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【不死の力で世界最強】永遠の魔法  作者: ららららら
第1章 カイル
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紅龍の試練



村の外を囲う森

さらに外には草原が広がっている。


一面に広がる緑のカーペット、その一部には白い毛並みが蠢いていた。

サドラルファの残党を迎撃するために向かったフェンリルの群れである。


そんな彼らを包み込むようにして炎の壁が高く聳えていた。

そして、草原の先にある岩山からゾロゾロと草原を進む魔物の軍勢はサドラルファの残党だ。




「ぐぬうう!!」

「ラドン様、この炎は・・・?」

「普通の炎ではありませんぞ!これは・・・」


「龍の炎です!一体・・・なぜ!?」



サドラルファの軍勢を前にして、ただ立ち尽くすのみであるフェンリル達

彼らが動けないのは、その周囲を包むようにして炎の壁が突破できないからだ。



「サドラルファの軍勢が、これほどの炎を生み出せるとは思えません!」


次々とフェンリル達がラドンへ叫ぶ。

しかし、当のラドンはそんな群れではなく、空を見上げた。




「・・・グレン殿!どうして邪魔をするのです!!」


ラドンは空へ向かって吠える。

その先には、スーッと人の影が浮かぶ。

姿を表したのは、両腕を胸の前で組みながら楽しそうな笑顔を見せている紅龍だ。

着物姿の美少女だが、その可愛らしい顔を小悪魔のように歪めている。



「紅龍!?」

「お、おい!」

「なぜ、奴らの味方をするような真似を!?」


「鎮まれ!」

「・・・」


「・・・グレン殿!!お答えいただきたい!どうして我らの邪魔をするのですか!?」

「力の試練じゃよ!これが第一関門じゃ!!」



グレンは叫び返す。

その声色で、彼女が状況を楽しんでいる様子がわかる。



「ふざけないでいただきたい!今にも、あの村へサドラルファの残党が向かっておるのですぞ!」


「うむ!!だからこそ試練になるじゃろ!!」

「何を!?」


「お主達の主があの村におるのではないか?」

「まさか・・・」



「そうじゃ!!この魔物共を撃退できるかどうかが試練じゃ!!それを突破できなければ、わっちと会うことを部下が認めんのでな!!」


「何を勝手なことを!!我が主はグレン殿とお会いになると決めてはおりませんぞ!」

「わっちが会いたくなったのじゃ!!」


「な・・・だから!こんな勝手を!?」

「そうじゃ!!」


堂々と声を張り上げて身勝手を肯定する紅龍

そんな彼女へ向けて、地上で吠えるラドン

その咆哮に、別のフェンリル達も追従する。


しかし、グレンはぷいっと地上のフェンリル達から興味をなくす。

そして、目の上に手のひらを横にして当てると、遠くにある農村の様子を見る。


楽しそうな笑顔、二つの黄色い瞳は忙しなく動き回る。

まるで、何かを探すようにしてキョロキョロとしている。



「さー!!楽しくなってきおったぞ!!」

「・・・ぐっ」


古龍種の傍若無人さを前にラドンは言葉が出ない。


まさしく自己中心だ。

自分を中心に世界が回っていると信じて止まない。

いや、当たり前なのだから、信じる信じない以前の問題だ。

そうであることが当然だと言うような態度に、ラドンは主のカイルを想う。



「・・・カイル様、申し訳ございません!」

「ラドン様!どうするのですか!?」


「・・・」

「ラドン様!」


「カイル様、ドール殿やサラサ殿・・・サシルを信じるしかあるまい!」

「ラドン様!諦めるのですか!?」


「相手は紅龍だ!この炎壁・・・カイル様でなければ消せまい」

「ぐ・・・」


「我らが迂闊であった。紅龍、その力を味方にできればカイル様のお力になると、そう思った」


「・・・御せない力でしたな」

「あそこまで自分勝手なやつだと、誰が想像できましょうか?」

「異質であることは知っていた。目論見を誤ったのです・・・何とカイル様へお詫びすれば」



フェンリル達には諦めのムードが漂っていた。

自分達を監視しつつ、状況を楽しむように観察する紅龍

奴が側に居ては、逃げ出すことなど叶わないだろう。



「カイル様・・・」



フェンリルは炎の壁の向こう、村にいるカイルの無事を祈る。




*********



カイルはドシルと秘密基地へ向かう。

すると、その小屋の外で金髪、茶髪、青髪の女の子が3人で集まっている姿を見つける。

そして、どうやら、泣いているキララを他の2人が慰めているようだ。



「どうしたの?」

「お!?何、泣いてんだ?」


ドシルはいつも強気なキララが泣いている姿が珍しいのか、どこか楽しそうな笑顔を見せる。

そんな彼へ、サララとマルルは鋭い視線を向ける。



「ぐっ!」


流石のドシルも、2人の視線に刺されると、怯んでしまったようだ。

そんなドシルのことなど気にしていられない様子で、カイルはキララを見つめる。



「・・・うっ・・・うぇ・・・」


目を何度も擦り、鼻を啜るキララ

決して、普段は見せないであろう姿にカイルもゴクリと固唾を飲む。


そんなカイルへ、マルルが潤った瞳を向ける。

彼女も、友達が悲しんでいる姿が辛いようだ。



「・・・カイル君」

「マルルちゃん?」


「キララちゃんのお母さんが・・・翠毒に・・・」



マルルがそう告げると、カイルはハッとする。


「翠毒!?」

「うん・・・」


「お、おい?翠毒ってなんだ?」


覚えていないドシルは両手を頭の背後で組みながら、空気を読まず、呑気な様子で告げる。



「・・・死んじゃうかも、しれない」


キララは泣きながら、震える声で言う。

すると、サララとマルルが同時に慰め始める。



「大丈夫!きっと、何とか・・・なるわ」

「そうよ!そうよ!」


「大人達が・・・きっと・・・恩寵をもらえるから!」

「そうよ!そうよ!」


「ダメよ!感染するからって!見捨てなさいって!!言ってたの!!」


2人の言葉にキララが泣き叫ぶ。

どうやら、大人達は、キララの母親を見捨てるつもりだろう。



「そ、そんなことない!」

「そうよ!そうよ!」


「お父さんだって!!諦めてたの!!!」

「・・・」



「母ちゃん・・・大変なのか?」


ドシルは尋ねる。

いつもの軽い様子ではなく、真剣な眼差しを向けていた。

「死」という言葉を聞いて事態の重さに気づいたようだ。


「・・・うん」



ドシルの言葉にキララは泣きながら頷く。

すると、ドシルはカイルを見る。



「おい!カイル・・・行くぞ!」

「・・・ああ」



カイルとドシルは頷き合う。

言葉など交わさなくても、やることは一つだ。

キララのお母さんを助ける。



・・・治療をラドン達に頼むにしても、サドラルファの残党狩りで出ているし。

連れ戻したら、逆に、その残党によって村へ被害が及ぶかもしれない。

ここは僕達で何とかしないと。


ドールさんやサラサさんに聞いてみるか?




「待って!2人とも!」

「ん?」


「どうするつもりなの!?」

「キララのかーちゃんを救うんだ!」


「救う?・・・どうして?」



キララが面をあげる。

泣き腫らした顔をしているのが印象的であった。

そんな彼女へドシルは両手を腰にあてて言う。



「当たり前だろ!」

「ああ、僕達は・・・友達・・・だから」

「おう!友達だな!!」



カイルが少し照れながら言う。

すると、キララは鼻を啜りながら大きく泣く。

しかし、それをマルルとサララは慰めようとしない。

悲しくて泣いているわけじゃないからだ。



「友達・・・そうよ!」

「うん、友達」


「うえぇ・・・いつも、意地悪な・・・くせに!」

「う、うるせぇな」


少し照れているドシル

そんな彼へサララが問いかける。



「で、どうするの?」

「薬草を探す!」

「・・・毒と言えば薬草だから」



「薬草じゃ、だめ・・・」


マルルは震える声で言う。

そう告げる彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。



「・・・薬草じゃダメ?」

「うん、翠毒、デウス級の精霊サドラルファの毒なの・・・地獄の毒だから、普通の薬草、効果、ない」

「う・・・うぇ・・・」


マルルの言葉にキララが泣き叫ぶ。

そして、マルルも大泣きを始めた。



「キララちゃん・・・うぇ・・・ううう・・・うぇええん」



カイルとドシルを気遣って、マルルは言葉にしてくれた。

それがキララを追い詰めるかもしれないと分かっていながらだ。



「・・・」

「ぐ・・・」


カイルとドシルは自分たちの浅慮さを呪う。

確かに、普通の薬草で効果があるのなら、キララがここまで悲しみを見せていない。

大人が諦めることないだろう。



「ガジェッタなら、魔法で助けられるんじゃないのか?」


ドシルが提案する。

確かに、魔聖と呼ばれる魔法使いなら治せるかもしれない。



「・・・タダではやって、くれない、って」


サララまで泣きそうな顔で言う。

どうやら、すでに頼んでいたようだ。



・・・金がなければダメだ。

でも、村には金なんてない。

この間のことで、ガジェッタは借りを返したつもりかもしれない。

だから、治すように頼んだら、何かを得ようとしてくるはずだ。

ならば、何が差し出せる?


そう考えた時、カイルはハッとし、その表情を怒りに染め上げる。




「・・・そういうことかよ!」

「カイル?」



・・・あの女!

この毒も、サドラルファの残党も、全部、あいつの仕業か!?

僕達から情報を引き出すために、こんなことを仕組んだのか!?



「カイル・・・お前?」

「・・・ドシル、とにかく、まずはガジェッタのところへ行こう」

「お、おう」


すごい剣幕と形相のカイル

彼の言葉には有無を言わさない何かがあった。

流石のドシルも頷くような気迫だ。



カイルは先に行こうとするが、ドシルは泣いているキララの前で膝を下ろし、目線を合わせる。



「ドシル・・・?」

「なぁ」


「何よ?」


キッとドシルを睨むキララ

しかし、そんな彼女へドシルは満面の笑みで言う。


「必ず、俺とカイルでお母さんを助けるからよ!もう泣くんじゃねーよ!」

「ドシル・・・」


キララは目に涙を浮かべる。

ポロポロと再び雫が溢れていく。



「お、おい!もう泣くなって!」

「あ、アンダがナガジダンでしょ!!」


キララがポカポカとドシルを叩き始めると、退散するようにドシルはカイルのところまで走っていく。


「いて、いててて!!くそー!なんだよ!」



そう言いながらカイルと共に去っていくドシル

そんな彼の背中を見つめながらキララは呟くように言う。



「もう・・・ブサイクのくせに、かっこいいんだから」




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