08話 土下座する貧乳
シズカとその舎弟。
合わせて3人。
皆が俺に向かって土下座していた。
「私が盗んだのが悪かったの!」とシズカ。
「いや、俺が足止めしてなければ」とモブ男。
「いえいえ!売りに出したのは私です!」とモブその2。
端的に言うと俺の剣は
もうどうにもならないようだ。
「・・・剣は私が英雄である証拠だったのだ。あの剣は国王様から与えられた」
ショックだ・・・
「国王からっ?」
シズカが驚いている。
「ああ。君もイセカイから来ている者であるから、分からないだろうが・・・」
俺は説明した。
かのソーレント戦役で活躍した俺は、国王直属の騎士となった。
解体して売りに出されたソレはそしてその時に授けられた大切な剣である事。
続いて説明する。
ツヨシという
イセカイから現れた男が俺の座を
あっさりと1話で奪ってしまったという事。
ま、ショックなのだが
英雄というのは切り替えも早いものだ。
もちろん武器は良い物である事に越した事は無いが
俺の強さは剣のお陰じゃない。
どんな剣だろうと英雄は英雄なのだ。
失った剣よりも
目の前にいるイセカイからやってきた者から得られる物の方が大きいはず・・・
英雄は、切替が早いのだ。
情報収集をしよう。
「俺は、ツヨシに再戦を挑み、騎士の地位を取り戻す・・・少しでもツヨシの事を知りたい。何か情報はないか?」
「う〜ん、分からないわ」
シズカは即答した。
「では、チート、という力については?」
俺はこれが知りたかった。
「私の持つ力の事?」
「ああ、君の事でも構わない」
すると、唐突にシズカは口を開いて
何かを叫び出した。
・・・しかし、その声は聞こえない。
というか、声だけじゃない、全てが聞こえない。
まるで聴力を奪われたかのような・・・
「私の力はね、私が叫んでいる間だけ、その声の届く範囲全てを無音に出来るの」
「なっ!?」
信じ難いが、それがチート・・・だ。
楽して手に入る超人的な能力。
許さん。
「ならば、私が眠っている時も、その力を発揮して剣を盗んだということか?」
「そうです。私はこの力を使って盗みを繰り返し暮らしてきました」
なんという盗みに優れた力なのだ・・・
「でも、欠点があったんだよ」
座っていたマタタキが口を開いた。
「欠点?呼吸が続かないと能力が発揮できない・・・とか?」
「違うんだ。この力は、イセカイから来た者同士には通用しないんだよ」
「なにっ!」
俺は驚いた。
そして合点がいく。
「あの時、僕はシズカの力が効かないから、シズカの叫び声で目が覚めて、追いかける事が出来たんだ」
そうだ。
マタタキはシズカを追っていた。
俺とマタタキは一緒に眠っていたはずだ。
シズカの叫び声は俺には効いたが
同じ類の人間であるマタタキには目覚ましだったという事か。
「そういう事だったのか」
「ごめんフッさん・・・でも剣が取り返しのつかない事になっちゃって」
「いいんだ、マタタキ。チートを使う者にはチートが効かない、これだけでも非常に有益な情報だ」
そういえば・・・俺は思い出して
マタタキに質問する。
「マタタキ。お前の力ってなんなんだ?」
「僕の力は・・・意識して目を開いている間だけ、〝進むべき未来〟が見える力だよ」
「進むべき未来・・・?」
目を開いている間だけ・・・
なるほど。
マタタキを初めて見たあの日・・・
マタタキは目を潤ませながら決闘に臨んでいた。
あれは、未来を見る為?
つまりそれは戦いにおいて相手の行動を見破れると言うことか?
「後は、お前が置いていった剣・・・あれを握った瞬間、一時的に俺が歩く姿が見えたんだ。それはお前の力か?」
「うん。そうだよ。フッさんなら僕の剣を手に取ってくれると思った。でも、この力を分け与えられるのはやり方もよく分からない。感覚的なものなんだ」
なるほど・・・よく分からん。
「僕とシズカさんでフッさんに答えられるのは、これくらいかな・・・」
マタタキの言葉に、シズカも頷く。
「よし。ありがとう。では!皆でツヨシを倒しに行こうではないか!」
そうだ。ツヨシの力が効かないのであれば
マタタキとシズカでボコボコにすれば良い!
「えっ?」とマタタキ。
「えっ?」とシズカ。
「えっ?」と俺。
「いやいや、僕グロ耐性無いし」とマタタキ。
「私も戦いなんて野蛮な事出来ません」とシズカ。
あ、あれれ〜?
そういう流れっぽかったのに
「頼む!騎士として再雇用されたら君たちの生活も保証する!シズカくん!君は盗みなんてしなくてよくなる!マタタキ!君にはハーレムを与えよう!うひょぅ!」
し〜ん。
「ところで・・・あの・・・」
その静寂を切るように、
俺と戦った飛び道具モブが口を開いた。
「ん?なんだ?」
「ソーレント戦役って50年前の話ですよね?」
えっ?