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耳に響くありふれた言葉

甘め、です

 図書棟の司書は、冷酷極まりないと言われている王子に興味があった。


 正確には最近の彼に興味があった。


 人形みたいなシミ一つない端正な色白の王子は、本に多少の興味を持つ事はあれどすぐ読み終えると特に感想を聞いても無言で、いつも死人のような感情のない人物であった。

 そんな彼が最近、熱心にある作家の、正確には絵師の本を買いあさり愛読している。


 そればかりでなく、不意に子連れや女子が図書棟を訪れすれ違った際は愛想よく場所を譲ったり、本について説明していたり、大変奇怪な行動をとっている。

 人々は誰も彼があの屍の山を築く『氷華殿下』だと気づかないだろう。

 とても親切で美形の貴族だと思っている違いない。


「……失礼ですが、殿下はもしかして恋をされているのでは?」


 つい、司書は思った事を口にしてしまったのだ。

 彼は長年司書をしているが、最近は畏怖の対象だった王子が身近な存在になりつつある。

 王子の本を取り寄せるようになってからは、あの鋭いまなざしを向けられる事もなく、柔らかい雰囲気になって話しやすくなったから、つい気軽に聞いてしまったのだ。


「……なにをいきなり言い出すかと思えば」

「違いましたか? 最近のあなたは何だか楽しそうです。何より、目が……」


 すべてを愛すかのような、色を灯していると思わず口走ってしまいそうになり、はっとする。


「ご無礼をお許しください」

「いや、問題ない」

 

 王子は顔色を変えず、淡々と言った。


「私が恋か……面白い事をいうな」

「……違うのですか?」


 やはり、司書は好奇心から恐る恐る聞いてしまう。


「そうだな、いつも想ってしまう人物はいるが……恋と呼べるかは謎だな。ただ、その人物がひらひら舞うしか能のない虫になっても……気に留めていたかもしれないな」


 ふふ、っと彼らしくなく笑った。

 司書は確信した。

 彼はもうその人物の姿形にとらわれず、すべてを愛していると。


「僕も、いつかその様に思える人物に巡り合いたいものです」

「お前にはいないのか?」

「ええ、美しいと思い惹かれても、弱いと思い守りたくなっても最後は裏切られることが多くて……見る目がないのかもしれませんね」

「意外だな。恋愛関係は充実しているように見えていたが」

「いえ。そんなことありませんよ」


 よく 貴族の恋愛相談に乗っている年齢不詳の麗しい司書は優美に、困った顔で笑った。



********



 数日後の昼下がり。

  フレッドに「殿下が呼んでいたよ」と呼ばれて、マリーは王宮に赴いた。

 フレッドとリシャールは(リシャールが一方的に)剣を抜いて争っていたり、ひやりとする事もあるが、付き合いが長いせいか、一緒に会話していることも多いらしい。


 だから、リシャールからの伝言はフレッド経由でくることも多かった。まともに氷華殿下が話せる人物が少ないせいもあるかもしれない。


 最近、リシャールは公務が忙しいからと言ってマリーの抗議は蔑ろにされていた。

 さらにリシャールは子どもに言いきかす保護者のように『用がないならそこで勉強でもしろ』とマリーにかなり辛口だった。


(夜会の日は、あんなに腰に手を回して艶かしい表情だったのに)


 あれはやはりマリーの願望、夢だったのだろうか。それか底意地悪いからかいか。


 やはり、形だけの婚約者が欲しかったのかもしれない、とマリーは思った。


 フレッドが言うには、リシャールは本気でマリーと結婚するつもりだから、彼女の貞操が危ないと危惧していたが、そんな心配は今のところなかった。


 それにいくらリシャールだって、大切な婚約者ならマリーに甘い言葉の1つや2つあるだろう。 


 現在マリーに対してリシャールは、邪険な視線はあっても愛の言葉はない。全くない。

 ここ数日、相手すらされない。


 だから、いつか彼の理想の令嬢が現れたら、婚約者破棄されるはずだ、とマリーは確信していた。

 よって、マリーはリシャールに対して身構える必要なんてないと思い込んでいた。


(結婚式の準備も全部手の込んだいやがらせなのよ、きっと)


 だって、最近リシャールはとても意地悪だったから、マリーがそう思うのも、無理はなかった。


 マリーがリシャールに呼ばれて執務室にいくと彼の姿は見あたらなかった。


(まさか……すっぽかされたの?)


 待てど、待ち人来ず。

 マリーは仕方なく庭に出てぶらぶらしていると、リシャールが歩いてきた。

 できるだけ自然に声をかける。

 この頃は、いつに増してリシャールは短気で忙しい。


「殿下、どうされました? 私、もしかして、なにか怒らせることでもしました?」

「いや?」


 リシャールは無表情でマリーを見下ろした。

 暫く、無言で二人の間に気まずい空気が流れる。

 若干、リシャールの目は虚ろだった。


(目がなんか変だな。疲れてるのかな。最近忙しそうだったから、ちゃんと食べているのかな。……もしかして、具合が悪いからイライラしているのかな?)


「あ、もしかして……クマがひどいですね。顔色も若干いつもの3倍増しで蒼白な気がします。具合でも悪いのですか?」


 マリーは思わず、聞いてしまう。


「仕事しすぎじゃないですか?」 


 リシャールは以前なら体調不調を指摘されると「ふざけるな、私は健康だ」と強がりを発揮し憤慨していたが特にその様子もなかった。

 リシャールはすこしだけマリーから目をそらした。


「怒ってもないし、具合も悪くない。今日も絶好調だ。ただ……少し、貴様に用がある」


 絶対にリシャールは体調悪いに決まっている。

 雰囲気もどんよりしている気がするし、視線もやや彷徨い気味だ。

 今のはリシャールのいつもの悪い癖で、やせ我慢の強がりだとマリーは思うが、彼女は利口だった。


 「はい、わかりました」


 マリーはリシャールに素直に従っておいた。

 リシャールを怒らせてはいけないのだ。


 リシャールに言われ、マリーは彼の後を追うように庭を横切り、離宮に入った。

 お互い無言のまま、長い回廊を歩いていた。


(離宮って王族の生活の場だよね……なんで来たか分からないけど)


 回廊だと言うのに、壁も絵画が飾られ、柱には繊細な彫刻、頭上には硝子で出来た蝋燭台。


(美術館みたい。……なにより、この場にいる殿下、う、美しい……。描きたいなぁ)


 窓から入り込む日差しに照らされたリシャールは目に毒なほど、きらきらしていた。まるで絵画の中の王子様のように。


「なに、じろじろ見ている」

「や、その、やっぱり殿下は綺麗だなと思って……惚れそうなくらい美人さんですね」

「褒めても絵のモデルにはならない」


 今回もきっぱり断られるが、実はマリーにとっては痛くもかゆくもなかった。

 なぜなら、もうマリーは彼を見なくても彼の絵を描けるのだ。

 精巧に、眉の形も、薄くて形の良い唇も、長い指も綺麗な爪の形も全部覚えていた。


(気持ち悪いって思われるから絶対言えないけど……)


 リシャールは最奥にマリーを招き入れ、そっと扉を閉め、内鍵を閉めた。

 手の込んだ調度品や、各部に細工の施された豪華で広い部屋だ。

 しかし良く見ると。

 その広い空間に実用性のある家具は、豪華な大きなベットと、数冊しか本がないすかすかの作り付けの本棚。

 絵画や置物、ピアノまであるが、ソファやサイドテーブル、机はない。


(……家具が少ない。絨毯すらないよ? 回廊もそうだけど、部屋まで美術館? ベットしか使ってないのかな)

 

 彼の生活が全く見えない部屋だった。

 美術館に寝に帰っていると言う感じがしっくりくる。

 普通は好きな本や、お気に入りの家具があったり、思い出の品があったり、するのではないか、と。


「殿下、の、部屋です、か?」

「……ああ」

「広いですね」


 リシャールは何も言わずにベッドに腰掛けた。

 やはり少し呆然としている。


「自室なんて……ほんとうに具合でも悪いんですか。すこし、お顔が赤いといいますか、熱っぽい気がします。医者をお呼びしましょうか?」


 リシャールは強がっているが、具合が悪くなり、休みたいから部屋に帰って来たのかもしれない、本当はすごく具合が悪くてでも言い出せなくて自分を連れてきたのかもしれない、とマリーは思った。


「……心配してくれるのか?」

「あ、当たり前じゃないですか。殿下? 無理なさらずに、私に頼ってください。お薬でももらってきましょうか?」


 やはり、暫く無言が続いた。

 リシャールは今日はやけに大人しい。

 怒る事もなく、不遜な口調も影を潜めていた。


「ローゼ」

「殿下?」

「なにか、貴様は私に言わねばならないことはないのか?」

「なんのことでしょう?」 

 

 話があると呼び出したのはリシャールの方だ。

 悪いがマリーがリシャールに言いたいことは今のところ何もない。

 願うは、この婚約者役を穏便に終わらせたいだけだった。

 リシャールの地雷を踏まないように、平和的に節度を保っていたい。


 リシャールがわずかに眉をひそめたが、彼はそれについて何も言わず、「ああ、そうだ。この部屋、最近改築してな。いろいろ見てみるがいい」と立ち上がり、突如マリーの手を掴んで部屋の案内を始めた。

 

 部屋の角にある倉庫には薬と包帯などの保管庫、十分すぎるくらい広いキッチン、豪華なバスルーム。

 続き間はリシャールの私室とは対照的に、白ベースの壁紙に花の模様が入っており、綺麗な淀みない青のフカフカな絨毯が敷かれていた。

 部屋を彩る様に真っ赤な薔薇の花束が飾られ、ほかにもアンティークなかわいらしい木の机、作り付けの本棚には恋愛小説から料理のレシピまで様々なジャンルの本、お姫様みたいな大きな鏡の付いたドレッサーには所狭しと並べられる化粧品ときらびやかなアクセサリーがあり、女性らしい部屋だった。


 部屋の主人の趣味が分かるようなにぎやかで生活感のある部屋だ。

 マリーはクローゼットを確認するように言われて中を見ていた時だった。

 クローゼットには、ドレスに、帽子に、箪笥にはカラフルな下着まであった。


(やっぱり、これは。……そういうことね)


 マリーにこの事態は予想できたが、一番驚いたのはこの光景を見て、胸を何かが抉ったような痛みを伴った事だ。


「あ、もしかしてこれ、殿下の恋人のものですか? そうですよね、殿下にもそういった方いらしてもおかしくないですもん」

「不自由なく暮らせるように揃えたんだ」


 リシャールは平然と言ってのける。


「そうですか。そういうことなんですね」


 マリーは突如こみ上げる涙をこらえ、拳に力を入れた。


(当り前じゃない。殿下にそういう人がいてもおかしくないと思っていたし。初めから私が殿下の婚約者なんておかしいと思ったわ。……殿下は、地味で恋愛経験のない私で遊んでいただけ。……殿下にふさわしい人が居たら紹介しようとしていたのにバカみたい)


 できるだけ落ち着いて、息をゆっくり吸ってからマリーは言った。


「……私に婚約を破棄して欲しいために呼んだのですね。おかしいと思ったんです。私の相手が殿下なんて――」

「いや、破棄はありえない」


 リシャールは腕を組み、今日一番不機嫌そうにマリーをにらんだ。その眼は明らか憎悪が込められている。


「は、はい?」

「貴様は私が在りもしない恋人と住んでいると思っているのかもしれないが、生憎そんな事実はない。婚約も絶対破棄しない」

「不自由なくそろえたって……まさか」


 マリーはクローゼットのドレスを取り、自分に合せてみた。うん、ぴったりだ。


 靴も恐る恐る試着してみる。うん、サイズは合っている。脱げることはない。


 下着も、身体は小柄ながら臀部はふくよかなマリーの体形にあったサイズだ。なんでお尻のサイズを知っているか、まずはそこが知りたいが。だが。


「殿下、何しているんです? ああ、ドッキリ的なやつですか。一緒に暮らそう、愛してる、実はお金のかかった遊びでしたー本気にさせてごめんね、的な?」

「意味がわからない」

「サイズが全てオーダーなのもちょっと度の過ぎた嫌がらせですか? あはは、殿下はもう、やることが私の範疇を超えてます、冗談は綺麗な顔だけにしてください」

「いや、大真面目だが?」

「……え」


 おふざけ一切なしの真剣なまなざしはこの状況下では怖すぎた。

 思えば、本棚の本の好みマリーの趣味だった。なぜ知っているのだろう。


 良く見ると部屋の隅に大量の画材まで用意してある。好きなだけ絵を描いていいと言う事だろうか。


 アクセサリーの石はどれもリシャールの瞳の様な青緑で、ドレスもそう。強い束縛を感じる。


 そしてマリーは一番見てはいけないものを見てしまった。

 クローゼットの一番奥にあったベビー服。

 色は黄色とか白。男女とも使えて安心な色だよね、殿下解っていらっしゃる。

 これはもう先の先まで考えている人が買うものだ。


 マリーは自然に体がドアのほうに後ずさっていったが、彼も距離を縮めるように歩をすすめる。


「服の替えもないと不便だろう。裸が好みなら構わないが」

「いえ、屋敷に帰るので結構です。お気遣い無用です」

「貴様のサイズはなかなかなくて苦労した。寸法直しに時間がかかってな。今度からはすべてオーダーメイドにする」

「いえ、殿下にその様な買い物をさせるわけには! というか、なんで私のサイズ知っているのですか?」

「ああ、気に入らなかったか? お金のことは気にするな、私は一応この国の王子だ。婚約者殿にこれくらいしたところで安い買い物だ」

「そういう意味では」

「だったらなんだ? 何が気に食わない?」

「……あのなんかいろいろ間違っている気が……。やっぱり、よ、よ、用がありますので失礼します! ごきげんよう! 殿下また明日っ!」


 ガチャガチャ。あれ?

 ガチャガチャ。ガチャ……。あれあれ?


「あれ、開かない」

「どこへいく? 貴様は私の婚約者だろう?」


 リシャールがバン、と片手をドアにつく。

 マリーは蒼白だ。一瞬で顔が絶望の色に染まる。

 彼に遊ばれたと思い、涙した自分はもういない。


「どこへいく? 貴様は私の婚約者だろう?」


 リシャールの綺麗な顔が今は怖い。いつもの無表情が怖い。

 フレッドが言っていた事を思い出す。その気になれば馬鹿みたいに一晩中……。もう頭の中は危機感しかない。

 壁に追い詰められ、マリーは彼の頭ひとつ分以上小さいから、覆い被される形となる。

 逃げ場がない。捕まっている。

 マリー、アウト。ゲームなら、ゲームオーバー。


「なぜ、家に帰る? ここにいれば通う手間が省ける」

「いやいやいや! 何考えているんですか、あなたは!」 

「……じっくり、会話をしたいだけだ」

「う、うそ」


 話がしたいなら、ベビー服とかこんなリシャールの部屋を通らないと外に行けない部屋とか、なかなか開かない内鍵の付けられた部屋はいらないはずだ。


「嘘のわけあるか。こんなところで立ち話もあれだ。来い」


 低い声に暗い顔をしたリシャールが怖かった。

 それは紛れもなく危ない犯罪者の表情で、マリーはビクッと反応していまう。

 リシャールは彼女の細い手首を掴んで、強引にベッドに座らせた。


「結婚は悪い話じゃないだろう」

「いや、その、あのですね」


 マリーは正直に言わねばならない。

 『仕事で王都に来てます、修道女ですので、結婚はできません、ごめんなさい』って包み隠さず、正直に。


「私は戦に出る事が多いし、万が一死んだら私の私財は全て貴様のものだ」

「私財、そんなもの頂くわけには……!」


 リシャールは死ぬ前提の話をなぜ今するのだろうか。

 マリーには理解不可能だった。


(遺産相続まで考えているの? 殿下。気が早いよ!)


 マリーは、やっぱりちゃんと丁重にお断りしようと心に決めた。

 リシャールがなんか、とても怖い。

 いろんな意味で殿下が怖い。


「遠慮するな。一生贅沢できる額はある。好きな物を買うなり、貴様がはまっている慈善事業に寄付するなり、好きにしろ」

「いえ、頂くわけにはいきません! お金をちらつかせて囲い込むなんて、殿下。犯罪者がやる事ですよ……」

「ローゼさえいれば、この部屋で十分一生幸せに暮らせる。私たち上手くやっていけると思わないか?」


 この部屋で一生暮らすとは、ここにマリーを生涯閉じ込めておくようなリュアンスだ。

 マリーはリシャールと全然上手く生活をやっていける自信はなかった。全くなかった。


「な、なな、な、殿下、やっぱり、なにか凄く間違って」

「貴様、この前言っただろう。しばらくは忙しくなるからもう会えないって。だから、こうやって会えるようにしてやったのに、なんだその態度は。私にした事を忘れたのか?」


 確かにマリーはリシャールに社交界デビュー前にそう言ったことは覚えている。


 マリーはそれまでは休暇で毎日リシャールの元に友人に会いに行く感覚で毎日通っていて、任務期間に入り、休暇が終わればなかなか会えないと伝えたことも事実だ。

 だからと言って、この犯罪まがいな行動はどうかしている。

 この頃、リシャールはなんだか変だ。

 マリーは激しく動揺した。


「意味が解りません! 嫌われていると思えば、同居を強要って……」

「私が、貴様を嫌う?」

「だって、執務室に行っても、無視ですし。婚約者らしくないのでてっきり……」


 怒気にはらんだ水底の様な瞳を見た瞬間、マリーの視界は一変した。

 気づけば白い天井と覆いかぶさるリシャール。

 信じられない事に、マリーの首元に触れるか触れないかの唇が這う。

 肌に息がかかり、ぞくっとする。


「殿下……?」

「顔も声も言葉も表情も全部好きだ……と言えば安心か?」

「……え、なにを」


 耳元に囁く吐息の様な声は耳に悪すぎる。

 ただでさえ、リシャールの声は心地良く響くのだ。


「愛している、好き、愛おしい、大切にしたい」 


 低くて甘くて切ない声。

 ほのかに薔薇の香りが鼻腔をかすめた。

 それだけ距離が近い。

 その声に囚われて、マリーは身じろぐことすら出来ない。

 こんな状況なのに、何度も読んだ小説の一編のようなありふれた台詞なのに、胸の深い所にじんわり染みていく。


「君のすべてを自分のものにしたい、一時も君を離したくない、死ぬまでずっとそばに居てほしい、私だけを見ていて欲しい、すぐに抱きたい」


 恋人との情事で言う甘い言葉と大好きな、声。

 身体の奥が熱くさせるいやらしい声だ。

 それは恋愛を放棄した修道女にも十分響くくらい、じっとりとして心に絡んだ。

 普段のリシャールからは絶対聞けない言葉たちはマリーには衝撃が強すぎて、眩暈がしそうだった。


「……そんな譫言のような、甘い言葉が聞きたいか? ああ、赤くなって、こんな事がうれしいのか」


 リシャールは満足そうに口角を上げている。

 悔しいがそのありふれた愛の言葉はどれも嬉しい。

 マリーは浅はかにも胸の中に響いてしまうから困った。


 正常な感覚を狂わされ、いろんな意味で囚われているようだった。

ありがとうございます。感謝です。

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