何かが起こった
「まず、重要なことを君たちに話す。心を落ち着かせて聞いてくれ。君たちは魔王討伐は行わなくていい。先生と騎士団で行うことを大臣との話し合いの中で決定した。」
食堂に集まった生徒に向かって石井先生が話し始める。
「え、でも、それじゃあ先生は一人で・・・。」
「心配してくれるのは有難いが先生のステータスは君たちも見ただろ。どうやらあのレベルになると伝説として語られるレベルらしくてな。一方で君たちの力は騎士団とあまり変わらない。悪いな、君たちが異世界無双、俺TUEEEEEEをしたかったのを先生がしちゃって…。で、先生の使命は君たちを守ることだ。それならば、先生が魔王討伐すれば、先生は自分の使命を全うできるし、この王国も救われる。まさにWin-Winの関係ってやつだな。」
「Win-Winなんかじゃないでしょ‼ もともと俺たちは無理やり誘拐された様なもんなんだぜ。先生の使命って、異世界に来てまで俺たちを守る必要なんかないじゃないか。」
「いやいや、誘拐ってところは先生も引っかかるところはあるし、憤りを感じるよ。でも、現実的に考えて選択肢はこれしかないんだ。先生の使命って偉そうに言ったけど、使命じゃないな、希望だ。先生は君たちを守りたいと思う。だから先生の希望を叶えてくれないか。」
「先生…。」
石井先生の優しさと勇気にみんなが感動して、言葉を飲み込む。
「そんな心配な顔するな。大丈夫、先生は何と言っても伝説の勇者クラスの男だからな。で、ここからが重要な話なんだが、先生は一カ月後にこの都市を出立する。なので、そこから先生が魔王を討伐するまで君たちにはこの世界で助け合って生活してほしい。正直、期間はわからないが、数年にわたると思う。伝承によると前回の戦いは3年かかったそうだ。その間、何とかみんなで頑張ってくれ。」
「3年…。」
それは長いとも短いとも言えない時間。
「まずは1カ月、ここでの生活を通じてお互いこの世界での常識を学んで行こう。それと戦闘訓練も有志ではあるが受けてくれると心強い。討伐に参加しないでも、自己防衛のための力は必要になると思う。本当なら先生がこのまま君たちを守れればいいんだけど…すまんな。」
「そんなことないよ。先生がいてくれるから俺たち…。」
…頑張れる…安心する…戦わなくて済む。『…』に続く様々な言葉。先生はそのすべてを受け止めてくれた様な笑顔で頷く。
「まずは大臣から手に入れた情報の共有だ。メモを取ったから、聞いてくれ。」
石井先生の話では、この世界、正確には大陸には人族、魔族が住み、それぞれ数個の王国を形成してるらしい。人族の国は4か国ありこのアスランは人族最大の都市ではあるそうだ。しかしながら魔族の土地と隣接されているため魔族の侵攻の被害を受けやすいらしい。魔族も同様に4つ程度の国があると思われるが、数百年に一度魔王という存在が現れ、各国が協力して人族の土地に攻め込んでくるらしい。それが前回は400年前、魔王討伐によって終戦し、それ以降大規模な戦は行われていないらしい。魔族は人族の言葉は話さないが転移者は翻訳のスキルのため、魔族の言葉を理解できるらしい。そのため魔族の甘言に惑わされないようにと、厳しく言われたという。大陸は海に囲まれていて、他の大陸があるかどうかは不明らしい。
「と、言ったところが大臣から聞いたこの世界の概要だ。ただ、全てを鵜呑みにしないように注意してくれ。これらはすべて私たちを召喚した側からの話なので、都合のいいことを吹き込まれている可能性もある。明日からの指導においてその発言を吟味して一日一回はミーティングを持って、みんなの考えをまとめよう。と、言うことで今日は部屋に戻って休もう。先生の部屋のドアは常に開けておくから相談がある人はいつでも訪ねてきてくれ。何か質問はあるか。ないなら解散だ。きちんとご飯を食べてゆっくり休むんだぞ。」
解散した後、俺たちは夕飯を食べつつ、先生の話について意見交換をする。
「先生、本当に一人で行く気かなぁ。」
「だろうな。俺の直感がそう言ってる。」
「僕は…一緒に行けるように訓練を頑張るつもりだよ。」
「やめとけピエール。先生の強さは見ただろ、俺たちじゃ足手まといになる可能性が高いだろ。って、俺の直感が言ってる。」
「でも…。訓練を頑張れば僕たちだって…。」
「まぁ、訓練してみてからだよ、ピエール。晴彦も気持ちはわかるけど、自分たちの能力を理解するのが先だろ。」
「真二の言う通り。それに魔族ってのの力も理解しないとね。」
「当面は情報収集ってところだよなぁ。」
「そうね、でも、無理やり連れてこられたあたり、無条件でこの国に協力っていうのも…ね。」
「わかる。せめて王様ぐらいはギャフンと言わせたいよな。」
「ギャフンッて死語だけどね。」
くだらないことで大笑いする俺たち。友人たちの存在がこれほど心強いと思ったことはない。夕飯後も俺たちは異世界の事、昔話、家族の事、くだらない話を取り留めもなく話し続け、深夜遅くに解散した。
翌日、俺たちはけたたましい音で目が覚める。そしてそれは俺たちの異世界転移があり得ない方向に転がり始める合図でもあった。
「全員、連行する。変な行動はするな‼ 会話も一切禁止する。 尚、達哉殿にはこの手錠をしていただく。」
どうやら何かが起こったようだ。部屋から玄関に集まる生徒たち。先生の強さを警戒してか、先生には手錠を掛けようとしてるらしい。 しばらくして、生徒が全員集まる。 しかし、先生はまだ現れない。 昨日遅くまでみんなの相談を受けたせいか、爆睡しているのかと思ったその時、騎士団の一人が開けっ放しのドアから先生の部屋をのぞいて言った。
「石井達哉はいません‼ 逃走したと思われます。」
そこに先生の姿はなかった。
名前:神尾 晴彦
職業:占い師
レベル: 1
力: 22
体力:23
魔力:40
器用さ:35
素早さ:31
スキル:翻訳 直感