闇
「楽しい話をしておいででしたな。その、会話に私も入れて頂けますかな。」
ニターっと笑う大臣。本当に大臣が犯人なら俺たちの命もここまでだろう。犯人じゃなくても一国の大臣を殺人犯扱いしたら縛り首でもおかしくない。
沈黙が流れる。
「ホッホッホ、冗談ですよ。余り気持ちのいい会話ではなかったですが、正直、あなたたちの推察眼には驚かされる。ここだけの話、私も犯人は身近にいると思っています。ただし犯人は大臣だとは思ってないですがね。」
愉快そうに笑う大臣。しかし、目は笑っていない。これでは話しにくいということで牢屋から出し、手錠を外してくれた。
「では、大臣は誰が犯人だとお思いですか。」
「これまたずいぶん直球ですね。よろしい、腹を割って話させていただきます。しかし、それにはまずこの城の権力の構図をお話しなければなりません。ただ今、この城はある理由を巡って真っ二つに割れています。異世界召喚推奨派と異世界召喚反対派です。」
どうやら俺たちの存在を好ましく思わない連中がこの城の半分の権力を握っているようだ。
「異世界召喚推奨派は前国王、サターナ様、騎士団副団長と私を中心として存在し、異世界召喚反対派は右大臣の私と対を成す存在の左大臣と騎士団団長、研究所の所長を筆頭としています。」
「現国王はどちらの派閥に入っているのでしょうか?」
「もちろんこちらです・・・と、言いたいところですが、中立の立場を取ってお出でです。国王は優しいお方であるが故、どちらにも味方されておいでではありません。」
上手いこと濁してはいるが現国王は優柔不断ってことだろう。どちらかに味方して失敗すると自分の立場も危ういのだから仕方ないといえば仕方ないが。
「理由はやはり騎士団の立場を脅かすからと言った所ですか?」
「まぁ、騎士団団長の立場からするとそれもあるやもしれませんが、私たちが意見をぶつけたのは伝承の解釈です。伝承には様々な過去の歴史や召喚の方法など有用な情報が多々あったのですが、問題は最後の一文にあるこのような文面です。」
『闇あるところ光あり、闇を打ち破るには光が必要である。また光あるところに闇あり、光がなければ闇もまた存在しないであろう。』
「私たちはこれを『召喚者が魔王を打ち破った後、異世界に帰り、この世界に平和が訪れる』と解釈したのですが、反対派は、『そもそも召喚を行わなければ世界は平和なままだ』と、主張したのです。前国王はどちらが正しいか悩みましたが召喚を行えるのが数百年に一度と言うことで、召喚を行わなかった場合、魔王が現れたときそれに対抗出来るものの存在がいなくなるという事態に陥る可能性があるため、その問題を避けるため、召喚に賛成しました。」
「つまり反対派は僕たちが召喚されることによって、この世界に闇が生まれたと思っていると。」
「ええ、魔王の存在はまだ確認されていませんが、国王様、勇者様、王女様と立て続けに亡くなっては、反対派の勢いは増すばかりというのは仕方のないことかも知れません。」
「大臣はそれが反対派の策略だとおっしゃっているのですね。」
「ええ、残念ながら。しかし証拠はありません。国王様の時も勇者様の時も反対派を含む城のものに罪を犯したものはいないと真実の目を使ったことで立証されてしまっているので。」
「真実の目自体が間違う可能性は?」
「ありません。適正に使えば、確率は100%です。」
「では、犯行は外部のものに間違いないということでしょうか?」
「直接手を下した犯人は外部のものか、この城に潜んでいるものということになるでしょう。そこで、手を打たれる前にあなたたちを保護させて頂いたのです。」
つまりいきなり拘束されたのは捕まえるためではなく、召喚反対派からの保護が目的だったということね。でも、何故俺たちだけ?
「城の中を捜索するなら僕の地形探索と真由子の生命反応探知が役に立ちそうですね。それと王女様の死因が毒殺だったり、睡眠薬を飲まされていた可能性があるなら、麗奈の『食材解析』が力を発揮しそうですね。」
「サターナ様の死因は圧死ですが、睡眠薬の可能性はありますね。」
「あと、晴彦の『直感』も必要になって来るかもしれないね。頼むぞ、晴彦。」
「もちろん、麗しのサターナ様を殺した犯人は俺が捕まえてやる。」
みんなやる気に充ちてきた。さっきまで自分の死が迫っているかもという恐怖が消え去り、今は、犯人を捕まえてやるという決意に満ちあふれてる。だが、俺は違う!!
「真二、水を指すようで悪いが、俺は? 俺のスキルだけ、仲間ハズレにされてしまっていませんか?」
真二が目を逸らす。真由子も目を逸らす。麗奈も目を逸らす。晴彦が俺の肩に手を置いてポンポンして来る。ムカつくから蹴ってやった。
「では、大臣、今から城内を捜索するということで宜しいでしょうか。」
「ええ、私は公式にあなたたち5名の無罪を城内で発表しますので、皆さんは、ラースを一緒に連れていってください。彼がいれば反対派も簡単には手出しを出来ないでしょうから。」
どうやらラース君は一般団員ではなく、そこそこの実力者らしい。昨日からラース推しが凄かったのは、俺たちの身を案じてのことだったらしい。
さあ、反撃開始だ。
と、思ったその瞬間。
けたたましいベルが鳴り響く。兵士が廊下を慌ただしく走り回る。
「どうしたんですか。」
真二が大臣に尋ねる。
「最悪のタイミングで最悪のことが起こりました。研究所の魔族たちが脱走しました。」
どうやらこの城にはまだまだ深い闇があるらしい。