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第4節 第2話 油断大敵火がぼうぼう?

「やっと本体のお出ましか……って、なんだありゃ?」

「きゅう……こん?」


 姿を現した怪物を見て、レイモンドは微妙な表情を浮かべた。

 玉ねぎを大きくしたような風貌に蠢く根っこ。

 微妙に嫌悪感を抱かせるには充分であった。

 レイラもものすごく微妙な感じとなり、戦闘というには少し弛緩した空気が蔓延し始めていた。

  

 遠くに見える怪物に目をやると、うねうねと動く根を足のように使いこちらへ向かってきていた。

 ただその移動速度はたいして早くはなかった。

 むしろのろのろといった雰囲気だろうか。

 

「主ら……まだわかっておらんようだな。」


 ケントの召喚獣であるタクマが、地面の魔方陣から姿を現す。

 その巨体でどかりと地面に腰を下ろした。

 続いてタケシも姿を現し、すぐさま魔導具を起動して空へと舞い上がった。


「ケントさん……あれ【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】じゃないですか?しかもふつうは緑色の外皮なのに真っ赤ってことは赤亜種。Aランク相当ですよ?彼らで大丈夫ですか?」

「タクマもタケシも手を出さないで。ここはだま【富士の樹海ダンジョン】のほんの入り口。こんなところで躓いてもらっては困るんだからさ。」


 タケシが言った〝Aランク〟とは【探索者】ギルドが制定する怪異と呼ばれる怪物の階級であった。

 下からFからスタートし、最上位はSSS(トリプルエス)

 それぞれ【探索者】ランクによって討伐ができるかの指標として制定されていた。

 そして今回は上から4番目。

 それが第1階層から姿を現したのだ。


「Aランク……。マジかよ……。」


 驚きを隠せなかったレイモンドは無意識に声を漏らしていた。


 【探索者】ランクと怪異ランク。

 それを無理に狩猟免許証(ハンターランク)に当てはめるとした場合、狩猟免許証(ハンターランク)4相当と言われていた。

 それが目の前に現れたのだから、驚いても仕方のないことなのであった。


「大丈夫。Aランクと言っても俺たちなら倒せる。むしろこれを倒せなかったらこの先なんて行けはしない。そうでしょケント。」

「だな。」


 リヒテルの言葉にケントは短く頷く。

 リヒテルは手にした魔銃をインベントリにしまうと、別の魔銃を取り出した。

 普段使いをしている2丁拳銃【DF320】であった。

 新たな魔法陣を使い【属性付与(エンチャント)】を行っていく。


「【属性付与(エンチャント)火炎(ファイア)拡散(バースト)。」


 二つの魔方陣が吸い込まれていった。

 リヒテルは一つ深い息を吐くと、大きく息を吸い込む。


「敵は球根型怪異【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】赤亜種!!総員戦闘態勢!!さぁ、開幕だ!!」


 リヒテルは自分を鼓舞するかのように叫んだ。

 【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】との距離は200mほどとなり、レイラの射程距離となった。

 

 ぎりぎりと引き絞られた弓から炎を纏った様な矢が放たれる。

 魔導具【魔弓:創成】、それがレイラのメインウェポンである。

 魔素(マナ)が許す限り、自分の思い通りの矢を放つことが出来る。

 ただしそのためには強いイメージ力を求められた。

 レイラは日ごろから絵を描くのが趣味で、隊にも飾られていた。

 それが功を奏したのか、この弓との相性はかなりのものだった。

 兄のザックもレイラと対峙した際に、ぎりぎり勝てるかというレベルだったのだ。


 轟々と燃え上がりながら【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】へと矢が向かっていく。

 だが【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】とてただやられるわけはなかった。

 先ほどの爆発を嫌うように、この炎の矢もまた忌避していた。

 蠢く根を何重もの盾としてその炎の矢を受け止めたのだ。


 レイラの矢を皮切りに、レイモンドとギルバードも一気に距離を詰めた。

 ちょうど矢が根の盾に接触するとき、二人は残り100mほどまでに接近していた。

 しかしそれも見えていたのか、【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】は別な根を二人に向けて伸ばしてきた。

 地を這うように向かってくる根にを切り刻もうとしたとき、後ろからリヒテルの声が聞こえてきた。


「左右に展開!!これでどうだ!!」


 2丁拳銃から放たれた弾丸は炎を纏った螺旋となり、二人を狙っていた根を目指して突き進む。

 こちらも危険と判断した【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】は移動を諦め、残る根を2つの弾丸に向けて張りなおした。

 しかしリヒテルはそれも想定内とでもいうように、ニヤリと笑う。

 その時だった。

 2つの弾丸が突如砕けたのだ。

 細かい炎となり、盾状にした根にぶつかった。

 そして激しく燃え上がった。


 【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】はすぐにでも消し去ろうと、根を何度も地面にぶつける。

 バタバタとぶつけるたびに激しい土ぼこりを周囲にまき散らす。

 だがリヒテルもそこで立ち止まることはなかった。

 すぐさま次弾を射出。

 同じように根に着火していく。


 リヒテルの攻撃を参考にしたのか、レイラもただの炎の矢から、炎をまき散らす矢へと形を変えた。

 ただそれは直接狙うのではなく、曲射の形で上空に一度矢を放ち、そこから降り注ぐ。

 いわゆる絨毯爆撃に近い戦い方であった。


 【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】の根を二人が止めている間に、ギルバードもまた本体に肉薄する。


「悪いでござるな。貴殿に恨みはないが、我が糧となれ!!」


 そこからはギルバードの連撃であった。

 むしろ踊っているかのような流れる動きに、ケントは感嘆の声をあげた。

 縦横斜め縦横無尽に振り払われる槍は、そのしなりも含めて轟音をまき散らす。


 だがギルバートは嫌な予感が拭えなかった。

 ()()()()()()()()()()()と……

  

 狡猾なダンジョンに住まう怪異。

 その怪異が狡猾でないと誰が言ったのか。

 

 事態はギルバードの予感が的中したかのように動き出す。


 ドガン!!

 ドゴン!!


 突如ギルバードの足元の地面が爆ぜたのだ。

 ギルバードはその嫌な予感を頼りに、その場から一拍早く飛びのいていた。

 その為ダメージを喰らうことはなかったものの、攻撃が中断されてしまったのだ。


「なんとも面妖な……」


 【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】の頭頂部がずるずると伸び始めたのだ。

 その先端が徐々に増え、赤緑の葉が生い茂る。

 球根部分であった中央部に横方向の亀裂が走る。


「第2形態ってところかしら?」


 【レム】を従えたジェシカが、再度ギルバードに補助魔法を追加する。

 ジェシカは補助魔法と回復魔法にかけては天才的技量の持ち主であった。

 【レム】による補助魔法の効果時間を完全に把握しており、正確無比な体内時計はその切れるタイミングを逃さない。

 ただでさえ低燃費で効率のいい【精霊術】だというのに、この異能とも呼べる技術でさらに運用効率が上昇していた。


「かたじけない!!」


 再度攻撃を仕掛けたギルバード。

 レイラとリヒテルは根を相手取っており、ギルバードへの加勢まで手が回らなかった。


 だが終わりは突然訪れるモノであった。


二刃一閃(にじんいっせん)……氷炎連舞(ひょうえんれんぶ)……」


 【狂乱の球根(マッドネスバルブ)】が突如細切れになり、ある個所は燃え上がり、ある個所は氷漬けになっていた。


 そして姿を現したのは、両手に短剣を備えた全身黒づくめの男性の姿であった。

 そう、レイモンドだ。

 あの砂ぼこりが舞う中で気配を完全に遮断し、攻撃のスキを狙っていたのだ。


「僕に切れぬものなど存在しない……闇夜に抱かれて静かに眠れ……怪異よ……」

 

 決まったとばかりにその場でターンをし、サングラスをクイっとなおすレイモンド。

 その姿になんとも言えない空気を纏っていたのだった。

 

「レイモンド……それやめませんの?」


 呆れ顔のジェシカがレイモンドに棘のある言葉を投げかける。

 レイモンドはいつものこととそのまま流し、ゆっくりとギルバードたちと合流をした。

 

「何とかなるものでござるな。」

「そうだな、なんてったって僕にかかれば一ひねりさ。」


 手ごたえを感じたのか、ギルバードとレイモンドが自信をのぞかせていた。

 

「うん、油断大敵。」


 ケントはそういうと、愛用の銃を構えギルバードたちの後ろに向かって引き金を引いたのだった。

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