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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
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アクレピオスを目指して



真っ赤な絨毯が敷き詰められたテントがある。

床を敷く絨毯だけでなく、張られているテントそのものも真紅であり、目がチカチカするほど赤一色に染まっていた。


ガルウェインは、そんなテントの中央で膝をつきながらも、今だに慣れない赤一色の世界に辟易していた。

幸い、頭を垂れているため、目を瞑っていても問題はないだろうと判断しているのか、ガルウェインは神妙な面持ちであった。



「・・・ガルウェイン殿、お話はわかった」


テントの中央で膝をつくガルウェインを見下ろすのは金髪の男性だ。

顔には白いマスクがあり、鼻から上を完全に覆っている。

他のボルボトスの兵士と同じように真っ赤な鎧を着込んでいる。

彼は1段高くなった台の上に置かれている椅子に肘をつきながら、拳に顎を乗せ、ガルウェインを見据えている。



「はっ!・・・」


ガルウェインはローザを逃してしまったことの経緯を細かく目の前の男性へと告げていた。

まさしく"失態"を演じてしまったガルウェインを前にしても、見下ろす男性に感情の動きはなかった。

彼の声には起伏はなく、まるで感情のない人形のような印象である。


そんな彼は無言で頷くと、背後にいる紫色のローブを纏ったお化けのような人物を見る。



「俄には信じがたいな・・・紅龍とその騎士か。貴様はどう思う?」

「はい、シャアル団長・・・かの龍が住処を離れるとは考え難いことにございますぅ」


話を振られたローブの人物からは、その容姿の怪しさとは裏腹に、どこか空気が抜けるような感じの男性の声が響いた。


自分の言葉を否定するだけならまだしも、喋り方で馬鹿にしているのかと苛立ちを感じるガルウェイン

しかし、そのローブの人物こそ、鮮血不死兵の要とされている魔術師だ。

彼は不快感を表に出すわけにはいかないと自戒していた。



「・・・目撃者が大勢おります。私の見間違えではありません」

「そう申しておるわけではない。幻術、そういった類の魔法もあると聞く」


シャアルは言葉通り、ガルウェインが嘘を吐いていると思っているわけではない。

しかし、紅龍などという存在の出現を真っ向から信じることはできないといった様子であった。

それは、紫のローブの男性も同じ見解であった。


2人の様子に、ガルウェインは顔を伏せながらも声を荒げる。



「あの圧!間違いなくかの龍にございます!」


「優れた幻術は、現実と区別がつきませんのですぅ」

「カシューの言葉通りだ。紅龍が現れたというよりも、幻術であったと見る方がいささか妥当ではあるまいか?」


シャアルの言葉に、ガルウェインは記憶を呼び戻す。

紅龍の姿を思い出すだけで、彼はガクガクと体が震え始めていた。

しかし、同時に、彼の中の冷静な部分では、シャアルの言葉に「確かに」と頷いているところもある。



「それにぃです。下着姿の男の子がいたのですぅよね?」

「・・・ええ、カシュー殿」


ガルウェインはカイルのことを思い出す。

白いフリフリのランジェリーを着こなしている少年だ。

言葉にしてみると、確かに幻術であったのではないかと、ガルウェインも感じ始めていた。

その証拠に、彼の手足の震えは治り始めていた。



「白宝玉から、紅龍を従える龍騎士様が姿を見せたと、そう申しておったな?」

「はい、シャアル様」


「そして、その者が纏う白い下着・・・まるでミネルバ・ランジェリーのようであったと申しておったな?」

「はい・・・伝承通りの姿でした」


「ぷすぅ・・・クスクス」

「カシュー」

「これは失敬ぃ!」


ガルウェインの言葉に笑いを堪えられない様子の紫のローブの男性

すかさずシャアルから名前を呼ばれて叱責されると、頭に手を当てて「テヘッ」といった様子を見せる。


立場が対等であったとしても、カシューの態度を責めることはできないとガルウェインは考えていた。

こうまで話をまとめてみると、確かに幻術に欺かれたと捉える方が自然である。


そう考えると、ガルウェインの手が震えを見せた。

今度は、恐怖ではなく怒りであろう。



「失礼した。ガルウェイン殿、お話は分かった」

「はっ!」


「いずれにせよ、我が軍勢すら退くしかなかった状況にも関わらず、貴殿に責を求めるのは筋違い。この一件は不問にする」

「はっ!!!」


シャアルの言葉に、ホッと安堵するように返事をするガルウェイン

しかし、そんな彼へすかさずシャアルは続ける。



「・・・しかし、約束は約束、契約は契約だ。ガルウェイン殿、グランビニアの姫を無傷で連れてくること、それが条件であることを忘れるでないぞ」

「はっ!!」


ガルウェインの返事に満足したシャアル

指をパチンと鳴らす。


すると、テントの入り口の幕が左右に開き、外から明かりが入り込む。

外の兵士が入り口を開いたようだ。



「・・・よい、下がれ」

「はっ!!!」



ガルウェインはスッと立ち上がると、ぺこりと深く一礼すると、そのままテントの外へと歩いていく。

そして、シャアルは隣に立つカシューにも告げる。



「カシュー、貴様もだ」

「分かりましたぁ」


カシューはガルウェインとは別の方向へと歩いていく。

どうやらテントの入り口は一つではなく、前と左右の三箇所あるようだ。



ーーカシューとガルウェインを見送ったシャアル

彼は息を深く吐くと、スッと椅子から立ち上がった。


彼は、彼女は、白いマスクを外す。

すると、金色の髪が赤く変わり、腰ぐらいに届くまで髪の長さがパッと変わる。



「・・・ガーネット姉様、どうかご無事で」


シャアルはそう女性の声で呟いた。

遠くにいる誰かを想った彼女の声には、微かな潤いがあった。



「私が・・・必ずお救いします」



そして、覚悟の込められた言葉を発していた。




*************




針葉樹林が生茂る森の中、カイル達は東を目指して進んでいた。


二つに裂けた角のような山が彼らの目の前の背景にあった。

その角のような山と山の間が、グランビニアとアクレピオスの境目とのことだ。


カイルの背にはグランビニア王がおり、少年がおじさんを軽々と担いでいるという奇妙な格好であった。

異世界ならではの景色なのかもしれない。



「・・・うう」


そんなカイルの背後で小さな男の子の声が聞こえた。

ハッとカイルが振り返ると、その子は息を荒くして座り込んでいた。


「少し休憩にしましょう」


そうカイルは最後尾にいるローザへ呼びかけると、彼女はコクリと頷いて応じていた。




ーー小休憩ではあるが、周囲は寒い。

体温を下げないようにと、焚き木を囲うことにしていた。

幸い、ローザが火魔法に適正があるため、火を起こすこと自体は簡単であった。



「・・・申し訳ありません」


男性はスヤスヤと眠る我が子を苦しそうな顔で見つめながら言う。

小さな子供がいることで進行に遅れが生じている。

さらに、自分達のわがままのせいで、行動指針を変えたことに後ろめたい気持ちがあるようだ。


男性が強く抵抗したため、カシュマルの元へいくのではなく、レックスと会えるかどうか確かめてみる話になった。

それに、大所帯でボルボトス兵が蠢くであろう土地を進むのは危険だという判断もある。

どこか安全な場所へ、先に彼らの保護を求めた方が良いだろうと、カイルとローザは合意していた。




「気にしないでください」


しかし、そんな申し訳なさそうな男性へ、カイルは笑顔で答える。

彼らを邪魔だとは一切思っていない。

むしろ、先に安全な場所へ保護してもらおうと、なぜ考えなかったのかと反省までしている。



「・・・少し進めば村がある。それなりに大きな村だ。そこまでの辛抱だぞ」


ローザも微笑みながら言うと、男性と女性はコクリと頷いた。

そして、カイルがスッと立ち上がる。



「ご飯を探してきます」


カイル自身はお腹は減らないのだが、他は違う。

口にはしないが、ローザの言う村まで距離はある。

体力を維持するためにも、食事は欠かせない。



「・・・龍騎士様、何から何まで申し訳ありません」


ローザがそう告げると、カイルは笑顔で応えた。




ーー森の中を進むカイル

そう言って出てきたは良いものの、食料になりそうなものはなかなか見つからなかった。

地面に落ちているのは硬くて食べられそうにない木の実ばかりであり、キノコすら生えていない。


それではと、動物を探すカイル

しかし、下着姿の異様な少年を恐れたのか、動くものは一向に姿を見せないでいた。




「・・・僕を食料だと思うものは見つかったけどね」


カイルはため息混じりに呟くと、森の奥に猪のような大柄なモンスターがいた。

目は真っ赤であり、口から生えた牙は刀のように鋭い。

闘牛のように鼻息を荒くし、地面を何度も蹄で擦っている。


今にも、カイルへ向かって飛び込んできそうな印象だ。




「ぶもーーーーーー!!!」


勢いよくイノシシのような魔物が咆哮する。

同時に、ロケットのようにカイルへ突っ込んでくる。




ーーピローン♪


ーーー手札ーーー

・『装備チェンジ』

・『黒狼爪』

・『黒狼爪』

・『ウインド・カッター』

・『黒狼牙』


ーーーーーーーー




勢いよく迫り来るイノシシを前にして、カイルはふと脳裏に知識が過ぎる。

豚と猪の違いは、野生かどうかだけであるという話だ。

猪鍋という言葉もあるし、食用にはできるのだろうと。



「よし・・・」


カイルはそう力を込めると、手札から『黒狼爪』を発動する。

彼の手足が黒狼のような姿に変貌すると、突進してくるイノシシをグッと受け止めた。


イノシシの鋭い牙がカイルの肌へ当たっているのだが、彼の肌には傷一つなかった。

これが『ミネルバ・ランジェリー』の防御力だと知るのは、カイルが戦いを終えた後のことになる。




「ぐおおおおおおおお!!!」

「うもーーーーー!!!」



ズルズルと森の中をイノシシに押されて滑るカイル

ドンっと背中を木にぶつけると、1本の針葉樹林が音を立てて倒れた。



「・・・はははは!」

「うもーーー!!!」


カイルは軽やかに笑う。

それもそのはずだ。


イノシシはカイルをピクリとも押せなくなっていた。

針葉樹林を倒してからは、助走による勢いは完全に失われており、後はカイルとイノシシの力勝負である。



そのままカイルが力を入れると、イノシシはまるで重さがないのかと思うほど、軽やかに持ち上がる。



「うもーーーーー!!!」

「・・・ごめんよ」


ジタバタとカイルに持ち上げられて暴れるイノシシ

その魔物を申し訳なさそうに見つめると、カイルは勢いよく地面へ叩きつけた。

これだけの腕力を得られているのも、カイルが身に纏う『ミネルバ・ランジェリー』の効果である。








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