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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
序章 垣根の上に立つもの
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ブラックウルフ



暗い森の中、松明によって微かに周囲が照らされている。

木々が微かな明かりに照らされて、その輪郭がボヤボヤと揺らめいていた。

まるでお化けでも出そうな塩梅である。


しかし、現れたものが幽霊であれば、まだ少しはマシだったのかもしれない。




「カイル・・・やばい!やばいよ!」

「・・・っ!!」


カイルの背後には茶色いボサボサ髪の男の子がいる。

村の畑でカイルと剣呑な雰囲気で話をしていた相手であり、男の子の名前はドシルだ。


村で女性が村長に泣き叫びながらも、その安否を気遣っていた子供である。

カイルが壊しかけてしまったと思っている家族の1人だ。

ケビンを探しに森まで来たのは良いものの、怖くなって森の中で蹲っているところをカイルが発見してた。


まずは、この子を村へ連れて帰ろうとした矢先、魔物に囲まれてしまっていた。




「グルルルルルルル!!!」

「ウゥゥゥゥゥ!グゥオン!!グゥオン!!!」

「ガウガウ!!」


360度、全ての方向から唸り声が響く。

2人は完全に完全に包囲されているようだ。


その声には遠慮がない。

間違いなくこちらの命を摘もうとする意思を感じる唸り声だ。


他人の家に土足で入り込めば、金属バットで殴られることもあるだろう。

外国なら銃で撃ち殺されることもあるかもしれない。


人間も魔物の、自分の縄張りに勝手に入り込んだ者への対応は同じなのかもしれない。





・・・もう逃げ道はない。

絶体絶命だ。

いや、ダメだ!

諦めるな!

せめて、この子だけでも!




周囲から聞こえる魔物の気配に、カイルは退路が塞がれていると自覚する。

だが、諦めるわけにはいかない。

退路がないなら、それを作ればいい。



そう考えるカイルだった。

しかし、周囲の獣の存在感は激しさを増すばかりである。




「ガウガウガウガウ!!!」

「ウオオオオオオン!!!」



唸り声、咆哮、遠吠えと自分達の存在をアピールする音と共に、ザクザクと茂みを歩く足音が聞こえる。

気が立っているのは明白であり、獲物を怯えさせながら、確実に殺すことを是としている。


そして、足音はだんだんと近づいており、すぐ側まで迫ってきている。

その証拠に、カイルが周囲を見渡すと、暗闇に包まれた森の中で赤く光を放つ点が蠢いていた。



そんな点で赤く光るものに、ハッとしたカイルが、手にしている松明を赤い光が蠢いている暗がりへ向ける。

すると、そこには車と同じぐらいの大きさはあろう黒い狼の姿が、明かりに照らされて暗闇から浮かび上がってくる。



「ひぃいいいい!!ブラックウルフだよ!!こいつ!」


パッと現れた異様に大きな黒い狼

思わず、ドシルは尻餅をついて驚いていた。




・・・確かに、驚くほどデカい。




「はははは・・・」



カイルは思わず笑ってしまう。

どんな感情から出た笑いなのかは自分でも分からない。

嬉しさや楽しさではなかった。

だけど、恐怖でもない。


既視感とでも言えばいいのだろうか。

どこかで見たような、そんな気がしていた。




「異世界の狼って、やっぱり大きいな」



そんな感想がポロリと溢れていた。

こんな状況下でも、カイルは自分の命が脅かされていることの自覚がなかった。


もういいやと、彼が死を望んでいるからかもしれない。

伊達にあの世は見てないからかもしれない。

死を経験してしまえば、そんなに怖いことではないからかもしれない。



「・・・何をしてんだ僕」



カイルはそうポツリと呟く。

死の恐怖を感じないことが原因なのか、どこか緊張感が自分にないことに気付く。

気持ちだけでも強くもたなければ、助けの糸も切れてしまう。



・・・まだ死ねない。

ケビンさんを探して、この子を逃すまでは死ねない。


逃げ道を探せ!

考えろ!探せ!!見つけ出せ!!




「ガウッ!!!ガウガウッ!!」

「グルルルルル!!ウォン!!」

「ガウガウ!!」



カイルは周囲に突破口がないか見渡す。

どこを見渡しても木々ばかりであり、突破口となりそうなものはない。


そんな風に周囲を見渡していると、ふと1体のブラックウルフと目が合ってしまった。



「ガウガウ!!バウッ!!」



カイルと目の合ったブラックウルフが激しく吠える。

その目は暗がりで不気味に光っていた。

闇に蠢く赤い光は、ブラックウルフの両眼であったようだ。

まるで、その瞳に魔力を宿しているかのように赤く煌めいていた。




ーー魔物

現世の動物とは一線を超える存在

その様子に、カイルは決心した。




「・・・僕が囮になるから、ドシルはとにかく逃げろ」


カイルは背後で転んでいるであろうドシルへ喋りかける。

本当は手を差し伸べて立ち上がらせたいが、今、背後を振り返るわけにはいかない。

その瞬間、目の前のブラックウルフが飛びかかって来そうだ。

そうカイルは考えていた。



「ば、バカなことを言うな!!」

「良いから!言うことを聞くんだ!」


「お、お前は年下だろ!!そ、それなら・・・俺が囮になる!」

「そんなにビビってて、囮なんてできるか」


「な、何だと!?」

「違うか?」

「お前!年下のくせに・・・ちょーしのんなよ!」



「関係ない」

「何言ってんだ!俺は8歳だぞ!お前を置いて逃げられるかよ!」



・・・こいつは僕より年上だと思っているようだ。

男の子なりのプライドがあるのだろうか。

タダで言って聞くようじゃないな。



「良いか、囮ってのは死ぬ役じゃない」

「・・・そ、そうなのか?」


「ああ、あいつらを引きつけて、逃げ切る役だ。ビビって、尻餅をついているお前に務まるか?」

「あう・・・ぐ・・・」

「それに・・・お前には頼みたいこと、ある」

「な、何だ!?」


「俺が囮をやる。お前は森から抜けて、助けを呼んできてほしい」

「・・・っ!」



ドシルは悔しそうに下唇を噛む。

ビビっていることの自覚は当然ながらあるようだ。

カイルにはドシルの表情はうかがえないが、納得してくれた感じは空気で伝わっていた。



「グルルルルルルル!!!」


突然の近くで聞こえた唸り声に反応してカイルが灯りで声の方向を照らす。

照らした狼は、牙と爪を鋭く煌めかせて威嚇している。

その威嚇に対して、ドシルは再び悲鳴をあげていた。



「うあああああ!!」



・・・もうそこまで!?

これは、いつ、僕達へ襲ってきてもおかしくはない状況だな。



カイルは数歩先まで迫る黒い狼を見て自然と頷く。

彼の表情は決意に満ちたものであった。



「・・・ドシル、お母さん達に伝えておいてくれ、ごめんって」

「カイル!おま・・・!!」


「う・・・うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



カイルは渾身の力で雄叫びをあげる。

そして、思いっきり走り出した。



・・・ぐっ!



周囲をブラックウルフに囲まれているカイル

彼の考えた作戦はとにかく注目を浴びてブラックウルフを引きつけることだ。




・・・何とか逃げ道を!!

とにかく注目を浴びて、ターゲットを集めろ!

愚策と言える方法なのは分かっている!!

でも、もう、これしかドシルを助ける方法は浮かばない!!



「うおおおおおお!!!」



カイルは走りながら、叫びながら、パッと背後を振り返る。

彼の不安そうな表情は、背後を見て明るくなる。




・・・狙い通りだ。

周囲のブラックウルフは僕の方へ一斉に駆けてくる!




黒い雪崩のように押し寄せてくるブラックウルフの向こう側には、ドシルが無事な姿で立っていた。

その姿を見て、カイルはホッと胸を一瞬だけ撫で下ろすと、すぐに叫ぶ。



「逃げろ!!ドシル!!行ってくれ!!!」



カイルがそう叫ぶと、ドシルは何かを叫び返して、森の奥へと走り去っていく。

それを確認すると、カイルはキッと前を向き、一気に駆け出す。



・・・体を鍛えてきた自信はある。

肉体が魔法で強化されているサラさんやお爺さん

その2人を魔法なしで振り切るぐらいの肉体スペックは持っているんだ。


だから、大丈夫だ!

僕は逃げ切れる!!


いくぞ!!




カイルはそう自分に言い聞かせて、とにかく、無我夢中で森の中を駆ける。

それでも、狼相手に森の中で逃げ切れる自信はない。

いずれ追い付かれるだろう。


全力疾走しつつも、そう冷静に考えている自分がいることをカイルは自覚していた。

できれば、そんな達観しているもう1人の自分を「悠長にしてんじゃね!」とぶん殴りたい気持ちだ。

しかし、冷静だと思い込んでいるだけだ。

異世界転生前後で肉体が入れ替わっているのだから、現世で体を鍛えていたかどうかは無関係である。




・・・まだ死ねない。

まだ、まだ死ねない。

ドシルが逃げ切れるまで、死ねない。

僕が、もっとまともな対応ができていれば、あの子が森に入ることはなかったかもしれない。


カッとさせてしまったから、僕が、きっと配慮のない言い方をしてしまったから、あの子は森の中へと入っていたのだろう。

だから、命懸けで、僕は時間を稼がなきゃいけない。


せめて、あの子だけでも逃げられる時間を稼がなければならない。

ケビンさんにまで手が回らなかったことは残念だけれど、これが僕の限界だろう。




「ふざけんな!この罪悪感!!僕は1人が良いんだ!!1人で良いんだよ!!!」



カイルはがむしゃらに走りながら、胸を焦がす罪悪感に不満をぶつける。

自分が1人だけで生活できれば、誰かを苦しめることも、傷つけることも、退屈にさせることもない。

そう思っているのに、ままならないことへの不満を、罪悪感を、様々な感情を吐き出しながらカイルは森を駆けていた。




ーーカイルの背後から何かが飛び込んでくる気配を感じる。

空気の揺れとでも言えばいいのか、そんな感覚がしたのだろう。



「ガウッ!!」

「・・・っ!!!」


その唸り声が耳を通り過ぎる。

風が通り抜けるような感覚が続く。


カイルが振り返ろうとした時には、すでに彼の横を黒い大きな狼が通り過ぎていた。




「っ!追いつかれた!!!」


背後から通り過ぎた狼は、カイルの前で着地すると、そのままジッと見つめてくる。

カイルの行く手を遮るように立っているため、行き場を失い、カイルは思わず足を止める。



「・・・え?」


そして、その狼は口に何かを咥えている。

咥えているものの輪郭が暗がりでチラチラと見える。



・・・あれは指?

腕?


何かが滴っている?




「・・・血?」



狼は人間の腕のようなものを咥えていた。


そして、カイルは右足全体で何か濡れたものを感じる。

彼が自分の右足の太ももを見ると、空から雨のように降り注ぐ何かがベットリと染みつき始めていた。




・・・いや、降り注いでいるのは空からじゃない。

降り注いでいるのは…僕の右腕からだ。




「はははは・・・あはははは!!」



ーー僕は気が狂い始めていた。

現実離れした光景を前に、正気を保てないでいる。




ーー僕は、自分の右腕が、二の腕より先が、虚空に消えていることに笑う。

血を噴水のように勢いよく噴き出している腕の姿に笑いが込み上げてくる。



「それ、僕の腕?」


カイルは目の前の狼へ尋ねる。

すると、狼は彼の腕を咀嚼しながら吠えた。



「・・・ガウッ!!」


それは返答ではなく合図であった。



「「ウオオオオオン!!!・・・・ガウッ!!」」



カイルの周囲から、無数の狼が飛びかかってきた。

車のような狼の群れによって、大波に飲まれるようにカイルは地面へ押し倒される。



「っ!?」


足を噛まれる。


「ガウガウガウガウッ!!!」


腕を噛まれる。


「グフッ!!ガウガウガウガウッ!!」


胴体を噛まれ、内臓を引きずり出され、租借される。



「ガウガウッ!!ガウッ!!ガウガウガウッ!!!」


頭蓋骨を噛み砕かれ、脳を啜られ、目玉を飴のように舐められる。




ーー僕は食べられていた。


バクバクと食べられていた。

ガブガブと咀嚼されている。



不思議と痛みや恐怖なかった。


目玉を喰われると視界が真っ暗になる。

耳を食べられると音が聞こえなくなる。

脳みそを啜られると、意識が薄くなっていく。


残ったのは完全な闇だ。

闇の中に、僕の自我は存在していた。


端末を失い、クラウド上に預けられたデータのような気分だ。

肉体の感覚はなく、意識だけが存在している。



そんな完全な闇を前に、僕は落ち着いていた。




・・・これで戻れる。

これで良いんだ。



ん、戻れる?

一体、どこに?



僕に…帰る場所なんてあるのか?






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