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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
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グランビニアを救え




ブラックウルフが3頭で森を駆けている。

彼らが向かう先、森の開けた場所で1頭の黒狼が空を見上げていた。


その狼は、主人が向かったアルガス山脈を見つめている。

目には潤いがあり、悲しげな唸り声が響いていた。

まるで主人をずっと待つ忠犬のような印象がある。



「クゥン・・・」


そんなブラックウルフの背後に、3頭のブラックウルフが到着する。

それぞれが伏せをすると、目の前の空を見上げているブラックウルフへ吠え始めた。



「・・・ガルルル!!」

「ガウガウ!!」


背後を振り返るリーダー格のブラックウルフ

次々と吠え始めている同胞へ向かって、一言だけ発するように吠えた。


「・・・ガウ」



しかし、他の3頭は静まることを知らないようだ。

唸り声の勢いは激しさを増していく。



「ガウガウ!?」

「ガウガウ!!ガウ!!!」

「ウォオオオン!!」


「・・・グルルル!!ガウ!!」

「キュウン・・・」



リーダー格のブラックウルフは、大声で吠えることで、他の3頭を黙らせていた。

そして、再び、主人が向かったアルガス山脈を見上げていた。



急にカイルとの『眷属契約』が切れてしまったことで、ラドン達フェンリルは元のブラックウルフへと戻ってしまっていた。

正確には、カイルとの接続が切れているだけであり、契約自体が解除されているわけではない。


主人であるカイルの身に何か起こったのではないかとラドンは不安気に、紅龍とカイルが向かった先であるアルガス山脈を見つめていた。

龍相手に、ラドン達ができることなどない。

今は、カイルの無事を信じ、主人の帰りをただ待つだけだと、同胞達にも告げていた。





**********



針葉樹林が生茂る森

その森の周囲には高く連なる山々があり、その頂は真っ白に染まっていた。


そんな森の一角では、微かに赤い光があった。

その光は盛り上がった土の中から放たれており、どうやら土魔法で造られたカマクラがあるようだ。

中は非常に広く、カイルを含めた7名が余裕を持って座れる広さである。



ーーそんな土のカマクラの中央で焚き木を囲うカイル達の姿があった。


グランビニアの村人であろう男女

そして、小さな男の子がいる。

彼らは、ボルボトス兵によって磔にされていた一家であり、どうやら近くの農村の住人のようだ。

手足には杭を撃ち込まれている痕が残っているが、怪我自体はグレンが治療していた。


そして、カイルやグレン達の焚き木を挟んだ向こう側には、眠ったまま目を覚さないグランビニアの王がいる。

その隣でローザはそんな父を辛そうな表情でずっと見つめていた。



「落ち着きましたか?」


カイルはそう言ってお湯の入った器を渡す。

カイル達の斜め向かい側に、農民の一家が焚き木で体を温めていた。


そして、カイルが渡した器は、グレンが土魔法と風魔法と火魔法の応用で土から作り出したものである。

食器類を瞬時に生み出してしまう魔法の便利さをあらためてカイルは痛感していた。

水はグレンが使えない魔法であるため、中身は近くの川からカイルが汲んできたものである。



「・・・村はもう」


そう悲し気に語るのは茶色い髪をした男性ボブだ。

カイルから器を受け取ると、まずは我が子へと渡している。

ボブの手が空いたと同時に、次の器を渡すと、ボブは妻へと渡す。

そして、最後の器を受け取ると、中身を舐めるように口をつけ、器を地面へと置く。



「・・・そうですか」


カイルは皆まで聞かないことにした。

彼らの村は近くにあるようだが、生き残りがいるのかどうかは微妙なところであった。

それを言葉にさせるほど、カイルの神経は図太くない。




「そうか・・・」


カイルはグランビニアを救うかどうか以前に、このままの格好でいることにゲンナリしていた。

ローザを含めて、農民の一家でさえ、カイルが紅龍を従える龍騎士だと知ると、彼の格好に違和感を覚えなくなっていた。


だから、視線が気になるわけではない。

とはいえ、この格好のままでいたいと思うほど、カイルの神経は図太くないようだ。




「どこかで服を買うのじゃな。上から羽織れば・・・まぁ、うむ」


グレンですらカイルへ気を使い始めていた。

『眷属契約』がなぜか成立しているとはいえ、傍若無人を体現する存在であるグレン

そんな彼女から気を使われると、カイルの気はさらに重くなっていた。





「・・・買い物は私にお命じください」


ローザもカイルのことを気遣っている。


ローザ自身、カイルの姿がおかしいとはもう思っていない。

龍騎士であるカイルは常軌を逸した存在だ。

女性ものの下着を身につけていることがおかしいなどと思うのは、厚顔無恥も甚だしいと自戒していた。

しかし、そんな格好で街に入れば、カイルが龍騎士だと知らない人々がどんな反応を示すのか、その結果、どんな事態になるのか、それをローザは理解していた。



「お、お願いします・・・」


カイルがそう告げると、ローザはゆっくりと顎を引いた。

話がまとまったことを感じたグレンは、早速、本題を切り出す。



「さて・・・で、グランビニアを救うと決めたわけじゃが」


どこか不服そうに告げるグレン

ツッコミを入れても仕方がないとカイルは続きを促すように黙っていた。



「具体的に、どんな状態になったら救ったことになるのじゃ?」


救うの定義を示すようにとローザへ疑問を突きつけるグレン

ローザは顔を俯かせて、自分の父である地に伏せるグランビニア王を見ていた。



「・・・まず、父が健在であることです」

「欲張りじゃのう」


ローザの言葉に、目を細めるグレン

国を救うことと王の無事に因果関係は少ないと言いたいようだ。

王など代わりはいるだろうという考えなのだろう。



「・・・グランビニアを、今の国を治めることができるのは父だけです」

「ふむ、まぁ、良かろう・・・どれ」


グレンはそう言うと、カイルの側から離れて、ローザとグランビニア王の所まで歩いていく。



「・・・治せるのですか?」


期待が込められている瞳を向けられたグレン

しかし、彼女は首を縦にも横にも振らなかった。



「なるほどのう・・・ボルボトス、鮮血不死兵と言ったかのう。背後に・・・アルムスターの眷属であるカシュマルがおるのう」

「なっ!?」


「・・・?」


グレンの言葉にカイルは首を傾げている。

しかし、ローザはかなりの衝撃を受けたのか、目を大きく見開いていた。

言葉を失っている様子であり、金魚のように口をパクパクとさせている。



「カシュマルは死霊術に長けたリッチじゃからな・・・この魔力波・・・うむ、間違いないじゃろう」

「な、なぜ!?アルムスター様の眷属が帝国に協力するような真似を!?」


ローザはようやく絞り出した言葉は、グレンの言葉を疑うものであった。

その不躾な態度を、グレンは笑う。



「がはははははは!!何じゃ、デウス級の精霊どもが味方だと思っておるのか?」

「わ、私達は敬虔なる信徒です!」



ローザは胸元にあるネックレスを取り出した。

それは緑色の小さなトライアングルのようなカタチをしていた。

彼女の動作は、神は信徒を見捨てないと言いたいような印象があった。



「ふむ・・・奴らは世界の味方じゃからな。世界に得があるとみて、帝国とやらに肩入れしておるのじゃろうな」

「世界に得・・・いえ、そんなはずはありません!その帝国が世界を滅ぼそうとしているのですよ!?」



ローザはグレンへ詰め寄ろうとする。

しかし、そんな2人に口を挟むのはカイルだ。


「・・・話が脱線してるから」



カイルの言葉を聞いて、グレンは頷く。


「そうじゃな」

「・・・っ」


ローザもその通りだと感じたのか、それ以上を口にすることはなかった。

そんな2人の様子を見て、カイルはグレンへ尋ねる。



「グレン、治せそうなの?」

「うむ・・・エリクサーがあれば容易いが・・・」


グレンが微妙な反応を示していた。

しかし、ローザは愕然としている。


「エリクサー!?」

「そうじゃな。アニマに細工をされておるからのう、それを元に戻すには蒼龍クラスの治癒魔法が必要じゃからな」

「それほど高度な術が必要なのですか!?」


「うむ、3つの魔法が仕掛けられておる。特にアニマへ内魔法で記憶の封印と自動治癒が刻まれておるのじゃ。これはアンデット化させて傀儡とするための魔法じゃな」


「記憶の封印・・・それで意識が・・・」


「更に厄介なのは、外魔法の支配魔法じゃ。術者と距離が離れておるから、こうして眠ってくれておるが、いつ、どこで目を覚まして、わっちらへ攻撃してくるから分からん」


「普通には解除できないのですか?」

「どれも高度な術式でのう。アニマに刻まれておることもあって、道具がいる」



・・・エリクサーは万能薬だと聞いたことがある。

細かいことは分からないけど、それを使えば、元に戻せるようだ。



「エリクサーって簡単に見つかるものなの?」


カイルはそんな万能薬がそこら辺にゴロゴロしているはずがないと疑問を口にする。

その言葉をローザが拾う。



「龍騎士様・・・エリクサーは世界脅威と呼ばれるダンジョンでしか入手できない、とても貴重なものです。一つで小国が買えるほどの金額がします・・・」

「うっ・・・」



ローザの言葉で、どれだけエリクサーが貴重で高価なのかカイルは想像できていた。

しかし、そんな2人へ、軽快な様子でグレンが告げる。



「案ずるでないぞ。わっちの家にそこそこあるのでな」


「・・・さすが古龍」

「カイルは村へ戻れんが、わっちだけなら戻れるからのう・・・ここで少し待っておれ」


グレンはそう言うと、カマクラの外へと歩いていく。

そして、背後を振り返るとカイルへ告げた。



「・・・わっちが戻るまで迂闊なことをするでないぞ!」

「え!?」


「さっきも言ったが、帝国から恨みを買うと面倒じゃからな!」

「そんなこと言っても、この国を救えば、結果的に恨みを買うことになるよ!?」


「わっちに考えがある!!じゃから、戻るまで勝手はするでないぞ!」

「分かった。そうするよ」


「うむ!ではのう!!」





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