お金
「では、まず私たちの国と魔族の国の国境の状況をお伝えします。国境といっても明確な線があるわけではなく、砦とそれを守る城壁が最前線です。この砦を攻めてくる魔物を捕まえて今まではこちらに送っていたのですが、今回の件でそれは今後行わない運びになりました。」
「国王様は国境警備の増強をも進めようとしたんだが、俺が守備ではなく、攻撃隊を組織するべきだと主張したんだ。守るってのはどうしても受け身になってしまい、敵の動きを察知するのが遅れてしまう。逆に攻撃隊を組織して相手の懐に入ってしまえば様々なものが見えてくるってね。魔王の動きがない今だからこそ余計に必要になると思ったんだ。」
「サルジオーネの主張はある程度認められたが・・・。」
「要はやるなら勝手にしていいが少数での活動しか認めないってことになった。危険な任務だし大人数で敵国に侵入すれば戦争の引き金になるかも知れないから・・・と。俺はあの魔族を追う口実さえもらえればそれで良いので、それでその話を受けさせてもらった。」
「つまり、敵国に少数で侵入する捨て石の様な組織ですね?」
「捨て石ってもう少し言い方はあると思うが、概ね間違ってはいない。で、君たち異世界人がついて来てくれれば戦力も上がるし、なにより敵の言葉がわかる。情報は力だ。これに勝る戦力はないと思っていたら君たちが追放されるってことになってしまい、慌ててラースに相談したところ、ここの人が君たちを紹介してくれる運びになったってことだ。」
「そのまま追い出すより、少々危険でも組織の中にいた方が安全だと思ったんだ。最前線には連れていかないって話だったし・・・。しかし、少し浅はかだったな。すまなかった。」
「ま、って言うことだ、お嬢ちゃんも納得してくれたか?」
「最前線じゃなくて後方支援だったら、ある程度安全なんですよね? 翻訳スキルが必要なら私を!!」
「詩織!! それは約束が違う。」
「でも・・・。 わかった。」
納得はしていないだろうが引き下がる詩織。
「翻訳スキルを所持している人はお城にはいないのですか?」
真二が興味を引かれたように元大臣に質問する。
「いや、レアなスキルであるため数人しかいないが、いることはいる。私が知っている人材だけで3人。ただ全員スキルを活かして外交官として国外にいます。それに全員があまり戦うことや血を見ることが苦手な連中でして、特殊部隊に参加することはないでしょう。まぁ、本人たちが希望しても国が有望な人材を送るとも思えませんしね。」
「そうですか・・。」
「おい、真二、まさかお前まで特殊部隊に興味を持ったとか言うなよ。」
「違うよ晴彦。ただちょっと・・・いや、なんでもない。それで、今回のお話がおしまいなら、こちらからも2つお願いがあります。一つ目は国外追放になったあとの後ろ盾。これは、そちらにも僕たちの動向を知れるというメリットがあります。国王様が僕たちを切り捨てたとしても異世界召喚者が魔王への切り札になる可能性は残るはずです。まぁ、正直こちらとしては戦う気はありませんが、良い取引だと思いませんか?」
「おっしゃる通りです。もちろんお受けします。要職に付いていたぶん国外にも多少のコネクションがあるで、私にお任せください。元々そこの責任は取るつもりでしたので。」
「ありがとうございます。それともう一つなのですが、これはラースさんに直々にお願いしたいのですが・・・。」
「なんでしょうか? 私に出来ることならなんでもお任せください。」
「実は僕たちの国では馬に乗るということがなかったんで、乗馬の技術がありません。そこで僕たちに乗馬を教えてください。この国を去るまでに、ある程度は習得したいので、出来るだけ早くお願いしたいのですが・・・。」
「お安いご用です。では、出来るだけ早く練習を始められるように手配します。」
上手い。これで違和感なく、俺たちは城の馬と接触することが出来る。途中、険悪なムードに成りかけたが概ね、この会合は成功だろう。一番の収穫は馬だ。しかし同時に詩織の精神が心配だ。この世界にカウンセリングという概念は存在するのだろうか。
「では、私たちはこれで失礼します。」
一行が帰ろうとしたとき、ピエールが走り込んできた。
「あ、大臣さん。ちょうど良いところで会えました。すみません、お金を貸してください。」
ピエールは何故か金の無心を始めた。