今、出来ること
あれから10日がたった。国王の告別式が済み、新国王の即位式も終わった。新国王は石井先生の葬式をあげることも許可してくれて、遺体を戦死者の墓に入れることを提案してくれた、話がわかりそうなおじさんだ。真二の予想通り、国王の死は病死と発表され、俺たちには箝口令がしかれている。真犯人が捕まったっていう話は聞かない。俺たちは5日前から講義と戦闘訓練を始めた。どちらも参加率は100%だ。先生の遺言をみんな忠実に守ろうと頑張っている。
「なぁ、これで正しいのかなぁ。」
午前の講習が終わって昼ご飯を食べているときに晴彦が話しかけて来る。
「またその話か、クラスの話し合いでみんなで決めたことだろ。」
「でも、結局、王様と先生を殺した犯人の件も、魔王討伐のこと棚上げしたままだろ。俺はここ数日での訓練で思い知ったよ。騎士団と同じぐらいの能力なら騎士団に魔王討伐してもらった方が早いってこと。まぁ、俺も魔法が使えればいくらかマシだったかも知れないけど。」
基礎能力値が同じくらいと言われた俺たちは経験値の差から勝つことができないどころか、相手に手加減をされる始末である。スキルはこちらの人の約10パーセントに現れるものらしいが、エリートの騎士団団員はほぼ戦闘系スキルを所有しているようだ。実は晴彦の『直感』というのは危険察知を大幅に高めることも出来る戦闘に有用なスキルなのだが、危険察知出来たところで体が反応できないので毎日ぼこぼこである。なので、非戦闘系のスキルの俺は言わずもがなである。魔法のスキルはレアであるらしく、見事にそれを手にした勝ち組の6人は、魔法の習得に精を出し、この実戦形式の訓練という名の暴力は回避している。予想通り真二と真由子のスキルも魔法に該当する勝ち組スキルだ。その他に女子数名はサポートに特化したスキルを利用し生かすため、勝ち組同様に実践訓練はしてない。例えば麗奈の『食材解析』であれば厨房に送られたりしている。ちなみに昨日からご飯の食材が解析出来るようになってきたのが自慢らしく、ちょこちょこ『これには隠し味で『パッチュ』が入っているのよとか報告してくるのは少しウザい。『パッチュ』ってそもそも何か知らんし‼
「でも、魔法が使えるから強いって事でもないみたいだよ。僕の土魔法だって出来るのはまだ石を飛ばすぐらいだし、それでも発動までに5秒ぐらいかかるから、それこそ接近戦だったら使えないし…。」
「私のも同じ、かまいたち的なものを想像してたのにまだ扇風機みたいな風しか使えない。」
「でも、使いこなせる様になれば、それこそ岩を落としたり、かまいたちが出来るようになるんじゃないの?」
「どうだろう、魔法を教えてくれてる人は光魔法を使える騎士団の副団長の人なんだけど、光の矢を20メール先まで同時に5本飛ばせるよ。」
「なにそれ、カッコよすぎだな。でも、それぐらいが最高峰ってことなのかな、副団長でそれってことは?」
「どうだろう。手の内を全部見せてくれてるかわからないし、それに召喚魔法は?異世界から大人数を召喚するなんて、簡単に出来ることじゃないでしょ。」
「それがもちろん最高峰なんだろうけど、話では魔法陣、魔力、それと太陽とか星とかの位置の関係で数百年に一度使えるか使えないからしいから、それは外していいんじゃない。」
「でも、光の矢は一度は放ってみたいよな。」
「ああ、憧れだよな。」
しかし、翻訳の俺には使えない。
「そういえば真二も20メートルぐらいまでは地形把握出来るようになったんだよな。」
「うん、正確性は足りないけど、距離は大体それくらい。」
「でも、20メートルなら見たほうが早いって、俺の直感は言ってるけどな。」
嬉しそうな真二に晴彦が横槍を入れる
「・・・黙れ直感男。」
真二が笑顔で脅しにかかる。真二は普段朗らかで、彼の半分は優しさで出来てると言われるような男だが、残り半分は憎しみで出来てるの(?)と思えるほど、たまに怖い時がある男だ。絶対に怒らせてはいけない。それを知ってる晴彦はすぐに話を変える。
「でも、真面目な話、俺たちって魔王討伐に役に立つの?ステータスのレベルが1って書いてあったから初期能力が騎士団クラスでレベルさえ上がればひょっとしてって思ったけど、レベルっていつあがんだよ?」
「そもそもこの世界の住人にレベルアップの概念がないからね。そりゃそうよね、普通に生きてるのにレベルや能力値がみえたらそれこそ今地球で起きてる遺伝子やDNA解析での優劣論争がとんでもないことになりそうだもんね。私たちに地球でステータスを見る能力があったら、本当に生きづらい世界だったと思う。」
レベルアップ。ドラ〇エでスライムを倒せば上がる様に、簡単に上がると思ってた時期が僕にもありました。訓練無しでも上がるかなと、期待していなかったと言えば嘘になります…。しかしクラスメートの誰1人もまだ上がってはいない。EXP表示があればどのくらいでレベルが上がるとかわかる気がするんだけど、それもないからな。由美子が言った、『現地の人はステータスを持っていない』の件だが、どうやらその通りらしい。大臣が言った『騎士団は平均30』といった能力値も伝承によるもので、彼らはステータスを見ることはできない。なので俺たちをボコる彼らが実際30より強い可能性も大いにある。ただし、スキルのみは判明するアイテムが存在するらしい。なので、彼らにレベルアップの概念はない。せめて彼らがレベルアップの方法のヒントでも知っていれば良かったのだがその件は伝承にもないらしい。
「もし本当に魔王討伐に行くなら、レベルアップは必要だよな。」
「先生がいれば・・・。」
「先生の能力は本当勇者って感じだったよね。」
「でも、そんな先生も殺されたんだよ。少なくとも犯人は俺らなんか簡単に殺せる力があるっとことだろ。魔王っていうやつはそれ以上に強いんだろうから、俺らは無力じゃね?」
「かもしれない…ね。でも、それを考えるならまだ見たことない魔王より、近くにいる犯人だよね。晴彦の言う通り力じゃ敵わないだろうし、犯人に繋がる手がかりすらない。出来ることはまとまって行動することと力をつけること、情報を手に入れること。つまり今やっていることしかないと思う。」
何故か王様と先生が殺されてから犯人の動きは一切ない。それに犯人は1人なのか複数犯か、王様殺しと先生の件は同一犯か別の犯人がいるのかすらわからない。わからないことが多過ぎて、つい、グルグルと頭を働かせてしまうけど、今の俺たちには出来ることをコツコツとやることしか出来ないのだろう。
名前:山形 詩織
職業:ランナー
レベル: 1
力: 15
体力:32
魔力:39
器用さ:21
素早さ:44
スキル:翻訳 風魔法