新たなる能力
「知らない天井だ。」
やはり目が覚めたときにこの台詞を言わなければ、異世界転移者失格だろう。
「何、テンプレやってんだよ。そこはオリジナリティが大事なところだよ。」
「っていう晴彦も、しっかりテンプレやってたから大丈夫よ。」
横のベットに笑顔の晴彦と詩織がいる。思わず涙が込み上げる。
「あほ、泣くな泣くな。そこは明るくおはようでいいだろ。涙は真打ちまでとっとけよ。」
「真打ちって?」
「もうすぐ来るよ。」
真打ち? よくわからん。と、うそぶいておく。
「それよりみんなは? 麗奈、真二、真由子、ピエールは無事?」
「ああ、無事だよ。怪我もない。あとあの場にいた3人は無事だったよ。」
『あの場の三人は』はということは、残りのクラスメートは・・・。
「それで、ここは何処なんだ? 城の中じゃないみたいだけど・・・。」
「ああ、あれから色々あったらしくてな。俺も2、3日寝てたらしいから詳しくは真二からあとで聞いてほしいけど、ここは城下町の診療所らしい。」
「城下町? 城の中が危険だからこっちに移されたってことか?」
「いや、そうじゃなくて・・・。」
何やら答えにくい質問をしてしまった様だ。その時、
「大輔、目が覚めたの!?」
麗奈が勢いよく飛びついて来る。
「愛の力だな。」
「愛の力ね。」
晴彦と詩織がウンウンと頷きあっている。あれ、ちょっと待って、その台詞何で知ってるの?
「大輔、目が覚めたか。」
「こら麗奈っ。嬉しいのはわかるけど怪我人にを強く抱きしめないの。」
「あ、ごめん大輔。大丈夫?」
「ああ、大丈夫。」
「愛の力だな。」
「愛の力ね。」
お前らいい加減にしろ。真二、真由子が麗奈の後に続く。
「あれ、ピエールは?」
「ああ、ちょっと落ち込んでるというか、あれからちょっとな。」
「そうか、怪我はないんだよな。」
「体は何ともないみたいだけど、やっぱりあれだけのことがあると・・・。」
「そうだな。」
あれだけのことがあって、普通でいられるわけがあるはずがない。実際みんなも明るく振る舞っているが、今も平常心であるわけがない。俺だって・・・。でも無理にでも明るくしてた方がマシだ。
「で、あの後どうなったか、真二教えてくれるか。」
「もちろん。でも、あんまりいい話ではないから、心を落ち着かせて聞いてほしい。まずは今回の被害報告からするよ。騎士団団員の死亡者5名、怪我人が30名、城の兵士が死亡者16、怪我人55、魔族の脱走者97名、死亡者96名、異世界人死亡者26人、怪我人3人。」
クラスメートを異世界人と呼んだのは真二が感情輸入しないように自分の中で線を引いているからだろう。それよりも、魔族の死亡者数が・・・。
「魔族が一人脱走してるってことか?」
「ああ、その通りだよ。」
「まさか、あの大男が・・・。」
「いや、あの魔族は大す・・・いや、死亡が確認されているよ。別の魔族らしい。」
俺が殺したと言いかけて、死亡に言い変えたのは真二の優しさだろう。だが、俺の手には人を貫いた感触が残っている。
「じゃあ、真二たちがその魔族を追うために俺たちは城下町にいるのか。」
「いや、そうじゃない。僕たちは城を追い出された。」
「追い出された? どういうこと?
「簡単にいえば城に入ることを禁止された状態だ。」
「は? 勝手に召喚して、勝手に魔族討伐を命令して、勝手に事件に巻き込んで、勝手に殺して!! それで追い出しただと!!」
怒りが頂点に達してつい怒鳴ってしまった。みんなも同じ気持ちであろう、説明してる真二ですら苦々しい表情だ。こっちは仲間が27人殺されているんだ、当然の感情だろう。
「すまない、怒鳴るつもりじゃなかったんだ。」
「いいよ、僕も同じ気持ちだ。続けるぞ。追い出された理由はこの間大臣が話していた派閥争いさ。今回の件、研究所の不始末ということで所長が斬首、その研究所で研究という名の拷問が騎士団団長によって行われていたということが判明し、騎士団団長は解任、降格。召喚反対派閥は大きくその影響力を削がれた。」
「騎士団団長が魔族を拷問してたのかよ。」
「ああ、昔団長の婚約者が、婚約者は同じ団に所属してた剣士だったらしいが、魔族に酷い殺され方したらしくてな、そこから人が変わって魔族を狩ることに人生をかけたてきたらしい。その結果、間違った方向に進んでしまったらしい。その辺の事情を考慮しての今回の処分らしい。」
「そうか、でも反対派の影響力が削がれたなら俺たちへの待遇は改善されるべきじゃないのか?」
「そう、でも、まだ続きがある。影響力が削がれた左大臣が国王に直訴をしたらしい。王国に不幸が続くのは召喚者たちが城にいるからだ、その不幸に召喚者も巻き込まれている、つまり彼らには闇を祓う力はない。ならば国から追い出すべきだとね。」
「国王はそれに賛成した・・・と?」
「ま、そう言うことだね。左大臣の一発逆転で右大臣は降格、今は屋敷で謹慎処分中。僕たちは城を追い出されたけど、僕たちを完全に排除するには国王の度胸が足らず、妥協案として怪我人の怪我が治るまでは城下町での滞在が許されたってとこかな。」
「じゃあ、俺たちの怪我が治ったら?」
「国外追放・・・だろうね。」
「ま、自由になれていいじゃないか。」
しんみりした空気を和まそうと晴彦がおちゃらけて言う。
「ああ、そうだな。でも、先生を殺した犯人は捕まえたかったな。」
何気なく口から出てしまったが、みんなも同じ思いだったのだろう、黙って頷く。だが城から追い出された俺たちには永久にその機会を奪われてしまった。
「これからのプランとかは何かあるのか?」
「いや、とりあえず怪我人は怪我を治すのに集中してくれよ。その先はまたみんなで考えよう。騎士団に鍛えられた僕らならどこに行っても大丈夫だよ。」
「そうだな、何て言っても俺たちは伝説の異世界人だもんな。『ステータスオープン!!』なんちゃってな。」
悔しい気持ちを抑えつつ場を和まそうとしたとき、『それ』が表示された。
名前:田中 大輔
職業:リスナー
レベル: 2
力: 37
体力:40
魔力:24
器用さ:46
素早さ:49
スキル:翻訳 翻訳Lv2