騒動の後で
ーーサドラルファの襲撃から3日
畑の浄化作業や家の再建で村の中は賑わいを見せていた。
家が焼かれ、仕事場を失っても、それでも村人達は活気に溢れていた。
大切な家族さえ無事であれば、直せるものは直せばいい。
そんな印象である。
カイルが来るまでに、盗賊や魔物に家族を奪われてきたもの達もいる。
過去の襲撃と比べると遥かに今回の方が規模は大きいが、犠牲者はゼロであった。
むしろ、喜ぶべきだと村人は考えているようだ。
そんな再建で賑わう村の出入り口には男女の姿があった。
「・・・あら、こんにちは」
村の入り口にはガジェッタの姿がある。
村長やケビンに見送られており、どうやら村を去るつもりのようだ。
急に姿を消したと思ったら、こうして姿を見せ、去ろうとしているガジェッタ
カイルやドシルに用事があり、色々と情報を聞き出そうとしていたのではないか。
それが、こうもあっさりと去っていくなんておかしいと、そんな彼女を怪訝な瞳でカイルとドシルは見つめる。
「おい!カイルとドシル、挨拶は?」
ケビンが挨拶を返さない2人へ叱る。
すると、嫌々、カイルとドシルはぺこりと頭を下げる。
「こんにちは・・・」
「こんにちは!」
「ふふ、何やら聞きたいこと、ありそうね」
ガジェッタはそんな2人を微笑みながら見つめる。
すると、カイルは切り出した。
「・・・今回の襲撃、ガジェッタさんは関係していないんですよね?」
「襲撃?」
「そうだ!お前が魔物を呼んだんじゃないのか!?」
「あら、私の言うこと、魔物が聞くかしら?」
ガジェッタの言葉にカイルとドシルは言葉を紡げない。
確かに、ガジェッタが関与しているのであれば、魔物に言うことを聞かせなければならない。
サドラルファの眷属がガジェッタの指示に従うとは思えないでいた。
「そうだぞ!カイル!ドシル!何を疑ってんだ?」
ケビンはカイルの頭へ手を置くと、笑いながら言う。
しかし、そんな父親の言葉に反論するカイル
「そりゃ、疑いますよ。森で攻撃されたんですから」
「そうですよ!師匠!」
カイルとドシルの言葉にお爺さんは頷く。
「まだ森でのことを恨んでおるのじゃな、ま、当然じゃろ」
「おい!カイルとドシル、そんなんじゃいい男になれねーぞ!小さいこと、気にすんな!!」
「お父さんは気にしなさすぎですよ!」
カイルはケビンの言葉に、ため息のように息を吐く。
そして、ガジェッタへ言う。
「・・・どうして僕達を呼んだんですか?」
カイルとドシルはガジェッタから呼ばれていた。
この村を彼女が去る前に、2人へ話したいことがあるそうだ。
「どうして?」
「ええ、話、したくないです」
「あら、寂しいこと言うわね」
「何の話なんだよ!?」
ドシルに急かされてガジェッタは用件を告げる。
「ふふ、そうね。提案があるの」
ガジェッタの言葉に、空気が重くなる。
原因はお爺さんとケビンの表情が険しくなったことであろう。
そんな空気の変化にカイルは眉を顰め、ドシルは気付いていない。
「提案、ですか?」
「ええ、5年後、また村へ来るわ」
ガジェッタは真剣な眼差しで2人を見据える。
「・・・」
「来るんじゃねーよ!」
ガジェッタの言葉にドシルが嫌悪感を露わにする。
顔をプイッと背け、拒絶を露わにしている。
「あら、嫌われているわね」
「ふん!!」
「で・・・5年後、何があるんですか?」
「2人とも、13歳になるわよね」
「ええ、そうですね」
「おう!」
「学校、行きたくない?」
「学校?」
「がっこう?がっこうて何だ?」
「勉強する場所よ」
「勉強なんてしねーよ!!」
「あら、剣術の稽古を受けられるのよ?」
「・・・むむむ」
ガジェッタの言葉にドシルは唸り声をあげる。
しかし、首を横に振った。
「俺には師匠がいる!!」
「・・・ドシルくんなら、すぐにケビンなんて追い抜くわ」
「おいおい!先生・・・なんかってやめてくれよ」
「そんなことはねぇ!!師匠はすげーんだぞ!!」
「・・・5年後、また聞かせてほしいわ」
「今、答えますよ。学校になんて行きません」
「ふふ、5年後、気が変わったら教えてね。世界最高峰の教育機関への入学権を持ってくるわ」
ガジェッタはそう言うと、カイルとドシルを交互に見つめて微笑む。
「けっ!手間なだけだぜ?俺だって行かねーよ!!」
「ふふ、あ、最後に・・・これをドシル君にあげるわ」
ガジェッタは鞘を取り出す。
札が何枚も貼られているものであり、どこか怪しげな雰囲気があった。
「お!?何だ・・・これ?」
「妖刀、ゴブリンから拾っていたでしょ?」
ガジェッタが言うと、ドシルがビクリと肩を震わせる。
そして、カイルはケビンとお爺さんを見る。
2人は何も口出しするつもりはないようであり、黙って成り行きを見ていた。
その反応に、カイルはどこか疑問を抱きつつも、ガジェッタの話は進む。
「・・・それじゃ、お邪魔したわね」
「ああ、師匠!お達者で!」
*********
村の広場
周囲は相変わらず復旧作業で賑わいを見せる中、カイルとドシル、キララとマルルとサララ
そして、ドラ吉を抱えるユグが集められている。
彼ら子供達の前には、村長とケビンがいた。
「・・・さて、どこから聞こうか」
ケビンはユグの腕に抱かれているドラ吉を見る。
頬をポリポリとかきながら困った素振りのケビンへ、ドラ吉は目をウルウルとさせて鳴く。
「キュルルルル・・・」
その同情を買う気満々の鳴き声にケビンはため息を吐く。
そして、カイルを見つめて口を開こうとした。
「・・・のう、ケビン、良いではないか」
「おい!ジジイ!!」
お爺さんは子供達から訴えかけるような瞳に押されて、村でドラ吉を飼うことを承諾しようとしていた。
それを慌ててケビンが止めようとする。
「ありゃダメだ!!モノホンの龍だぞ!!」
「そう、じゃな・・・うむ」
「キュルルル・・・」
「パパ・・・」
ユグまで加わりキラキラビームが放たれる。
しかし、ケビンは唸り声を響かせながら続ける。
「ぐおおお・・・良いか!ユグ!そいつは数年もすりゃ、こーーーんなに!でかくなるぞ!」
ケビンは腕を大きく広げて何かを描いていた。
きっと、成長したドラ吉のことであろう。
「うお!マジか!!すげーな!ドラ吉!!」
「こんなに可愛いのに、そんなになっちゃうの?」
「えー・・・やだ」
「小さい、可愛い」
ドシルは好意的だが、女性陣からは不評な様子だ。
すると、お爺さんが言う。
「ま、ここまで懐いておれば大丈夫じゃろ」
「良くねーよ!何を言ってんだ!!じじい!!」
荒ぶるケビン
そんな彼へカイルは言う。
「あの!良いですか!?」
「何だ?カイル」
「ドラ吉が大きくなれば、村の力になりませんか?例えば、護衛とか」
カイルの言葉に、お爺さんとケビンは眉を顰める。
それは迷いの表れであった。
「うーむ・・・」
「良いか、カイル」
「はい?」
「龍ってのはな、本来、人には懐かない」
ケビンは険しい顔で告げる。
目の前でドラ吉がこうして子供達に懐いているのにも関わらず、ケビンの言葉には説得力があった。
それは言葉の節々に感じる重みのようなものがあるからだろう。
「懐かない・・・」
「そうだ。何で、ドラ吉がそんなにお前らに懐いているのか、それが不思議でならねぇ」
「じゃが、懐いておるのじゃ、良いではないか?」
「黙れ!ジジイ!!」
「・・・つーん」
ケビンに言われて肩を落とすお爺さん
そんな村長を放置して、ケビンは続ける。
「良いか?龍ってのは・・・人間に恨みを持ってんだ」
「え?」
「すっげぇ昔のことだ。だけど、ずっと龍は根に持っている」
「・・・だけど、ドラ吉は子供です」
「本能的に恨んでんだよ、人間をな」
「・・・」
「だから、いつ、俺達に牙を向けるか分からねぇ」
ケビンの言葉に、広場は静寂に包まれる。
すぐに、彼の言に反論できるものはいなかった。
「カイル兄ぃ・・・」
「キュルルル・・・」
ユグとドラ吉はカイルへ潤った瞳を向ける。
お爺さんの意見よりもケビンの意見の方が尊重されそうな空気となり、ドラ吉を野に離すことで決定しそうだ。
そんな中、カイルはケビンへ真剣な眼差しを向けた。
「・・・逆にですよ、お父さん」
「おう?」
「ドラ吉を野に放って、その恨みとやらが蘇ったら、復讐しに来そうじゃないですか?捨てやがってー!って」
「うーむ」
カイルの言葉にも一理あるとケビンは唸り声を響かせる。
これはカイルも諸刃の剣だ。
もし、憂いを断つためにドラ吉を殺すという話になれば、事態は悪化する。
しかし、ケビンなら、そこまでは言わないであろう信頼があった。
「でも、一緒に村で暮らしていれば、きっと家族になれますよ」
「・・・家族、か」
「そうじゃな、カイル、その通りじゃ!」
「おい!ジジイ・・・そう簡単に頷くんじゃねぇ」
「カイルもユグちゃんも、こうして家族になれたのじゃ。ドラ吉だけ仲間外れは可哀想じゃろ?なぁ?」
お爺さんはドラ吉の頭を撫でる。
嬉しそうに目を細める龍の姿に、お爺さんは満面の笑みを見せた。
まるで猫をもふる時の人の顔をしている。
「キュルキュル・・・」
「お爺!ドラ吉!ユグの妹!!」
・・・ドラ吉なのにメスだったのか。
ドラ子に改名しないとダメだな。
「・・・家族か、そう言われちゃなぁ・・・はぁ・・・良いか!?カイルとユグ!」
「はい!」
「はーい!」
「責任持って妹の面倒、見てやれ」
ケビンの言葉にカイルとユグはハイタッチする。
そして、ドラ吉が地面に落ちると、そのまま地面で踊るような格好を見せた。
「それと、メスならドラ吉は変だぞ?」
ケビンがそう言うと、女性陣から猛抗議を受ける。
「ぶー!可愛い!」
「そうよ!そうよ!」
「ドラ吉で何か変なのかしら?」
「ドラ吉、可愛い、女の子、らしい」
「・・・」
ケビンとカイルは自分達のセンスが間違っているのかと首を傾げていた。
「さて、次の問題はドシルのやつが持っておる妖刀じゃろ」
「・・・妖刀?」
ドシルはお爺さんの視線を受けて、腰に差している妖刀の鞘を手に持つ。
紫色のモヤを常に纏っており、尋常ではない様子の刀だ。
「そう!ドシルの刀、すごく気持ち悪い!」
サララがスッと指を指すと、ドシルはギロリと睨む。
「ふざけろ!かっこいいじゃねーか!」
「うーん・・・私も気持ち悪いと思うわ」
キララまで嫌悪感を表していた。
そして、カイルも続く。
「その刀、普通じゃないよ、ドシル」
「んだと!?」
カイルと睨み合うドシル
カイルに言われる時だけ過敏な反応を示していた。
そんな2人の間へ仲裁するように入り込むのはケビンだ。
「ま!師匠がその鞘をくれたんだ。大丈夫だろ」
ケビンはニカッと笑う。
ドラ吉の時と一転、妖刀には寛容な様子だ。
「ま、そうじゃな、妖しい気配も感じぬしのう」
お爺さんはそう言って妖刀を見つめる。
そして、頷いてから続ける。
「じゃが、ワシらで妖刀は預かろう」
「えー!!やだぜ!!俺が拾ったんだ!」
「おい!ドシル!良いから」
ケビンがスッと手を出すと、渋々、妖刀を渡すドシル
その様子を見て、お爺さんは再び頷くと、子供達へと告げる。
「さて、日が暮れる前に解散とするかのう」




