うーん
森の入り口の近く、壁沿いの家の庭
自作の木でできたトレーニング器具が並んでいる中央から声が響く。
「うもーーー!!」
カイルとドシルとボルル
3人の前には、ムキムキの男の子がいた。
黒光する肌を惜しげもなく露出している。
具体的には黒いパンツ一丁だ。
子供でなければ通報されていそうな変質者は、すごい勢いでスクワットをしていた。
上下に動く度に、ほとばしるパッションと共に、汗が舞う。
「・・・これがハイネ?」
カイルはドシルとボルルへ尋ねる。
すると、2人は顔を引き攣らせながら頷く。
・・・変な奴しかいねーのかよ、この村の子供は…
脳内でツッコミを入れるカイル
勢いよく鼻から息を吐き出すと、そのままスクワットをしているハイネへ呼びかける。
「おーい!」
「うもーーー!」
「おおおおーい!」
「うもおおおおお!!」
「うぉおおおおおおおおおおお!!いいいいぃいいいぃいい!!」
カイルはハイネの声に負けない声量で叫ぶ。
隣にいるドシルとボルルが耳を塞ぐほどだ。
すると、ハイネはニカッとした笑顔をカイル達へ向ける。
来訪者を歓迎する笑みだが、与えるのは不快感だ。
「うも?・・・おや!これはカイル氏!それに、ドシル氏とボルル氏!!」
「お、おう!」
「ああ・・・」
「ちゃーーー!!」
片手をスッとあげて謎の奇声をあげるハイネ
きっと、彼なりの挨拶なのだろう。
「こ、こんにちは・・・」
カイルは同じように挨拶する。
すると、ハイネはスクワットをやめると、次々とマッスルポーズを決めていく。
「しょ、う、せい、にぃ!な、に、か、ようぅ!!で、す、か、なッ!!」
「・・・えっと、マルルちゃんから聞いたんだけど、ハイネ君は魔石を探すのが得意だって」
カイルがもはや怯えながら用件を言う。
すると、ハイネはクルリと3人に背中を見せると、再びマッスルポーズを決めながら言う。
「せ、ん、え、つぅ!な、が、らぁ!!た、ん、ちぃ!!ま、ほ、うぅ!が使えるですな!」
「探知魔法?」
ハイネはマッスルポーズをやめ、両手を腰にあて、腹筋をピクピク、胸筋をピクピクさせながら言う。
「イエース!!世界認識に問いかけて、探し物を見つける魔法ですな!」
「世界認識?」
「知識があるわけじゃなくて、そういうことか」
「んだな」
「おい!ハイネ!魔石を探すの手伝ってくれ!」
「魔石?あるではないですかな?」
ドシルが言うと、ハイネはカイルの首もとを指差す。
そこには青く透明な石がある。
マルルに誕生日プレゼントで貰ったネックレスであった。
「あ・・・これ、そういえば魔石だったな」
「お?その綺麗な石、魔石なのか?」
「イエース!!」
ハイネは勢いよく頷く。
すると、ドシルとボルルはムッとした顔で言う。
「何だよ、これなら見つけられるだろ」
「なっ?普通に、綺麗じゃん」
「・・・確かに」
「ノンノン!それはかなーり純度が高いですな!」
「純度?」
「イエース!そこまでの純度、なかなかありませんですな!」
・・・ドラ吉、あいつが僕に懐いていたのは、これが目当てか。
「おやおや?それは・・・」
ハイネは顔を近づけて、カイルの首元を覗く。
「カイル氏!これは・・・ひょっとしてマルル女史から貰ったものでは?」
「え、あ、うん」
カイルを見つめるハイネ
その肌色が段々と赤く染まっていき、目がギラギラとし始める。
「ぐぬううううう!!」
「あ・・・そっか、こいつ、マルルのこと・・・」
「忘れてたな」
「カイル氏!!」
ハイネは勢いよくカイルの両肩を掴む。
そして、前後に揺さぶり始めた。
「カイル氏!!!」
「なななななななな!!んんんんん!!にいいぃいい!!!!」
「どうして、それを!!マルル女史から!!」
「たあたたたあった!!んんんん!じょうぃいいいいびぃいい!!にぃいいい!!」
「うもーーーーーーー!!小生だって貰ったことないですな!!!!」
カイルが段々と青褪めていく。
まるで魂が抜けたような表情をし始めていた。
「なっ!ハイネ・・・落ち着け!」
「お、おい!カイルが死ぬぞ!!」
ドシルとボルルが慌てて止めると、ハイネは息を荒げ、カイルは地面にキラキラと光るものを吐き出していた。
「・・・うげぇ」
「うもーーー!!羨ましいですな!!」
そんなカイルを他所に、ドシルとボルルがハイネの対応をする。
「・・・これ、マルルが見つけたのか?」
「そうですな!!」
「村で?」
「そうですな!」
「・・・他にもあるのか?」
「ないですな!!それは!川から流れて来たのを拾ったと言っていたですな!!」
「む・・・」
「魔石がご入用ですかな?」
ハイネがドシルへ尋ねる。
「おう!」
「な、ハイネ、探すのを手伝ってくれ!」
ドシルとボルルはハイネへ頼む。
しかし、当のハイネは、地面で四つん這いになっているカイルを見下ろしながら言う。
「・・・断るですな!!!」
ーー村の広場でカイルとドシルとボルルは座っていた。
そして、ドシルがカイルの横腹を肘で突く。
「お前のせいだぞ!カイル!」
「そうだぞ!」
「何でだよ?」
カイルはなぜ自分が責められているのか理解できなかった。
むしろ、途中からハイネに攻撃されていた立場だ。
どうしろと言うのか。
「で、どうすんだ?森に行くか?」
「な?探してみたけど、どれがどれか分かんねーな!」
ドシルとボルルは「疲れた」という表情をしている。
ハイネと別れてから1時間以上は村中を探しているが、それらしい石に魔力はなく、一向に魔石をみつけられないでいた。
「・・・素直に大人に話してみるか?ドラ吉のことは伏せて」
「うーん・・・魔石、くれるかな?」
「うーん」
ドシルとボルルは唸り声を響かせている。
そんな2人とは別で、カイルは思考を巡らせていた。
・・・ラドンに頼んでみるか?
いや、パシリにするみたいでダメだ。
そんなことを頼めない。
ドラ吉に眷属魔法を使ってみるか?
魔力が供給されれば良いから、それもチャンスありだ。
いや、ラドン達の例があるから、ドラ吉がドラゴンになるかもしれない。
大人に頼る?
目的も告げないで、魔石をくれるかな?
一回や二回なら何とかなるけど、ずっとは難しいぞ
ーー広場で考え込んでいる3人
そんな時だ。
1人の少年が通り掛かる。
細身で杖を持っている少年であり、名はガルル
魔法の才をケビンに認められており、遊ぶことよりも、魔法の練習を優先にしていた。
「お、ドシルにボルル、それにカイルまで」
「ん!?おう!ガルル!」
「よっ!」
ドシルとボルルはガルルと挨拶を交わす。
「お前!最近、付き合いわりーぞ!」
「魔法の練習が楽しくてな!ほれ!」
ガルルは手の平を見せると、そこからキラキラと白い粉が舞うと、パッと霜ができる。
「氷魔法じゃねーか!」
「ま、カイルほどじゃねーけど、俺にも才能、あるって言われてな」
ガルルは嬉しそうに話す。
その笑顔には希望が満ちていた。
「・・・あれはお父さんの親バカだよ」
「はは!カイル、そんな余裕を見せられるの、今のうちだぜ」
ガルルはカイルに対して不敵に笑う。
向上心が強く、対抗心をカイルへ抱いているようだ。
「・・・」
「じゃ、これで飯を食べたら、また師匠と練習だから、それじゃな」
「おい!たまには遊ぼうぜ!」
「そーだぞ!聖杖役、お前しか似合わねーからな!」
「おう!またな!」
「絶対だぞ!!」
去っていくガルルの背中を見つめる3人
夢に向かって頑張り始めている同年代を見ると、どこか遅れてしまったような気がしていた。
「・・・ね、ドシルとボルル」
「ん?」
「何だ?」
「ガルルは魔石を探せないかな?」
「聞いたことないな?」
「うん、特にな」
「ハイネ君が、魔石を探すときに魔法を使っているって言ってたよね」
「おう、確か、正解認識に語りかける?」
「旋回錦だよ!」
「・・・世界認識ね」
「そう、それだ!」
「その魔法のやり方が分かればさ、ガルルにも手伝ってもらえないかな?」
「あーん?無理じゃねーか?今、魔法に夢中・・・そうか!!」
「なるほど、カイル・・・要するに、練習って言ってよー!手伝ってもらうんだろ?」
「そう!」
「よっしゃ!ゼニは急げだな!」
「おうよ!」
「・・・で、肝心の魔法の使い方はどうしようか?」
「あ、ああん!?」
「あー・・・探す魔法か」
「そりゃ、知らねーな!確かに」
「・・・お父さんなら知っていそうだけど」
カイルは森でユグがサドラルファに憑依された時、ケビンが『サーチ・ファイア』でユグの行方を探そうとしていたことを思い出す。
同じ要領ではないかと思っていた。
「聞いてみるか?」
「魔法の練習、俺らもしたいですって言えば、教えてくれるかな?」
「いきなり言ったら、怪しまれて、理由を聞かれそうだよな」
「うーん・・・」
そんな風に思考を巡らせているカイル達
すると、急にドシルが嫌悪感を露わにした声を出す。
「げっ!!」
「・・・ガジェッタ」
ドシルが嫌悪感を示している方向を見ると、そこには魔女のような姿をした美女がいた。
カイルとドシルに微笑みを向けている。
そして、そんなガジェッタを見て、ボルルは目がハートになっていた。
「あら?こんにちは、元気そうね」
「・・・けっ!まだ村にいんのかよ!」
「ふふ、嫌われてしまったかしらね」
「あたりめーだ!お前に攻撃されたんだからな!」
「ふふ、面白かったでしょ?」
「ま、まーな!」
・・・楽しかったのかよ。
ドシルは満更でもない様子で頷く。
彼の性格を熟知し、ご機嫌にさせるガジェッタへ別の意味で警戒心を強めるカイル
「何か用事ですか?」
「あら、連れないわね。用事がなければダメかしら?」
「・・・いえ、別に」
不機嫌そうに答えるカイル
そんな彼を笑顔で見つめるガジェッタ
「お、おい!聞いてみよーぜ?」
ボルルがカイルとドシルへ提案する。
すると、ドシルは唸り声を響かせる。
「うーん・・・」
ドシルは中立
そして、カイルは反対だ。
「僕は反対だ」
「何でだよ!?」
「・・・とにかくだ」
「すごい人なんだろ?」
「そうだけど・・・」
「師匠の師匠だから、その魔法のこと、知ってそうだろ?」
「だけど・・・」
ボルルとカイルのやりとりを見て、関心があるのかガジェッタが口を挟む。
「あら?私にできること、あるのかしら?」
「あります!」
「ありません!」
「・・・おい!カイル!」
「ボルル、嫌な目に遭うぞ」
「・・・あいたい」
ボルルはポッと頬を染める。
こいつもダメだとカイルはため息を吐いた。
「お困りごとでしょ?いいわ、タダで力になるわよ?この間のお礼も兼ねてね」
「・・・お礼ではなく謝罪では?」
「ふふ、細かいこと、若いうちから気にしてはダメよ」
微笑むガジェッタへカイルはジト目を向ける。
「なぁ!ガジェッタのねーちゃん!」
「あら?ドシルくん、何かしら?」
「・・・魔石の探し方、俺達に教えてくれよ!」
ドシルが用件を尋ねる。
すると、ガジェッタはニコリと微笑む。
「魔石の探し方?」
「そうだ!魔法で探せるんだろ!?」
「ええ、適正のある子なら・・・お安い御用ね」
ガジェッタはカイルを一瞥する。
「おっ!」
「やったぜ!」
喜ぶドシルとボルル
しかし、カイルだけは怪訝な顔をしていた。
「適正?」
「そう、世界認識に通じる属性は火と雷だけなのよ」
「お!俺は雷だぜ!カイルは火だよな!?」
「・・・」
「ふふ、そうね。カイル君なら・・・簡単ね」
「・・・何が狙いですか?」
「狙い?お礼よ?」
「おい!カイル、疑い過ぎだぞ」
「ドシル、お前は気を許しすぎだ!」




