表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第一章 解雇された英雄
5/101

05話 真上にある太陽


「ところでマタタキ。今夜はどうする?」

夜も深くなっていた。


「もうあの街にはいられないよ。今日は野宿かな。フッさんは?」

「俺は金が無い。野宿だ」

「じゃあ、星でも眺めてようよ」


俺とマタタキは、河原で寝そべって

星を見ていた。

ちょっと年齢が違うけど、もし俺が真っ当に結婚していたら・・・

こんな感じで子どもと過ごしていたのだろうか?


「なぁ、マタタキ。この世界はどうだ?」


俺は投げかけてみた。

実は、この質問は抽象的な質問だった。


「思ってたのと、違った」

諦めのような喋り方をするマタタキ少年。


「え?」


「ドラゴンはいないし、魔法も無い」


マタタキがどんな世界を想像していたのかは分からない。

たしかに翼竜も魔法もこの世界には存在しない。

それらは御伽噺の一種だ。


マタタキの住んでいたイセカイというのはよく分からない。

しかし、俺が思うに、この世界は、目の前に映る星の様に綺麗ではない。


戦争が起き、物資は奪い合われ、貧富の差や人種の差別などもある。

そんな話をこの少年にしても無駄だろう。



「魔法があればよかったのかもしれないな」

「ねぇ、魔法ってマジでないの?」

「そんなものはない」

戦争に赴き、戦い、沢山の犠牲を払ってきた。

何度も願った。魔法があれば良いなと。

それは御伽噺でしかなかった。


「ドラゴンもマジでいないの?」

「あんなものいたら困る」

「ふ〜ん、エルフは?」

「え、る、ふ?」

「もういいや」




ーーーーー




目が覚めた時、マタタキ少年はいなかった。



瞼を開けさせた太陽の位置を確認する。

真上にある。正午か。

マタタキはどこかにいってしまったのだろうか。

あれは幻だったのかもしれない。


少しだけ、異世界の事は聞けたつもりだ。


ツヨシを倒すための手がかり・・・

それが少しでも分かった筈だ。


起き上がると、俺は異変に気づく・・・


け、剣が無い!!!!

無い!無い!無い!!!!

騎士の商売道具!剣!!!

剣が無いのだ!!!


まさかアイツ・・・

俺の剣を盗んだのか!?

あの剣はムジーク王から授かった大切なものだ!


ってあれは・・・?


少し先に、剣が落ちている。

それはマタタキが持っていた剣であった。

俺はおもむろにそれを拾ってみる。



拾った瞬間・・・



一瞬・・・

その剣を持って、走っていく自分の姿が見えた。


疲れているのか?俺?

でも・・・何かを感じた。

これはマタタキの力?

マタタキが見せたマボロシ?


俺は剣を持ち、その一瞬に自分が

見えた方向へ向かって

同じように真っ直ぐに走り出した。


街道から外れた場所は背の小さな草花が生い茂っている。

あたり一面に広がる緑には誰かが足を踏み入れた形跡があり、分かりやすい一本道になっていた。

俗に言う、獣道だ。

これは間違いなくマタタキの足跡。

それを追いかけていけば、アイツに会えるはずだ。


しばらく走ると人影が見えてきた。

身長がある。

マタタキ・・・ではない。


「おい、そこのアンタ」


遠くから声をかけ、近づく。

商人といった出で立ちだ。


「なんだ?」

「黒髪の少年を見なかったか?」

「見たような、見ていないような」

「なんだよそれ」

「気が動転してるんだよ俺はぁ」

商人は少しおかしな表情を見せた。


「何かあったのか?」

「このご時世に盗賊が現れて俺の商売道具を持って行っちまったんだよ」

「盗賊?」

「まぁ金に困った集団だろうな。とにかくこれじゃあ妻や子どもを養えねえぜ」


俺は英雄フレデリック・ショパニ。

英雄は察しが良いのだ。


・・・おそらくのおそらく。

俺の高価な剣に目をつけた盗賊が

寝ている間に俺の剣を盗んだ。

それに気付いたマタタキは盗賊を追いかけた。

おそらくそういう事だろう。

いや、そうに違いない。


・・・しかし、俺も迂闊だ。

どうしてスヤスヤと眠ってしまったのか。

たしかに疲れてはいたが、流石に人が来れば

物音がして目が覚めるというのに。


「ありがとう!盗賊は俺がぶっ倒すよ」


というか、マタタキなら戦えそうだが。

俺は男に挨拶をし、そして走り出そうとした。


そして、



振り向いて剣を振った。



商人風の男は軽やかにその剣を避けた。

くそう。



「お前も盗賊のひとりだろ」




危ない危ない。

こんな分かりやすい獣道

この男が別の場所から歩いてきた形跡はない。

つまりずっとこの道を歩いてきたのだ。

マタタキが歩き、盗賊がいるとすれば

この商人風の男も盗賊・・・

盗賊の一人なのかもしれない。



「何故分かった」

商人風の男は隠していた鎖鎌を取り出した。

飛び道具か・・・



「英雄は察しが良いんだ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ