悪夢
・・・ガーネット
そんな名前で呼ばれる夢を見る。
まるで過去の記憶を呼び起こすかのように鮮明な夢だ。
暗闇の中、まるで溺れるような意識の底
手足を動かす感覚でジタバタと暴れてみる。
すると、埃が立つように記憶が蘇る。
蘇ってくるのは忘れたい記憶
蘇ってくるのは懐かしい記憶
蘇ってくるのは大切な記憶
相反する感情が込められた記憶
胸がキュッと締め付けられながらも、黒い炎に焦されるような記憶
ーー廃材を積み上げただけの家
壁や天井には隙間があり、そこから凍てつくような風が入り込んでくる。
寒い風が当たると焼けるような痛みが肌から脳に伝わる。
「・・・っ!?」
寒さに震える。
土の地面は氷のように冷たいのに、触れる手足には熱を感じる。
「シャアル・・・ほら、これで・・・どう?」
・・・私には、ガーネットには妹がいた。
私と同じ容姿をしている双子の妹だ。
シャアルと私が呼んだその子は、私が抱きしめてあげると、天真爛漫な笑みを見せた。
そして、当のシャアルも、自分が寒そうにしていると、いつも笑いながらギュと抱きしめてくれる。
そんなガーネットのことが大好きだった。
・・・寒さが紛れるわけではない。
でも、胸の奥がどこかポカポカする。
シャアルの温もりに触れることで、私も寒さを紛らわせていたのかもしれない。
別の暖かさを感じていた。
「・・・ん」
ギュッとガーネットとシャアルは、包み込むように抱きしめられる。
2人が笑顔を向けた先には、白い髪の女性がいた。
「ほら、これで・・・どう?」
「うーん!苦しいぃよ!」
ガーネットはそう言いながらも、満面の笑みで母を見る。
大好きな、優しい母
どんなに苦しい時でも、ガーネットやシャアルには笑顔を絶やさない。
怒った姿や、泣いている姿、悲しんでいるところなんて見たことがなかった。
・・・本来、母はとても美しい女性だ。
だが、頬は痩せこけ、手足は骨と皮だけしかない。
この寒さで体力を根こそぎ奪われ、食べ物をまともに胃へ入れていない。
明日、急に倒れてしまっても不思議はない。
そんな不安をいつも私は抱えていた。
「・・・みな、すまない」
「こら、アナタ!」
そんな3人を少し離れて見ているのは1人の男性だ。
顔を俯かせ、申し訳なさそうにしていた。
しかし、シャアルはそんな男性に笑顔で呼びかける。
「お父さんもこっちに来て!」
「・・・ああ、そうだな。みんなでいれば寒くないからな」
家族4人
寒空の下、ぼろぼろの家
寒さに震えながら、お腹を空かせて、日々を耐え忍んでいた。
そんな状況でも、家族がいるだけで、彼らは幸せを感じていた。
「・・・お腹空いた」
「今日は我慢だぞ」
「やっ!」
「こら、シャアル」
「やっ!」
シャアルはお腹を摩りながら空腹を主張する。
そんな彼女に私は頭を優しく撫でながら我慢を促す。
しかし、幼いシャアルは、首を左右に振りながら拒絶する。
すると、父が姉妹に微笑みながら言う。
「・・・明日になったら、狩に出る。それまで待っててな」
父の言葉に、お姉さんを演じていたガーネットは子供のような笑顔を見せる。
"狩"は好奇心に胸が躍る単語であった。
「ガーネットも行くっ!」
「こら、ガーネットは危ないぞ!」
「やっ!」
「お姉ちゃんだって子供みたい!」
「ふふ!ガーネットちゃんは好奇心旺盛ね」
「そうだな・・・一緒に行くか」
「えっ!?良いの!?」
「ああ、その代わり、しっかりと俺の言うことは聞くんだぞ!」
言いつけるようにして厳しい顔を浮かべる父
そんな彼を前にしてもなお、狩に行ける喜びを露わにする私
「やった!!」
「ふふふ・・・そうね。そろそろ狩を覚えないと行けない歳だものね」
「ああ、ほら、そうと決まったら、明日は早いぞ!2人とも寝ないとダメだ」
「うんっ!」
ーー地獄のような場所でも、家族さえいれば幸せがある。
彼らは貧しい生活の中でも、確かに幸せを見つけ出していた。
しかし、そんな地獄のような場所にも、悪魔は悪意を持ってやってくる。
「・・・誰?」
ガーネットは家が騒がしいことに気付くと目を覚ます。
そこには母の背中があった。
まるで、自分を守るために、何かから庇うようにして、母は寝ている私とシャアルの前に立っていた。
そんな母の両足の隙間から前方を覗く。
「お父さん!?」
ガーネットは叫ぶ。
彼女が目にしたのは、黒い神父服を纏った男性が、自分の父の頭を踏みつけているからだ。
まるで土下座のような格好をしている父の頭をグリグリと足で踏み付けている。
「ガーネット!!ダメよ!!貴方はダメ!!」
思わず飛び出しそうになったガーネットを母が抱き抱える。
ジタバタと暴れるガーネットの手足をしっかりと腕で抱える。
「お父さん!!」
「・・・ぐっ!」
「・・・ちっ、うるせぇガキがいるな」
「おい、それより・・・金は?」
神父服を着た男性は3人いる。
1人は父を踏みつけ、1人はその傍に立ち、もう1人は入り口に立っている。
全員、胸には緑色の小さなトライアングルのようなネックレスをぶら下げていた。
そして、父の傍に立つ神父が唾を吐き捨てながら「金」と口にする。
「も、もう少しだけ待ってくださいっ!」
「あんっ?てめェ・・・俺らがどれだけ待ってると思ってんだァ?ああんッ!?」
頭を踏みつけている神父が、父の顔面を蹴り上げる。
血飛沫と一緒に、父の頭部はガーネットと母の前に蹴り飛ばされる。
地面で血がダラダラと流れる鼻を押さえながら父はジタバタと痛みに喘いでいた。
「お父さっ!・・・」
「・・・っ!」
そんな父の姿を見て泣き叫びそうなガーネット
私があいつらの注意を引かないようにと、私の口をすぐに手で塞ぐのは母だ。
もし、ここで大声でガーネットが泣き叫んでしまえば、あの神父は間違いなく不機嫌になる。
そうなれば、どんなことをしてくるかわからない。
それを母は本能的に感じ取っていたのだろう。
「う・・・ぐぁ・・・・ぐ・・・」
「おい、探せ」
「ああ・・・」
蹴り飛ばした神父が傍にいる別の神父へ顎で指図する。
すると、その神父は家の中へと入り込む。
目指すのは、家の奥にある小さなタンスだ。
「や、やめてください!!」
タンスに向かっていることを察した母は、その神父のコートを手で掴んで止めようとする。
すると、神父はカッと目を見開いて、母の腹部を蹴り上げる。
「ごほっ!」
「くそ!!!てめェ・・・俺に触ってんじゃねェぞ!!」
腹部を蹴り飛ばされて、蹲りながら血を吐く母
そんな彼女の顔面をサッカーボールのように蹴り飛ばす神父
「きゃぁ・・・!!」
「おらッ!!」
顔を両手で押さえながら地面に転がる母
そのガラ空きになった腹部を踏みつけるようにして蹴る神父
「てめェ!くそっ!こら・・・死ねッ!」
「や、やめて!!」
「う・・・うえぇえええええ!!うえぇえええん!!」
私は堪らず、母と神父のところに飛び込んで行く。
母に覆い被さり身を呈して護ろうとする。
そして、いつの間にか起きていたシャアルの鳴き声が家の中で響いていた。
「や、やめて!!」
「んだ?このガキ・・・」
「が・・・ネット、ダメ」
「お母さん!!・・・っ!!」
私は神父を睨む。
教会に属する者が、このような仕打ちを信徒へ向ける。
幼い頃の私でも、こいつらの存在は許して良いものではないと知っていた。
「クソガキが!!」
生意気な態度を見せた私ごと母を痛めつけようとする神父
しかし、もう1人の神父が言う。
「おい・・・ガキにまで手を出すんじゃねーよ」
「ちっ・・・」
「さっさと探せ」
「分かってるよ・・・くそっ!あぁ!!うるせぇな!!」
泣き叫んでいるシャアルへ苛立った視線を向ける神父
しかし、再びもう1人の神父が言う。
「良いから、放っておけ」
「ちっ・・・」
もう1人の神父がタンスまで歩いていく。
そして、乱暴に棚を開けていくと、小さな川袋を取り出す。
ジャラジャラと微かに音がしていた。
「けっ・・・シケてんなァ」
「お、おやめください・・・」
そんな神父へ父が叫ぶ。
「それが無くては飢え死にしてしまいます!!」
「知るか・・・死ねッ」
「どうか・・・どうか!!!」
「うるせーんだよ!」
涙を流しながら命乞いをする父
しかし、そんな父の顔を再び蹴り上げる神父
「うげぇ・・・」
父から鈍い音が響く。
そのまま仰向けにバタリと倒れると、ピクピクと痙攣したまま、何も言わなくなってしまった。
「・・・おい、そっちの剣と盾は売れるんじゃねーか?」
「あん?」
1人の神父がタンスと反対側に立て掛けてある剣と盾を指し示す。
ぼろぼろの木でできた装備であった。
「・・・ねぇよりマシか」
神父は剣と盾も取りに家の奥まで歩いていく。
しかし、そんな彼の前に、母が地面を這いながら移動する。
「どうか・・・どうか!!お助けください!!」
神父の前に跪く母
彼女は、指で地面に三角形を描いていた。
描いた紋様は、神父達が首にしているネックレスのカタチと類似している。
その描いた紋様と神父に向かって、両手を組み、まるで祈るように何度も頭を下げる。
「・・・んだ、それ?」
「我らも・・・敬虔なる信徒です・・・どうか・・・どうか・・・」
「あん?不浄者が何言ってんだ?」
「あれも持っていかれてしまっては・・・私達は生活できなくなってしまいます・・・どうか・・・どうか!!」
「・・・知るか」
神父はそのまま母が描いた三角形の紋様を踏みつけて、部屋の奥へと進んでいく。
「お願いします!!どうか・・・どうか!!!お助けください!!神父様っ!!」
「・・・おい、2度目だぞ!」
神父のコートの後ろを掴む母
そんな彼女を振り返りながらギロリと睨む神父
「どうか・・・どうがぁああ!!」
拳を勢いよく振り上げる神父
その拳は確かに母の顎を捉えており、鈍い音が家に響く。
ーー父はピクリとも動かなくなる。
母もピクピクと痙攣しているが、その動きがだんだんと弱々しくなっていく。
「いや・・・いやっ!!父さん・・・母さん・・・」
そんな2人の姿を見て、シャアルは泣き叫んでいた。
そして、私は訴えかけるようにして、何度も神父達へ呟いていた。
「どうして・・・どうして?」
私は動かなくなった父を見て首を左右に振る。
動かなくなりつつある母を見て涙を流す。
「許さないっ!!」
私はキッと真剣な表情で神父たちを睨んでいる。
しかし、3人の神父は、そんな私の視線を意にも介さず、ケラケラと笑っていた。
「・・・おい、どうだ?」
「うーん、ボロボロだけど神木から作られた剣と盾だ。それなりにはだな」
「おい、次いくぞ・・・」
そう言って家から出ようとする3人の神父
そんな彼らの背後へ炎の弾が飛ぶ。
「・・・魔法、か」
しかし、最後尾の神父が軽く腕を振るうだけで、幼い私が放った魔法は弾かれてしまう。
そして、その神父は、まるで悪魔のような瞳で私を睨む。
「舐めたことすんじゃねーか、ガキ」
「お父さんと・・・お母さんを・・・返して!!」
「うるせぇな、一緒に殺してやんよ!」
「っ!」
目にも止まらぬ動きで、私は神父に頭を掴まれる。
頭蓋骨が割れるように痛い。
「・・・このまま砕いてやるのもおもしれぇ」
神父の嘲笑う声が響く。
しかし、そんな彼の腕を別の神父が掴む。
「あんっ!?」
「・・・おい、こいつは」
「何だ?」
腕を急に掴まれた神父は怪訝な顔を示す。
そんな彼へ別の神父は続ける。
「見ろ・・・聖遺物の反応がある」
そう言って胸元から紫色の宝玉を取り出す神父
その紫紺の輝きを見て、ガーネットを掴んでいる神父の顔は段々と歪んでいく。
「くはっ!!嘘だろ!?こいつ適正者じゃねぇか!?」
「ああ、そうだ」
「おい!レックス様のところに連れて行ったら、俺ら、昇進ものだぜェ!!」




