機械
・・・まるで戦隊モノの秘密基地みたいだ。
カイルは鋼鉄の部屋を見渡しながら、そんな感想を抱いていた。
紅龍に手を引かれてたどり着いた場所は、まさしく秘密基地である。
見渡すぐらい広い部屋は、鈍い銀色の鋼鉄でできていた。
丸い作りの部屋の中心には、何かの台座が置かれており、その上には緑色の三角形のクリスタルがプカプカと浮いている。
階段教室のような作りになっており、中心に向かって降りていくような構造だ。
段差ごとに机が備わっており、その机の上にはキーボードのような紋様が描かれていた。
「どうじゃ!わっちが発掘したのじゃぞ!」
「発掘?」
「おん!この山を占拠したのものう!こういった設備があったからじゃ!!どうじゃ!!かっこいいじゃろ!?」
紅龍は鼻息を荒くさせてカイルへ尋ねる。
どうやら興奮している様子のようだ。
確かに、男心を擽るような光景であった。
「・・・そうですね」
カイルは淡々とだが、熱量が込められてた返答をする。
それに紅龍は満足したのか、何度も頷いていた。
「そうじゃろ!そうじゃろ!これの良さが分かるとはのう!流石はわっちの親友じゃな!!」
「え、親友!?」
「なんじゃ!?わっちとお前は親友じゃろ!?」
「・・・えー」
「不服か!?」
「あ、いえ、親友です。はい」
「そうじゃろ!」
・・・友達か。
そっか、何だか、そう考えると、紅龍も悪い奴じゃないと思ってきたな。
チョロいカイルは、すでに紅龍に親しみを感じ始めていた。
そんな時だ。
部屋の中心に向かって、紅龍が勢いよく階段を降りていく。
「ほれ!!あの真ん中のが機械じゃ!!」
そう言ってカイルを急かす紅龍
彼女の後を追って、カイルも部屋の中心に向かって階段を降りていく。
「・・・これが機械ですか?」
カイルは部屋の中心にある台座
それに浮かぶ緑色のクリスタルを見つめている。
これが機械と言われればそうなのかもしれないが、何の装置かまでは理解に及ばない。
有名な科学者なら分かるのかもしれないと、そんな考えがカイルの脳裏によぎっていた。
「そうじゃ!魔力を感じずに・・・こうして浮いておる!おかしいじゃろ!?」
「あ・・・なるほど、そうですね」
「うむ!不思議じゃろ!楽しいのう!!くううう!!ワクワクが止まらんぞ!!」
紅龍はまるで子供のようにはしゃいでいた。
好奇心のために生きているような、そんな印象だ。
「確かに不思議ですね・・・」
「うむ!!じゃから、これ、お前の言う電気とやらで浮かんでおるのではないか?」
「可能性はありますけど、でも、それだけで、どうしてこれが機械だと?」
「おん!本に書いてあったぞ!!」
「本?」
「そうじゃ・・・おっと、あれは・・・どこやったかのう・・・図書館か?うーむ」
紅龍は両腕を前で組みながら頭を左右に振っていた。
本と聞いてカイルがピンっと来たのが、説明書のことであった。
「・・・もしかして、タイトルに、説明とか、取り扱いとか、そんな言葉がありませんでしたか?」
「おん!流石はカイルじゃな!!書いてあったぞ!!」
「ちなみに、なんと言う機械かの説明文というか、タイトルというか、見出しというか、そういうの、ありました?」
「むむ?・・・うーん、確か、時空変異式転送回路接続用キッチンとか書いてあったのう」
「キッチン?」
「うむ、どんな意味かは知らんがな」
「・・・その本、どこにあるか思い出せますか?」
「む?うーむ・・・図書館を探せばあるかもしれんぞ!」
「ちょっと、見てみても良いですか?」
「なぜじゃ?」
「えっと、この機械、迂闊に動かしたらまずい気がします」
カイルはそう言って時空変異式転送回路接続用キッチンを見上げる。
どこをどう使えばキッチンになるのか甚だ検討もつかないが、だからこそ、その説明書を見てみたいという気持ちがあった。
しかし、残念なことに、そんなカイルの一般的な慎重さは、人間における常識に留まるようだ。
「何を言うか!これ、機械なのじゃろ!?ならば、電気とやらで動く!動かしてみたほうが早いじゃろ!!」
「え?」
「ほれ!」
紅龍は両手を突き出して、台座の上に浮かぶクリスタルへ向けて電気魔法を放つ。
すると、ただ浮いていただけのクリスタルが光を放ち始める。
「おおお!!すごいぞ!カイル!!お主の言う通りじゃ!!」
今まで、何をどうやっても反応を示さなかった謎の装置
それが、カイルの言う通り、雷魔法を当ててみることで、動きを見せたのだ。
他の属性の魔力を当ててみたこともあったが、何の反応も示すことはなかったため、勝手に諦めてしまっていた紅龍
「ま、待って!!紅龍さん!!」
「わっちのことはグレンと呼ぶのじゃ!!水臭いのう!!」
「グレンさん・・・止めてください!!何かヤバいですよ!!」
カイルの言葉通り、クリスタルから放たれる光はだんだんと強くなっていく。
部屋全体の色を白く染める程度には発光していた。
カイルは目を開けていられなくなると、ギュッと目を瞑りながらも、グレンへ叫ぶ。
「グレンさん!!やめてください!!」
「お・・・おおお!!・・・・おおおお!!」
*************
湖畔に聳える大きな城がある。
白を基調とした石材で作られており、中世ヨーロッパの様式を思わせるような綺麗なデザインの城だ。
周囲を頂が白く染まった山で囲まれており、城と湖の周りには針葉樹林が生い茂っていた。
そんな長閑な落ち着く景色なのだが、その城の周囲には大勢の兵士が包囲していた。
真っ赤な鎧で身を包み、城の色とは対照的な色合いをしていた。
そして、白い城を囲う塀の門は倒されており、すでに城の中に大量の兵士が侵入している。
城の兵士が応戦したのか、白い鎧を着込んだ兵士の死体が城の入り口の前には散乱していた。
「・・・ローザ、お前は隠し通路から逃げなさい!」
「父上!しかし!」
玉座の裏側に白髪の老齢の男性と赤い髪の女性がいた。
男性は体格がよく、その腰には無骨な剣がある。
顔は歴戦を思わせるほどの厳つい容姿ではあるが、目の前の赤い髪の女性を見つめる瞳には、優しさと情愛が込められている。
対する赤い髪の女性は、まっすぐに伸びた真っ赤な髪をおさげにしている。
瞳も真紅であり、まるでルビーのような輝きを見せていた。
凛とした表情を崩さないように努めており、彼女の意思の強さが窺える。
男性は、ローザの赤い髪の女性の頭を優しく撫でる。
「・・・父上」
ローザは右腕で父の手を掴む。
しかし、本気で振り払おうとはしない様子だ。
「私は、もう、子供ではありません」
「いつまでもワシの子だ。頼む、どうか、お前だけでも逃げてほしい」
体育館ぐらいの広さの部屋は、白い大理石で造られていた。
玉座の反対側には大きな赤い扉があり、その前には大量の白い鎧の兵士達が待機している。
そして、扉の前には家具などが山積みとなっており、まるでバリケードのような作りになっていた。
時折、扉が大きく震え、外から大勢の掛け声が響き渡っていた。
「・・・もう時間がない。お前だけでも逃げなさい」
「父上!私も騎士の端くれです!!私だけ逃げるわけには参りません!!」
ローザは父の言葉に対して顔を左右に激しく振るう。
その強情な態度を見た男性は唸り声を響かせると、顔を扉の方へと向け、集まっている兵士の中から1人の男性を呼び出した。
「ガルウェイン!!」
「はっ!」
呼ばれた男性は銀髪で細身の男性だ。
女性のように髪を長く伸ばしており、それを後ろで結っている。
他の兵士と同じように白い鎧を着込んでおり、まるで王子様のような風貌をしていた。
「ローザの護衛をお前に命ずる」
「し、しかし!私も残って戦えます!」
ガルウェインと呼ばれた美少年は、男性の目をキッと睨むと、どこか悔しそうにそう反論した。
そんな彼へ、周囲の空気が震えるのではないかと思うほどの怒号を轟かせる男性
「お前に拒否権はないぞ!!」
「ぐ・・・」
「待って!私も戦えます!!これでも・・・これでも!勇者様召喚の巫女、その1人です!」
「だからこそだ!!ここで帝国の軍勢にお前が殺されでもすれば、魔の脅威を誰も止められなくなるぞ!!」
「・・・しかし!!」
「違うか!?」
男性が叫ぶと同時に、部屋の扉から爆音が響いた。
真っ赤な扉が、同じぐらい赤い炎に包まれ始めていた。
「っ!?」
「陛下!もうじき突破されます!!」
「動ずるでないぞ!我ら白き民が、帝国風情に怯えてはならんぞ!!」
「「はっ!!」」
男性は白い鎧を纏う兵士達へそう叫ぶと、再びガルウェインとローザを見る。
「行くのだ!頼む!!世界を・・・頼む!」
父の言葉には重みがあった。
そして、彼の手は震えている。
目には涙まで浮かんでいた。
どんな思いで、ローザを送り出すのか。
その気持ちを想像すると、ローザは自分の胸をギュッと抑えずにはいられなかった。
「・・・ローザ様、参りましょう」
「ガルウェイン!?」
ガルウェインはローザの手をギュッと掴むと、玉座の裏にある階段を降り始める。
引き摺られるようにして、ローザは地下へと降りていく。
彼女の力ではガルウェインに抗うことなどできないでいた。
どれだけ四肢を振り上げてガルウェインを叩いても、彼は微動だにすることなく、階段を降りていく。
「父上!!!」
「・・・」
ローザは上を見上げて、階段の上から見送る父の顔へ叫ぶ。
しかし、その男性は、ギュッとした唇を噛み締めると、地下への通路に蓋をするように閉め始める。
「待って!!父上!!いやーーーー!!」
ーー階段を降りた先は地下通路になっていた。
ガルウェインが手に持つ松明だけが周囲を照らしている。
コツコツと微かに音を鳴らしながら、2人は通路を進んでいた。
白い城と山の向こうを繋ぐ長い地下通路であり、通り抜けるには1日はかかるであろう。
「・・・ガルウェイン、戻りましょう」
ローザは力無い声で告げる。
その度、ガルウェインはギュッと掴んでいる腕の力を強める。
彼女が強引に引き返さないようにと警戒しているようだ。
「なりません」
「・・・勇者様を召喚するわ」
「ダメです。今、予言の時ではありません」
「父や国を救うには・・・勇者様のお力が必要よ」
そう言ってローザはガルウェインの腕を振り払う。
ハッとして背後を振り返ったガルウェインだが、彼の目に止まったのは、ローザが両手で乗せている白い宝玉だ。
「ローザ様!おやめください!」
「・・・父を・・・助けて・・・」
白い宝玉を胸元へ押し付けたローザ
目を瞑り、まるで祈るようにして呟く。
「・・・やはり、今が時ではないと、そういうことです」
ガルウェインの言葉通り、白い宝玉はうんともすんとも言わず、静寂を保っていた。
そんな宝玉を潤った瞳で見つめるローザ
キッと急に宝玉を睨みつけると、腕を振り上げ、勢いに任せて地面へ叩きつけようとする。
「どうして!?」
「ローザ様!!!」
しかし、ローザは途中で思いとどまる。
宝玉に罪はない。
むしろ、希望であることを彼女は重々承知している。
「どうして・・・?」
ローザの宝玉のような瞳からポロポロと涙が溢れる。
それが宝玉の上にポタリポタリと落ちていた。
その度に、微かに宝玉の透明感が消えていき、白味が増している。
しかし、それは微かな変化であるため、ローザもガルウェインも気付くことはなかった。
「参りましょう・・・ローザ様」
ローザの腕を再びギュッと掴むと、ガルウェインは優しく告げる。
その言葉に、ローザは無言で顎を引いた。
「・・・」
2人は、再び地下通路を進んでいく。
松明だけが微かに照らすだけの暗闇の中を進んでいく。
まるで、2人の今後を暗示しているような、そんな光景であった。
ーー長いようで短い時間が過ぎると、2人が進む通路の先に明かりが見え始めていた。
出口が近いことを悟ったガルウェインの歪な笑みに、その背後にいるローザは気付くことができなかった。




