妃殿下と第一王子の計画②
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実はリシャールは行方不明中に手紙を送り、サラに結婚式の準備を手伝ってほしいと伝えていたのだ。
結婚式については予定は大方立っているものの、婚約をしてから血抜き殺人事件やマリーの抵抗(修道院に帰るからと、結婚を拒否)などいろいろあった。
しかも公務多忙なリシャールには時間がないため、困った状況であった。
平民の結婚ならば、準備もさほどいらず簡単に挙げれるだろう。
しかし、リシャールは王族。
墓荒らししても、死人と話しても、人肉を食べようとも(食べないけど)、国民に嫌われても、腐っても第一王子。
正真正銘由緒正しい王族だ。
王族とならば習わしや式場の準備、来賓の選定など結婚式は面倒事が多い。
さらに、花嫁であるマリーは修道院に帰ると言って聞かないし、結婚にかなり非協力的だ。
だから、マリーの友達で、つい最近入籍し、結婚式の経験があるサラは準備を任せるのに適していたのだ。
「仕事が早いな」
リシャールが感心したように書類を眺めて言った。
「そんな大したことではありませんわ。わたくしの未来のためですもの、三日徹夜くらいしますわよ」
サラは仕事が早かった。
もともと、小説を五カ国に翻訳するくらい朝飯前なくらい、サラは本当に聡明で優秀なのだ。
マリーの知らないところで、サラも結婚式の準備をしていた。
サラが結婚するわけでもないのに、自分の結婚式よりも張り切っていた。
マリーの代わりにあれやこれや、つまり、衣装も含む全てをちゃきちゃき用意していたのだ。
サラが代わりに式の用意をしていたので、式当日は、マリーは身一つで参加すればいいくらいに準備していた。
まことに残念なことに、マリーは修道院に帰る気満々なのに、勝手に物事が進んでいたのだ。
マリーは、リシャールと自分は『身分が釣り合わない』、『私なんかよりも殿下には素敵な人がいるから、ちゃんとお別れしなきゃ』と悩んで、身を引こうとしてきた。
本気で、リシャールのためを思い、何度もリシャールに伝えたのだ。
サラにも修道女である自分と王子であるリシャールがは釣り合わないから、と言ったこともある。
しかしながら、マリーの意志をカチ無視して結婚を進める彼らには、何も伝わってなかったらしい。馬耳東風というやつか。
マリーの気持ちを理解している者は誰も居なかったのだ。
ただ言えることは、サラはマリーが大好きだから、ずっと一緒にいたいし、修道院に帰ってほしくない。
リシャールは早く結婚式を挙げて逃げられなくしたい。
この困った二人の利害が一致したのだ。
「新婚旅行はどこですの?」
「まだ、決めてない」
リシャールはきっぱり答えたので、サラがガクッと肩を落とした。
旅行先未定、それは、全然二人の関係が進んでいないことを意味している。
無理もない。
マリーは結婚そのものに、同意すらしてないのだから。
リシャールは最悪、結婚式は無理矢理連れて行こうと思っているくらいなのだ。
「早く予定がわかったら教えて下さい。わたくしも予定を合わせなくては」
「なぜ予定を合わせる必要がある?」
「え?」
「えっ、じゃないだろう。お前、馬鹿か。なんでお前がついてくるんだ」
「だって! わたくしたちは……仲間じゃないですかっ」
「親戚の間違いだ」
リシャールが眉根を寄せて嫌そうにサラを見下ろした。
「……まぁ。そうですね、まずは逃がさない事です。いつ既成事実作りに行くんですの?」
「お前らと一緒にするな」
リシャールはため息をついた。サラに話が通じないのはいつもの事だが。
リシャールは、サラの事を不安言動が多い女だが、『協力者だから』、という理由でかなり大目に見ていた。
「まぁ、間に合いそうだな」
サラはやはり優秀で、書類は抜け目がない。
式の準備は彼女に任せておけば大丈夫そうだった。
「今後の問題についてはサラ姫も手伝ってくれるのだろう?」
「もちろん」
「どうせ、国王はふらふらしているんだ。どう変えようと私らの、勝手だ」
「今日は、あの日ですの?」
「いや、明日、行ってくる。しばらく、留守にするとテオに伝えておいてくれ」
国王の所在については、リシャールの他に、サラとテオフィル、テオフィルを推している王弟の叔父くらいしか知らない。
国王に会いに行くのは高度魔法で平民街に目立たずに行ける、第一王子のリシャールくらいだ。
「わかりましたわ。今日はどこへ?」
国王は王城から割と近くに住んでいるからいつもなら日帰りなのだ。
しばらく留守にする、という事はきっと別の用事があるということに他ならない。
「捕まえに行ってくる」
リシャールは澄ました顔で言った。
サラは『何を?』とは聞かなかった。
彼の捕まえたいものは決まっている。
リシャールはサラに礼を言った後、書類を自ら持って、父のいる平民街へ赴いた。
サラとリシャールがが意外にもなかよくやっていたことをマリーまだ知らなかった。
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暗い夜だった。雷が鳴っていた。
昼間は、晴れていていい天気だったのが、嘘のようだった。
午後に差し出し人不明の、立派な木箱が届いたが、施錠されており、マリーには中身は分からなかった。
もしかしたら、教会関係の荷物かもしれないので、玄関付近に保管はしていたのだ。
マリーは帰ってからパンを食べ、シャワーを浴びて、髪を乾かして、寝巻きに着替えていた。
時刻は9時過ぎ。修道院ならとっくに就寝時間だ。
2階にある寝室のベッドに入り、本を読もうと思っていた矢先、玄関のチャイムが鳴ったのだ。
(こんな酷い天気に、しかも夜に誰だろう? 急用かしら?)
教会関係の建物は関係者以外見つけられないように結界が張られているから、きっと急用がある仲間に違いない。
フレッドか、ジャンか。訪ねてくるのは、そんなところだろう。
マリーは躊躇なく、施錠を外し、ドアを開けた。
「ただいま」
遠くで雷が鳴った音がした。
しとしとと雨の音も絶え間なくしている。
玄関先の見慣れた彼は、白い肌から水滴が流れて、金髪は濡れていた。
「なんで……と、とにかく入って下さい!」
マリーは濡れながら玄関先に立っていたリシャールに驚いたが、リシャールを追い返す事もできず、部屋に入るように招き入れた。
雨に濡れたリシャールは、色っぽかった。
(なんで、殿下来たんだろう? いや、それより早く身体を暖めないと風邪を引いてしまうわ。殿下は強がりなのに、そっちゅう風邪をひくし……)
マリーは純粋に心配していたのだ。
「お風呂入ります?」
「……そうしようかな。貴様は、寝る準備は終わったようだな」
「はい。もう寝るだけです」
「風呂は確か、奥だったな。上で、待っていろ」
リシャールはいつになく、爽やかにニコッと笑った。
「できるだけ、早く行くから」
リシャールはマリーの頭を撫でて、愛しげに髪をすいた。
「は、はい……?」
マリーはリシャールに促されるがまま、寝室に向かうが、違和感があった。
ベッドに入って、ゆっくり深呼吸してから考えてみる。
リシャールの突然の訪問。天気は雨。すごい雨。
だから、部屋に招いただけなのに、会話がおかしいのだ。
(なんで2階が寝室だって知っているんだろう。お風呂の位置もそうだし……それに)
なぜかマリーは言葉を間違えた感があった。
ずぶ濡れだから、お風呂を勧めただけなのに。
いや、間違えてはないんだけど、違和感が半端ない。
(なんで寝室で待たなきゃならないの? これじゃあ……)
夫婦、みたいじゃないか、と思った時にドアが開いたのだ。
ありがとうございました。




