ゴードンの手下戦3
「・・・お爺さんが適正者ってこともあるか」
村の中を駆けるサームスは、その視界に老齢の男性を捉えると、パッと足を止める。
そして、佇むように立っている老人へと歩み寄ってくる。
サームスは向かう。
逃げるでもなく、怯えるでもなく、ただ笑う。
その老人の元へ。
自分の姿を見た老人が、ただ愉快そうに笑う姿を見て、サームスは微かな苛立ちで胸を焦がしていた。
「何がおかしい?」
苛立ちを言葉にするサームスを前に、老人はコクリと頷くと言った。
「おかしいことはないぞ」
「・・・そうか」
サームスはそう言って、白い袋の口を開き、老人を吸い込もうとする。
問答は不要、時間もない。
素早く済まそうとする彼へ、村長である老人は問いかける。
「その袋の中に、村のものがおるのかのう?」
「っ・・・」
いきなりの問いかけに、サームスの動きがピタリと止まる。
「アイテムボックスかのう・・・珍しい属性じゃな」
「・・・」
「魔力タイプじゃな・・・すると、人や魔物を飲み込んでしまうと、収納数はすぐに限界を迎えてしまうじゃろ?」
「・・・貴様は何者だ?」
瞬時に、自分の属性を看破した老人
只者ではないと、サームスは悟っていた。
そして、安易に白い袋へ老人を飲み込んでしまって良いものかと、彼には迷いが生じていた。
「ただの老ぼれじゃよ・・・して、その袋に、ワシの村の者達がおるのじゃな?」
「だったら・・・どうするつもりだ?」
「返してもらうぞ、当たり前じゃろ」
そう老人がサームスへ告げると、懐から白と金色の輝く宝玉を取り出す。
その物体を怪訝そうな表情で見つめるサームスへ、老人は間髪入れずに、手にした宝玉を投げつける。
「っ!?」
サームスは、投げられた宝玉を白い袋で吸い込むつもりはなかった。
それにも関わらず、勝手に宝玉は白い袋の中へと飛び込んでいく。
「な、何だ!?」
白い袋の中へ宝玉が入り込むと、その袋が謎の発光を始める。
「ま、まさか・・・何・・・」
光始めた自分の袋を見て、驚愕の表情を浮かべるサームス
彼が言葉を言い終える間もなく、周囲は閃光に包まれる。
ーー閃光が晴れると、そこには気を失っただけの村人が大勢寝転がっていた。
中には、マルルやサララ、サラやライスの姿も見える。
そして、袋の持ち主であるサームスも、どうやら気を失って倒れているようだ。
「お主を抑えきれなくなって、魔力欠乏症になったようじゃな」
お爺さんは、倒れているサームスを見つめながら、1人の女性へ話しかける。
「・・・みんな!無事!?」
「うむ、気を失っておるだけじゃ」
お爺さんへ問いかけるのは、『ミネルバ・ランジェリー』と『エクスカリバー』を装備した、大人になったユグであった。
宝玉の力により、ある種の進化を遂げたユグ
彼女の膨大な魔力を納めきれず、サームスのアイテムボックスは破裂してしまった。
結果的に、吸い込まれていた村の人々が解放されることとなった。
「・・・ワシがみんなを見ておる。ユグはケビンを助けに行ってくれ」
「うん!」
お爺さんの言葉に、ゴードンと対峙しているケビンの元へと向かうユグ
その彼女の背中を、お爺さんはジッと見つめていた。
「さて、今のゴードンを倒せるかは、一つの賭けじゃな」
そう呟くように、言葉を口にするお爺さん
そんな彼の背後には、執事服を纏った男性がいた。
「・・・タイラスは我らで食い止める。人間のことは、人間で解決しろ」
紅龍の側近であるウイングであった。
そんな彼へ、お爺さんは問いかける。
「言いたいことはわかるが、それでは村を守る契約を果たしているとは言い難いのう・・・」
「これ以上の対応を我等に求めるな」
「タイラスの相手で精一杯か?」
「・・・侮辱するつもりか?」
「肝心の紅龍はどこへ行ったのじゃ?」
「分からない」
「ふむ・・・龍が意識的に契約を反故にはできまい・・・何か事情があるのじゃな」
お爺さんは、どこか当てが外れたような表情を見せる。
そして、気を失っているサラを見つめると、どこか悩む素振りを見せ始めていた。
しかし、そんな考えるお爺さんを前に、ウイングは切り捨てるように告げる。
「ここでお前と策を巡らせている余裕はない」
「・・・うむ」
「人間のことは、お前らで対処しろ」
そう告げて、ウイングは飛び去っていく。
ーーーーーーーー
「ぐっそーーー!!」
川の中から勢いよく飛び出して来たのは、ボロボロのドシルだ。
相変わらず紫の濃いオーラに身を包んでおり、綺麗な刀身の妖刀を手にしている。
絶大な戦闘力を手にしているドシルであっても、最強状態のノルンには苦戦しているようだ。
ドシルは地面に着地すると、素早く妖刀を構える。
その剣が向けられた先には、透明な人型のスライムがゆったりと歩く姿があった。
「・・・しぶといわね」
うんざりしたように呟くスライム
魔物から聞こえる声はノルンのものであった。
ノルンは、手を胸のところまで上げて、一気に振り下ろす。
すると、その動作が影響してか、腕の関節から先が鋭い刃のように変貌する。
「・・・真似すんじゃねーよ!」
ドシルはノルンへ苛立った様子で叫ぶ。
それもそのはず、ノルンの姿勢は、その鋭くした腕でビリヤードの玉を弾くように構えているのだ。
応じて、ドシルも牙突の姿勢を取る。
すると、互いに、牙突を向け合うような格好となる。
「・・・」
「・・・」
無言の時間が続き、睨み合いを続けるドシルとノルン
そんな2人の内、先に動きを見せたのはノルンだ。
パッと、ドシルの前から、姿が消えるノルン
すると、虚空に向けて、ドシルは牙突を放つ。
閃光がパッと生じる。
遅れて、甲高い音が周囲に轟くと、凄まじい衝撃波が周囲に走っていく。
その中心には、刃と刃を打ちつけ合うドシルとノルンの姿があった。
「ぐぎぃいいい!!」
「・・・粘るんじゃねーよ!クソガキ!!」
歯を噛み締めて力を振り絞るドシル
対するノルンは余裕のある表情を浮かべていた。
打ちつけ合う刀を振り払うノルン
すると、ドシルは弾かれるようにして尻餅をつく。
そんなドシルの足へ向けて、ノルンが鋭くなった腕を突き刺そうとする。
ゴロリと地面を勢いよく転がりながら、ノルンの間合いから抜けると、パッと起き上がるドシル
「・・・はぁ・・・はぁ・・・ぐっぞー!!」
「あー・・・うぜぇ・・・やかましい!」
毛のないスライム状の頭部を掻きむしるノルン
ドシルの渋とさに苛立ちが最高潮に達している様子だ。
今のノルンがドシルを殺すことは簡単だ。
しかし、生かして捉えるとなると、その難度は遥かに増す。
これが、ノルンがドシル相手に苦戦している理由であった。
「・・・これならどうだ」
ノルンは鋭くした腕と反対の腕を、弓矢のような姿へと変貌させる。
そして、片方の腕の刃で、弓矢となった部分だけを切り落とす。
「な、何してんだ?」
自虐行為を前に、慌てるドシル
しかし、ノルンの行動は、自分を痛めつけるものではなかった。
彼女から切り離された弓矢は、フヨフヨと空中へと舞い上がる。
「・・・?」
浮かび上がっていく弓矢を呆然と見つめるドシル
そして、弓矢が一定の高さまで登ると、パッと矢が放たれる。
「お、お、おわ!!おわわ!!」
連射される矢を妖刀でパリィするドシル
同時に、彼へ向かって、ノルンが鋭くなった刃を構えて突進してきた。
離れたところから発射される矢を弾きながら、ノルンと剣戟を交える。
ただでさえ、押されていたドシルが、2対1に近い状況になれば、どうなるかは明白である。
「がっ!・・・いでぇ!!!」
足の甲を刃で貫かれたドシル
あまりの激痛により、地面を転がり回っていた。
それでも、ドシルは手から妖刀を離すことはしないでいた。
「・・・腕ぐらい、斬り飛ばしても構わないか」
ノルンは転がるドシルが妖刀を持つ腕へ狙いを定める。
妖刀がなくなれば、ドシルの戦闘力は著しく低下する。
そうすれば、拘束は容易であろうと、ノルンは予測していた。
そのノルンの予測は正しい。
ピッと腕をノルンが振るうと、妖刀がコロンと地面を転がっていく。
「が・・・がぁ・・・あああああぁ!!」
両方の腕の手首から先を斬り飛ばされたドシルは絶叫する。
血が吹き出す手首を見つめながら、その目から大粒の涙を溢し、痛みにもがき苦しんでいた。
「は・・・あは・・・あはははははははは!!いい気味だなぁ!!」
ノルンは痛みで転げ回るドシルを満足そうに眺めていた。
スライム状であるため、彼女の表情は見えないのだが、愉悦に顔が歪んでいる姿を容易に想像できる。
「あははははははは!!痛いか!?痛いか!?」
そう叫ぶノルンは完全に油断していた。
転げ回るドシルが、地面を転がって行った妖刀のところへ徐々に近づいていることに気付けないでいた。
「が・・・いでぇ・・・いでぇええよ!!がああああああ!!」
「あはははははははは!!ほら!!後で治してやるから!!今は・・・たっぷりと味わえよ!!その苦痛をなぁ!!あははははははは!!!」
ノルンは苦しむドシルを前に、腹を抱えて笑っていた。
ここまでの苛立ちが一気に晴れていくのだろう。
ドシルは転がりながらも、妖刀と一定の距離まで近づくと、一気にパッと妖刀に飛びつく。
「あははははは・・・あん!?」
異変に気づいたノルンだが、その時にはすでの遅く。
気付けば、彼女の胸元を妖刀が貫いていた。
「・・・くびぃも、ぎりおどしで、おぐんだったな」
口で妖刀を咥えながら、その隙間から声を発するドシル
しかし、彼の言葉がノルンに届くことはなかった。
「あが・・・そ・・・んな・・・ば」




