ゴブリン
「カイル!?」
ドシルの叫び声が背後から響くと同時に、自分が振り返る前に、背中から甲高い音が響く。
まるで硬いものと硬いものが打ち合う音であった。
ーーピローン♪
ーーー手札ーーー
『黒狼牙』
『黒狼爪』
『迅速』
『ドミネーション』
『アース・スライサー』
ーーーーーーー
「っ!?」
続けてカイルの脳裏にメロディが響き、背後を振り返ると、そこには木剣で頭を打たれている黒いゴブリンがいた。
ゴブリンが持っていた手の剣は地面を滑っており、どうやら背後からカイルを襲ったゴブリンから、その手に握った剣を叩き落とし、カイルを救ったのはドシルのようだ。
ゴブリンはカイル達と同じ体格なのだが、ドシルに負けないほどの不細工であり、細く痩せた体格をしていた。
「ぎゃっ!」
ゴブリンは頭に衝撃を受けると、鼻から血を吹き出しながら地面を転がり回る。
そんなゴブリンへドシルは木剣を突き出して、その心臓を貫く。
刃物ですらない木剣でゴブリンを切り裂くドシル
剣の才能の有無以上に、何かの力を秘めているような印象をカイルは受けていた。
「ぎゃああああ!!」
「・・・ぐっ!」
ドシルがゴブリンの緑色の返り血に染まりながら木剣を構え直す。
そして、カイルへ叫ぶ。
「ボーッとんすんじゃねーぞ!カイル!」
「あ、ああ!!」
そう叫ぶドシルの顔は高揚して赤く染まっている。
剣を握る手には震えがあり、臆しているのか武者震いなのかは分からない。
カイルがドシルの剣先を見ると、そこにはゴブリンが3体で姿を見せていた。
「ゴブリン?」
「おう!そーだぜ!たまに村を襲いにくんだ!!ま、こうして戦うのは初めてだけどな!」
ドシルは慣れた様子でカイルに答える。
過去、襲われることは頻繁にあったのかもしれないが、ドシルが対峙するのは初めての様子だ。
・・・おかしい。
例えゴブリンみたいな小物とはいえ、ラドン達が村の襲撃を許すはずがない。
カイルは違和感を覚えつつ。
目の前のゴブリンだけでなく、周囲にも警戒の糸を張り巡らせる。
「っ!?」
カイルは村の奥、家々の隙間からゴブリンが進むのが見えた。
家の中を覗き、荒らし、人がいないかを確認しているようだ。
「お、どうした!?」
「村の中に入り込まれてる!?」
「何だと!?」
家々はもぬけの空のようだ。
逆に言えば、大人達の姿が見えない。
さらに違和感が強まる光景を前に、カイルの脳裏にはユグ達がいる秘密基地を思い浮かべる。
「ドシル!秘密基地に戻るぞ!」
「あ、ああっ!」
ドシルも同じ考えのようだ。
相手がゴブリンなら大人であれば退治できる。
しかし、幼いユグ達は分からない。
下手をすればゴブリンに殺されてしまう可能性すらある。
ーードシルとカイルが周囲に注意を向ける。
秘密基地にいる友達を思って焦燥にかられている。
その隙を目の前にいるゴブリン達は逃さない。
「キキーーーー!!」
一斉に襲ってくるゴブリンだが、ガサッと音がすると、その上半身と下半身が真っ二つに切り裂かれる。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『アース・スライサー』を発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ぎゃああああ!!」
カイルが腕を振るうと、土の刃がパッとゴブリンを切り裂く。
一蹴できたことを確認すると、カイルはそのままドシルの肩を叩いた!
「急ぐぞ!みんなが危ない!」
「やるじゃねーか!」
「ドシル、お前もな!さっきは助かった!」
カイルはスッと拳を突き出すと、ドシルも拳を出す。
2人は拳を打ち付け合うと、村の奥にある秘密基地へと向かって駆け始める。
ーー家々が並ぶ村の住宅街
その通りを駆けるカイルとドシル
しかし、家と家の隙間である物陰からスッと黒い影が飛び出してくる。
「カイル!避けろ!!」
「っ!?」
ドシルの声に反応してカイルは手札から『迅速』を放つ。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『迅速』を発動しました。
・龍の加護により『リンク発動』は封印されています。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ゆっくりとする視界の中、ドシルがスッとカイルの前に立とうとしていた。
木剣を構えてカイルの横合いから斬りかかろうとしているゴブリンの刃を防ごうとしていた。
しかし、そんなドシルの動きを予測してか、移動するドシルの動きに合わせて飛来してくるボロボロの矢が見える。
カイルは上を見上げると、家々の屋根には弓を構えたゴブリンがいた。
そのままドシルを狙った矢を蹴り上げて、その下ろした足でカイルは地面を蹴り上げる。
ーー『迅速』の効果が切れる。
「ぎゃ!?」
目の前にパッと現れたカイルに驚く黒いゴブリン
『迅速』で敏捷が急上昇したカイルの動きを目で追えないゴブリンからすれば、カイルが瞬間移動したように感じるだろう。
そして、すでにカイルは拳を突き出そうとしていた。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『黒狼爪』を発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その驚愕に染まるゴブリンの顔面へ、カイルは黒狼化した拳を貫く。
「ぐべぇ!!」
奇妙な声と瑞々しい音が響くと、ゴブリンの頭部は木っ端微塵に吹き飛ぶ。
首からその先を失った胴体がバタリと倒れると、緑色の血を噴水のように吹き出し、家の屋根を緑に染めている。
ーーそのまま、屋根の上で、自分へ飛翔してくる矢を『黒狼爪』で弾きながら、カイルは疑問を感じていた。
・・・手がブラックウルフのそれだ。
どうして『神狼爪』にならないんだ?
そんな疑問を抱きながらも、カイルは屋根の上から周囲を見渡す。
村は広いわけではなく、家の軒数も少ない。
とはいえ、今、カイルとドシルのいる場所は家が密集している場所であり、物陰が非常に多い。
「カイル!!上のは任せたぞ!!」
屋根の下からはドシルの声が響き、遅れて剣で打ち合う音が鳴る。
地上にいるゴブリンはドシルが対応しているようだ。
カイルはドシルの言葉通りに、屋根の上にいるゴブリンの対処を始める。
「・・・やるしかないか」
カイルはそう呟くと同時、自分の腕だけでなく足も黒狼化させる。
そして、発達した四肢を使って、屋根から屋根へと飛び移る。
「キキーーーー!!」
迎撃するように矢を構えるゴブリン
しかし、奴が矢を放つよりも早く、カイルはそのゴブリンの頭部を踏み潰していた。
そのままゴブリンを踏み台にし、反対側の屋根へ飛ぶ。
ーーピローン♪
ーーーインフォメーションーーー
・通常ドロー
スキル『ダブル・ファイア』をドローしました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
脳内でメロディを響かせながら、反対の家の屋根にいるゴブリンを丸ごと踏み潰すカイル
踏まれてミンチ状になったゴブリンだったモノは、そのままズルズルと屋根から地面へ滑り落ちていく。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ダブル・ファイア』を発動しました。
・スキル『ファイア・ボール』を手札に加えました。
・スキル『ファイア・ボール・マシンガン』を手札に加えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイルは火属性サーチ魔法を手札から発動して『ファイア・ボール』を手札に加える。
これで攻撃手段を維持しつつ、ゴブリンを撃退するのが狙いだ。
屋根の上から見渡すと、家の屋根にいたゴブリンは一掃できているようだ。
・・・よし!
ドシルの援護に入ろう。
カイルは屋根から見下ろすと、ゴブリンの死骸が散乱していた。
その奥には、次々とゴブリンを斬り倒していくドシルの姿があった。
全身を緑の返り血で染めているが、赤い色がないことから、彼が怪我をしていないことを察するカイル
よく見ると、ゴブリンの持っていた武器に持ち替えているようだ。
なまくらとはいえ、木剣よりはマシだと考えているようだ。
・・・剣の才能だけはあるか。
カイルはドシルが舞うように剣を振るい、次々とゴブリンを切り倒していく姿を見ていた。
しかし、そんなドシルの背後にススっと3つの影が忍び寄る。
「っ!?」
ドシルの背後へ進む影の一つからヌッとと黒装束のゴブリンが姿を見せる。
まるで忍者のような格好のゴブリンは、そのまま短刀を振り上げると、ドシルの首裏を狙って振り下ろそうとする。
カイルは屋根の上から手の平を突き出す。
そのまま『ファイア・ボール』を放った。
「ぎゃっ!」
黒装束のゴブリンの頭部に炎の玉が命中すると、破裂音と共に爆ぜる。
「・・・カイル!助かった!」
ドシルは破裂音に気付いて背後を振り返ると、倒れている黒装束のゴブリンに気付き、さらに屋根の上のカイルに気付くと、何が起こっていたのかを一瞬で察し、カイルへお礼を告げる。
しかし、屋根の上を見上げているドシルの背後からは、別の黒装束のゴブリンがヌッと姿を見せる。
カイルが気付くよりも早く、ドシルはボロボロのナイフを逆手に持ち替え、背後に振り向くと同時に、右手を振り払う。
「ぎゃぅ!」
黒いゴブリンの喉元を掻っ切ると、そのまま首からの出血を両手で抑えようとするゴブリン
そんな魔物の頭部に、ドシルはなまくらを突き立てる。
「ぎょべぇえ!!」
ゴブリンを倒したばかりのドシル
彼の背後や前方、左右の物陰から、続々とゴブリンが現れる。
四方からの飽和攻撃であり、ドシルを一気に倒すつもりだ。
屋根の上から援護しようにも、家の物陰にいられては狙いが定められない。
このまま住宅街で戦うのは危険だと察したカイルは屋根の上から叫ぶ。
「ドシル!お前は小屋を目指してくれ!僕が上から援護する!」
カイルは小屋の方向を指差しながら叫ぶ。
住宅街で戦うのは不利なだけでなく、時間もあまりない。
彼の位置からは、秘密基地である小屋にもゴブリンが向かっている光景が映っていた。
「おう!」
カイルの意図を察したドシルは、目の前のゴブリンを放置し、小屋へと駆け出す。
そんな彼の横合いから斬りかかろうとするゴブリン達を、カイルが屋根の上から『ファイア・ボール』で倒していく。
ーーーリザルトーーー
・ゴブリンを討伐しました。
・下級モンスターのためパック化できません。
・入手経験値
9
・入手ゴールド
3
ーーーーーーーーーー




