06話 助走する英雄
・・・びゅん、びゅん、びゅん。
目の前の男は左手に束ねた鎖を持ち
右手にその先端を持って振り回している。
先端が鈍く空を切り、
それが錘であることが分かる。
飛んできたそれが直撃すれば
ダメージは免れない。
俺はじっくりと後退りをし、距離を置く。
錘との距離を稼がなければ、
その軌道を捉えることが出来ないからだ。
たが、今度は逆にこちらの剣が届かなくなる。
基本的に近接戦闘の剣と飛び道具とでは
明らかに剣のほうが不利である。
・・・更に、今俺が手にしている剣はマタタキが置いていったものだ。
いつも、俺が使う最高級の剣とは感覚が違う。
切れ味も何もかもが未知数だ。
握ってみた感じは、軽い。
相手の右手が動く。来たッ!
ビュン、と予想以上の速さで俺めがけ
錘が飛んでくる。
剣で弾けるのか?
防げるのか?
剣の強さが分からない・・・
俺は咄嗟に身を翻して避ける。
俺という的を外した相手は
すぐに右手で錘を手繰り寄せ
同じスタイルで振り回し始めた。
その間がいわゆる〝隙〟なのだが
それにつけ入る時間がまるでない。
「どうしたぁ!?」
挑発する相手。
俺はその言葉を受け入れない。
決闘に言葉は無駄だ。
びゅん!再び飛んでくる錘。
軌道は予測できる距離にある。
先程よりも上手に避ける俺。
くそう!
近づけばダメージを受ける可能性が上がってしまう!
しかし近づかなければ戦えない!
俺は英雄フレデリックだ・・・!
諦めるものか・・・しかし!
何か秘策がある・・・訳でもない!
そうだ!
俺は、おもむろに走り出した。
「逃げるのかッ!?」
相手は俺を追いかける。
俺は、コイツを中心にぐるぐると回り出した。
助走・・・助走が必要。
走る。剣を持ち、鍛えた脚で走る。
ぐるぐると、男の周りを・・・そして・・・
少しでも高さを稼げそうな石を踏み台に
飛んだ。
「バカめ!空中では!体勢を変えられるものか!」
滞空中の俺を目掛け
錘を投げようとする男。
それを邪魔する正午の太陽。
「ゔぅっ!眩しい!」
それでも闇雲に錘を投げる男。
やべっ!飛んでくる!
俺は咄嗟に剣で防御した。
剣はその錘の強さに耐えきれず、
弾き飛ばされ手元から離れてしまう。
その瞬間も、
俺の身体は相手めがけて飛んでいく。
剣を手放した俺は拳を握りしめ、
男の顔面を殴った。
「ぶわしっ!」
そう言って倒れる男。
さささっと・・・
俺は直ぐに男を鎖で拘束する。
こういうのは手際が良いのだ、俺は。
いやぁ〜、びびった。
太陽で目を眩ませる作戦だったのに・・・
まさか錘が正確に飛んでくるなんて。
まぁ、とりあえず助かったな。
俺は落ちた剣を手に取った。
そしてその刃先を向けた。
「答えろ。お前達の目的は?」
「ぼ、ぼれはただ、ザイレンざまのしじにじたがっただけだ・・・」
腫れ上がった顔。
折れた歯で必死に語る男。
「ザイレンざま?」
「ザイレンざまは・・・そのぢからでガネもうげをじでゆうゆうじでぎにぐらじたいだけなんだ・・・」
「力・・・まさか」
男がブッ、と血混じりの唾と折れた歯を吐く。
「サイレン様は選ばれしお人なのだ!あの方は違う世界からやってきた超能力者だ!」
まさか、そいつも・・・
イセカイから来たというのか?