第1節 第2話 異変の兆候
リヒテルが初めて帝都を訪れてからすでに4ヶ月が過ぎようとしていた。
修行内容はあいも変わらず群れという群れを殲滅するものであった。
そして今日もまたリヒテルとガルラは揃って群れへと突撃していった。
「ガルラ、そっち行ったぞ‼」
「わ〜てるっての‼ったくなんだよこの数‼」
すでに二人が倒した機械魔の数は既に50を超えていた。
中型犬型機械魔に始まり、小型犬型、昆虫型、鳥型、植物型。
多種多様な機械魔は尽きることはなかった。
そしてさらなるランク2の機械魔の群れは、リヒテルたちの戦闘領域へと向かってきていた。
この時ガルラの剣はすでに使用限界に達しようとしていた。
いつ折れてもおかしくない程に損耗を強いられていたのだ。
そしてリヒテルも魔石が底をつきかけていた。
本来であれば魔石を回収して次の戦闘へと当てるのだが、その回収すらままならないのだ。
ガルラも剣の手入れなどを行って切れ味を確保したいところであったが、その手入れすらさせてもらえず、現在だましだまし対応していた。
「あのクソジジイ‼流石に限度ってもんがあるだろうが‼」
リヒテルの呪詛にも似た叫びが森へとこだまする。
そんな時だった。
森の奥から樹木が倒れるような轟音とともに、閃光が放たれた。
その直後、リヒテルたちの戦闘領域のすぐ脇を一筋の熱線が貫いた。
地面は焼け焦げ、ところどころガラス化していることから、どれほどの熱量だったのか想像に難くない。
リヒテルたちが相手していたランク2の機械魔もその熱線に巻き込まれ、大半が蒸発していた。
おかげで魔石も跡形もなく消えてしまい、なんとも言えない空気を醸し出していた。
しかしそんな状況にも関わらず、リヒテルたちは休んでいる暇はなかった。
それでもまだ大量の機械魔が迫ってきていたからだ。
リヒテルの手には以前リンリッドとやり合う際に作り出したガトリング型の魔砲が握られていた。
当時よりも更に巨大化しており、ガルラ曰く「よく持っていられるな」と呆れるほどであった。
その分威力は折り紙付きで、試射した際の威力を見たリンリッドが生暖かい目で見つめていた。
しかし燃費は言わずもがな。
殲滅力と引き換えに魔素をどか食いしてしまうのだ。
それを補うための魔石が現在不足し、そろそろ心許ない状況へと追いやられていた。
更にその巨大化に伴い重量も増しており、ほぼほぼ固定砲台となってしまっていた。
ガルラがそれに文句を言うと、リヒテルは一言「ロマン」で片付けてしまうのだからなんとも言えないのであった。
ガルラは移動ができないリヒテルに変わり、ヘイト管理に大忙しであった。
大剣を巧みに使って攻撃を捌きつつも、一撃で周囲を蹴散らす。
止めをさすことはなく、次へ次へと襲いかかる。
そんなガルラを敵と認識した機械魔は返り討ちにしようとガルラへと殺到する。
ガルラは倒すことを意識せずにひたすら場をかき回して回っていた。
リヒテルはそんなガルラの動きをじっと見つめる。
手にしたガトリング型魔砲からは不快音がなり続けていた。
すでに魔砲陣も展開されており、いつでも射撃可能な状態であった。
「ガルラ‼」
「おう‼」
リヒテルの掛け声とともにガルラはその戦線を一気に離脱した。
リヒテルはそれと同時に引き金を引き絞る。
ばらまかれた弾丸は弾幕と化し機械魔へと襲いかかる。
一瞬反応が遅れた4足歩行の大型犬型機械魔の群れは回避することが間に合わず、その弾丸を全て浴びる羽目になった。
次々と貫かれる躯体。
何体かは仲間の身体を盾にして、その暴力的な弾丸から難を逃れる。
なかなかやまない弾丸の雨。
しかしその終わりは唐突に訪れた。
カラカラと鳴るリヒテルの魔砲。
ついに魔石と弾丸が底を着いたのだ。
周囲の魔素も既に尽きており、ここから先はリヒテル自身の魔石の魔素のみが頼みの綱であった。
そんな中、ガルラは再度攻勢に移る。
壊れかけの大剣を握りしめ、大型犬型機械魔に切りかかった。
その躯体に刃筋を当てると折れてしまうと確信していたガルラは、躯体の関節部、特に首関節に狙いを定めていた。
一振り。
二振り。
何度も繰り返した剣技は疲れてもなをブレることはなかった。
滑り込むように関節部を両断していった。
ガルラが機械魔を切り払ってる頃、リヒテルは周辺警戒を密にしていた。
今の所追加で迫っている機械魔の群れは感じ取れず、この群れさえどうにかすれば問題ないと判断したリヒテルは、手にしていた魔砲を解除した。
そして腰に差していたショートソードを抜くと、一足飛びでガルラの元へと向かった。
その歩法はブレることはなかった。
足元は岩や木の根、戦闘痕によってとてもいい状態とは言えなかった。
しかし持ち前の運動能力を駆使して高速で駆け抜けるリヒテル。
ほんの数秒でガルラの元へとたどり着き、二人は殲滅作業へと移行した。
リヒテルの剣の腕はガルラも認めており、全く気にかける様子はなかった。
瞬く間に殲滅が完了し、ついに動く機械魔の姿はなくなっていた。
ガルラは周辺警戒をするも迫りくる機械魔の姿はなく、戦闘終了であることを状況が告げていた。
そしてガルラは気が抜けたのか、ドサリと地面に腰をおろしてしまった。
いつもであればリヒテルもわざとからかうようにガルラに声をかけるのだが、リヒテル自身も疲れ切っており、そのまま腰をおろしてしまった。
「一体全体どうなってんだ?こんな大量の群れなんて見たこと無いな。」
「確かに……。それと途中の熱線は間違いなく老師だろうね。」
ガルラはあたり一面に転がる機械魔に目をやると、ため息混じりに呟いた。
リヒテルもその言葉に反応し同意を示した。
しかしゆっくりとはしていられなかった。
少しだけ休んだ二人はすぐに解体作業へと移った。
立入禁止区域で倒した機械魔を長時間放置すると、その残骸と魔石を素材としてさらなる機械魔に生まれ変わってしまう。
だからこそ討伐後のすぐさまの解体が推奨されている。
周囲に転がるデモニクスの数は優に100体に及んでおり、二人の実力の高さを伺わせるものにもなっていた。
ブツブツと文句を言いながらも懸命に作業を進める二人。
解体完了した機械魔は山になり積まれていった。
「これで……おわ……り……だぁ〜〜〜〜〜〜‼」
ついに最後の一体を解体し終えたガルラはついつい叫び声を上げてしまった。
すぐさまリヒテルから投石が飛んできてガルラの頭を直撃する。
この立入禁止区域で大声を上げるのは、自殺行為と言われるほど危険行為なのだ。
「にしてもこの腕輪って便利だよな。」
頭をさすりながら自分の左腕にはめられた腕輪を見て感心していた。
先程まで使っていた大剣は今はこの場にはなかった。
その腕に嵌められていたのは最新のNGTで作られた魔導具”インベントリ”と呼ばれるものであった。
回収した魔石もそれなりの量になり普通であったら持って帰ることができない量であった。
しかしインベントリのおかげでそれも問題はなかった。
あとは高く積まれた機械魔の残骸だけどうになすればいいだけとなった。
「便利だけどなんだか不思議な感じがするよ。」
「だな。どうなってるか気になるが……考えても仕方がないな。俺たちにはわかりそうもないからな。」
そんなやり取りをしていると、森の奥からリンリッドが姿を現した。
少しだけ疲れた表情を見せていたが、戦闘痕を見てなんだか嬉しそうにしていた。
「なんだい、かたづけられたみたいだぁ〜ね。心配してそんしたわい。」
憎まれ口を吐きつつも、二人を褒めるリンリッド。
二人もリンリッドの性格に慣れたのか、この程度では憤りを感じることはなくなっていた。
「ところで老師。さっきの閃光と熱線は老師で良いんですか?」
リヒテルは戦闘を左右した熱線について気になっていた。
あの熱線がなければもっと苦労していたに違いないからだ。
「あれか?あれはそうさなぁ〜。予定外の機械魔が現れたから狩猟したまでさぁ〜ね。」
なんのことは無いと言わんばかりの態度にやはり呆れるリヒテル。
その熱線の痕跡に目をやると、その威力が凄まじ良いことを物語っていた。
そして自分との差を改めて感じさせられたのだった。




