勇者の死
意外なことに王国側からの指示は現状維持。俺たちは元の棟に戻り好きにしていていいとのことだ。とは言え、先生の部屋は封鎖されてドアの前には兵士が2人、前回は中に入って来なかった兵士が宿舎棟の中に計10人程度いる。兵士と言ったのは騎士団団員と区別するためだ。騎士団団員はエリート集団らしく派手な鎧を来ているが、今いるのは布で出来た服を着用してる。
「ささやかな自由を喜ぶべきか、自由の中の不自由を悲しむべきか。」
「どっちでもないんじゃない、私たちがするべきことは少しでも情報を手に入れることでしょ。」
「そうだね。まずは今までのことをまとめてみよう。王様が殺されたのは深夜、この国には時計がないから詳しい時間は不明。最有力容疑者は石井先生。生徒の中に協力者はいない。他に考えられる容疑者は、王国側の誰か・・・か」
「か?」
「魔族。」
「魔族!?」
「いくらなんでも、それはないんじゃない。だってここ一応王国の中心部でしょ?そこまで魔族が入り込んで暗殺なんて可能なのかな?」
「不可能ではないんじゃないかな。戦国時代でも宇喜多直家、松永久秀、最上義光かなんて暗殺で有名だし、例えば島津家久なんかも実は暗殺されたって話もあるぐらいだよ。暗殺した方もされた方も面子のために公にしなかっただけで、実際はもっとあったんじゃないかな。」
「面子?」
「うん、暗殺した方は卑怯者っていう汚名を着るのは嫌だろうし、された側だって主君を暗殺者から守れなかった無能の汚名を着るのは嫌だろ。だからたいていの場合は急な病死ってことにしてたんだと思う。と、話がそれたけど、そこから考察するに魔族の可能性もゼロじゃないでしょ。暗殺が稀でもスパイは戦国時代から現代まで続いている戦略だからね。魔族が直接ではなくても人族の裏切り者が魔族について王様を・・・いや、それはないか。言葉は通じないらしいし。待てよ、翻訳スキルだ。大輔が翻訳スキルを手に入れてるなら現地の人だって・・・。」
「こらこら真二、暴走しすぎよ。とりあえず一つずつ検証していきましょう。」
「いや、でも、俺たちが考察する必要がある?犯人がわかっても俺たちが捕まえられるわけでもないし」
晴彦が話の腰を折る。
「別に犯人を捕まえようってわけではないよ。どのシチュエーションでもそれに付随するリスクの予測と迅速な対応のために、検証しようってだけさ。」
「なるほどね。」
もっともらしく返事はしているが晴彦は真二の言葉の意味を理解してないだろう。俺?もちろん理解してない。
「まず先生が犯人の場合、動機は何だろう。少なくとも昨日の先生の言葉が嘘とは思えない。」
「そうだな、俺の直感もそう言ってるよ。」
「でも、そうすると動機は僕たちの為にってのが考えられるよね。」
「うん、じゃあ、私たちの為って?」
「そうだね。こんなのはどうだろう。王国側か魔族の誰かに唆されて王様を殺せばみんなを地球に返してくれるって言われたとか。」
「ありえないとは言わないけど、その話を先生が鵜呑みにするのかな。」
「でも、魔王討伐だって同じじゃないかな? 魔王討伐すれば地球に帰れるってのを信じるなら王様を殺してもって思うのはおかしなことじゃないんじゃないかな。」
「そうだとしても一日で判断を下していきなり実行するのはリスクが高すぎじゃないかな? それに先生は多分、魔王討伐の件も半信半疑だったと思う。僕たちには魔王討伐するって言ってたけど、この1ヶ月で色々情報を集めてからきちんと今後の対策をねるつもりだったんだと思う。少なくとも僕が先生ならそうする。」
「じゃあ真二は動機はなんだと思う?」
「うん、わからない。と、言うか先生が犯人ってことが想像できないんだよね。行方不明の理由も思いつかないし。可能性を話してて、ますます先生の犯人説が無理に思えてきたよ。やっぱり僕は犯人は別にいると思う。王国側か、魔族かはわからないけど。と、いうか僕たちはこの世界のことをまだ知らなすぎる。魔族にいたっては容姿すら知らないんだから。」
「そうだね。判断材料が少なすぎて、これじゃあ、他の2つの可能性は考察できないしね。先生からのあるかわからないメッセージを探してみる?」
「ちょっと待って、先生が自主的に失踪したんじゃない場合も考えた方がいいんじゃない。」
「確かに、あんまり考えたくはないけど誘拐の線ってことよね。でも、伝説級の先生を、しかも私たちに気付かれない様に誘拐するってそんなに簡単じゃないと思うんだけど。」
「うーん、現実的には難しいよね。そうするとやっぱり自主的に・・・。」
「よし、とりあえずメッセージがあるか探してみよう。でも、監視が内部にいるから探すときはこっそり、何か見つけても極力反応しないようにしよう。」
それから約半日、俺たちは建物内を隅々まで探した。食器の中や照明の裏、ソファーの下やベットのカバーの中まで探したが、残念ながら何も出てこなかった。簡単に何か出てくるとは思ってはないけど、流石にみんなからも失望の色が出ている。
ゴーン、ゴーン
突然、鐘の音が響き渡る。うちらの食堂から良く見える教会らしき建物の鐘の音だ。なんでも勇者を神の使徒として崇める宗教が国教としてあるらしい。その兼ね合いで本堂が城内にあるらしいが、国王の態度を見る限り彼が信心深い様には見えなかった。まぁ、政治的な意味合いもあるのだろう。
「嘘だろ。」
誰かが鐘のさらに上、教会の屋根に先にある勇者の剣をベースにしたシンボルを指差す。
「おい、まさか。」
嫌な予感が体中を駆け巡る。
「石井先生・・・。」
誰かが呟く。
そこには剣に突き刺され死んでいる石井先生がいた。
名前:富田 麻由子
職業:チューター
レベル: 1
力: 19
体力:23
魔力:41
器用さ:43
素早さ:32
スキル:翻訳 生命反応探知 教育