ドミネーション
カイルの手の上から太陽が現れる。
心臓のように鼓動を刻む炎の玉だ。
ドクンドクンと脈打つ度、カイルとユグの周囲に途轍もない熱を放っていた。
「がァ・・・なんだァ!?」
「・・・いいな?ちゃんと防御、しろよ?」
カイルは全身に火傷を負いながらも、強引に言葉を放つ。
この熱風の中、周囲が黒く焦げていく世界で、彼がしっかりと声を出せていたかどうかはわからない。
しかし、カイルには、自分の声が相手に届いていようがいまいが関係なかった。
目の前のユグ
彼女に宿る精霊が自分自身をツタで包み込み、まるで蕾のような姿を見せていた。
その要塞化したような防御魔法を見て、防御しようとしていることを確認し、カイルは安心して逝くことができる。
「・・・!」
カイルは生み出した太陽を破裂させた。
生み出された熱量は、世界を白く包み込む。
破壊は一瞬だった。
「・・・っ!?」
瞬きする時間も許さず。
森は白い光に包まれる。
ーーーインフォメーションーーー
・『不老不死』が発動しました。
・『超再生』が発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
・・・口の中に土の味がする。
「ごえぇ・・・ぺっ!ぺっ!」
ジャリジャリと言う砂を噛み締める不快感がすると、口の中身を一気に吐き出した。
「う・・・く・・・あ」
カイルはガバッと起き上がる。
すぐに彼の視界に異物が映る。
「あが・・・ぐ・・・」
目の前にある真っ黒な物体から、ユグのうめき声が響いていた。
それらの光景を見つめた後、再生を終えて混乱していたカイルの思考がパッと晴れていく。
・・・あの中に、ユグちゃんが?
カイルはゆっくりと真っ黒な焦げた物体へと近寄る。
周囲の木々はすべて蒸発しており、遠くまで真っ黒な地平線が広がる。
その中央に、ポツリとカイルと焦げた物体だけが存在していた。
ーーピローン♪
ーーーインフォメーションーーー
・通常ドロー
スキル『アース・スライサー』を手札に加えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイルはそっと手札を覗く。
しかし、手元に、彼の欲しているカードはない。
ーーー手札ーーー
『ファイア・ボール』
『黒狼爪』
『黒狼爪』
『ウインド・カッター』
『アース・スライサー』
ーーーーーーーー
・・・ダメだ。
あのカードじゃない。
身動きのできない様子のユグ
今、手札に、カイルが狙っているカードがあれば、ここで勝負は決していたかもしれない。
「がぁ・・・あああああ!!」
大きな爆音と共に、目の前の黒い物体が破裂する。
爆発した手榴弾のように破片を飛び散らせ、中からユグが現れた。
両手を上に広げ、大の字を描いているポーズだ。
そして、そのまま、ギロリとカイルを睨む。
「て、てめェ!!正気かァ!?」
ユグは怒号を飛ばす。
自分の妹ごと焼き切ろうとしたカイルの選択に驚きと怒りを露わにしていた。
だんだんとユグの体がぼんやりとした光を帯び始める。
その光が点滅する度に、ユグはガクっと体を傾ける。
・・・消耗している?
「流石だな、よくユグちゃんを守ってくれた。褒めてやる」
「あんっ!?てめェ!!何様だこらァ!上から物言ってんじゃねーぞォ!!!」
カイルは煽る。
「あははははは!そんなにボロボロで良く言えるね」
「ふざけろ!!これからだァ!!」
「ここから?もうボロボロみたいだけど?大丈夫?」
「ああん!?俺様は、こうなった時が1番つえェ!!覚悟しとけやッ!!」
「そうかな?もう、全然、迫力ないんだけどな?大丈夫?」
「ああんッ!?舐めてんじゃねェぞ!?」
「不安だなぁ・・・大丈夫かな?手加減しないとダメかな?」
・・・やっぱり消耗しているようだ。
カイルはそんなユグの様子から、ダメージがあったことを確信していた。
思わずそれが表情に出てしまうカイル
どこか余裕のある笑みを見せた。
「がぁっ!!ぶっ殺してやるゥ!!」
そのカイルの笑みは、ユグの中の精霊、その逆鱗を撫でる。
精霊がカイルを殺すことに諦めてしまえば、すぐに撤退を決め込む。
そうなれば、ユグを助けるチャンスはなくなってしまう。
だからこそ、カイルは煽りに煽りまくる。
・・・あいつが僕を殺すことに執着してくれないと困る。
この様子なら、僕を殺すことを諦めてくれる様子はなさそうだな。
カイルの狙い通り、ユグを纏う光が荒々しくなる。
「溶かせッ!!王虫!!」
人差し指をカイルへ向けるユグ
すると、カサカサと何かが蠢く音がカイルの耳に鳴る。
「これは・・・」
カイルは周囲を見渡す。
確かに、何かが蠢く音はする。
目の前で呼吸を荒くしているユグ以外に、何かの気配はしない。
「っ!?」
カイルは急な浮遊感を味わう。
気付けば、自身に白い糸が巻き付いていた。
糸を辿っていくと、そこには空中を歩く8本の足が見えた。
「蜘蛛!?」
頭部には王冠のような形で毛が生えている。
背中には髑髏の紋様
巨大な金色の蜘蛛が空に浮いていた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・殺せ!!そいつをドロドロにしちまえっ!!」
「キキィーーー!!」
ユグの声に呼応して、巨大な蜘蛛は鳴き声を鳴らす。
そして、白い糸から液体がジワりと滲むと、カイルはパッとドロドロのスライムのような姿へ変貌する。
そして、ビチャビチャと音を鳴らし、彼の肉体は黒く焦げた大地へとぶち撒けられる。
真っ赤なスライム状の物体が散らばる光景を前に、ユグは怪訝な顔を浮かべていた。
「・・・ここまでして、死なねェはず・・・ねェ」
ユグはそう呟く。
その綺麗な瞳が、地面に撒かれているスライム状の物体を見つめていた。
スライムは、少し前までカイルだったものだ。
普通、ここまですれば、人間どころか、精霊だって死んでしまう。
「魂・・・剥離してんだろォ?」
ユグは何かに問いかける。
それは目の前の光景が認められない。
否定したい気持ちを表していた。
ーーーインフォメーションーーー
・『不老不死』を発動しました。
・『超再生』を発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
真っ赤な肉片がパッと消える。
すると、健全な姿のカイルがパッと現れる。
「ふざけろッ!どうなってやがるッ!?」
後退り、どこか怯えを見せるユグ
何度目かの光景ではあるのだが、まだまだ信じられないと言った様子である。
そんな彼女を覆う光の強さはだんだんと弱まりを見せていた。
その現れなのか、空に浮かぶ蜘蛛の姿がだんだんと薄くなっていき、やがて消えていっていた。
ーーピローン♪
ーーーインフォメーションーーー
・通常ドロー
スキル『グリード』を手札に加えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
・・・ドローカードだ。
カイルは手札に加えられたカードを即座に放つ。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『グリード』を発動しました。
・デッキからカードを2枚ドローします。
・スキル『黒狼心』を手札に加えました。
・スキル『ドミネーション』を手札に加えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
・・・キタッ!!
カイル手札に加わったカードを見つめる。
それは、ユグを救い出すために、ずっと待ち望んでいたものであった。
ーーー『ドミネーション』ーーー
レアリティ:レジェンド
レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タイプ:攻撃
属性:光
威力:なし
発動条件:『眷属契約』を発動中
効果:対象の意思を無視して眷属化できる。通常の『眷属契約』と比べて10倍の魔力を要する。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「何を・・・ニヤついてやがんだッ!?」
「あ、ああ・・・お前がボロボロなのが嬉しくてね」
「て、てめェ!!」
ユグは顔を歪めはするものの、動きが鈍い。
いきなり襲いかかってくることはしないでいた。
流石に、完全に死んでいたカイルが、こう何度も再生していれば、ユグの中の精霊の怒りを恐怖などが上回るのは当然だろう。
「おい・・・どうした?」
「ああんっ!?」
「何で・・・逃げんの?」
カイルの言葉通り、彼が歩み寄ると、同じ歩幅だけユグは後退りする。
「に、逃げてねェ!!!」
「・・・そうかな?ビビっちゃった?」
「っ・・・!」
・・・まずいな。
あいつ、下手すれば逃げるかも。
カイルが近寄ろうとすると、同じ歩幅で後退るユグ
その様子に危機感を覚えるカイル
逃げられてしまえば収拾がつかなくなる。
「・・・おい、どうした?びびってんのか?
「がっ!うるせェ!!」
カイルは煽るが、精霊は悪態をつくだけで攻撃をしてこない。
・・・時間はもうないかもしれない。
カイルは念願のカードを引くことができた。
しかし、不安はある。
これで状況が打開できるかどうかは運頼りであり、確証はないからだ。
彼の「契約書」に表示されている魔力がバグのように文字で表されている。
それが功を奏するのかどうか。
そこがポイントでもあった。
・・・魔力が表示し切れなくて、こうなっているならチャンスはある。
だけど、本当にバグなら何が起こるか分からないな。
カイルはユグを見つめる。
狼狽えた様子であり、カイルへの対処方法が浮かばず、彼の不死性が理解できず、混乱すらしている様子である。
対応を誤れば、撤退してしまうだろう。
そうカイルは考えている。
確かに、ユグの中身が合理的な考え方の精霊であれば、とっくにカイルなど放置して、撤退していることであろう。
倒せない相手など、対応するだけ無駄なのだから。
・・・やるしかない。
カイルは精霊に取り憑かれているユグを見つめる。
一刻も早く、彼女を助け出すためには、運に頼るしか他にない。
覚悟を決めた表情を見せるカイルは、パッと手のひらを地面に向けて振るう。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ウインド・カッター』を発動しました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
腕の動きに合わせて風の刃が舞う。
生み出された風の刃は地面を切り裂き、土埃を巻き上げる。
目眩しになるかどうかは分からないが、何もしないよりもマシだと考えていた。
「何をしてんだァ!?」
土煙の中からユグの声が響く。
ユグからカイルは見えない。
しかし、カイルからは、光を纏っているユグの姿はハッキリとしていた。
「うぉおおおおお!!」
「っ!?」
背後から地面に押し倒されるユグ
手足をギュッと腕で掴まれ、身動きができない。
「がぁああ!!て、てめェ!何をするつもりだァ!!」
ユグはそう叫ぶと、背中から緑のクネクネした剣を召喚し、カイルの腹部を貫く。
しかし、そんなことには動じず、カイルは手札からスキルを発動させる。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ドミネーション』を発動しました。
・・・効果処理中です。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「がっ!?」
「げほっ!!・・・ユグちゃん・・・から・・・離れろっ!」
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ドミネーション』の効果処理中です。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あん・・・がっ!?な、何だッ!?」
カイルが命じるように叫ぶ。
すると、ユグの体を覆う光の点滅が激しさを増す。
「がぁああ!!んだッ!!こりァ!?」
「退けッ!!ユグちゃんから退けっ!!!」
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ドミネーション』の効果処理中です。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ふざけんなッ!!俺様はデウスだぞ!!俺様はサドラルファだッ!!誰も俺様に・・・命令なんざできねェ!!!」
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ドミネーション』の効果処理中です。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「サドラルファ!!それが・・・げほっ!!お前の・・・名前だなっ!!」
「あんッ!?気安く呼ぶんじゃねェ!!」
「サドラルファ!!お前はさっさとユグちゃんから・・・出ていけっ!!」
「人間がァ!!」
ユグは再び緑のクネクネした刀身の剣を生み出す。
それを右手で掴むと、その剣先をカイルの腹部へ突き刺した。
すぐに、カイルの体がプクリと膨らむと、続けてパンっと破裂する。
「ガァ!?くそ・・・ガァああ!!!!」
カイルが破裂すると同時に、ユグの体の中から何かがスッと飛び出してきた。
飛び出していくナニカは地面をゴロゴロと転がりながら滑ると、大きな木をなぎ倒し、土煙を巻き起こしていた。
そして、ユグはバタリと地面に倒れたまま、ピクリとも動かないでいた。
ーーーインフォメーションーーー
・スキル『ドミネーション』の効果処理中です。
・『不老不死』を発動しました。
・『超再生』を発動しました。
・通常ドロー
『スピリット・バイブレーション』を手札に加えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「っ!?」
カイルが目を覚ますと、彼の体はツタでグルグルと巻かれていた。
そして、彼の目の前には、緑のエネルギー集合体が少年の姿を模している存在がいた。
全身に凹凸はなく、シルエットだけの存在だ。
まるで緑色をした影が浮き上がってきたようなデザインである。
そして、その発光体の腕は、がっしりとユグを抱えていた。
「けけけけけけけけ!!・・・認めてやるぜェ・・・」
発光体の顔の部分にスッと横線が現れる。
その線がお椀状に歪むと、笑い声が響いた。
「ユグちゃん・・・」
カイルは精霊に抱えられているユグを見つめる。
手足を動かして、ユグを取り返そうとするが、再びツタに拘束されていて動けない。
「てめェの勝ちだァ・・だがな!!勝負は俺様の勝ちだッ!!こいつを連れて帰るッ!!てめェへの復讐は後だ!!」




