ‼なにすんだリヒテル‼」
「ガルラが悪い。」
ガルルルルと今にも吠えだしそうなガルラをよそに、リヒテルは少女に話しかけたのだった。
「騒がせてごめんなさい。できれば店主の方か親御さんを呼んでもらえますか?」
リヒテルは少女の目線までかがみ込んで話しかけた。
極力怖がらせないように慎重に。
これ以上騒がせてリンリッドに迷惑をかけたくない思いも有ったからだ。
しかしリヒテルの言葉に少女から帰ってきた言葉は予想外のものであった。
「私がここの主人ですよ?」
「え?」
思わずそう返してしまったリヒテルはなにかの冗談なのかと思ってしまった。
リヒテルとしては子供が親の真似事をしているのだと思ったからだ。
しかし、少女のニコニコとした笑顔が何か怖いものに見えてきた。
裏にある何か黒いものを見てしまったように。
錯覚であるかと思ったリヒテルは何度も目をこすり、次第に少女が嘘をついていないのでは?と思い始めた。
「もしかして……ほんとう……に?」
「はい。店主のラミア・無道です。これでもれっきとした淑女ですよ?」
リヒテルは一時も目を話したつもりは無かった。
しかしラミアがそう話すと、既にその姿はそこにはなかった。
「グゲぇ‼!」
今だ足を抑えてうずくまるガルラの背に足を組みつつ座るラミア。
その手には煙管のようなものが握られており、プカリプカリと紫煙をくゆらせていたのだった。
リヒテルもガルラも何がなんだかわからなかった。
ガルラに至っては何もわからずに椅子代わりにされたのだ、怒りがこみ上げてきても不思議ではなかった。
ガルラが怒りに震え立ち上がろうと試みるも、それは失敗に終わる。
動こうとするたびに煙管で頭をコツンコツンと叩かれたのだ。
そのたびに聞くだけで痛みを覚える音が聞こえてきた。
最後は抵抗する気力を失ったのかガルラはその場でうなだれてしまっていた。
「まだまだ甘いわねぇ〜。それでも狩猟者ですか?リヒテル・牧苗。ガルラ・グリゴール。」
ラミアがまだ教えてもいない二人の名前を呼んだ。
リヒテルたちはそのことにも驚きを見せ、その態度で更にラミアは呆れてしまった。
「だから甘いって言ってんのに……。このくらいで動揺してどうするのよ。まったく……。この街の狩猟者の質は年々低下する一方ね……。」
ラミアは再度タバコを吸いつつぼやくのだった。