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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
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絶望の世界



・・・あれ、僕は?



背中には硬い地面の感触、頬を焼くような熱さで目を覚ます。

喉が異常に渇き、胃は飢えを訴えていた。


手足に力は入らず、全身が異様に怠い。

頭はキリキリと痛みを放ち、思考の妨げとなっていた。



しかし、カイルはそんな体の絶不調に意識を回すことはない。

彼が開いた視界の先には、二つの月が浮かぶ夜空が広がっていた。


そんな空は真夜中にも関わらず夕暮れ時のように真っ赤に染まっていた。




「・・・燃えている?」


カイルはポツリと呟く。

鼻には何かが焦げたような悪臭が漂っていた。



「ぐ・・・うえ」


あまりの臭いに吐き気を催すカイル

そのまま上体を起こして口から胃液を地面へと吐き出す。



「ごほっ!おえ・・・う・・・」



本当の意味で胃の中を空にすると、そのまま口を拭いつつ、周囲を見渡す。



「あれ?」


気付けば、カイルは村の中で寝ていた。

家の中でもなく、外の通路で寝転がっていた。


カガリを助けるために、サドラルファに憑依されているカガリへ『犠牲治癒』を使っていた。

翠毒などもカイルであれば『超再生』できる。

サドラルファも、デルガビッズと同様に自分の中へ封じ込めることができると考えていた。


しかし、自分が予想していた事態とは大きく異なる。

彼が目の前にしている光景は、ただの絶望であった。



「ど、うして・・・」


カイルが周囲を見渡すと、近くの家々は黒く焦げている。

遠くに見える家々は燃え盛っており、いつもの光景が絶望に染まっていた。


カイルは首を横に振りながら、まるで目の前の光景を認めなければ、元に戻せるようなそんな虚な気持ちが支配し始めていた。

訳など分からないが、村を焼く光景が自分の行いによって起こされたものであるかのような罪悪感が込み上げていた。


サドラルファを止められなかった。

『犠牲治癒』を軽率に放った。


予期できない何かによって、自分は村を焼いてしまったのではないか。

そんな恐怖も同時進行で彼を震えさせていた。




「はははは・・・」



カイルは明るく笑う。

泣いたら、これを認めてしまえば、もう戻ってこないような気がしていた。




「はは・・・あはははははは!!」


焦げた村の中を進むカイル

大声で笑いながら進む彼は狂乱しているようにも見えるだろう。


まるで火の灯りに吸い寄せられるようにして、カイルはまだ炎が包む家々の前まで歩いて進む。

そして、真っ赤に燃える炎に包まれている場所へと辿り着くと、カイルは膝を折り、空を見上げて叫ぶ。



「サドラルファ・・・お前が・・・これをやったのかっ!!!!」


返答はない。

当然だ。

彼の視界に、動くものなどないのだから。



大勢の人々が串焼きにされていた。

家の前で、頭部だけを槍のようなもので貫かれて飾られている。

燃える家を焚き木に見立て、まるで魚でも焼くようなイメージなのだろう。



「僕が・・・やったの?」



カイルは自分の胸に手を当てる。

その言葉の方が、どこかでしっくりと来ている。

そんな気がしていた。




「ドシルの・・・母さん?」


カイルの近くの家はドシルの家だ。

燃え上がる家屋の側で、串刺しにされているのはドシルのお母さんとお父さん

そして、まだまだ小さいドシルだ。



「あ・・・ああ・・・あ・・・ああああああああああああ!!!!」



キララの母カガリとキララの父

そして、まだ幼いキララの亡骸も飾られている。




「きらら・・・ちゃん・・・僕、助け・・・られな・・・ま・・・るる・・・ちゃん・・・」



カイルの知る人々

マイクやライスなど村の人々の面影を残す死体が焼かれゆく。


悪臭や、全身を伝う熱風

それらの感触が、この光景が夢ではないとカイルへ告げていた。





ーー泣き叫ぶカイル

声にならない声を大きくあげ、何度も、何度も、何かを叫び続けていた。



しかし、そんなカイルの叫びがピタリと止まる。

彼の背後から男女の声、そして幼い子供の声が響いたからだ。



「サラ!!!」

「ママ!!!」


「おい!!ケビン、てめ!!カイルを連れて逃げろって言ったろうが!?」



「・・・ケビンさん?サラさん?」


カイルは馴染みのある声を耳にして振り返る。

そこには、少し若返ったような姿をしたケビンとサラがいた。

そして、ケビンの腕には黒髪の子供が抱きかかえられていた。



「ママ!!!」


黒髪の子供はケビンの腕から飛び出すと、サラの胸へと飛び込む。



「おっと!カイル!!!」


険しい口調をしつつも、嬉しそうな声色でサラは子供を抱きしめた。

そんな彼女へケビンは言う。



「ママ!!僕も戦うよ!!」

「ぐ・・・カイル!!かっこいいこと言うんじゃねーよ!!」

「ママ!!僕、すごい、魔力あるんでしょ!?」


「おう!だけどな!ママと一緒に戦おうなんざ、 10年・・・いや、5年は早いぜ!?」

「ぶー!!!」


頬を膨らませる少年

そんな彼を"カイル"と呼んだ気がしたのは、空耳だとカイルは感じていた。


まるで、自分がいないところで家族が演じられている。

そんな光景を前に、カイルの中で現世のことがフラッシュバックする。




「俺も戦うぞ!!」


叫ぶケビンを前に、サラは首を横に振る。

そして、勇敢そうな眼差しで自分を見つめる黒い髪の少年へ目線を配る。



「・・・邪魔になるから、こいつを・・・ぐ・・・つ・・・連れて・・・どっか行け!!」


サラは名残惜しそうに胸に抱く子供の首根っこを掴んで、強引にケビンへと預ける。

子供は手を突き出して、サラの服を掴もうとするが、巧みに彼女は避けていた。



「ふざけんな!俺だって戦えるぞ!」

「・・・お前はみんなを守れよ」


「・・・っ!」

「好きな女が好きなものを守るのも、男の仕事、だろ?」


サラはそう告げると、ケビンはグッと下唇を噛み締める。

そして、大きく頷くと、踵を返して、村の奥へと駆けていく。



「ママ!!ママ!!」

「・・・」



黒髪の少年を抱き抱えながら走るケビン

彼の前にカイルが立ちはだかる。




「お父さん!!」

「・・・」



しかし、目の前のカイルなど存在しないと言いたいような様子で無視するケビン

そのまま走ればカイルに衝突するのだが、それでも構わないような勢いで走り抜けようとしてくる。



「っ!?お父さん!!」


カイルはケビンとぶつかる。

しかし、そんなカイルをすり抜けて、さらに先へ進むケビン

まるでカイルが幽霊にでもなったかのうような光景であった。



「待って!父さん!待って!!」



ぶつからなかったことに驚くカイルだが、そのまま走り去るケビンの背後から叫ぶ。

しかし、ケビンは振り返ることを決してしなかった。






「・・・お出ましか」



サラの前には3人の男女がいた。

1人は白い綺麗なドレスに身を包み、深雪のように白い髪を腰まで伸ばしている白い肌の美女だ。


2人は黒いコートで全身を覆っており、フードで頭を覆っているため容姿はわからない。




・・・あの人、どこかで?

いや、あり得ない。

あれは現代日本で見たことのある人だ。


だけど、瓜二つだ…




カイルは3人組の中で、唯一黒いコートを纏っていない女性に釘付けとなる。

その容姿は、この世界ではなく、現代日本で見た記憶があった。




「アーチ!!まさか、アンタが姿を見せるとはな!!」


サラの背後から白いオーラでできた巨人が浮かび上がる。

その巨人はアーチへ向けてファイティングポーズを構えていた。



「アーチ・・・アーチって、あれ・・・いや」



カイルはその名前を聞き、その姿を見た記憶があるが、それがどこでいつなのかを思い出せないようだ。苦虫を潰したような顔で成り行きを見ていた。




「・・・ジークはどちらに?」


しかし、そんな臨戦態勢のサラを前にして、アーチと呼ばれた女性は微笑みながら問う。

まるで幼い子供に対応する穏やかな母親、そんな印象だ。




「ジーク?そんなやつ、この村にはいねーよ!」


サラは眉を顰めていた。

元々、こんな辺境のチンケな村に、アーチが直々に来ること自体が疑問だ。

さらに、伝説の勇者の名前を出して、その所在を尋ねられれば、怪訝そうな顔をするのは当然の権利であろう。


アーチは少しサラの怒れる瞳を見据えると右手をスッとあげる。



「・・・レックス、貴方は森を」

「はっ!」


アーチが背後にいる黒いフードの1人へ声をかける。

そのフードの人物からは男性の声が響き、頭をスッと下げると、そのまま姿を消していく。



「おいおい!レックス先生よ!久々に会ったってのに挨拶もなしかよ!?」


サラは虚空へそう告げると、影からスッと黒いフードの男が姿を見せる。

影に隠れて進んでいたようであり、瞬間移動していた訳ではないようだ。



「・・・」


姿を露出させられたとはいえ、そのまま無言で走り抜けようとする黒いフードの男性



「させっかよ!!」


サラはそんな黒いフードの男性へ向かって拳を突き出す。

その動きに応じて、彼女の背後にいる白い巨人から拳が放たれる。


しかし、黒いフードの男は青く透明なパネルを複数浮かび上がらせていた。

それは5枚のトランプぐらいの大きさのカードである。



「手札!?」


カイルが反応した通り、黒いフードの男性の目の前から手札が一枚消える。

すると、空から巨大な光の剣が降り注ぎ、白い巨大な腕が黒いフードの男性へ命中するのを防いでいた。


続けて、4枚のカードの内、1枚がパッと消える。

すると、黒いフードの男性の体を蒼翠の光が包むと、そのまま空高く舞い上がっていく。



「ふざけんなっ!逃すかよっ!!」


サラはそう叫ぶと、腕を下から上へと振り上げる。

すると、無数の光線が地面から空へと発射される。


しかし、彼女が放った光線が黒いフードの男性へ命中することはなかった。

ススッと光線の間をくぐり抜けて行き、森の方向へと向かって消えていく。




「がぁああああ!!!くっそっ!!頼むぜっ!爺さん!!」


サラはレックスを追うわけにはいかないため、そう悪態をつくと、森にいるであろう誰かに対応を任せることにした。

そして、前方にいるアーチを睨む。




「・・・サラさん、落ち着いてください」


鋭い視線から敵対心を感じたアーチ

穏やかな様子を崩さずに、両手を広げ、まるでサラを抱きしめるような仕草で語りかける。



「私は、世界を救うために、ここに来たのですよ」

「村をこんなにしておいて・・・てめぇ!!頭、イカれてんのか!?」


サラのあまりの態度に、アーチの背後からスッともう1人の黒いフードの人物が現れる。



「良いのですよ」

「・・・」


アーチが穏やかな口調で告げると、フードの人物はぺこりと頭を下げてから傍へとズレる。

視界が開けたことで、白い女性をキッと睨むのはサラだ。



「おい!この村を焼くことで、どうして世界平和になるんだ!?」


サラの言葉は最もだ。

長閑な村を焼き尽くし、住人を殺すことで世界平和になるのなら、そんな世界は逆に滅んだ方が良いとすら思う。




カイルは背後に広がる凄惨な光景の首謀者が白い女性だと知ると、目に炎を宿らせて、勢いよくアーチへと殴りかかる。

しかし、そんなカイルは前のめりに地面へ倒れてしまう。

彼の拳だけでなく、その体ごと、白い女性をすり抜けてしまっていた。



「うそ・・・だろ・・・」


カイルは自分の手足を見つめる。

自分で自分に触れるが、手には確かな感触があった。




ーーそんなカイルを他所に、サラとアーチの会合は続く。




「答えろ!!アーチ!!」

「村の人々には仕方なく死んでいただきました。聖杯を完成させるわけに・・・」



間髪入れず。

語り始めたアーチへ向けてサラは拳を突き出した。


その動きに合わせるようにして、彼女の背後の巨人が拳を放つ。

凄まじい突風が巻き起こり、爆音が響く。





「ぐ・・・」


サラは手応えを感じていない。

確かに白い光の巨人による圧倒的な力が込められた拳は、アーチと呼ばれる女性へ命中していた。

衝撃が伝わり、爆音が響き、突風が巻き起こったのは確かだが、当の本人自体は微動だにしていなかった。




「ジークの次は聖杯だと!?ふざけてんのか!?」


「・・・ふざけてはいません。世界を救うために必要な犠牲だったのです」

「犠牲・・・だと?勝手なことを言うんじゃねーよ!!」

「世界を守るためです」

「誰かを犠牲にできなきゃならねぇ世界なんざ、最初から終わってんだ!!滅んじまえ!!」


「・・・サラさん」

「それに、こんなチンケな村に聖杯なんざ関係ねぇ!!大事に巻き込むんじゃねぇよ!」


「残念ながら、その聖杯がこの村にあるのですよ」


「何を言ってやがる!?」

「召喚したものがいます」


「は?聖杯はラナンキュラス封印されてんだぞ!物理的にも、魔法的にも干渉できねぇ!空間ごと断絶されてんだ!」


「ええ、その通りです」

「だから!!そんな召喚なんて真似できっこねぇよ!何人もの愚かな賢者が試して痛い目みてんの知ってんだろ!?」


サラは叫ぶと、アーチは言葉を紡がずに黙り込む。

暫しの沈黙の後、アーチが口を開いた。



「・・・その封印、脆弱性があったのです」

「脆弱性だと!?」


「当たり前のことです。封印したものであれば、その封を解けるのですよ」

「・・・まさかジークが解こうとしているってのか!?」


「すでに解いています。その手に聖杯があります。しかし、その権能はまだ満ちていないようでしたので、こうして村を焼かせていただきました」


「村を焼いた?」

「ええ、ジークは村人・・・」




・・・あれ?

世界が薄く、なって、いく?



カイルの目の前の世界がだんだんと薄くなっていく。

ボヤボヤとしていき、フェードアウトしていくようだ。




「・・・・」

「・・・・!!!」


「・・・」

「・・・!・・・!!!」



真っ白にザラザラとなっていく世界

女性の声だけが耳に響いていた。



・・・何の話を、して、いるん、だ、ろ






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