表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/114

第4節 第3話 ランク1狩猟者(ハンター)見習い

 次は短槍だ。

 投擲用のジャベリンとは違い、攻撃に重点を置いた短槍で槍術と杖術の間の用の使い方をリヒテルは行っていた。

 突く、斬る、払う、薙ぐ。

 さらには絡ませる、打ち付ける。

 多種多様な攻撃を繰り広げるも、それもガルラには届かなかった。


 しかしガルラもまた余裕が有った訳では無い。

 見た目こそ余裕を見せているが、内心は焦りを覚えていた。

 リヒテルの年齢を考えるとあり得ない技量だからだ。

 確かにその道一本で進んでいれば到達しうるレベルだった。

 しかし、今リヒテルが見せているのは3つ目の業だ。

 だからこその驚愕。

 だからこその喜び。

 ガルラはリヒテルをこう思っていた。

 ビックリ箱だと。

 だからこの先に何があるのか楽しみで仕方がなかった。


 リヒテルは短槍が通じないとみるや否や、今度は長槍に切り替える。

 距離感を敢えて崩すことで隙を探そうと試みたのだ。

 しかしそれもうまくゆかず、さらに次々と武器を変えていく。


 「ガルラさん!!」

 「どうした?息が上がってるぞ?もう終わりか?」


 ガルラは敢えて挑発を繰り替えす。

 先程からの攻防の間も常に挑発をし続けていた。

 その挑発に心を乱される辺りは、まだまだリヒテルは子供というところだろうか。

 全てのペースをガルラに握られてしまっていたのだ。


「よし分かった。そろそろ終いにしようや。」


 ここにきて初めてガルラは構えを取った。

 構えという構えではないが、仕留めるという気迫の乗った構えだった。


 リヒテルは突如膨れ上がった殺気に一瞬の躊躇が生まれた。

 あと一歩……

 そのあと一歩が遠かった。


 ガルラから放たれた殺気は、それすなわちガルラの領域。

 その領域に踏み込むことが出来なかったのだ。

 先程まで出来ていた事が出来ない。

 リヒテルは大いに混乱していた。


 頭では分かっていた。

 戦いの最中に止まってはいけないと。

 しかし本能が告げる。

 この先に進んではいけないと。

 その二つの思考のせいでリヒテルは雁字搦めとなってしまっていた

「そこまで!!」


 動きがなくなったと判断したマルコは、二人に対して試験終了を告げた。

 ガルラは一瞬にして殺気を霧散させ、いつもの中年の雰囲気に戻っていた。

 一方リヒテルは……

 その恐怖にいまだ縛られており、顔をこわばらせていた。

 いくらトレーニングを積んできていたとはいえ、この体たらくではいけないと感じていた。

 実践に勝る経験なしとはよく言ったものだと、内心強制的に理解させられた出来事となったのだった。


「で、ガルラさん。どうですリヒテル君は。」

「基礎は良くできているな。だが実践が足りなさすぎる。俺なんかの殺気でビビっていたら、機械魔デモニクスの無機質な殺気に絶対の飲まれるぞ……。その辺は要注意だな。」


 ガルラは今回の試験で感じた内容をマルコに伝えた。

 そこには合否の言葉はなく、的確にその戦闘技量について答えていた。

 マルコはガルラの答えを聞いて、少し考えを巡らせていた。

 ガルラは現在ランク3の狩猟者ハンターだが、あと少しの貢献度でランク4に上がれる逸材だ。

 そのガルラが基礎について問題無しとしている以上、狩猟者ハンターとしての素質は十分に備わっていると判断して良いのではないかと。


「ガルラさん的には問題無いと?」

「訓練は必要だがな。」


 ガルラの言葉でマルコの答えは決まったようだった。

 改めてリヒテルを見つめるマルコ。

 覚悟を決めたようにその重い口を開いたのだった。


「リヒテル君。君を〝ランク1狩猟者ハンター見習い〟とします。現状でランク1の狩猟免許ハンターランクを発行する事は難しいと言わざるを得ないでしょう。それに魔砲使い(ガンナー)としての訓練も必要です。来週にはあなたの指導官がこちらに来ますので、それまではガルラさんに格闘系の訓練をしてもらってください。」


 マルコは再度ガルラに向き直り、一つ頭を下げた。

 それは言外に〝リヒテル君を頼みます〟と言っているようにガルラは聞こえていた。


「乗り掛かった舟だ。リヒテル・蒔苗!!お前が蒔苗さんの息子だからって緩くはしてやらん!!むしろ厳しく行くから覚悟しておけ!!」

「はい!!」


 リヒテルはようやく第1歩を踏み出したことを理解した。

 まだまだ見習いだけど、それでも夢にまた近付いたことがうれしかったのだ。




 それから1週間。

 魔砲使い(ガンナー)の指導員が来るまでの間、ガルラは出来る限りリヒテルの訓練を見ていた。

 戦う術については特に問題無いと感じてはいたが、総合的に見て実戦経験が足りなさ過ぎて応用が利かないのが今のリヒテルの欠点だと感じていた。


 そこでガルラが行った訓練は、ランク1立入禁止区域デッドエリアでの実践訓練だった。

 そこでは小型機械魔デモニクスがちょろちょろと現れる区域で、前回リヒテルが侵入したエリアよりも低いランクの区域だった。


「ほらそこ!!警戒を怠るな!!いくらランク1だって言ったって相手は機械魔デモニクスだ。一瞬のスキが命取りになるぞ!!」


 区域内にガルラの怒声が響き渡る。

 リヒテルもまた、ただやられているわけではなかった。

 手にした武器は短槍。

 理由は木々が邪魔で大剣が触れなかったからだ。

 ガルラクラスであれば戦い方を知っているので問題無く大剣を振り回すが、リヒテルにはそのが出来なかった。

 ガルラの手本を見て真似てみたものの、見事に木々に邪魔されてまともに振ることが出来なかったのだ。

 それからいくつかの武器に取り換えて、今の短槍に行きついたのだ。


 短槍に変えてからのリヒテルの動きはなかなかのものだった。

 相手の機械魔デモニクスは4足歩行の野犬の様な姿をしていた。

 体は機械でできているが、ところどころに筋肉を思わせる筋や、外皮をまとっている。

 そしてその背中には小型の重火器の様な武器が搭載されており、駆け回りながら乱射してくるのだ。

 幸い威力は木を貫通するほどではなく、回避さえできれば問題ないというものだった。

 だがリヒテルは思った。

 高速で飛来する弾丸を避けるとか、まず無理だろうと。

 普通に考えたら乱射された時点でハチの巣確定だろうと。

 だがこうしてリヒテルは生き残っていた。

 それは回避出来たからではなく、機械魔デモニクスの特性に起因していた。

 機械魔デモニクスは周囲の魔素マナを吸収して弾丸を作り出していた。

 その際に発生する異音をリヒテルは聞き分けていたのだ。

 ガルラはその音を聞くことは出来ず、魔砲使い(ガンナー)特有の感覚なのだとリヒテルに教えていた。

 つまり、その音が鳴っている時はリロードタイムという事だ。

 リヒテルはその音を何度か聞いてリロードタイムの長さを理解していた。

 開始からおおよそ8秒。

 つまりはその8秒で仕留めるまたは、潜伏行動を起こすというものだった。


 何度かその8秒でヒット&アウェイを繰り返していると、徐々に機械魔デモニクスの動きに隙が生じてくる。

 リヒテルの狙いは関節駆動部。

 短槍を何度も何度も同じ場所に突き刺しては離脱を繰り返していたのだ。

 そしてついにその時が訪れる……


 小型機械魔デモニクスが、がくりと前のめりに崩れ落ちたのだ。

 左前足が完全に停止しており、バランスを崩してしまったのだ。


 それを見逃さない手はないとリヒテルは焦る様に小型機械魔デモニクスへ駆け出した。


「若いなぁ~」


 そんな声がどこからともなく聞こえたが、リヒテルの耳には届かなかった。


 倒れた機械魔デモニクスはその首を持ち上げ、一瞬にしてリヒテルに向き直る。

 そしてその銃口はリヒテルをとらえていた。


 ここでようやくリヒテルは自分の間違いに気が付いたのだ。

 殺される!!

 リヒテルがそう直感した次の瞬間。

 一筋の弾丸が小型機械魔デモニクスを貫いたのだ。


「やっぱり若さは大事だけど、時には邪魔になるねぇ~。」


 何処からともなく聞こえた声は、年季を感じさせるしゃがれた男性の声だった。

 リヒテルはその声の主が誰なのか分からなかった。

 ただ言えるのは、今まさに自分は死にかけたと言いう事だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ