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第2節 第2話 挫折

 なんとか1日目を生き延びたリヒテルだったが、課題である100体の機械魔(デモニクス)討伐までは程遠いものであった。

 機能討伐できたのはカブトムシ型機械魔(デモニクス)1体と中型犬型機械魔(デモニクス)3体の、合わせて4体である。

 いくら魔石(マナコア)が手元になかったからとはいえ流石に慎重に動きすぎたと感じていた。

 しかし今は手に入れた魔石(マナコア)で作り上げた魔砲がある。

 これでなんとか挽回しようと誓うリヒテルであった。


 ちょうど準備をしているとADF発生装置の活動限界時間を迎え、光の壁はぼやけていきふわりと消えていった。

 残された装置をそのままにしておくとこの装置が機械魔(デモニクス)化する恐れがあるのですぐに背負袋に入れるリヒテル。

 これについては出発前に3人から口酸っぱく注意を受けていた。

 それでもなお数ヶ月に1度やらかす新人が後をたたないのだとマルコはこめかみに青筋を浮かべていた。


「今日はガッツリ狩猟(ハント)しないとな。残り96体か……。ランク2の機械魔(デモニクス)は3体分って言ってたし、なんとかなるっしょ。それから寝床の確保は絶対条件だな。洞窟があればいいんだけど……最悪木の上かな。」


 リヒテルは背負袋を背負い直しランク2の森を更に奥へと進んでいった。

 その先に待つものの存在に気が付かずに……




 しばらく森を探索すると廃墟のような場所に出た。

 そこには昔街があったであろう痕跡が見て取れた。

 しかしどの建物の崩れ落ちておりほとんど原型をとどめてはいなかった。


「1000年前ね……。一体どんな世界だったんだろうな?前に読んだ本だとダンジョン?とかあったみたいだけど、今じゃただの洞窟だっていうし。いつか行ってみたいけど、今は無理だろうな。」


 リヒテルは廃墟に目をやると何体かの気配を感じた。

 今までに感じたことの無い気配であった。

 妙に生々しく、野生動物とも機械魔(デモニクス)とも違う、そんな気配であった。


 その方向からズルリズルリと何かを引きずる音が聞こえてくる。

 それは気味が悪く、リヒテルの精神を逆撫でするかのような不快音であった。

 更にズルリズルリと音が大きく聞こえるようになる。

 リヒテルはすぐに魔砲を構え、戦闘に備えた。

 そしてそこに現れたのは……


「人間⁉ちょっと待てよ‼なんで一般人がこんなとこにいんだよ‼聞いてないぞ⁉」


 慌てたリヒテルは無警戒でその人影に近づいてしまった。


パシュン‼


 リヒテルの頬に糸筋の赤い線が出来上がる。

 流れるのは赤い鮮血。

 遅れてくる焼けるような熱量。

 その時初めて自分が撃たれたことに気がついたリヒテルは、何を考えたのか人影に背を向けて周囲を警戒した。


パシュン‼


 そしてもう一発。

 今度は左腕を別方向から何かがかすめる。

 ちょうどアーマーからむき出しになっていた部分にかすってしまい、頬と同じように鮮血が流れ出る。

 恐る恐る振り返るとそこには腕から銃身のような筒が生えてる人影があった。

 そしてリヒテルはようやく理解した。


 目の前の人影は人形機械魔(デモニクス)であると。


「クソ‼やりづらいったら無いな‼」


 リヒテルは慌てて回避行動を取り、間合いを開ける。

 その間も姿を表した8体の人形機械魔(デモニクス)はリヒテルに向かって発砲を続ける。

 その絶え間ない銃撃は、リヒテルにとっても回避するので精一杯であった。

 なんとか建物を背に隠れることに成功したリヒテルは、この状況をどう打開するか考えを巡らせていた。

 だがここで一つの問題に直面してしまった。


()()()()()()()()()()


 リヒテルに悩んでいる時間はなかった。

 隠れている場所がバレているのか、徐々に近づいてくる人形機械魔(デモニクス)

 その間も銃撃が止むことはなかった。

 機械魔(デモニクス)は周囲の金属を集め魔素(マナ)と合成して自身の銃弾としていた。

 つまり周囲に金属・魔素(マナ)がある限り弾切れの心配がないのだ。


 リヒテルの手は震えていた。

 動物型や昆虫型、植物型の機械魔(デモニクス)討伐になんの躊躇もなかった。

 だから大丈夫だろうとたかを括っていた。

 しかし人形機械魔(デモニクス)を見てしまうとそれどころではなかった。

 機械魔(デモニクス)は敵。

 それが人類史上絶対であった。

 それが人形であろうと。

 知識としてはわかるが精神はそれを許さなかった。

 機械魔(デモニクス)とわかっていながらも、人だと考えてしまい狙いが定まらない。

 隠れて何度も銃口を向けるも引き金が引けなかったのだ。


「リヒテル君、試験は終了だ。」


 頭上から聞こえたのはリヒテルを飛び越していくヨースケの声だった。

 リヒテルがあっけにとられている間に、ヨースケは8体の人形機械魔(デモニクス)を蹴散らしていった。

 それは流れるような双剣。

 まさに剣舞と言っても過言ではない、美しい身体の動きであった。


 ドサリと最後の機械魔(デモニクス)が地面に横たわる。

 それまでの所要時間はほんの数分に満たないものだった。

 そしてリヒテルは自分との差を痛感させられたのだった。


「やはり君にはまだ早かったようだね。心がまだ成長しきっていない。ロイドさんの読みどおりになったね。」

「え?父さんの?」


 今だ状況を掴めていないリヒテルは、ヨースケから聞かされた名前に驚きを隠せなかった。

 なぜ今ここでその名前が出るのかわからなかったのだ。


「まずは帰ろうか。」


 リヒテルは力なく立ち上がると、無言でヨースケの後ろを歩いて立入禁止区域(デッドエリア)を脱出したのであった。




「おかえり。予想通りだったってことかな?」


 出迎えたのはマルコであった。

 その表情は少し硬く、後悔の念が見て取れた。


「ただいま帰りました。懸念は的中です。リヒテル君はまだ”憧れの狩猟者(ハンター)”像に囚われたままでした。」

「つまらんのぉ〜。」

「老師‼」


 酒場からリンリッドがフラフラと現れる。

 手には酒瓶を掴んでおり、酒を煽っていたのがよく分かる。

 その姿と言動を咎めるヨースケに、マルコは待ったをかけた。


「そう怒らないでやってくれないか、リンリッドさんも心配でたまらなかったんだ。どの時点でリヒテル君に挫折を味合わせるか。ずっと悩んでいたみたいだったようだよ。なまじリヒテル君が優秀過ぎたから。」

「っ‼」


 それを聞かされたヨースケは怒るに怒れず、振り上げた拳をどこに下ろせばいいのかと苦虫を噛み殺した様な表情を浮かべていた。


「皆、迷惑をかけたね。済まなかった。」


 酒場の奥から現れたのはリヒテルの父親のロイドであった。

 ロイドは3人に向け深々と頭を下げた。

 その姿に恐縮したのか、ヨースケは駆け寄ると頭を上げるように促す。

 ロイドが頭を上げるとすぐにうなだれているリヒテルのもとに駆け寄った。


「リヒテル。これが狩猟者(ハンター)だ。お前が”恋い焦がれた狩猟者(ハンター)”だ。そしてお前はやっとスタートラインを見ることが出来た。わかるかい?機械魔(デモニクス)()()()()()を取り込み進化してきたんだ。動物も植物も有機物・無機物問わずに。つまりは人間もまたその中の一つに過ぎないんだ。それでもまだ続けるかい?ここで立ち止まったとしても誰も責めやしない。また【Survive】のマスターとして過ごすのも一つの選択肢だ。それを選ぶのはリヒテル、お前自身だ。」

「父さん……」


 リヒテルは顔をあげると、涙でクシャクシャになっていた。

 そんなリヒテルをロイドはそっと抱きしめた。

 我が子を守るように、優しく。

 リヒテルはそんな父に縋るように泣きついた。

 どのくらい経過したのだろうか……

 リヒテルは泣き止むと顔をゴシゴシと乱暴に服の袖で拭く。

 目はまだ真っ赤に充血していたが、力強さは失われていなかった。

 その目を見たロイドは満足げに頷いてみせた。

 ロイドから離れたリヒテルはリンリッドの元へと足を運んだ。

 その足取りは今までになくしっかりとしており、リヒテル自身何か今までとは違うと感じていた。


「リンリッド老師。一から鍛え直してください。」


 恥も外聞も関係なくリンリッドの前で土下座をしたリヒテル。

 その様子をヨースケやマルコも優しく見守っていた。


「なんぞ?今までも鍛えてやっただろうて。」


 それでも突き放すリンリッド。

 しかしその目は真剣であった。

 リヒテルから感じる本気度を探っているかのようだった。


「そうか……ならばこれから帝都へ向かうぞ。ガルラ‼お前も一緒だ。お前も鍛えなおさんとならんからのぉ〜。」

「まじかよ……」


 一部始終を見ていたガルラもまた修行の旅へと駆り出されたのであった。

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