ガルウェイン
「う、オ!!ガキの癖に力が強い、ナ!」
ゴードンへと拳を叩きつけるカイルだが、当のゴードンはその拳を易々と振り払う。
まるで痺れたと言いた気に、大剣を持っていた片手をひらひらとさせる。
カイルの力は『ミネルバ・ランジェリー』の影響で大きく向上している。
ハクムを地中から引っ張り上げられるだけの怪力の持ち主だ。
・・・強いっ!?
ゴードンが振り上げた大剣に弾き飛ばされたカイル
そのままクルクルと回転しつつ、ゴードンから距離を離して着地した。
ーーその距離を、ゴードンは一気に詰める。
「っ!?」
ハッとした瞬間、すでに目の前まで飛び込んできていたゴードン
すでに大剣を振り終えようとしていた。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『パリィ』が自動発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイルと大剣の間に風の刃が巻き起こると、一瞬だけゴードンの大剣が動きを止める。
その刹那、カイルは左手でゴードンの大剣を掴み、右手の拳をゴードンの顔面へと放つ。
「・・・やる、ナ」
カイルの怪力を軽々と受け止めるゴードン
彼の放った拳は、ゴードンの手のひらで掴まれており、一連の動きはカイルの目でも追えなかった。
そして、ゴードンは大剣を振り払うと、カイルを払い捨てる。
「がっ!」
背中から雪原に落下したカイル
そのままパッと飛び起きてゴードンへファイティングポーズを向ける。
「お、イ!ガキ・・・どうだ?俺と組まない、カ?」
ゴードンは大剣を肩で担ぐと、カイルへと笑いかけながら告げる。
・・・強い。
本当に強いぞ、この人
本当に人間か?
カイルは目の前のゴードンの異常なまでの強さに驚きを見せていた。
『ミネルバ・ランジェリー』の効果は絶大であり、体感的には『迅速』+『神狼心』を併用した時ぐらいに、力と敏捷は増している。
それにも関わらず、ゴードンに圧倒されてしまっていた。
カイルは目を回して倒れているハクムを一瞥する。
ゴードンによって気絶させられており、冷静に考えればフェンリルと同じ強さを持つハクムがこの調子なのだから、目の前の男が弱いはずはない。
「・・・お、イ?どう、ダ?」
「断ったらどうしますか?」
「・・・く・・・くはははははははは、ハ!!」
カイルの言葉に、ゴードンは豪快に笑う。
その様子は、カイルを馬鹿にしているのではなく、カイルの回答を気に入っている様子であった。
「あ・・・あ、ア!本当に・・・気に入った、ゾ」
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『犠牲治癒』を発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイルはゴードンと会話をしながら手札からカードを放つ。
その対象はハクムだ。
気絶していたハクムは飛び起きると、蛇のような目でゴードンを睨む。
「ハクム!!」
「何でヤンスか!?」
「お前はケビンさん達へ加勢しろ!」
カイルはガルウェインに押されているケビン達3人を一瞥する。
ガルウェインは紅龍にビビって逃げていたが、一般的な基準に沿ってみれば、かなりの実力者であるようだ。
3対1でも、ケビン達を圧倒していた。
「ほ、ウ・・・いい考え、ダ・・・とは言えない、ナ」
そんなカイルの様子を観察するように見ているのはゴードンだ。
カイルの狙いが、敵の数を減らし、数で優位に立つことにあると睨んでいた。
しかし、ゴードンの言葉通り、カイルとゴードンの間に、ケビン達が加わっても足枷にしかならない。
足手纏いを増やすだけになる。
「僭越ながら具申するでヤンス!!足手纏いになるだけでヤンス!!」
「違う!単純に・・・みんなを助けてほしいだけだ!!」
「っ!承知しましたでヤンス!!」
カイルの言葉にハクムは慌てて加勢へと向かう。
そして、カイルはゴードンをキッと睨む。
「・・・悪いですが、僕は貴方を倒します!」
「ほ、ウ・・・いい答え、ダ!ほいほいと着いてくるようなら蹴り殺してい、タ!」
「まるで、僕が貴方についていく意思があるような言い振りですね・・・」
「く、ハ!その内、俺に従いたくなる、サ!」
ーーガルウェインは強かった。
ケビンとライクとローザの3人は連携をしっかりと取っているのだが、それでもガルウェインに傷を負わせることはできないでいた。
「・・・っ!」
「ローザちゃん!!」
ローザは足を滑らせて倒れてしまう。
そんな彼女へすかさずガルウェインは剣を突き立てる。
その背中をライクへ切り裂かれそうになっているのだが、防御を捨て、ローザを殺すことに注視している様子だ。
「がっ!おらぁ!!!」
ケビンは、ローザとガルウェインの間に飛び込むとガルウェインの剣を肩で受ける。
「がぁああ!!いっでぇ!!」
ケビンが傷を受けたことで、ガルウェインの背中を袈裟斬りにしようとしていたライクの剣筋が一瞬だけ止まる。
その隙に、パッと背後を振り返ると、ガルウェインはライクを剣ごと弾き飛ばす。
「ぐあ!」
ライクは吹っ飛ばされると、雪の中にポフリと落下して埋もれていく。
「・・・いでぇ」
「なぜ!?」
目の前で肩から血を大量に流しているケビン
彼へローザは怪訝な顔を向けて言う。
「・・・依頼主だろ、お前!!」
ケビンはローザへ答えつつも、手をガルウェインに向けて炎を放つ。
「ふん!」
ケビンの炎をガルウェインが切り裂いてかき消すと、次の刃でケビンを峰で吹っ飛ばす。
「がっ!!」
ケビンも遠くに飛ばされると雪の中にポフリと落下して埋もれていく。
そして、ローザと一対一になったガルウェインは、顔を怒りで染める。
「っ!」
「・・・死ねっ!!」
ガルウェインはローザを連れて帰るつもりはないようだ。
剣を突き出して、ローザの首を狙う。
「それはダメですぅ!」
「っ!!」
しかし、ガルウェインの前からローザがパッと姿を消す。
すると、少し離れた場所に、紫のローブを纏う男性がおり、彼の傍でローザが雪原に倒れていた。
「カシュー!」
「ダメダメですぅ!どうして殺すんですぅ?」
「・・・」
カシューの言葉にガルウェインは答えない。
そんなガルウェインの背後から、ケビンが声をかける。
「・・・お前の銀髪・・・シルバリオンの産まれだな?」
「ぐ・・・」
ケビンの問いかけに対して、ガルウェインはケビンを睨む。
その視線は鋭く、まるで目だけで相手を殺せそうなほどであった。
「恨みか?」
「そうだ!!故郷を・・・グランビニアに奪われた!!!」
ガルウェインはカシューの傍で倒れたままのローザへ剣を向ける。
彼がグランビニアを裏切り、ローザを殺そうとしている理由を全て物語っていた。
「復讐か」
「そうだ!!こいつを殺すことで・・・私は・・・俺は!!!復讐を果たせる!!」
「・・・奪われた痛み、俺にもわかるぜ」
ケビンはガルウェインに同情を見せる。
すると、ガルウェインはケビンへ辛そうな顔を見せた。
それは同情であり共感であり、それならば、なぜ自分の復讐を邪魔するのかという疑問であった。
もはや隠すつもりはないとガルウェインが叫ぶ。
「ならば!俺の・・・故郷を奪われた気持ちがわかるのであれば!!邪魔をしないでくれ!!」
「悪いが・・・俺は冒険者だぜ?」
「・・・お前にとっても憎い相手のはずだ?お前にプライドはないのか?」
「あるぜ・・・依頼は果たす!!」
「なるほど」
ケビンの言葉にガルウェインは納得感を示す。
それほど、冒険者にとって依頼は重要なことである。
その重要さを、ガルウェインは矜持として解釈していた。
「冒険者としての矜持ということだな」
「そんな大そうなことじゃねぇ!生きるために、飯を食うのに必要ってだけだ!」
「それは矜持よりも大それたことだ!」
ガルウェインの肯定に、ケビンは苦笑いする。
「やりずれぇ・・・な・・・意外とこいつ」
「ガルウェイン・・・貴方に伝えないとならないことがある」
ライクの問いに怪訝な顔をするガルウェイン
しかし、2人の間に口を挟むのはカシューだ。
「それはダメですぅ!連れて帰るんですぅ!」
「・・・そんなことはさせないんだな!!」
雪の中からマイクが姿を見せる。
同時に、カシューの傍からローザが風で空へと舞い上がっていく。
全員が気付いた時には、上空にいるマイクがローザを背負うようにしていた。
「このまま連れて帰るんだな!!」
「あ!!ダメですぅ!返してください!!」
カシューは杖を空へと向ける。
その先にはマイクがいるのだが、その視線を覆うように地面から土が盛り上がり大きな壁となる。
「そのまま逃げるでヤンス!!こいつ!強いでヤンス!!」
ハクムがマイクへ叫ぶ。
彼女はガルウェインではなく、カシューを強く警戒しているようだ。
「・・・待つんですぅ!!私は帝国から依頼を受けているんですぅ!」
ハクムの登場で、このままでは逃げられると慌ててカシューが告げる。
すると、反応を見せたのはライクだ。
「帝国から?」
「そうですぅ!ライク殿下!!」
カシューの言葉に、ライクとケビンはハッとする。
ライクの正体を知っているということは、カシューの言葉に嘘はないかもしれないと考えていた。
しかし・・・
「ダメでヤンス!!嘘の香りがプンプンでヤンス!!」
「人聞きの悪いことを言ってはダメですぅ!」
「言っていることは本当でヤンスが!!嘘でヤンス!!騙そうとしているでヤンス!!」
ハクムが支離滅裂なことを言う。
しかし、ケビンとライクが信じるのは仲間であるハクムだ。
「・・・マイク!そのまま例の場所まで逃げろ!!」
「んだ!!」
「シャアルに私の名前を伝えろ!本名の方だ!!!」
ケビンに続いてライクが叫ぶ。
「んだ!!!」
マイクは風を纏いながら遠くへと飛び立っていく。
それを黙って見過ごすはずがないのはカシューだ。
「待つんですぅ!ダメですぅ!」
カシューが慌てて空を飛び上がるが、彼の周囲の土は盛り上がりドーム状になることで、空を行くのを阻んでいた。
すぐに、そのドーム状の土はドロドロと溶け、中からカシューが姿を見せる。
この程度の拘束では、カシューの動きを止めることはできないようだ。
しかし、その一瞬だけで、すでにマイクとローザの姿は見えなくなっていた。
十分な効果はあったようだ。
「・・・ひどいですぅ」
カシューは2人が去った空を呆然と見つめていた。
そして、キッとハクムを睨む。
「殺してやるですぅ!!アルムスター様に怒られるの!!私なんですぅ!!」
ーー対峙するハクムとカシュー
その他所で、怪我をしているケビンとライクがガルウェインに立ちはだかっていた。
ローザを追いかけようとするガルウェインを阻むつもりの2人へガルウェインは叫ぶ。
「貴様らと戦うつもりはない・・・退け!!」
彼の剣先は地面へ向けられており、ケビンとライクへの敵意はない様子だ。
「お前がローザちゃんを追わないなら、終いになる」
「・・・そう都合よく納得しないだろ」
ケビンの雑な説得へため息混じりの声で告げるライク
彼の言葉通り、ガルウェインは引くつもりがないようだ。
「退け!退かねば斬る!」
「復讐か・・・?」
「そうだ!!故郷を奪われた痛み・・・晴らすために生きてきた!!」
「・・・ローザ姫を殺さなくても、この国は滅びるぞ」
「国に・・・恨みがあるのだろう?」
ケビンとライクの言葉には確かな重みがあった。
しかし、ガルウェインは納得しない。
「種ごと摘むのだ!!ローザが生きていれば、この国は生き返る可能性がある!!」
「・・・ガルウェイン、貴方に伝えなければならないのはローザ姫も被害者だと言うことだ」
「何ぃ!?」
ライクはそんなガルウェインの説得を試みる。
彼も故郷を奪われた被害者であり、また、ローザも被害者である。
「ローザも・・・彼女も・・・故郷を奪われている」
「何を言うか!?」
「・・・彼女は、ローザは・・・元の名をガーネットと言う」
ライクは真実を告げていく。
彼の言葉に、狼狽を見せるガルウェイン
「ガーネット・・・まさか・・・そんな!?」
ガルウェインは彼女の本名に心当たりがある様子だ。
しかし、顔を勢いよく左右に振るうと、剣をライクへと向けて突き出す。
「貴様!!口からポロポロと出まかせを!!」
「出まかせなどではない!」
「ふざけるな!!私は・・・俺は・・・グランビニアの王族を徹底的に追い詰めて殺してやる!!そう決めた!!その理由が・・・この国が私の恩人を殺したからだ!!!」
「・・・ああ、ガルウェイン卿、貴殿の気持ちは察するにあまりある」
「私のことをよく調べてきたようだな!!冒険者!!!しかし・・・お前の言葉に信を置くつもりなど!毛頭ないぞ!!」
ガルウェインは顔を真っ赤に染めて激昂していた。
まるで周囲の空気が震えるのではないかと思うほどの気迫だ。
しかし、そんな気迫を前にしても、ライクは臆することなく言葉を続けていく・・・




