第3節 第3話 ルール説明
リヒテルたちは律から【富士の樹海ダンジョン】の説明を受けていた。
そしてリヒテルたちの手には1枚の紙が渡されていた。
そこにはダンジョンのルール……正確には【ジャポニシア】のダンジョンのルールが記載されていた。
1・ダンジョン入場は受付が必要
2・ダンジョンエントランスのゲートコアにて【パーティー】の登録を行う
3・経験値は【パーティー】単位で取得※レイドの場合は複数【パーティー】に均等割り
4・【パーティー】間の連絡は【念話】というスキルにて可能※入場時に未取得者は強制取得
5・5階層ごとに転送陣がある※発見した場合のみ使用可能
6・10階層ごとに【階層主】が存在する
7・ダンジョン内でのトラブルは基本的に|公営組織探索者支援組合《探索者ギルド》は関与しない※ただし法を犯した場合は例外とする
8・ダンジョン内での死亡は100秒後にゲートコアに強制帰還となる※その際装備品等は全ロストとなる
「ここまではいいかしら?」
「はい。」
律の説明に頷くリヒテルたち。
ケントは自身が作り出したものだけに特に疑問を挟まなかった。
「次に法について説明いたします。」
すると次に別な用紙を配った律。
そこにもいくつかの記載があった。
1・探索者法
2・改正銃刀法
3・改正軽犯罪法
4・改正刑法
それぞれについての説明を律が行っていった。
大まかにまとめると次のような形だ。
1・探索者法
1)【探索者】は必ず【探索者ライセンス】を取得しなくてはならない※【探索者ライセンス】の未取得者はダンジョンへの入場を禁ずる
2)ダンジョン外でのスキルの行使を基本的に禁ずる※人道的支援の場合もしくは|公営組織探索者支援組合《探索者ギルド》の養成の場合は例外とする
3)非【探索者】への攻撃を禁ずる※人道的支援の場合もしくは|公営組織探索者支援組合《探索者ギルド》の養成の場合は例外とする
2・改正銃刀法
【探索者】に限り、市中での武器の携帯を許可する※必ず安全装置を装着する事
3・改正軽犯罪法
1)【探索者】は軽犯罪を犯してはならない※拘留又は科料又はその両方を科す。程度によっては【探索者ライセンス】の凍結又ははく奪の処分を科す
2)【探索者】はスキルによる軽犯罪を犯してはならない※拘留又は科料又はその両方を科す。程度によっては【探索者ライセンス】の凍結又ははく奪の処分を科す
4・改正刑法
1)【探索者】は他人を傷つけてはならない※【探索者ライセンス】を凍結又ははく奪とし、懲役または禁錮を科す
2)【探索者】は他人を殺めてはならない※【探索者ライセンス】をはく奪の上懲役または禁錮を科す
ざっくりとした説明ではあるが、リヒテルとしても納得の内容であった。
ケントからも少し説明があったが、【探索者ライセンス】を取得しダンジョンに潜った段階で一般人に比べて身体能力が上昇してしまうのだ。
その為一般人に比べて重い刑罰が適応されるのだった。
「以上で説明を終わりますが、何か質問はございますか?」
少し散らばった書類をとんとんと整理しつつ、律が皆に視線を送る。
ある程度理解できたのか法律やルールについての質問は出なかった。
しかしリヒテルは少しだけ疑問が首をもたげたのだ。
「じゃあ、リンリッド老師をはじめとした狩猟免許証5の人たちは【探索者】になってたりするの?」
リヒテルの疑問はもっともであった。
ランク4の機械魔ですら集団で何とか戦えていたのだが、狩猟免許証5の狩猟者であれば単騎でランク5と渡り合える者たちも存在したからだ。
その疑問に答えたのがケントだ。
「中には君たちと同じく兼業の者もいるよ。でもリンリッドをはじめとした上位者たちのほとんどは長い年月をかけた研鑽の先にその実力を身に着けていったんだ。ある意味兼業の狩猟者はチートともとれるかもしれないね。その長い年月をショートカットするんだから。」
少しおどけたように説明したケント。
それを聞いたリヒテルはリンリッドの実力が研鑽の先にある物と知り、リンリッドに対する尊敬の念が高まったのだった。
コンコンコン
「ちょうどできたようね。どうぞ。」
「失礼します。」
スタッフの一人が封筒の様なものを抱えて会議室に姿を現した。
その封筒を律に手渡すと、何かおびえるようにして会議室を後にしたのだった。
「ごめんなさいね。彼女も悪気があるわけじゃないの。ここに剣斗様がいると知って緊張してしまったみたいだわ。それじゃあ、これが仮の【探索者ライセンス】になるわ。それぞれの名前などを確認してもらえるかしら。」
リヒテルたちはそれぞれの名前の書いてある【探索者ライセンス】を受け取る。
二つ折りの【探索者ライセンス】には名前や職業、年齢など最初に書いた書類の内容が記載されていた。
そしてリヒテルは職業欄に目をやると、そのまま地面に突っ伏してしまった。
そこに記載されていたのは……
職業:無職
ケントはそれを知っていたのか、リヒテルの行動に腹を抱えて笑い出した。
他のメンバーの職業欄も同じく無職となっており、ここにいるメンバーすべてがそろって無職となってしまったのだった。
「いや~笑った笑った。そこの職業欄って本来の職業の事じゃないんだ。ダンジョンに入ると分かるけど、それぞれの適正にあった職業が記載されるようになってる。魔法を使い続ければ魔法使いとか。剣を振り続ければ剣士とか。まあ、スキル依存になるダンジョンなだけにスキル次第ってところはあるかな?行ってみないことには実感が無いと思いうけど……」
っと言い切る前にまた先ほどのリヒテルの姿を思い出したのか、ケントはまた笑いだした。
それを見たリヒテルは少しへそを曲げてしまったようで、そっぽを向いて怒ってますアピールをしたのだった。
ここにきてレイラは少しだけほっとしていた。
リヒテルが防衛隊に入った際の雰囲気が戻ってきたからだ。
スタンビード時のリヒテルはその戦力から若くして小隊を任されるまでになっていた。
その重圧のせいか、子供らしからぬ言動が目立っていたのだ。
それを知っていたレイラはいつか壊れてしまうのではないかと気が気ではなかったのだ。
しかし、今のリヒテルは年相応の雰囲気を見せていた。
今はリーダーであるものの、ケントという存在によってその重圧が分散されていた。
頼れる兄貴分。
それがリヒテルにとってのケントなのだとレイラは確信していた。
「じゃあそろそろ物資の補給と宿屋の調達を始めるとするか。」
ケントはそう言うとおもむろにソファーを立ち、律に握手を求めた。
「律さん。これからもよろしくお願いします。」
「恐れ多いことです。なにとぞ良しなに。」
律もケントに合わせて立ち上がると、握手を交わす。
しかしリヒテルは見逃さなかった。
律の瞳が黄色ばんでいたことを……と、どうでもいいかとすぐに流したリヒテルであった。
それから劉を中心として物資の買い出しを行い、宿については律の口利きもあり、上級宿を手配する事ができた。
しかも金銭的にあまり余裕のなかった一行であったが、律のおかげかそれなりの金額で泊まることが出来たのであった。
そして翌日、ついにリヒテル一行はダンジョンへと向かうのであった。




