疑わしい人たち
夕方から始まった会談はあれから体感で2時間続き、宿舎棟に帰ってきてからもクラスメートに結果報告をしなければいけなかったので、日が沈んでしまった。夕飯を食べてから一休みして、今は真二の部屋にいつものメンバーで集合している。
「それにしても、真二はすごいな。俺なんて大臣が何を言ってるかさっぱりだったけど、上手く交渉がまとまったことだけはわかったよ。」
「そうだね。怖いくらいこっちに都合がいい感じでまとまったね。そこが本当に『怖い』んだけどね。」
「そこは今から話し合って理由を検討するんでしょ。あんまり一人で背負い込みすぎないの。」
「ありがとう、真由子。そうだね。じゃあ、みんなで今回の会談の考察を始めようか。」
さっきの浮気疑惑はどこへやら。真二と真由子はラブラブだ。リア充死ね。
「まず、僕が気になったのは大臣の立場が強すぎること。交渉しているのがトップじゃない場合、即決出来ない提案が場合、例えば、後半に出た城内でのスキル使用許可や、兵士への質問についてなんだけど、ルースさんが同行すれば可能と答えてきた。僕はあの質問は王様に伺いを立てることを前提にしていたんだけど、大臣は即答した。それに始めの方の宝玉の力を見せるのも、思いつていてすぐやってみましょうという感じだったけど、自分より位が高い王女様に伺いを立てるにしてはちょっと偉そうだったよね。」
「確かにそうね。でも、全権を任されている可能性もあるし、真実の目の件は予め力を見せるって段取りだったのかも知れないわよ。試してみようってなってから真実の目が出てくるまで、余りにも早かったし。そう考えると、大臣の態度も問題ない気がしない?仮に大臣の立場が強いと何か問題があるの?」
「問題というか、王様を殺したのが大臣の可能性が出てくる。」
おっと、いきなり物騒な話に突入した。流石にみんなドキリとしてる。
「権力闘争でってことよね。」
「そう、もちろんそれも大問題ではあるんだけど、それより問題はどうやって殺したかだってことになってくるんだ。」
「どうやってって、大臣だったらあの手この手でチャンスがあったんじゃないの?」
「そうだね、大輔の言う通り、チャンスはあった、今までもね。じゃあ、なんでこのタイミングで決行したか・・・。」
「たまたま・・・じゃないよな。俺の直感がそう言ってる。」
「今までになくて、その時あったもの。僕はそれが勇者つまり先生なんじゃないかと考えてる。」
「じゃあ、先生を利用して王様を殺したってこと?」
「あくまで可能性だけどね。でも、先生ならそれが出来るのも事実だし、真実の目にも犯人が見つけられていないことと当日、先生と大臣が2人で話をしていたことも今となれば引っ掛かる。大臣なら手引きしてこの棟から先生を誰にも見つからず連れ出すことも可能だったかも知れない。」
「じゃあ、その後先生は口封じで殺されたってこと?」
「そこまではわからないけど、その可能性もあるよね。ただ、これは一つの筋が通る可能性であって根拠はないからね。それに大臣が先生を殺したなら、ここまで捜査に協力的になるのはおかしいし。」
「裏があるってこと?」
「ううん、その裏が思いつかないってことなんだ。だから、誰も大臣が僕たちにも協力してくれる理由が思いつかないなら、大臣説はここで一旦やめてみようと思う。」
みんな黙って首を横に振る。大臣が犯人なら捜査自体をやめさせようとするだろう。いくら俺たちを子供と侮っても、万に一つも自分の犯行が明るみに出る可能性は潰すはずだ。
「次に引っ掛かったのは王女様。もし、彼女しか真実の目を使えないなら、真実の目に嘘を真実として誤認させることが可能かもしれないということ。」
「嘘発見器が人為的に操作されてたらってことね。」
「でも、王女様が王様を殺す動機は?」
「政略結婚とかに反対してとか?」
「王女様本人に動機がなくても、共謀者がいてそっちに動機がある可能性もあるよね。」
「でも、こっちの方は先生を殺す動機には繋がりそうもないよね。」
「先生を殺してないからこそ、捜査には協力・・・。」
「そうすると先生を殺したのはやっぱり魔族。」
「あれ、王女と魔族の禁断の愛とかは?」
「うーん、言葉の壁はやっぱり大きいと思うし、無理矢理感があるよね。」
「じゃあ、王女様犯人説もここまでか。」
話せば話すほどみんな怪しく見えてくる。そんな中、途中から話に参加することを放棄した晴彦が発言をする。
「サターナ様は犯人じゃない。俺の直感がそう言ってる。」
「晴彦のスキルを疑うわけじゃないけど、やっぱり無実の証拠や確信がないと除外して考えるのは危険だとおもうよ。」
「確信ならある。」
「本当なの晴彦?」
「ああ、本当だ。なぜならサターナ様は・・・美人だからだ。」
おい、誰かこいつを捨ててこい。真面目に聞いてた自分が馬鹿みたいだ。
「大輔もそう思うよな。」
こいつ、まさかこっちにふってくるなんて・・・。俺を巻き込まないでくれ。
「いや、まぁ・・・。」
「なんだよ、大輔はサターナ様を美人だって思わないのかよ。」
「晴彦、確かに王女様は美人だ。お前に全面的に賛同しよう。でも、それだけじゃ確信なんて持てないだろう。」
「甘いな大輔、もちろんそれだけじゃない。彼女は・・・隠れ巨乳だ。お前も巨乳は正義だって言ってたろっ。」
晴彦、お前それわざとやってるだろっ。俺は何も悪くないはずなのにみんなの視線が痛い。流石に見かねた真二が助け舟を出してくれる。
「晴彦の意見は、一つの見方として考慮しておくよ。後は騎士団の動向。特にどうしてラースさんを同行するだけで捜査の許可やスキル、質問など、有り得ないぐらいの権利を僕たちにも持たしてくれるかだね。」
「不気味なくらい大臣に信頼されてるってことよね。」
「そうだね、始めは彼のスキルに秘密があると思ったけど、そうじゃなかったのが余計に胡散臭さを感じるよね。」
真二は会談中にラースのスキルについていくつか質問した。詳細は隠されたが彼のスキルは戦闘系で捜査に影響をもたらすものではないらしい。これは真実の目を使って確認済みの事実なので間違いない。
「王女様が真実の目でスキルを隠蔽した可能性は?」
「あるだろうね。その場合は王女様と騎士団、最悪の場合は大臣まで共犯で王様と先生を殺害したってことになると思うけど。」
「最悪のパターンだけど、それも想定しないと駄目だね。駄目だけど、それはないで欲しいよね。」
「騎士団が単独で犯行を犯してる可能性は?」
「それもあるよね。真実の目の問題は残るけど、犯行当日この棟の警護をしてたのは騎士団だから先生を連れ出すには彼らにとってはさほど難しいことではない。動機は自分たちの立場を弱くさせる先生の殺害。勇者なんて現れた日には自分たちは脇役にされるからね。エリートなら余計堪えがたい立場になるんじゃないかな。」
「凄く納得出来ちゃうのが怖いよね。でも、王様を殺した理由は?」
「自分たちの立場を悪くさせる原因を作った王様への復讐。」
「それも納得できちゃう。ああ、なんだか全員犯人に見えてきた。」
「騎士団が犯人だとしても団としてではなく個人もしくは数人での犯行だとは思うよね。先生のステータスが判明してから殺害までの時間が短すぎるから、団として統率を取ってる時間はなかったろうから。」
その後も話し合いは続き出た結論、『みんな怪しい、気をつけよう』。
俺たちはモヤモヤした気持ちを残したまま各自の寝床に着いた。次の日の朝、いよいよ捜査を始められると気合いを入れた俺たちの耳に飛び込んできたのは信じられない言葉だった。
「会談に参加した5名を王女殺害の件で拘束させて頂く。」
王女が死んで、俺たちが拘束された。