時空の旅人
「・・・おい、クソガキ」
ケビンに鋭い瞳を向けられたカイル
思わずビクリと肩を震わせる。
そんな呼び方をケビンに似た容姿の少年からされると、カイルの胸のあたりがキュッとキツくなる。
息が詰まる思いのカイルの思いなど梅雨知らず、ケビンはジトっと睨みつける。
「お前・・・」
ケビンは怪訝な顔でカイルをジッと見つめている。
そんな彼の視線を受けて、カイルは額にから冷や汗が滲み始めていた。
・・・何だ?
どうしたんだ?
まさか、本当にお父さん!?
いや、幼いすぎるし、違うだろう。
弟さんか?
いや、兄弟で同じ名前にはしないな。
ケビンの視線を前に、カイルの脳裏でグルグルと色々な考えが巡る。
「このビューティーちゃんとどんな関係だっ!!」
「え?」
ケビンはテーブルを勢いよく両手で叩くと、カイルを問い詰めていた。
予想外の質問にカイルは戸惑いを覚え、言葉を紡ぐことができないでいた。
「子供って歳じゃねーし、弟って感じでもねぇな・・・まさか!?付き合ってんじゃねーだろうな!?」
ケビンの謎の問いかけに対してカイルは首を左右に振る。
そんなカイルから、ケビンは視線をローザへと移す。
「ポッ・・・」
ローザはカイルの視線を感じると頬を赤く染めると、顔を両手で覆い始めた。
恥じらいのある乙女のような仕草を前にして、ケビンは拳をプルプルと震わせていた。
「てめぇ!このガキャ!!イケメンだからって良い女を侍らせやがって!!」
そう言ってカイルの胸ぐらを掴み上げるケビン
そんな彼へ慌ててカイルは叫ぶ。
「い、イケメン!?何を言うんですか!?ケビンさんの方がよっぽどイケメンですよ!!!」
カイルは本心から告げた。
家族という目線を外せば、確かにケビンは十分なイケメンだ。
ちょっと馬鹿っぽい感じはあるけれど・・・
「・・・お前、良いやつだな!!かかかかかかかか!!」
カイルの言葉を受けて、急に機嫌を良くするケビン
そう笑いながら、何度もカイルの肩を叩く。
「うっ!・・・うっ!・・・うっ!!・・・」
「かかかかかか!!」
肩を勢いよく叩かれるたびに、カイルはソファーで浮き沈みしていた。
そんなケビンを止めるのは、2人の男性だ。
「おい・・・何をしているんだ。まったく」
「んだ・・・サラに言いつけるど」
金色の髪に白いコートの王子風の男性
そして、丸みのあるマイクに良く似た男性の2人組だ。
マイクに良く似た男性はカイルの肩を叩くケビンの腕を掴み。
もう1人の男性は呆れたようにため息を吐く。
「お、おい!マイク・・・それだけはやめてくれ!!」
「ケビン、結婚控えてるのに、ナンパ、良くないど!」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「・・・すまない、連れが迷惑をかけた」
王子風の男性はカイルへそう詫びた。
マイクに良く似る人物は、カイルにも当然だが見覚えがある。
しかし、こちらの金髪の男性は見覚えがなかった。
「と、とにかくだ!!お前ら・・・あれだ・・・えっと、マイク、ライク、準備がおせーぞ!!」
「・・・お前が早すぎるんだ!大雑把に済ませて困るのはお前だけじゃないんだぞ!」
「話を逸らそうとしておるど」
ケビンの言葉に、不服そうな様子でライクと呼ばれた金髪の男性が反論する。
すると、ライクの言葉にマイクも大きく頷いていた。
・・・やっぱり、マイクさんだ。
というか、こっちは誰だか知らないけれど、もしかして
カイルは少年風マイクをジッと見つめる。
そして、ケビンを見つめる。
・・・時空なんちゃらキッチンって言ってたよな。
あの機械の名前、確か、そんな感じだったよね。
時空ってことは、ただ転移するだけじゃなくて、過去にも飛ぶってことか。
カイルは若い日のケビンとマイクを見て、今の自分の状況が更に整理できていた。
ただ場所が変わっただけでなく、過去に戻っていると考えるのが妥当のようだ。
そして、ケビンとマイクがここにいるということは・・・
「あ、あの!!」
やんややんやとやっている男性3人
そんな彼らへカイルは大声で注意を引く。
「ん?どうしたのかな?」
「あん!?何だ!?」
ライクは紳士のように落ち着いた様子でカイルを見る。
しかし、ケビンはまるでチンピラのそれであった。
「・・・い、いきなりですいません!あの!アルガス山脈の麓が故郷だったりしますか?」
「は!?・・・」
「故郷?」
「んなわけねぇだろ!馬鹿を言うな!!紅龍の住処だぞ!?」
カイルの言葉にケビンは顔を顰める。
急に何を言うんだと彼の表情が言い表していた。
「あんな場所に暮らす人はいないよ」
「んだ・・・辺境も辺境だな」
「・・・そうですか」
・・・やっぱり、村で暮らす前のお父さんだ。
ってことは、この時代に村へ戻っても、何もないのかもしれない。
グレンが戻ってこない理由がちょっと分かったかもしれない。
「頓狂な質問してどーした?」
「いえ、ちょっと気になったものでして・・・」
そんなカイルを怪訝そうに見つめているケビンとマイク
それほどおかしな質問であったようだ。
しかし、そんな2人を他所に、ローザを見てハッとした素振りを見せるのはライクだ。
「・・・っ!?もしや、ローザ姫ではありませんか!?」
ライクの声に、ケビンとマイクも反応する。
そして、顔を背けているローザの横顔を、2人もマジマジと見つめていた。
「・・・あっ!間違いないだ!!この人、ローザ姫だ!!」
「かかかかかかかか!!美人だと思ったら、姫様だったんだな!!!かかかかかか!!」
「おい・・・ケビン・・・笑い事じゃないぞ・・・まったく」
***********
森の中を進む悪ガキ3人衆
その背後を、緑の光の玉がつけている。
「おーい!カイル!!どこだぁ!?」
「出てこい!!1人だけずりぃぞ!!」
「おーい!!」
ドシル達は森の中でカイルを探し回っていた。
しかし、どこにもカイルらしき気配はない。
「いねーな・・・」
「うーん・・・森に行ったんじゃねーのか?」
「ラドンって名前のペットがいるんだ。ここでそいつに会ってるだと思うんだけどなー」
森の中でカイルを呼び続ける3人
そんな彼らの背後で、ドールは怪訝な顔で森を見渡していた。
「・・・ラドン様の気配を感じない。何があった?」
ドールは血相を変えた様子で森を見渡している。
その言葉通り、森からはフェンリルの気配が消え去っていた。
ガジェッタなどの魔力を感じ取れる人間がいれば、彼と同じ表情を示しただろう。
それほど、魔力的には、森の雰囲気が大きく変わっていた。
「・・・グルル」
「っ!?ブラックウルフ!?」
ドールは背後をハッと振り返る。
そこには元気なさそうに鳴く黒い狼がいた。
咄嗟に、そんなブラックウルフへ、ドールは弓を構える。
「・・・まさか」
しかし、ドールは矢を放つことはしなかった。
目の前のブラックウルフからは、魔力的にラドンの面影があったのだ。
「ラドン・・・様?」
ドールがブラックウルフへ呼びかけると、コクリと頭を下へ下げる。
その反応を見て、ドールは弓矢を虚空へ消す。
そして、手を突き出した。
ドールの手の上に、ラドンは手を乗せる。
まるでお手をするような格好である。
『ラドン様・・・聞こえますでしょうか?』
『ああ、聞こえるぞ』
魔力による念話であれば、ドールとラドンは会話ができるようだ。
『そのお姿、何があったのでしょうか?』
『カイル様とのリンクが切れておるのだ・・・』
『まさか!?カイル様の身に何か!?』
『・・・アルガス山脈へ紅龍と共に向かわれた。それから、しばらくして、リンクが切れてしまったのだ』
ラドンの言葉に、ドールは森から見える広大な山々を見上げる。
『・・・紅龍の悪巧みでしょうな』
『カイル様に限って万が一もないと思うが・・・しかし・・・』
ラドンは口調とは裏腹に、やはり心配であると言った様子だ。
そして、ドールは、ラドンの心配の原因を察していた。
『ここ最近、森に人間の出入りがありますね』
『うむ・・・ドール殿もお気付きだったようだな』
『ええ、それなりに強い潜在魔力を感じます・・・我が主人を狙っての来訪、そんな予感がしております』
『・・・この姿では抗えぬ相手、カイル様の不在を預かる身として情けない限りだが・・・ドール殿のお力を借りたい』
『もちろんです・・・私もカイル様とのお約束がありますし、返し切れぬ恩もある。命を賭してでも、あの村を守り抜いてみせましょう』
ーーそんなやりとりをしているラドンとドール
その少し離れた先で、ドシルが人影に気付く。
「おっ!カイルだ!こっちにいたぞ!!」
ドシルの声に反応して、ボルルとガルルも寄ってくる。
3人の前には、地面に倒れているカイルの姿があった。
「お、おい!」
「大丈夫か!?」
地面に倒れてピクリとも動かないカイル
3人は一斉に駆け寄っていくが、倒れているカイルは平然とした様子で空を眺めていた。
「・・・何してんだ?」
ドシルがそんなカイルへ尋ねる。
すると、カイルはギロリと目だけを動かして、ドシルを見据える。
少し不気味に感じながらも、ドシル達はカイルの答えを待っていた。
「こうして・・・地面から魔力を得ていたのさ」
カイルが奇妙な口調で話すと、ドシル達は目を細める。
「おい、カイル・・・それ、誰の真似だ?」
「格好つけてるつもりか?」
「不気味だぞ!?」
「・・・ははははは」
3人の言葉を前に、カイルは渇いた笑いをあげながら、ムクリと上半身を起こす。
そして、3人を見渡した。
「・・・村に帰ろう」
カイルはそう告げると、その瞳が怪しくキラリと赤く光った。
すると、ボルルとガルルの目も、同じように真っ赤に光る。
「・・・カエル」
「カエル」
カイルと同じように不気味な感じに変貌したボルルとガルル
そんな2人へ怪訝な顔を向けるドシル
「おいおい!お前らまでカイルみたいな感じになってんじゃねーか!?」
「・・・カエル」
「ムラ、カエル」
ボルルとドシルはパクパクと口を動かしながら、無表情でドシルを見つめる。
目が怪しげに光っており、流石のドシルも異変を察していた。
「お前、効かないのか?」
「・・・カイル、てめぇ!!何をした!?」
カイルの胸ぐらを掴むドシル
そんな彼の瞳をジッと見つめるカイルの目は、再び怪しくキラリと赤く光った。
「・・・冗談じゃ済まねーぞ!!2人を戻せっ!!」
カイルから放たれた赤い光を受けてもなお、ドシルは平然とした様子でカイルへ詰め寄っている。
「内魔法に強い耐性があるのか」
「あんっ!?何だ!?・・・おわっ!!」
カイルの胸ぐらを掴んでいるドシル
そんな彼を左右からボルルとガルルが腕を腕で押さえる。
「なっ!!おい!!離せ!!」
腕力があるわけではないドシル
2人に腕を抑えられて身動きができないでいた。
そんなドシルの額に手を当てるのはカイルだ。
「・・・おい!何をしてんだ!?」
ドシルはそんなカイルへ叫ぶが、肝心のカイルはニヤリと笑みを作る。
すると、ドシルを掴む手から真っ赤な光が放たれ始める。
「・・・死ねっ!」
「っ!?」
ーー森の空へ向かって火の玉が打ち上がっていく。
そして、ドサリと誰かの腕が地面へと落ちる。
「・・・精霊か?」
ドシルを掴んでいた腕が斬り飛ばされたカイル
ギロリと風の刃が放たれた方向を睨む。
そこには弓を構えているドールの姿があった。




