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デモニクスハンター(機械魔を狩る者達)~用途不明のスキル【マスター】は伊達じゃない?!~  作者: 華音 楓
第7章 富士の樹海ダンジョン

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第3節 第4話 防衛の砦

「みんな準備はいいか?」

「大丈夫。野営道具や食料などはすべてこの腕輪に収納したから。」


 リヒテルはそういうと左腕につけた腕輪を掲げる。


「そういえばケントさん。この〝動かない通信装置〟はどうしたらいいのかしら?」


 ジェシカが何か端末のようなものを手にしてケントへと話しかけた。

 それは前日の夜にケントから手渡された〝スマホ〟と呼ばれるものだった。

 しかし今はその機能を失っており、画面には何も映ってはいなかった。


「そいつはこの後に使うものだって説明したでしょ?現場に付けばわかるから。絶対に無くさないように。」


 念を押すように話すケントに、首肯で答えたジェシカ。

 同じように再度確認していたレイラとともに腕輪へとしまい込んだのであった。

 

「ここからダンジョンまでは車両で約30分ってところか。劉さんはここに待機で。今回は試しのアタックなんで、夜には戻ります。|公営組織探索者支援組合《探索者ギルド》での情報収集をお願いします。」

「任されました。お気をつけて。」


 リヒテルたちはぞろぞろと車両に乗り込んだ。

 今回は劉が同行しないために、レイモンドが運転席に座った。


「じゃあ、シートベルトを締めてもらえるかな?行くぞベイべ~~~~~~!!」

 

 車両を起動させた瞬間から人格が変わったように叫ぶレイモンド。

 サングラスをクイッと上げて治すと、ニヤリと一笑い。

 次の瞬間アクセルを全力で踏み抜いたのであった。

 激しく空転を始め悲鳴と土ぼこりを上げる装輪。

 そして空転をやめた装輪ががっしりと地面をつかんだ時だった。

 猛烈な加速によりシートへと皆の身体が沈み込んだのであった。

 

「ヒャッホウ!!飛ばすぞ!!」


 皆の共通認識がここで出来上がった。

 〝レイモンドにハンドルを握らせてはいけない〟と。


 それから約20分もしないうちに目的地、【富士の樹海ダンジョン】へと到着したのであった。


 

 

「え、えらいめにあったわ……」

「そうでござるな……レイモンド殿……貴殿は今後運転せんようにな?」


 車両から降りたギルバードが鋭い目でレイモンドを睨みつける。

 レイモンドも申し訳なさそうに運転席から姿を現し、穴があったら今すぐに入りたいとさえ思っていた。

 ハンドルを握ると人格が変わる者もいたが、レイモンドは極端すぎたのだ。


「き、きもちわ……」


 リヒテルは青ざめた顔で車両から姿を現し、よろよろとした足取りで物陰に吸い込まれていった。

 それから先何があったかは本人の名誉のために明言を避けたい……

———閑話休題———


 


 【富士の樹海ダンジョン】の入り口にはそこそこ大きな砦のような建築物か設置されていた。

 ケント曰く関所の様なもので、【探索者】の出入りの確認とダンジョンからのスタンビードの際の防波堤の役割を果たしているそうだった。


 リヒテルたちは首から【探索者ライセンス】の代わりのドックタグをぶら下げていた。

 これは【探索者ライセンス】と連動しており、代わりに提示することでダンジョンの入場が許可されるしくみだ。

 しかし街中では原本が基本必要になるため、このドックタグを使うのはもっぱらダンジョンアタックの時くらいであった。


 砦の入り口には金属探知機のようなゲートが設置されており、ドックタグを握りながら通過すると、自動的に確認作業が行われ問題無ければ目の前のバーが降りる仕組みであった。


ピンポーン

 

 リヒテルたちはドッグタグをかざすと、許可を知らせる音が7回なり、全員問題なく通過する事が出来た。



ブブー

ブブー

ブブー 

 

「ん?なんか後ろがうるさくないか?」


 レイモンドがそう言って後ろを振り向くと、先ほど自分たちが通ったゲート付近で何やらもめごとが発生していた。

 少し離れていたために何を叫んでいるは聞き取れなかったものの、通貨禁止のブザーが鳴りやまなかった。

 その為かゲートを通れないと暴れているようだった。


「いやはや、いつになっても直りませんな。ああゆう輩はいつまでも湧き出る。嘆かわしいとは思いませんか?」


 レイモンドが一瞬びくっとしたかと思いうと、一足飛びでその場から離れた。

 リヒテルたちはレイモンドが何かしたのかと慌てたが、一瞬その理由が分からなかった。

 そしてその違和感に気付けなかった違和感が、時間差でリヒテルたちに襲い掛かった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 やっとその違和感を認識したリヒテルたちは、一斉にその場から飛び退いたのだ。

 ケントを残して。


「おや?君は驚かないのですかな?」

「いると分かっているのに驚く必要はあったかい?」


 ケントの答えに男は少し驚いた表情を浮かべ、すぐに元に戻す。

 その男性は【探索者】とは思えない出立であった。

 髪をオールバックにまとめ、スーツを着こなし、白の手袋に黒ぶち眼鏡。

 執事だと言われても納得のいくスタイルだ。


「成程。確かにそうですな。」


 心底愉快そうに笑う初老の男性は悪びれる様子もなく、優雅に一礼するとその場を立ち去っていった。

 何が起こったのか分からずにただその男性が去るのを見送ったリヒテルたちだったが、姿がなくなったとたんにへたり込んでしまった。

 無意識化で強い緊張を強いられていたようだった。


「い、いったい何が起こったんだ……」


 全身の毛を逆立てたように怒りをあらわにしたギルバード。

 ただそれは驚かされたことに対してではなく、男性を一切認識できなかった自分に対してであった。

 正直なところ、ギルバードは自身の能力に自信を持っていた。

 しかしながら、今回の事でその自身が一瞬にして瓦解してしまった。

 それは斥候役のレイモンドも同じであった。

 本来であれば遅れをとる事は許されない。

 誰よりも敏感に感じ取らなければならないからだ。

 遅れをとるということは、すなわちパーティーの壊滅につながりかねないことだからであった。


「ケント……あの男性は何者なんですの?」


 ジェシカはやっと我を取り戻し、誰よりも落ち着きを払っているケントに尋ねる。


「あぁ、あの人ね。彼の名は佐藤(さとう)一刀斎(いっとうさい)正親(まさちか)。このダンジョンのトップランカーだよ。二つ名持ちってことがどれだけの凄さかよくわかったでしょ?」

「いつからあそこに?」


 ケントの答えにリヒテルは驚きを隠せなかった。

 自分との実力差を痛感していたのだ。

 そしてやっとのことで絞り出した言葉がこれである。


「いつから……か。そうだね、ずっとって言えばいいかな?俺たちがこの砦に入ろうとした段階で、ずっと後ろについてきていたんだが……。やっぱり気が付いていなかったんだな?」

 

 全員がぽかんとした顔をしていた。

 ケントは少しため息をつくと、ゲートを通った時の事をよく思い出すように促した。


「俺たちのパーティーメンバーは何人だい?」


 リヒテルはついさっきの出来事を思い出した。

 自分たちのメンバーは劉を除くと6人……

 自分たちが通ると、通行許可の音が……


「あ!!7回鳴ってた!!」


 リヒテルは今気づいたとばかりに声を上げてしまった。

 つまり、1回多かったのだ。

 その時点で一緒にゲートを通過していたことが容易に理解できた。


「注意力散漫だな。特にレイモンド、君はこのパーティーの斥候だ。その斥候が欺かれては命が危ぶまれる。ダンジョン内でも外でも常に疑うように。いいね?」


 レイモンドは悔しいが反論することは出来なかった。

 自分でもそれに気が付いており、あえてケントは言葉にしたことも理解できた。

 だからこそ、悔しさがあふれ出てきたのだ。


「そしてリヒテル。君はこのパーティーのリーダーだ。そのリーダーが不安そうな顔をするんじゃない。リーダーが不安がればそれはパーティー全体に伝染する。そうすれば訪れるのは壊滅だ。」


 ケントはこの先の事を考えて敢えて強い口調でリヒテルを攻め立てた。

 どこかイベント会場にでも来ているかのような浮足立った感があったからだ。

 

「確かにここは死ぬことはない。全ロストするだけだからな。だがその装備一つ一つが自分たちの努力の結晶だ。それを失うということがどういうことかきちんと考えるんだ。いいね?」


 リヒテルは言葉に出来ないがどこか腑に落ちた気がした。

 そして改めて気持ちを引き締めたのだった。

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